勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【126話】 荷台の勇者

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「………… むぅ…  ………… わっ!はっ!」
リリアは飛び起きた。目覚めの悪い夢を見ていたようだが飛び起きた瞬間、その感覚もふっとんだ。
「大丈夫よ!大丈夫だから休んでいて」側に座ったアリスが優しく声をかける。
リリアは馬車の荷台に寝かされているようだった。幌が被っているが積み口から明るい日差しが入ってきている。日中のようだ。

「あたし… 仕事があるよ…  っ痛ッ!!」
リリアは起き上がろうとしたが、左肩が痛み、貧血の暗みもおこす。
「ダメよ、リリアは休んでいて。強烈に治癒はしたけど、痛みもまだ残っているだろうし、かなりの血も失っているわよ。それに… あなた今、とんでもない姿よ」
アリスが透き通るような笑みをみせて説明する。優しげで冷静はいつもの事だ。
リリアは自分の体を確かめる。シーツをかけて貰っているが恰好は服がボロボロで確かに出歩ける様ではない。
「アリスよ。リリアが目を覚ました」アリスがイヤリングで通信する。
リリアには聞きたい事がたくさんある。
「… ここはどこなの?皆は無事?あたしどうなってた?装備は?今どんな状況?」リリアが聞く。何だか頭が働かない。
「順に答えるとね、ここはキャラバンが出発した村のキャンプサイト。荷馬車の荷台で安静中。戦闘でメンバーに怪我人も出たけど全員無事に活動中よ。リリアは大怪我から早急回復して気絶から目覚めたところ。傷は治ったけど体はショック状態。気力回復持続魔法もかけて、精神バフもかけたけど、幻想薬を大量に飲んでいるから軽度のせん妄状態から回復中よ。装備は全部回収したから安心して。今は、回収可能な荷物を拾って動けるメンバー全員で犠牲者と怪我人を村に届けて教会の準備をしているところ。今日、掃除は中止」アリスが微笑みながら説明する。
“アリスってこんなにしゃべるんだ…”リリアは呆然と聞く。
「ローブだけど着替えも用意してある。今着替える?ダメよ…  目が回るでしょ?ね?… リリアが思っている程ロレツ回ってない。休んでいて」
リリアは起きようとしたが、目がくらみ諦めた。口元も涎がたれている。幻想薬の効果と精神バフの効果が戦っているようだ。体の中が渦巻くような変な感覚。

「リリア、アリスに預けたから、ちゃんと言う事聞いて休むのよ」
突然ペコの声がするので、頭を少し持ち上げると、積み口からペコ、オフェリア、ココア、ローズの顔が覗いていた。
「先輩!大丈夫っすっか?」「男のあんたが見るもんじゃないでしょ!」
ブラックが覗こうとしてひっこめられた。
「各班の班長で決めて今日は犠牲者を弔う手伝いになったから。村にも連絡入れてある。今日は休んでね」ローズが説明する。長い髪が特徴的ですげぇ美人だ。
「色々言ってやりたいけど、元気になってからにするわ」
ペコにしては珍しく自重したようだ。皆現場に戻っていく。

どうしても確かめたいことがある…
「… ねぇ、アリス、あんまり覚えてないけど… あたし… セーフだったよね…」
すんごくドキドキする質問だ… リリアは思わずアリスの手を握った。
「ボロボロにされたけど、セーフよ。ギリギリのところで発見されて、戦闘になった。私も間に合ったから、不埒な賊は回復魔法をかけながら私とペコで生焼きにしながらジワジワ最後を迎えてもらった。ペコはあれでもリリアを凄く心配しているの。一人は死なないように回復かけながらペコが丁寧に股間をウェルダンにしていたの。大絶叫していたわ。絶叫マシーンね。そのまま半殺しで山中に放置したのよ。リリア安心していいわ」
アリスは透きとおった微笑みで優しい眼差しを向けリリアに説明する。

「ごめんなさいね、急いで治癒したけど… 肩は少し傷が残りそうよ… あんまりわかんない程度だけど」アリスがリリアの左肩を確かめながら言う。
「完全貫かれたからねぇ… いいよ、ちょっとした傷痕程度…」リリアが言う。
「慣れはダメよ、ご両親からいただいた体だから大切にしないと」アリス。
「……… ねぇ、アリスの信仰は何?リリアは勇者だけど自然と調和の神を信仰してるんだよね。村の教会の神がそうだったんだよ」
「リリアの物の考え方は冒険者らしくないからね。アリスはヴァルキリー神よ。冒険者だからね。慈愛と光の神も信仰はしている」
法衣の胸元を開けて、信仰対象の証を見せてくれた。結構胸元が豊。

馬車の荷台は時がゆっくりと流れるようだ。
外では人の声がして慌ただしい雰囲気が伝わってくる。
王国からの支援物資を積んだキャラバンは各村のシェリフが護衛に同乗するのだ。変わり果てた家族を目の当たりにして泣き崩れる声も聞こえる。
「ねぇ、明日の活動は?リリアは隊長失格?活動から外されるの?」
自分だけかなりの重傷に状態なことに気が付いて急にリリアは不安になった。
「明日の事はまだ決まってないけど… 皆ここのところオーバーワークだし、休んでもいいかなって話してた。 リリアは良くやってるわ、お世辞じゃなく。皆口で言うほどリリアを見下していないわよ。大丈夫よ、元気になり次第復帰よ」アリスは優しく微笑む。

「……… お腹空いたよ… 何かある?」
リリアが聞くとアリスがケチャップたっぷりのホットドッグと水を渡してくれた。
「…… ぅぐ… ぅぇっぷ…」
リリアはホットドッグを口に運んで吐きかけた。賊の指を食い千切ったのを突然思い出したのだ。歯と喉に力を込めてソーセージを胃に押し込む。
「一度すっきり吐きたいなら精神魔法かけるわよ」アリスがリリアの様子を見ながら言う。
「… いいよ、大丈夫だよ」


「指を噛みちぎる度胸があると思えば、ソーセージで吐きかけるなんて… リリアは繊細ね」アリスが微笑みながらリリアの髪をなでる。
ゆっくりとだがホットドッグを食べ、水分補給をしてリリア落ち着いてきた。

「あたしってば、冒険者とか勇者とか向いてないのかな?」リリアはアリスを見上げる。
「聞くことではないわ。自分で決める事よ。向いてないからって辞められる?アリスはリリアが冒険している姿は様になってると思う」
アリスは微笑みながら言うと
「さ、少し休んで、夜は一緒にたくさん食べるわよ」
と、リリアの額に指を当てて小さく呪文を唱える。
「… あたし、生き残ったね…」
リリアは虚ろに呟くと、小さな寝息を立て始めた。

アリスはリリアが眠りに落ちたことを確かめると握っていたリリアの手をシーツに戻してあげた。

馬車の荷台では時がゆっくり流れている様だ。外からは村人の泣き声が聞こえる。
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