勇者の血を継ぐ者

【193話】 勇者リリア冒険者リリア

リリアは地面に倒れている。
激痛で失神しそうだが失神は敗北を意味する。気を強く持たなければいけない。
リリアは女だという理由で今まで何度か助かってきた。賊のような輩にとって女は殺すより生かして戦利品としていただく事を優先しようとする。
今回も切り付けられたリリアが地面にダウンした事で三人の賊も気を許しているようだ。

賊の一人は荷物と分け前の確保にコムラ達の馬車の方向に立ち去る。
女が警戒しながら残りの男がリリアのポーチからポーション類を取り上げる。
リリアは痛みに耐えながら無抵抗で様子をうかがう。脳みそを直接串刺しにするような痛みだが、リリアは思ったより冷静。
と言うより、痛みに耐えて気を保つのは生存本能によるもの、冷静なのはどこかでラストチャンスを生み出さなければ後がないほど最悪な状況だから。
卑劣にも親切心に漬け込んで騙し打ちにした女への怒りが全身へのアドレナリンを駆け巡らせる。
“こんな手段で旅人達を殺め、私利私欲を貪ってきたのか”そう考えると今の状況においてもリリアは怒りを覚えた。

男はリリアからポーションとリリアモデルの剣を取りあげた。
男女はリリアからの戦利品を見て嬉しそうに会話している。
“どうせポーションなんか今状況では口にする前に切り殺されるに決まっている、くれてやるわ”
リリアは下手に抵抗せず力なく倒れている。力なく倒れているふりをしている。
“まだダガーがある…”
リリアは少し離れて落ちているダガーを確認。無抵抗に武器を献上した今、相手はだいぶ隙を作っている様だ。どこかで一瞬の勝負を…

「何だこの剣、高そうだが鞘から抜けねぇぞ…　不良品か？何かトリックでもあるのか？」男。
「錆ついて抜けないんじゃないのかい？」女。
「バカな、抜けない剣をぶら下げて出かける奴がいるかよ。それに良く手入れされている。なんか仕掛けがあるんだろう、おい女！！まだ生きているなら返事しろ！」男。

“父さん、母さん、リリアはここでは死ねない、父さん、武器を手にするリリアに勇気を…　母さん、罪深き娘にお許しを…　神よ…リリアに正義を…”

「ダガー！リターン！」リリアは唱えた

リリアは掌に飛び込んでくるダガーを夢中で掴むとブーツと皮装備の間に露出する膝裏に力一杯尽きたてた。
「うぎゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーー！」
松林に絶叫が響く
男の足にしがみつくと全体重をかけてダガーを肉に押し込む。
「ぎゃあああぁぁーーーーーー！　っぐ…」
リリアは自分の脇腹に刺さった剣を引き抜くとそのまま男の首を一払い。
「レック！　このアマ！」女が叫ぶ
「神よ、リリアに勝利を」
リリアは振り向きざまに背後からの気配に向かって剣を突き立てた。


全ての所持品を奪い返したリリア。
喉を切った男は既に絶命している。距離をおいて男の死体が一つ。絶叫を聞いて戻ってきた男だ。叫びを聞いて戻って来ると予想したリリアが木陰から弓で必殺。
リリアは急いで気力と体力回復ポーションに口を付ける。傷口には薬草。
「こちらリリア、コムラ？ホック？」
通信のイヤリングで呼びかけたが返事は無い。
倒れたか、通信範囲外にでも逃れたか…
恐らく逃れたようだ、リリアの感だが感だけでもない。倒される寸前に一途の望みをたくして通信を送る人間が多いがそういう気配でもなかった。
しかし確証は無い、自分が護衛として任されている以上リリアはすぐにでも合流しなければならいない。

「助けて…　ごめんなさい…　助けて」
腹部を切られた女がすすり泣きリリアに懇願する。腹部からの出血を抑え地べたに座り込み泣いている。
「…………」リリア。
「お、おい！こんな女の言う事聞くなよ。殺されて当然だ。俺が居なかったらリリアは背中を切り下げられていたんだぜ！」ダカットが言う。
「助けて…　私も殺されかけて…　仕方なく従っていたの、もう二度としない」すがるような目つきで泣いている。
「…………」リリア。
「おい！見ただろ！こいつら何人も殺してきてんだぜ！おまえだって殺されかけたんだぞ、甘い顔するなリリア」ダカット。
「ダカット…　うるさいよ…」リリアが言う。

「あなたに…　これからを語る資格はないの…　これからの人生を送るはずだった人々を殺めてきたんでしょ？…　もう先はない、清算して裁きの下に行くしかないの…　本当に今までの人の事を思う気持ちがあるなら…　自分で覚悟を見せてちょうだい」
すすり泣く女にリリアは女の剣を握らせた。
「ぅぅ…　ぅう…　どうしも？…　死ななきゃだめ？…　どうしても？」泣く女。
「…　どうしも。勇者とし見逃せないの…　冒険者としてもあなたを生かしたまま背中を見せられないの…わかるでしょ？　自分で覚悟するか、あたしに殺されるか…　悔いて謝罪するならお裁きも少しは情状されるのかも…　お願い、覚悟して、あたしにやらせないで…」
「私女よ、あんたにも女の大変さわかるでしょ？　もうしないから許して…　助けて、ごめんなさい…」
「馬車に合流しないと…　時間がないの…」リリアはダガーを手にして言う。
「ぅぅ…　ぅ…　わかった…　わかった…よ…　　　このクソアマ！！」
「リリア！！」
林の中でパッパと白刃が光った…


「ぉのれ…　おまぇ…に…　…わかるか…」
女は胸を貫かれ恨めし気にリリアを掴みながら血を吐く。
リリアは自分の左肩を貫いた女の剣を引き抜くと自ら手を添えて女に握らす。
「神よ…　この者から苦労を癒しお裁きにご慈悲を願わん…」
リリアはそう呟くと叫びと共に手に力を込めた
「覚悟！！」


リリアは女に楽な姿勢を取らすと気力のポーションを一気に飲み干した。
「リリア…」ダカットが声をかける。
「……　人間が一番恐ろしいね…　大丈夫よダカット…　馬車と合流しましょう」
力なく立ち上がったリリアだが、今の飲んだばかりのポーションを勢いよく路上にぶちまけた…