勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【127.5話】 リリアと転生勇者 ※少し前の話し※

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「あの人、また見かけたなぁ…」
リリアはルーダ港で町ブラ中。商業区の隅っこでおかしな恰好をした男に目を奪われる。
昨日は荷馬車の護衛をしてルーダ港についた。三日仕事して一日休み。今日はマイルールの休日。朝からノンビリと過ごす。
街中で同じ人物を見た、今回で四回目だろうか。何故印象にあるかというと、特に変わった格好をしているので記憶に残っている。
ルーダ港は異文化との貿易港なので変わった格好、種族は吐いて捨てるほどいる。恐らく街中で石を投げたら変わった奴に当たるだろう。
公認勇者をしているリリアの方がよっぽど希少種だけど…
まぁ、そんな街なので変わった格好など珍しくもない。むしろ珍しくない恰好をしている連中のほうが珍しい。
ただ、この男はそれとは別に変っている。
何と言うか… どこにも所属しない、見たこともない恰好。

“変わっている恰好“とは言うものの大体は
「変わった風習の修行僧ね」
「ずいぶんカラフルな盾を使うのね」
「あんな身振りで呪文をかけるんだ」
「あんな商売の挨拶あるのね」
と、変わっていても、そもそも職業くらいは判断がつく。
しかし、この男は違う。
「変わった格好…………… 軽装備の… 使用人?…」
リリアには見当もつかない。わりとぴったりめの軽装っというか服、動きやすそうではあるが、武器類を持っていないし、商売人の証も着けてない。奴隷でもなさそう、町民っぽいけど…
あまりにも想像できない姿で見当もつかない…

朝、二回ほど見かけ、昼時に見かけ、午後の町ブラ中の今見かけた。これで四度目。
興味わいてきた、時間もあるし話しかけてみよう!
「面白い出会いになりそう」リリアは男に近づていった。


「コンニチワ、ワタシハ、リリアデス、コノクニノユウシャデス、ルーダリアニヨウコソ」
リリアは話しかけてみた。ちゃんと異文化人対策の整った発音だ。
“せっかくルーダリアに来てくれたのだもの。印象良くサービス良く。特にリリアは公認勇者よ!ある意味、容姿端麗で選ばれた身。実力は今、メキメキと習得中。勇者として、国の代表として第一印象は大事よね。そんじょそこらを意味もなくほっつく有象無象の歩くタックスペイヤーとは役割が違うのよ。笑顔!印象!サービス精神! スマイル0円ご提供!だからお願い、買い物いっぱい爆買いプリーズ。観光してお金落として財源に貢献。それがいずれあたしの給料にもつながる予定。男性ならここの娼館街がおすすめかな?
選りすぐりのルーダリア美女がとろけるようなサービスよ!ま、リリアのスキルには負けるけどね”
リリアは最高の笑顔で異文化人を迎え入れる。

「やっぱり、頭の中に直接考えが伝わるってより、声にして会話可能みたいだなぁ…」
男がリリアを振り返り、独り言のようなことを言っている。
“なんだ、訛りもない、地元の変なやつか?”リリアは戸惑う。異文化人対策用会話スキルを発動したことに少し忌々しさを覚える。
「あら、地元の人だったの?変わった格好しているから、異文化の人かと思った。今朝から何度か見かけたのよ」リリアが話しかける。
「あ?… あぁ… これか、皆に珍しがられる、ジャージっていうんだ… ここルーダリアって国らしいな」男は戸惑っているようだ。
“… やっぱり、港からの入国者だろうか?”リリアはジャージなる服を着た男を観察する。
リリアとそう年が変わらない青年のようだ。

