勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【132話】 ノラ中のリリアとペコ

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「ノラしてくる」という言葉がある。
冒険者している人なら知っている言葉であり、今更説明の必要もないだろうが…

「ノラする」「ノラっていた」「ノラノラしている」等と使われるが「野良」からきている言葉であり、郊外にて仕事以外の目的で魔物を狩る行為。
例えば、馬車の護衛で魔物を排除する、依頼され塔のドラゴンを退治に行く、その塔までの道のりに出現する魔物を掃除する行為等はノラっていない。
それらは全部、自発的であろうが依頼を受けたものであろうがノラしていない。
簡単に言えば、目的無く散歩がてら出くわした魔物を倒す行為が「ノラっている」行為とでも言ったところ。
仕事や義務ではないので、無理して戦う必要はない。嫌なら逃げればよいし、疲れたら引き返せばよい、ドロップ率の良い相手だけ狙ってもよい。フリーエンゲージな感じ。
ギルメンを誘って城外で戦闘の練習をするが、一人の時はノラって実戦経験を積むこともできる。まぁ、言わばこんな感じ。
「薬草の原料を採ってくる!」と目的地に向かって進む行為はノラではないが、ノラしながら薬草を見つける事は可能。


リリアとペコはノラっていた。
ルーダリアのお城から村に移動して、仕事の圧力を感じることなく、のん気に安全に調子を整えるのにちょうど良い。気分転換にリリアがペコに弓を持たせてみたり、リリアがペコのマジックワンドを手にしてみたり、効率等考えず和気藹々と格下魔物を狩る。

「わかっちゃいるけど、こうやって射てみると、改めてリリアの弓が凄いと思い知らされるね」
弓を手にペコが感心する。ペコの弓は全然あたらない。
「リリアも魔力を宿した能力者になった気分だよ! それ!ファイアー!」
リリアもペコのワンドを振りかざしてみる。
が、ペコが弓を手に射れても、マジックワンドを手にしたリリアが何か魔法を使えるわけではない。ワンドは魔力を増幅、補助するアイテム。そもそも魔力がゼロなリリアには何の意味もない。
「なによ、見かけだけじゃない。えいや!」
ちょっと悔しくなってペコのマジックワンドでスライムを叩きつぶしたら、ペコに烈火のごとく怒られたリリア。

ちょこちょこおやつ休憩をはさみ、川を眺めたり、街道の通行を眺めたり、農作業をしている村人を眺めながら魔物を倒していればよいのだ。
休憩がてら野原に寝っ転がると雨上がりの空が青くて綺麗。いつも大自然の中で仕事しているが久しぶりに景色を見た気がする。少し湿り気の混じった草いきれが心地よい。
「リリアはいつまで勇者やるのよ」ペコが質問する。
小高い丘の斜面に腰を下ろしている。視界が開け、道を牛車が通っている。道を挟んだ向こうは農地になっていて、丘を下りて左手に進むと村の囲いが見えてくるはず。
「勇者っていつまでも勇者でしょ?」リリアは寝そべっている。
「…普通は目立って功績を上がた冒険者が勇者と呼ばれるけど、リリアの場合は勇者にされてから冒険者を始めてるからねぇ… 変なのが勇者に指名されるよりリリアはよっぽどまともだけど、能力が見合ってないからねぇ…」
「いいの、勇者になりたかったわけじゃないけど… これでも勇者の子孫だし… リリアの事バカにしすぎだよ。少しは見返してやるのよ」


ペコが見るにルーダリア城内でもこの国の公認勇者はリリアという女勇者だと認識はあるものの、どこの誰で何をしているのか全く認知されていない。まぁ、ペコ自身もリリアと知り合ったとういうだけで、この国の勇者が何者か等どうでも良い事だ。
宮中でも「あ、勇者様ですね、はいはい」程度で“珍しい人が来ています”的な扱いであり、事務仕事をする者同士より優先度は低め。唯一リリアに関して強い関心と細かい状況を把握しているのは勇者管理室だけのようだ。もっともこれは仕事であり「あなたセクションで管理されてるの?」と思わず変な声を出しそうになる。
管理室で怒られついでにクレームの手紙を読み聞かされた。
「勇者リリアに旅賃を貸したが帰ってこない」
「王室に顔がきくからと言われ信用したが…」
「女戦士と合コン開いてくれるといので支払ったが…」
絶対リリア本人には関係なく偽物の迷惑行為だが、これらを読み聞かせてくる程度の認識が問題で、いかに国がリリア対する評価が低いかだ。
リリア本人は器が大きいのか性格なのか、アホなのか「ふーん、そうですかぁ」と淡々としている。
今朝からノラっているけど、通行者や農作業中の村人を魔物から守ったりしている。
別に勇者ではなくとも冒険者なら当たりまえの行為。
「あたし、ルーダリアの公認勇者リリアよ。皆さんの命と財産を守るのが仕事なの」とニコニコと手を振って答えている。
ペコにはリリアの心中が理解不能。
リリアが公認勇者を続けることは良いことだろう。リリアも成長しているし、今までの無責任で金だけもらって何もしかった勇者よりはよっぽどまともだ。
空気勇者なのも仕方がない。なんたって勇者と言われる活躍にはほど遠い。
しかし…
責任感が強いのか… 能力を超えた危険を冒し続けるリリアを見ていると国の冷遇さは酷すぎる。リリアが勇者として命をかける姿が滑稽で時に腹立たしく、哀れにも見える。
「コトロが頭をかかえるわけだよね…」ペコは呟く。

「街中の仕事したことある?やってみたら?案外楽しいかもよ」ペコがリリアに言う。
「街中?売り子とか?… あたし娼館街でよくスカウトされるよ、えっへっへっへ… 確かに幸せな仕事よね、冒険者みたいに痛い思いしないし、死ぬことない職業。リリアなら売れっ子娼婦よ。でも、そんな事するなら馬車を所有して旅行した… あぁ…街中の職業ね… じゃ、村に帰って葡萄酒作ってポート・オブ・ルーダにジビエ料理と葡萄酒のお店やる。で、葡萄酒も出荷する」リリアは寝そべって干し肉をくわえている。

「何なのよ!ペコだってあたしが勇者続けることは賛成だって言ってたでしょ」リリアが口をとがらせ始めた。
「賛成よ、賛成だけど… 代償があまりにもね…」ペコが言いかけた時だった
「ペコ!見て!大ナメクジが畑に侵入しちゃってる。動く案山子も村人も逃げてるよ! ペコいくよ! 勇者リリアの出番!」
リリアは素早く身を起こすとビシビシと矢を撃ちこみだした。あっという間にナメクジ退治。
「倒したから、焼却しにいくわよペコ。勇者リリアの活動も宣伝しとかないとね」
リリアがニコニコと呼んでいる。
「…… 私、焼却炉じゃないっての…」ペコは苦笑いしながら丘を下っていく。

汗ばむ太陽の午後
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