勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【208.5話】 “ドラゴンに乗る勇者リリア”(非売品) ※リリアがコピペを思いついた次の日の話し※

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「こんにちは、店長さんいる?」
声を掛けられたので武器の刃を磨いていた店員は顔をあげた、見るとポニーテールの女と吟遊詩人姿の女が立っている。
「リリアちゃんか、店長なら奥にいるよ、呼んで来るから待ってな。今日は何の御用だい?」
店員は挨拶を兼ねてリリアの要件を聞くと一度カウンターの奥に引っ込んだ。


「そういう事でこの絵をポビぺしてもらいたいよのね」
リリアが油絵を台において説明する。油絵はもちろんピエンに描いてもらった“ドラゴンに乗る勇者”
リリアが事情を説明するとリアルゴールドの店長とハンズマンの技術担当が話を聞いてくれた。
リリアは街中の常識に疎いところがあるのでコトロは念のため付き添いで来ている。
「ふむ… 勇者殿、事情はわかりました。質問に順を追ってしますと、この絵に値段はありません、また今のところ価値をつけようもありません。絵は人の価値観と前歴によって値段がつけられると申しますか… この絵を10Gなら払っても良いと言う人もいれば、1000G出してでも手に入れたいと考える人も居るかも知れません。この絵を描いたピエン氏が有名な人で多くの人が欲しがって高値をつけた前歴があればそれに近い価値になりえます。また、題材の対象、勇者殿が高名な勇者で人々がこの絵に価値を見出せば価値はあがります。現在のところはこのピエンは情報紙の記者、リリア殿も無名な勇者という事で世間の認識としては高価な物とは言えないでしょうな。ただし先ほども申し上げたようにその人の価値観です。このサイズの絵ならもともと結構な値段になる上に、この絵を気に入って是非買いたいと言う人が現れれば値段が付きます。商売上ドライな言い方をすれば今のところはキャンバス代、絵の具代と描いた人の日当、まぁ勇者殿のモデル料と言ったとこでしょうか、あっはっは」
店長が説明する。
「そっか、リリアちゃんががんばって有名な勇者になったら高くなるかもって話だね」リリアはフムフムと聞いている。
「… 絵の価値なんてあって無い様なものです。先ほどのから話だと勇者殿もお売りになるつもりはないのでしょう?それなら勇者殿がこの絵を値段が付けられない程の価値がある大切な物と思っているならそれがこの絵の価値なのですよ」
そういうと店長は改めてゆっくりと絵を見直して続けた。
「なかなか良い絵ではないですか。ドラゴンと勇者を題材にするとこのような雰囲気にはならないですが… 独特な味がありますなぁ」
そこから後を引き継ぐようにハンズマンの担当者が続けて説明。
「コピペすること自体には問題はありません。コピペの精度によりますがウチのコピペ魔法士の技術なら複製の精度には問題はないでしょう。ただ、キャンバスのサイズが大きい事と油絵は絵の具の乗りや質感等複雑な要素で出来ていますのでそれらを詳細に複製するには材料とコストがかかります」
コトロが説明を聞きながら頷いている。
「材料は調達してくるわ、あれでしょ?作ってあげたが最近魔物が現れ山に入れなくて材料が調達できなくて困っている。その魔物を倒して材料を取って来たら作ってくれる的な展開のやつよね。勇者物語の定番コースよね。任せて、どこに何を取りに行ったら良いの?」リリアがグッドサインを出している。
「いや… 材料は全部あります。キャンバスが大きいサイズですがこれは市販されている物で特別な物ではありません。絵具もあります。特に山に行く必要も魔物を倒す必要もありません。ただこれをそっくりそのままコピペの魔法は値段が高くなります」担当者が言う。
「そっか、物語っぽい展開かと思ったら違うのね。まぁ楽ちんな方がいいけど。なるほどね無から有は出来なから原材料が必用って事ね。版権?大丈夫よ、あたしの絵だもの、ピエンも了承してくれるわよ、問題ナッシング!無問題!」リリアが言う。
店長と担当者はちょっと顔を見合わせた。
「本来なら絵画のコピペは色々証明書が必要ですが、今回はご本人の絵ですし、描かれた人の了承も得ているならそこの手続きは省略できますね」店長が言う。
「じゃお願いね、おいくら?リリアちゃんは専属モデルやってるし、ここでいっぱい買い物しているしおまけしてよね… え?いくら?ヴぇ!聞き間違えと思ったらそんなに! うーん… 高いなぁ…」リリアは驚いている。
高いとは思ったが想像以上だった。
リリアがコトロを見ると“本当にやる気?”と目が訴えている。
「ちょっとおまけしてニャン」
リリアは胸元を見せながらウィンクしている。
「… いや、既にお値引き価格です、勇者殿」
あっさききっぱりさくっとお断りされている。

