勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
237 / 519

【119話】 管轄外のリリア

しおりを挟む
お尋ね者ヨークマー達を捕縛したリリア。
賞金稼ぎのビケット達はミッションコンプリートだが、公認勇者のリリアはそうはいかない。
ヨークマー達が隠れ家にしていた場所に踏み込まなければいけない。
奴隷取引、闇アイテム売買等かなりの凶悪組織の幹部が潜伏していたのだ、手下がいる可能性、組織として機能している可能性が残っている限り、儲けにならないからという理由で見逃すわけにはいかない。
「ヨークマー達は捕まえたね、リリアはこれから隠れ家を強襲よ」リリアがビケットに言う。
「… そうか、おまえの立場上そうなるのか… 俺たちは武力突入のプロではないし、ボランティアもしないが、社会悪を野放しに出来ないのは同じ気持ちだ。出来るだけ協力するよ」
ビケットは捕縛したヨークマー達から可能な限り情報を聞き出し、山中にある隠れ家のおおよその位置を地図に書いてくれた。
「断片的な情報だが… 恐らくこの辺だ… 隠れ家と言っても本人達も便利な方が良いから、道に近く隠れやすいとしたら… この範囲か?… 恐らく手下達は逃げているだろう。無人になっていると予想する。が、慎重にやれよ。困ったらいつでも相談に来い」ビケットは地図の一ヶ所に印をつける。

リリアはルーダリア王国の保安部に通報した。自らも殲滅パーティーを募集。
リリアは急いで準備、接近戦得意なメンバー4人を集めてアジト強襲に備える。
ルーダ・コートの保安部から衛兵20名が出動、リリア達5人パーティーとヨークマーの隠れ家に向かった。

リリアのパーティー
パーティー長リリア、剣盾オーガのゴッサル、剣士オーガのゴルゴソ、レンジャーのテルネコ、プリーストのアカネ
凶悪組織に踏み込むことを考えれば、それなりのメンバーを揃えざるを得ない。冒険者同士は大分割安価格だが、それでもリリアには大きな出費。
「ビケット達はいいとこ取りでリリアは勇者の仕事だからって自腹切る?なにこれ変よ!」
愚痴りたくなるリリア。まぁ、ビケット達も捕縛に至るまでに多大なる労力と資金を出しているが…またそれは別な話し。


隠れ家を突き止めたリリア達はミーティング。
「さすがビケットね、予想の範囲に隠れてた… 今、リリアとテルネコで探ってきたけど、人の気配は無かったよ。全員逃げたかも知れないけど、踏み込む際は気を付けてね。 小屋が四軒ほど建ってたね。 …えっと… テルネコが接近して確認、ゴッサルが軒並みのこちら、反対がゴルゴソね… リリアはここでバックアップ… アカネは待機。テルネコは万が一何かあったら、リリアの射線のこの位置まで後退っと… 後は出たとこ勝負! 通信のイヤリングは使っていくよ!」
強襲の準備が整ったリリア達、配置に付く。
ルーダ・コートの保安部は山道で待機している。


時間を遡って一時前
「ええぇぇぇーーー、この先の山に入れないの?何それ!」リリアが思わず大声を上げた。
アカネが“声大きいよ”と口元に指を当てる。
「いやいやいやいや、何でよ!ここから先が本番でしょ、何でここで待機なの?」リリアが保安部隊長に詰め寄る。
リリア達と保安部で急ぎ山道を上がってきた。いざ道をそれて隠れ家捜索開始となったら保安部隊長が山に入れないから道で待機すると言い出したのだ。当然リリアは怒る。
「リリア殿の説明の仕方が… この道を挟んでこちら側、すなわち隠れ家があると思われる側はルーダリア王国の管轄地区です。道のこちら側なら我々ルーダ・コートの管轄なんですが… いや、規則ですから… ですから、立ち入るには改めてルーダリア城下街に出向いていただき、王国直属の保安部隊を出していただくしか… 規則なので… 悪を憎む気持ち、我々の命に代えて国民を守る気持ちはリリア殿と同じですが規則は規則なので… ごもっともリリア殿のおっしゃる通り、道のこちら側なら大いに協力いたします… お言葉に返す言葉もございません… しかし我々はルーダリアの管理下にあり… はい、どうしてもと言うのであれば… ルーダリア王国全土の指名手配犯である書類が揃っていて、緊急捜索令状、緊急逮捕令状、超管轄区域活動許可書、その他施行許可書の申請をルーダ・コートの司法局から発行していただき、そちらの書類をルーダリア王国の司法局、保安局、十人以上の保安隊が管轄外活動をする場合にはそれら書類と局長からの許可、一級犯、王国指定特別害悪魔物退治の場合はさらに国王、王室、またはそれ相当と思われる機関の許可証を…」
「うらあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!! もういい!! おまえら何もしゃべるなぁぁぁぁ! そこに好きなだけ突っ立ってやがれぇぇぇぇ!」
リリアは大爆発!アジト強襲前に保安部隊を強襲しようとするリリアをパティメンが抑え込む。

