勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【205.5話】 街中のピエン ※デュラハンクエストの帰り道の話し※

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「忘れ物なしですね」靴を履くとピエンは呟いてもう一度部屋を見まわした。
小さな部屋の窓際にキャンバススタンドが立っている。
リリアの油絵を仕上げるのに使用していたスタンドだ。
ここしばらくは窓際で風に当たりながらリリアとドラゴンの絵を描いていた。
その絵は完成、厳重に包み、今まさにピエンが抱えて持っている。
「… よし…」
ピエンは首周りに手をやり、身だしなみを確かめると自分の部屋を後にした。


ピエンは夕方、広場の近くにいる。ここはピエンが住んでいるルーダリア城下街。
「ルーダリアの城下で待ち合わせ?じゃ、あのお髭がㇵの字の偉そうな老人の銅像がある広場に日没の時間帯ね」
リリアの言葉が思い出される。
「ㇵの字の… 銅像… あぁ、クライフベルグ三世大将軍の像ですね」
リリアらしい表現だと笑いながら約束したのだ。
街中は警備が街灯に灯りを灯して回っている。仕事を終えたカップルの姿も目立ち始めた。
ピエンは改めて自分の身だしなみを整えた。
特に洒落た服を着てきたわけではないが新しい下したてのシャツ。糊が利いた襟。

ナト村でリリアに油絵の完成を伝えた時の事を思い出す。
リリアの喜ぶ顔。
「お礼ですか?別にお礼等特には良いですよ。いつも取材に協力していただいていますし、またこれからも取材に協力していただいて、またに他の人が同行できない場所に同行させていただいたら… それだったら食事でもして…」
リリアはニコニコと食事を了承した。

その時はリリアが「お礼をしたい」と言うので何気なしに絵を渡しがてらご飯を食べてという程度だった。
後でよくよく考えると改めて「食事を一緒に」と取れなくもないと気がついた。
考えてみるとピエンとリリア二人で食事した記憶はない。
リリアがルーダリアの城下に来る時はほとんどの場合、王様に呼ばれてやってくる。この場合は城に来たついでにディルとピエン、それにリリアに同伴している仲間と食事に行く。勇者の取材で野外で会う時もたいていは冒険者仲間と一緒に行動している。
ピエンは自分の中でリリアに対し、恋愛感情程の物はなくても好意持っている事を意識する。
実はピエンはディルにも自分に似た感情がリリアに対してあることを意識することがある。
ピエンがリリアと二人で話をする時等、ちょっと複雑な視線で眺めているディル。ピエンには感じる時がある、何故ならピエンもディルがリリアと二人きりで仕事の話をしている姿が気になる事があるからだ。
“宮中ならもっと華があるだろう”
ピエンはディルにこのような感情を持つことがある。
恐らくディルの方でも“取材活動でリリア以上の女性と出会う事多いだろう”等と思っているに違いない。

何となく理解できる。リリアには不思議なカリスマがあるのだろう。
感情豊かで屈託がない。現在の王国の勇者システムの犠牲者とも言えなくなく、その中で滑稽で哀愁を感じさせる程努力する姿は何か人の心を動かすものがあるようだ。

“食事に行こうという誘いをリリアはどう受け取っただろうか?”
ピエンは後になって自分の言葉が幅広い意味に捕らえらえる事を意識した。
“いつも通りのただの食事だ”とも思うし“せっかくなら二人きりで食事をしたい”とも思う。
“リリアの事だ、大した意味にとっていない”とも思う。

この場所は待ち合わせによく使われる。城下街には公園、広場、門、像等いくつか待ち合わせ場所があり、ここも良く使われる場所だ。
通りに花屋が屋台をだしており花束を買って待ち合わせをする者もいる。
ピエンも花を買おうか迷ったのだ。
ちょっと仰々しく意味ありげになり過ぎるだろうか等と迷いながらも今日は仕事が忙しく、部屋から慌ててここまで来たので花を買うことを忘れていた。
“屋台も来たし… 一仕事終えたお祝いの意味で花一輪くらい…”
そう思い始めた時だった…

「ピエン、ごめんね、待った?」
リリアがやってきた。ニコニコしている。
「ちょうどの時間ですよ。もう荷物は宿に置いてきたのですか?」ピエンが聞く。
「うん、昼過ぎについて、お城で報告済ませて宿で少し休めたよ。ディルは報告があって出てこれないって」
リリアはいつもの装備姿だが、シャツは新しい物に着替えて来たようだ。
ポニーテールも綺麗に櫛を通してある。
“… やっぱり… そうだろうな…”
ペコとアリスが少し遅れて待ち合わせ場所にやってきた。ちょっと離れた場所でこっちを伺うようにしている。
やはりリリアは仲間も誘って来たようだ。
ピエンの中には少し残念に思う自分と花を買わなかったことにほっとする自分がいる。

様子を見るようにしていたペコとアリスが近づいてきた。
「ピエン、こんばんは。お仕事お疲れ様でした」二人とも挨拶をする。
「… リリア、やっぱり私たち今日は遠慮するよ、二人で行ってきなよ」ペコがヒソヒソとリリアに告げる。
「えぇ?何で?鹿肉の煮込みとチーズが美味しいお店があるんだよ。お仕事終わりのお祝いに皆で食べにいこうよ!お金なら大丈夫だよ、昨日の日付分で今日の食事代出るようにディル細工してもらってるんだよね。ディルがあんまり硬い事言うから腕菱木逆十字固め決めてやったのよ!」リリアが得意そうに言う。
「… いや、そういう事では…」ペコがちらっとピエンを見た。
「あ、決して… 油絵を渡しながら取材もかねて皆さんから話をお聞きしたいので、ペコさんもアリスさんも皆で食事に行きましょう」ピエンは言う。
ペコとアリスは少し顔を見合わせた。
「さ、皆行くわよ!今日は完成した油絵を眺めながら王国のおごりで、“いきなりジビエ“でお腹いっぱい鹿肉料理たべるわよ。レッツゴー!」
リリアはスキップするように先頭に立って歩きだした。
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