勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
252 / 519

【126.5話】 先輩後輩とペコとアリスと ※Day2の話し※

しおりを挟む
メイレル村Day2の日中

「ペコ姉貴、ココア姉さん、大丈夫っすか?今、治癒するっす」
ジャイアントワスプの群れを掃除したリリア達。何かで刺激したのだろう、不意に大群に襲われて大苦戦した。
混乱するオフェリアをかばってブラックが群れに飛び込んで盾になり、自分とオフェリアに治癒をしながら蹴散らし、次々と襲われるリリア、ペコ、ココアにプロテクションをかけながら、火と旋風の合わせ魔法で追い払い撃退した。
自らも刺されて痛いだろうに、パーティーのピンチを助け作戦上のほころびを補うように働く。
ペコが見るに、冷静、沈着、自己犠牲、高い能力、それでいて「先輩!先輩!」とリリアを慕って、リリアを立てて働いているようだ。
この実力なら圧倒的にリリアより上。リリアよりよっぽど先輩格。読み書きもでき、計算もできる、古い魔法の書もある程度読める。
けっこうな勉強量だが、尋ねると「勇者に憧れて勉強したっす!」と快活に答えるのみ。
単純に「勉強したっす」と簡単に片づけるには大変な努力の量だ。
けっこう凄い事を淡々とやってのけては、リリアを「先輩!」と慕っている。
“この男、いったい何なんだ?”
ブラックの治癒を受けながらペコはジッと観察する。


Day2の夜

食事を終えたリリアは自分の部屋で武器の手入れをしている。
「これだけ植物系の魔物が多いと剣より鎌が必要ね」独り言を言いながら、剣を磨く。
ランタンにかざすと磨き上げた剣が柔らかく輝いている。お手入れ良し!
リリアはペコと相部屋だ。遅めの食事を終えお風呂から上がってきたが、ペコは部屋にいない。特に気にすることでもないが…

「リリア、これから少し飲むわよ、付き合いなさいよ… あなた何しているの?」
リリアが“釜茹でにされてのたうち回るタコのポーズ”の柔軟体操をしていたらペコが部屋に戻って来た。続いてアリスも入ってくる。
「…… とにかく上を着てよ、後輩君もくるから」ペコが言うのだ。アリスの手には発泡酒とジョッキと赤ワインのボトル。
「ブラックが?… 上は着るけど… まだあたし、オランウータンが腸をぶちまけたポーズが残ってるんだけど… まぁ、いいっか…」とにかくリリアは服を着る。

「うっす!失礼します!ブラキオーネ、ブラック入ります」
手におつまみを満載し、お酒も持って部屋にやってきた。起用だ、ビアホールで働けるぞ!
「よし、集まったわね。少しあなたたち二人、話を聞かせないさい」ペコが目に力を込めて笑っている。
「姉貴達と飲み会ですか!いいっすね。とことん付き合いますよ!」
椅子に腰をかけてブラックが笑う。軽装姿の彼は筋肉質で日焼けしてたくましい。
「とりあえず、リリアが乾杯しなよ」ペコが言うと、リリアの音頭で乾杯し飲み会が始まった。
「ねぇ、後輩君、不思議でしかたないんだけど…」ペコが早速話題に入る。アリスは葡萄酒を飲んで、リリアは寝っ転がってポテトを食べている。リリア、足が長い!スタイルは認定級。


ブラックは
フリート帝都から北に上がるとシャントンという町があり、その周辺の村出身だそうだ。
代々町で兵士を務める平民家庭だったが、祖父が若かりし頃怪我を負って兵士を廃業、離れの村周辺に土地を買い農作業を始めたらしい。
もともと体格に恵まれていたブラック、父が剣を教え始めるとめきめきと頭角を現し、一方で代々誰も目覚めなかった魔法の才能も見せ始めた。
これに喜んだ父親は土地を売り、良い身分で上級兵士か衛兵職につけるよう準貴族の身分を買い取り町に移住。父も母も懸命に働いてブラックに文武、魔術力に教育を与えた。
剣、魔法に才能を見せるブラック、帝都立衛兵士官学校に入学直前、両親が事故死。
貴族期間不足の準貴族孤児となり士官学校の入学を取り消され、孤児の王道、夢と希望の冒険者となった。
父親の教え「勇者のように人々を幸に出来るような人間になれ」
母親の教え「真の強さは人に優しい人間であること」
これが座右の銘だそうだ。

数年間冒険者ギルドに所属し、実力をつけるが、フリートでは実力があっても勇者の子孫ではない自分が勇者になるのは不可能と知り、ルーダリアでは最近、村娘が勇者に選ばれたと知り、リリアの噂を聞きながらルーダ・コートの街まで旅してきた。

こんなところらしい

「俺、あの頃はまだまだ鍛えが足りなくて、動転しちまって目の前の両親を救えなかったっすけど、今なら救えるはずっす!」ニコニコしながらお酒を飲んでいる。
「後輩、言ったけどリリアも両親は殺されてるよ。勇者の登竜門ね」リリアもニコニコして川魚の切り身を食べている。
大変な苦労と努力があったのだろう、血筋と才能に恵まれ裕福で長男に両親を任せて冒険者しているペコとアリスには想像しかできない心境のようだ。

「………… わかったけど… ルーダリアだって勇者の血を引いていないと公認勇者にはなれないでしょ。リリア、説明してあげてないの?」ペコとアリスは顔を見合わせる。
「説明したよ。でも目標を持つことは良いことだよ。それに勇者リスペクト=リリアをリスペクトだからしょうがないよ」リリアは言う。
「リリアをリスペクト?全然意味わかんないんだけど… 全部…… 全部ブラックの方が上でしょ。実力的にはブラックの方が勇者たるに相応しいでしょ」ペコは少し言いよどんだが、結局はっきりと言ってのけた。
“わぁ、そんなにはっきり言っちゃうのか”と一瞬アリスの表情。
「勇者は力だけじゃないっす!俺、先輩に会いに来てよかったっす!前向きで一生懸命で勉強になるっす!」バリバリおつまみを食べながらブラック。
「そよ!弓はリリアの方が上だし、確かにあたし魔法はあんまりだけど、勇者としてまもなく一年の実績を迎えるし、ブラックは良いところ見てるわよ。ペコももっと素直にリリアの事認めなさいよ」

「先輩の手伝いはやりがいあるっす!勇者のサポートっす!」
「おっす!後輩!あたし勇者分の給料出ないから時々嫌になってたけど、ちゃんと先輩らしくしないとね!これって勇者の自覚よね!じゃんじゃん勇者活動よ!リリアに振り落とされずについてきなさいよ!おーーーー!」
二人で盛り上がっている。
「リリアに振り落とされる?ブラックの方が八歩くらい先いってるよね。時々発揮する変な発想と正義感には振り落とされるけど… ねぇ、リリアのどこにリスペクトがあるの?」ペコがアリスに声を落として聞く。
「……… 信仰の対象は人それぞれ… 信仰の自由かな…」アリスも答えようもない。

ペコとアリスにはさっぱり理解不能。

「さぁ、皆もう寝るよ!明日もがんばるよ!」
「よっしゃ、明日もガンガンいこうぜ!」
先輩と後輩は盛り上がっているようだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...