こんなこったろうと予想して私兵を募ってきたリリア。少しは社会に馴染んで来たか。
怒鳴り散らしながら道をそれて山中に入る。
「大声出しらバレる?お前らの知ったことかぁ! とっとと帰れえぇぇぇ!」リリアの後ろ姿からは殺気の炎が上がっている。
「いえいえ、私共はこちらでお帰りを待たせていただきます。いってらっしゃいませ。お気をつけて。何かございましたらいつでもお戻りください。可能ならここまで相手を連れ出していただければ… 道のここ、ここからこっちまで… ここまで来たらぜひともお手伝いさせていただきます」
恐縮しながら道端で敬礼し、リリア達を送り出す保安部隊。
改めて色々腹が立ってきてリリアが全員ぶん殴り倒してやろうと戻ろうとしたら、皆に必死に取り押さえられた。


色々不満だが、とにかく踏み込む準備は整った。
配置に付いたメンバーから“スタンバイ”の合図がくる。
慎重に見渡しながらリリアから“突入GO”のサインが出る。
テルネコが慎重に建物に近づいていった…


「無理しないで、慎重に!アカネ治癒は間に合ってる?」
隠れ家に踏み込んだリリア達は山道を目指して下山中。
家屋は捨てられていたが、連れ出せなかったのか奴隷が四名、それと世話役なのか、逃げていなかった手下を一名捕らえた。
建物は明らかに何かの取引に使っていた痕跡があり、黒魔術師等が関わっていた様子もあったが、目ぼしい証拠は持ち去られていた。
「大変!人か繋がれてる!アカネを呼んで!とりあえず回復が優先よ」
女性の奴隷の中にはオモチャの印を入れられた者もいる。レンジャーのテルネコが枷を外し、アカネが治癒をする。ゴッサル達が一人男を捕まえて来た。家屋に残っていたらしい。
何故逃げていなかったのか?見るからにちょっと足りなさそうなやつ。

奴隷と逮捕者を連れてゆっくりと斜面を歩く。
応急に何かを羽織らせ、抱きかかえて歩くが皆呆然としている。
この人達を保安部に引き継ぐことになるが、その先はどうなるのであろうか?
「闇取り引きが禁止であって、奴隷は奴隷。保護観察の後は街に出されてホームレスか娼館で働くか、買い取られて労働よ」アカネが説明する。
何のために救い出すのか、救いが救いになるのかリリアには理解できない。

リリア達が山道に戻る。
「勇者リリア殿、お疲れ様でした」保安隊が整列と敬礼で出迎える。
“戦闘にはならなかったから良いものの… いい気なもんだ”心の中で呆れるリリア。
「連中は逃げてた。この人達は… 残された人。治癒魔法で回復してるけど一時的な回復だからちゃんと食べさせてあげてね。 それから、これは逮捕者よ。一名だけ逮捕」
リリアが苦々しく説明して逮捕者を道端にぶん投げる。逮捕者は弱弱しく道にひっくり返った。
「はい!リリア殿、了解です。引き継ぎます… …あのぅ、出来れば道の真ん中よりこちらがわに…」
確かに、男は道の中央より若干王国の管轄側に寝そべっている。
「あんた達本当に規則だけは厳守するのね!」リリアは怒鳴りながらもう一度男をひっつかむと勢いよく押し出した。

男は力なくヨロヨロと、フラフラと道の中央を超えて…
「てめぇ!この野郎!」「極悪非道め!逮捕だ!」「極刑を覚悟しろ!」
境界線を一歩越えたら寄ってたかってフルボッコにしている。
何じゃこの連中!
「確かに引き継ぎました。勇者リリア殿、ご苦労様でした!」隊長が敬礼している。
「……… 皆、帰ろう!今日は鶏料理食べてコトロにお酒ご馳走になろう」
リリアはプイっとそっぽを向くとスタスタと道を下り出した。

「人間族の汚点め!!」
背後で声がしている
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...