リ:「… 朝から見かけるけど、なんか困ってそうじゃない。あたしリリア、勇者なの。例えあなたのような変な人間でも国民を助けるのが仕事よ。ただ働きさせられてるけど、力になるわ」
青:「おれ、ユウスケ。トモダ・ユウスケ。生まれた国では高校生だったんだけど…」
リ:「トモダね… よろしくね。え?トモダは苗字でユウスケが名前?じゃ反対に名乗らないでよ。名前が先にくるのよこの大陸では」
リ:“コウコウセイ?何語かしら?こいつ何言ってんだろう。頭おかしいのか?ユウスケだなんてどこの文化の名前だろうか?”
リ:「で、何かお困り?どこから来たの?職業は?ユウスケ」
ユ:「それが、俺、今朝気がついたら突然ここの街中にいて… それまで俺は高校生だったんだけど… 下校中、自販機で飲み物買おうとお金出したら財布からお金が落ちて自販機の下に入ったので道路に寝そべって夢中になって拾おうとしてたら、やって来た車に惹かれて死んだみたいなんだ。そしたら死に際に神様かなぁ?声が聞こえて、不運過ぎるから転生させてやるって、まぁ、何だかんだ気がついたらこの街にいたんだ。ここは剣と魔法のファンタジーの世界だろ?俺、どうやら転生してきたみたいなんだ」
リ:「ちょ、ちょ、ちょっと待ってまって!!… えーっと… 何だって?もう一回初めから説明」
ユ:「だからぁ、俺、(説明二回目)」
リ:「えー… ごめん、別な切り口から、アプローチを変えてもう一度説明してちょうだい」
ユ:「だからぁ、俺(説明三回目) 皆どうしてわからないかなぁ?結構ある現象だろ?」
リ:“全然言っている意味わからないけど、リリア以外の人も理解できていない事は理解できた。ちょっと安心できるぞ、心配はこの青年の頭、精神状態か…”
リ:「ユウスケが理解を超える事を口走っていることは理解できた… あなた召喚獣なの?妖精さん? 生まれ変わりって事は精霊の類かな?精神が出来立てで天界との記憶を混同しちゃってるってこと?」
リリアの想像を上回る想像を絶する内容に戸惑う。

ユ:「うん、少しは話が通じる人のようだ。安心した。召喚されるケース、産み落とされるケースとかあるみたいだけど、俺の場合は気がついたら転生して存在してたってやつかな。転生したら子供だったり、魔女だったりスライムだったり色々だけど、俺は人間男性から人間男性らしい」
リ:「あたし、あなたの言っていることを理解できちゃったの?心配になってきた… あの…転生は基本的にはないよ… 仮にできたとして、人族から精霊か精霊から生命エネルギーを経て精霊ね。魂だけは転生とは言わないし…」
リ:“転生の教義が違うのか?どこの文化の信仰だろうか”
ユ:「俺、転生して勇者になるんだ。転生勇者、その能力があるはず。今まではパっとしない高校生だったけどこの世界で剣と魔法で魔物を倒し、勇者になってお姫様と結婚するに違いない!」
リ:“こいつアホに違いない!じゃなきゃいっちゃってるやつに違いない!”
リ:「あのね、あたし勇者なの。自称じゃないのよ、公認勇者。勇者ってユウスケが思っている程甘くないのよ。毎日大変!ドラゴンに焼き入れしてやって、ミノタウロスに詫びいれさせてやって、サイクロプスに泣きいれさせてやって、賊をぶちのめし、万引きを補導して、迷子にお菓子買ってあげて、お婆さんの荷物持ってあげて… とにかく簡単になれる職業じゃないよ」
多少のはったりが入っているが、このくらい脅す程度でちょうど良いだろう。リリアなんて勇者になって苦労してるんだ、簡単に勇者になるだなんてふざけるな!勇者なめんな!
ユ:「いや、転生したらチート級の力が身についてるはずなんだ。 町がふっとぶような魔法が出せるはず。 せいの!っや! あれ? っや! あぁ、これはあれか、修行しないと身につかないパターンか… ま、たいてい2話くらいで凄い魔法を習得して、美人のアシスタントと一緒に冒険するはずだ」
リ:「…… うーん… えーっと… ねぇ、君、幻想薬の強いやつの常用者?それとももっと強烈なやつ?ここルーダ港は違法薬が入ってくるから… 中毒者多いんだよね…」
ユ:「勇者リリアだっけ?美人だし、おっぱい大きくてまさにそれっぽいよね、運命の出会いかな?これから一緒に修行と冒険の旅にいくのかな?俺、ラッキーかも」
リ:「… ごめん、ここでちょっと待ってて。すぐ戻って来るから。絶対動いちゃだめよ」
リリアはいそいそとその場を離れた。


「リリア殿、ご苦労様でした。通報ありがとうございます」衛兵がリリアに挨拶する。
「この人達は?俺は一緒に行けば良いの? リリアは来ないの?」
ユウスケは衛兵に連れられて行った。
「薬中とも思えなかったけど… あの人どうなるの?処刑とかじゃないよね?」
あまりにも言動がおかしいのでリリアが衛兵に通報したのだ。
「薬かどうか… テストしてみないとですね。確かに言動は不可解です。ただ、あの様子なら調べて危険思想の持ち主でなければ、直ぐに開放されますよ」衛兵が説明する。
「そう、気の毒な人だけど、ちょっと安心したわ」
「はい、今回はご苦労さまでした」衛兵がリリアに冒険者証を返しながら礼を言う。
「あたし、公認勇者のリリアよ。国民の保護が仕事なの。これも仕事」
今日は勇者っぽいことをしたリリア、満足気だ。

街中は転生勇者にも無転生勇者にも興味がない忙しい人が行き交う。
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