勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【195.5話】 恥知らずのミラ

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リリアはルーダ・コートの街の城外、少し高くなった場所でミラクルを抱えて夕日を浴びていた。


ミラクル・ザ・ハーフピース(半人前のミラクル・恥知らずのミラクル)
エルフと人間のハーフの双子の一人、ミラクルは姉にあたる。妹はエンジェル・ザ・ハーフピースと呼ばれていた。
ハーフピースの由来は恐らくエルフの母と人間の父の間に産まれたことと双子として産まれた事に由来する。半人前と名付けられているがミラクルは風使い、エンジェルは水使いとして非常に優れた才能を持ち二人の能力を合わせると手練れ冒険者をも唸らせる実力があり、良い意味で能力を分け与えた二人という誉め言葉も含まれている。
またこれは一般的に双子は能力も似るものだが非常に稀な事でもある。

父親は不明、母のマイラとは同意の下の子ではないと噂される。
マイラはエンジェルとミラクルの誕生と引き換えに命を落としている。ミラクルは死産と思われた状態から産声を上げて奇跡と名付けられ、元気に産まれたエンジェルは母を安らぎの世界に旅立たせられるように天使と名付けられた。
二人は孤児として教会、冒険者ギルド所属とスタンダードコース。
二人は左右対称ながら瓜二つの容姿をしていたが中肉中背のエンジェルに対し、ミラクルは二回り程度体が小さく、腰と膝が悪く走る事はできなかった。
移動は馬車が通常だったが乗馬の際はミラクルを抱える様にエンジェルが付き添って騎乗していた。
冒険者となって半人前から一人前に成長し、二人は常に良いコンビ、活躍をしていた。

ある日
人さらいに襲われる馬車の救助に入った双子、エンジェルは人さらいに討たれている。
ミラクルは乗客を救い何人かの輩を討ち取ったがエンジェルを討ったボスを逃がしてしまう。
「双子は生死を共にする「片羽になるべからず」とされる兵士や冒険者の中では双子として一人生還したミラクルを悪く言う者もいた。
陰でつけられた名前はミラクル・ザ・シェイムレス 恥知らずのミラ。
ミラ一人では走れない事を差し引いても能力が高い分風当たりも強かったようだ。

エンジェルを失った後
ミラクルは妹の恨みを晴らすべく仕事と情報収集に明け暮れた。必死に妹の仇を追う。
数年の後、ミラクルの心は疲弊しだした。努力をしても仇を討てなければ恥知らず…
愚痴りながら酒場にいる機会が多くなった。
心配したギルメンはミラに休養と取り、妹の仇は忘れる様に説得したが本人はどうしても心に引っかかる事だったようだ。
ミラは酒と幻想薬を飲む日が増え次第に壊れ始めていた。
この頃だろうか?リリアが冒険者を始めてミラに出会ったのは。
「あたしリリア、よろしくね、ミラ」
酒場で挨拶するリリアに対して「 ぅあ? ミラよ、は、恥知らずのミラ」と答えたのを覚えている。
友人、ギルメン、心配はしたがとうとうミラの心から闇を取り去れる者はいなかった。
酒場にもギルドにも来なくなりミラはやがて忘れ去られる。
またに「昨日、どこどこをフラフラしてたな」と誰かが思い出したように言う。

「そこの男ども!!よってたかって、卑怯でしょ!衛兵呼ぶわよ、あたし勇者だからね、あたしが相手になるわよ」
リリアが裏路地で襲われている女性を救ったらミラだった。
「… あぅ… もう放っておいて…」ミラは呟いていた。
ギルドに連れ帰ったが再びミラは姿を消す。

「男ども!女を弄んで!恥をしりなさい!」
リリアが裏路地で女性にたかる男性達を追い払う。
「何だよおまえ、この女がやりたがってんだぜ!文句あるのか」
そう捨てセリフを吐いて立ち去る男達。
「… あぁ… 次の人来てぇ… お酒…お薬ちょうだぁぃ…」
あられもない姿のミラだった。
もう救いようがなかった… いや、これが幸せなのかも…


