勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【180話】 練習の中のリリア

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リリアはここ二日間程練習に時間を費やした。
ウルグスの動向には何人か見張りをつけて監視している。先日の突入で戦力と自身も魔力を消耗している様だ。一度アジトに踏み込まれたことで転居の可能性もある。
しかし廃村とはいえどこかに籠っている方が防備しやすい。慎重なようだ。
「出てくるなら出てくるで叩きやすいけど」A&Rの連中も話をしている。

リリアはテント、馬車、ポール等をウルグスの居る建物周辺に見立てて突入の練習を繰り返している。
「ここまで練習するの、本当に兵隊さんみたいだよね」リリア。
「手強いし一度失敗しているからね。ウルグス自身が改装したのかだいぶ様子が違っていた上、魔法陣のトラップ等があってね、大事なメンバーを失っているから。でも現地の様子がわかって今度は失敗しないよ」ペコが言う。
練習後のミーティングでは明日、ウルグスのアジトに突入をすると伝えられた。
魔法陣を張っては動物を罠にかけて再び魔力を蓄えているという。ウルグス本人は出てこないもののアンデッド達が回収して回っていると報告がきている。
「あまり時間を空けると再び魔力を強化し、人を捉えたり商人と闇取り引きを再開しかねない。俺たちの手で決着をつけるぞ!」と突入決定。


その夜
リリアはペコ、アリス、他のメンバー達と夕食のテーブルに着く。
新人さんの食事当番が夕食を作ってくれる。ご飯かパンを選べ、スープと肉料理が出て美味しい。
「ねぇ、二日間練習をして思ったんだけど… 作戦の内容は理解していると思うし役割はわかったけど… あれで良いの?違うパターンは無いの?」リリアが質問する。
実際リリアには疑問が多い作戦だ。
突入を始めたらリリアは後方で盾を持って待機。弓を使うことはまず無いそうだ。リリア自身の安全の確保が最優先、突入が進み合図と共にリリアも後方から侵入していく。
その途中でリリア自身に不測の事態が起これば剣、弓で反撃を行うようだが、作戦に支障が無ければリリアは最後まで盾を持って後ろに隠れていればよいようだ。
そして、突入しきるかウルグス本人が出てきた時点でリリアはウルグスの前に飛び出し勇者リリアとして退治する…
「リリア、今回重要な役割だからね。とにかくウルグスと対峙するまではリリアの安全第一。ウルグスのアジトに踏み込んだらリリア自身が成敗する形よ。近距離だけど弓を使うか剣を使うかはリリアにお任せ… って説明したでしょ」ペコが答える。
「… リリアが囮にされたりしないよね。リリアが魔法陣に捕まっている間にウルグスを倒すとかそんなんじゃないよね…」ホウキを握ってリリアが不安そうに聞く。
「作戦が上手くいく自信はあるから大丈夫。とにかくリリアは作戦通りに動いてよ」ペコは自信ありげに言う。
「… うーん… そうか… ならいいけどね…」リリアは少し不安げに答えた。
「そんな顔しないでよ。リリアは世間知らずの怖いもの知らずでトンチンカン極まりないけど、たまに一緒に組んで仕事して冒険して、馬車移動中おしゃべりするには十分なチームメートよ。リリアの安全は全力で私達が保障するから、信じて練習通りに動いてよ」ペコが励ます。
「… 上手く言えないけど、なんでリリアが呼ばれたのかなって思う部分もあって… 理解できない事もあって… …ちょっと待ってね、スープが美味しいね、全部美味しいけど、あたしコーンが入っているスープ好きなんだよね、お代わり取って来る…  …ただいま… あたし、魔法とか出来ないんだよね… だから、魔法の攻撃とかとても怖いんだよ… 魔法の攻撃と言ってもファイアーやアイスやナイフが飛んでくるのは平気だけど… まぁ、平気ではないけど… ちょっとせっかくだからパンとお肉持ってくる… 誰か欲しい人いる?… ただいま… 新人さんの料理美味しい、リリアも料理見習いに入ろうかな、うっふっふ… で、精神を支配したり、魔法トラップで精神を吸い取ったりするってリリアには理解が出来なくて凄く怖いんだよ。 待っててね、仕上げにライスとお肉盛りを作って来るね… ただいま」リリアにはリリアで心配事がある様子。
「ビジュアル的には悩んでいる風じゃないな…」誰かが言う。
「… お、おい… リ、リリアの不安も分かるだろ。何か隠しているだろ。人の後ろついて行き最後に自分が勇者だとウルグスの前に名乗り出るなんて変な作戦だろ。命張るんだから隠し事するなよ!」ダカットが言う。声は小さいが大きくはっきり言った方。
ペコとアリスが顔を見合わせる。
「ごめんなさい、確かにそうよね。私達からするとリリアは気分に左右されがちで実力が不確定な部分が多く思える。今リリアには自分の実力を信じて作戦を遂行して欲しいのです。リリアは大切な仲間よ、リリアの安全はギルドの名にかけて保障する。リリアには雑念を持たず全力で働いて欲しいの」アリスが説明を付け加えた。
「… 何か納得できないよなぁ…」ダカットは呟く。
「事情はよくわからないけどリリアが集中しないといけないのは分かったよ。怖いけど練習通りやってみる」
リリアはそう言うとスープ付けパンで本格仕上げするのだとパンとスープのお代わりに立って行った。


リリアは信号矢を筒から引き抜くと、素早く大空に向けて引き放った。
虹色の炎が空に線を引いて飛び去る。突入スタンバイを知らせる合図。
沈没するルーダリア号から持ち出したあの信号矢だ。

リリア達は早朝から突入の確認を入念に行うと正午過ぎからウルグス退治の配置に付いた。
通信のイヤリングは聞かれている可能性が高く、魔法陣、結界等に近づくと存在を察知される。特にA&Rのメンバーは魔力の高い者も多い。センサー魔法やトラップの発動にかかりやすい。
各班は突入の配置に付いているがかなり廃村を遠巻きにしている。これ以上は近づかず、開始と同時に一気に距離を詰めて飛び込む予定。目標への距離、お互いの距離があるだけにかなり高度な作戦と言える。
寄せ集めの冒険者グループでは実行不可能であろう。

廃村を遠巻きに荒れ地に身を潜めてリリアは次の合図を待つ、ホウキを背に弓を手に。
次の合図で信号矢を放ったら各所から廃村に向かって突入開始だ。
リリアも合図後は盾を持ってメンバー達についていく。リリアはすでにリリアモデルの剣を鞘から抜き身にしてある。
呪文と“キラーン”をやる暇がない時は予め抜いておくのだ。


“GO”
リーダーのブローゼルから合図が出た。
リリアは玉の様になって額に浮く汗を大きく拭うと信号矢を筒から引き抜いた。
“シュパ”
心地よい音を立てて虹色に矢先が輝く。
スゥっと大きく深呼吸するとちょっと湿った空気を鼻に感じながらリリアは弓を空に向けて引き絞った…
“ギュ”っと弓がしなる

“父さん、母さん、リリアにご加護を!神よ、仲間達に勝利を”
リリアは祈ると矢を放った
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