今日
リリアは城門近くの植え込みの陰で倒れているミラを発見した。
ボロボロで擦り切れている。
「ミラ?ミラ! あたしよリリアよ! しっかりして! ポーションがあるから飲んで!」リリアは駆け寄って声をかけた。
「… リ、リリ… ポーション? いらない… もう、終わりたい… お願い…」ミラが呟く。
もう長くはない事がリリアにもわかった。ポーションを飲ませたところで生きる苦痛に再び潰れていくだけだろう。
「ねぇ… ミラ、やりなおそう。人が言う事なんて気にしないで… リリアの知り合いで洋服屋の店員を募集しているよ。ミラならセンスあるよ。やりなおそう…」
「… もういいの… 苦痛しかない… もう人でもエルフでもない… 人間ではない… お願い、緑が… 緑が見たい… 太陽が見たい…」
18歳のリリアには想像もつかない苦痛だろう。生きている瞬間が苦痛…
リリアは空を見上げた…  城壁の向こうに夕日が傾き影を引いている。時間が無い…
「わかった… セダーの丘にあがろう」
リリアはミラを背負って走り始めた。


結局リリはセダーの丘には上がらず、城壁を回って夕日が見える小高い場所にあがった。
様子を見るにセダーの丘までもちそうもない。
リリアはミラを地面に下すとしっかりと抱えた。
「ミラ、ごめん、セダーの丘は諦めた… ここからでも太陽が見えるよ… 夕日よ。素敵に空がそまってグラデーションを作ってるよ」リリアが声をかける。
「…… …ね」
ミラはわずかに目を開けて何かを呟いた。
ミラは体も身なりもボロ雑巾のようになっている。
リリアは涙ぐむ。この恰好で最後を迎えるのはあまりにも可哀そう過ぎる、リリアは自分のシャツをミラにかけてあげた。
「… 今、ポーションを飲ますから…」
リリアは少しづつ体力と気力のポーションを飲ませてあげる。
「… ぁ、あなたは?…」ミラ。
「あたしはリリアよ… 何度か会ったことあるわ」
「…… … 夕日… すてき… 緑が濃い…」ミラ。
更に少しポーションを飲ますと少しだけ血色が良くなったようだった。
「… ねぇ… お願い… 痛みばかり… 怖いの… 私、妹に… 母に… 怖いの… だから… おねがい…」ミラが縋るように言う。
「… わかった… …神よ願わくはこの者の痛みを取り去り、幸せな思い出だけを残さん…」
リリアは呟くと多めに幻想薬をミラの口に流し込んだ。
「ミラ… あたし最後まで傍にいるから」
リリアはしっかりとミラノ手を握りしめる。

「……… ぁぁ… 夕日… 影… 虹よ… あぁ… 雲から、天から虹が…」
ミラの表情が和らいできた。
「虹が足元まで… 渡れる… 森が、街が… 山が見える…  … エンジー?… エンジェル!エンジェルね! やっと会えた、ごめんね、私動けなくって… エンジーごめんね、私をかばってくれたのに… 私は走れなくって仇を討てなかった… ごめんね、いつも傍にいてくれて、ごめんね… 情けないお姉ちゃんでごめんね、苦しかったの… 痛みから逃げたの… 耐えられなかったの… 本当にごめん、苦労ばかりさせて何一つ姉らしくしてあげられなくて…  気にしてない?…ありがとう… これからはまた一緒ね…」
リリアは必死に手を握り抱きかかえる。
しっかり夕日も見せてあげたい。ミラの口元も微笑んでいる。

「お母さん?お母さんでしょ?… ふふ…初めて会うけどすぐわかった… そっくりじゃない! ごめんなさい…私が生まれたばかりにお母さんが… 私が産まれてこなければ… …そう!私を誇ってくれるの?命をかけて産めてよかったの?出会えてよかった!! ありがとう!本当にありがとう… ずっとずっとお母さんに謝りたくて…感謝を伝えたくて… ごめんね、良い人生とは言えなかったけど… 私負けちゃったけど… 母さん… ママ… ママ、だっこ… エンジー、今日はママとご飯… ママ、本当に… ミラのこと怒らないのね…」
ミラが夕日に向かって手を差し伸べる。もうお迎えの時だろう…
リリアは手を握るとそっと囁いてあげた
「ミラ、エンジー、ママと一緒よ、これからずっと一緒よ、苦労かけたよね… 思いっきり甘えさせてあげる。あなたの人生はママの誇りよ」

「… ママ、エンジーとだっこちて」

ミラは微笑むと夕暮れと夜の境目の中で旅だっていった…


閉門寸前の城門。間もなく日もすっかり落ちる時間。
「待って!待って!門を閉めないで! 教会に連れて行くの」
城門を閉め始めていた門番兵は城壁から下を覗く。
兵士が見ると上半身下着姿でシャツを羽織った女を背負って走って来る者がいた。
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