「仕方ないよね、自分の手元と故郷に置いておきたいし…」リリアが言う。
「お値段はもう何とも… コピペ魔法はクラフト魔法の上位魔法になります。複製と創造に魔力も消費するので魔法石の消費もコストになります。勇者様が魔力をご提供できれば… そうでございますなぁ、ゼロ魔力でございましたなぁ… 魔力が無くても勇者に…」店長が残念そう呟く。
確かに魔力が無いのに勇者、残念勇者リリア。
コトロがリリアを見ると少しイラっとしているいのがわかる。
「コピペの二枚目以降はコストが全然下がるのですよ」担当者が言う。
「そうなの?… ってことは二枚コピペすると割安なの?」リリアが乗り出して聞き返した。
「左様でございます。元値が元値なのでそれなりにすると思いますが、コピペ魔法というのはまず複製される元の物体を立体的に… これは魔法陣の中で3次元方向に置き換えて… x,y,z軸に下絵を描くように… そして物質の違いを判別して先ほど空間にそって描かれた線に沿い… 次に複製に使われる物質と材料を… それを魔力に… 生成の手順を過去の時間から再生するのですが… ですから3次元のなかに時間という要素が加わり… ですが、一度出来上がった作成と手順はその魔法陣の魔力が解けるまでは… その一度出来た手順は二枚目以降のコピペに使用されることで… 劇的に手間を省けるので… したがって二枚目以降は大きくコスト削減に…」
担当者が非常に丁寧に説明してくれた。
「なるほど」
コトロは何となく一枚目の複製が高い理由、二枚目以降がかなり安くなる理由を理解した。
コトロがリリアを見ていたら、途中までは身を乗り出してフムフムと聞いている様だったが、途中から明らかにニコニコしながら大きく頷き、しきりにポニーテールを手櫛していた。

「それで二枚目はいくらなの?… ぅわぁ…それでもその値段…でもたしかにだいぶ割安なのね… ってか、いきなりその値段ってその一枚目がどんだけ非効率なのよ!… その通り?納得されちゃうのね… …わかった、二枚頼む!やっておしまい!」リリアは意を決して言い放った。
「ちょっ… リリア本気ですか?」コトロが思わず口をはさむ。
割安とは言えそれでも結構な値段。
「うん…決めた。もともと手元用と故郷用の他に一枚保険が欲しいと思ってたんだよ。どうせだから作るよ!」リリアは言う。
「こちらとしてはありがたいですが… よろしいのですか?… 時価ではありませんから良く考えられても…」店長がリリアとコトロを見ながら言う。
「やる!やるわ!迷わない!あたしこの絵好きだもの。保険にもう一枚持っておく」リリアは自分に言い聞かせるように言った。

「… そうでございますか… それでは… 保険の三枚目ですがしばらくお借りできるなら保管と宣伝をかねさせていただきこちらからも値引きをさせていただきます。良い作品ですし、リリアモデルと一緒に飾らせてもらえればどちらも宣伝になると思います。いかがでしょう?勇者殿さへよろしければしばらくお店に置かせていただきたい」
店長が言う、リリアはニコニコと首を縦にふった。


後日コピペが完了したというのでリリアとコトロがコピペ絵を取りに行った。
「わぁ!すごい!本当に完璧にで出来ているのね」リリアは嬉々としている。
「勇者殿の意気込みを感じて詳細まで丁寧に複製してあります」店長は胸を張る。
「勇者殿、こういうのはオリジナルが大事です。これがオリジナルなので勇者殿自らサイン等何か証拠にしてください」技術担当者。

「… わかった、サインしてオリジナルとわかれば良いのね」
コトロが見ているとリリアは少し考えてからキャンバスの裏に自分のサインと加筆した。
「大切な仲間 コトロ、ニャン、ピョン、ダカット ブラックもここに」

「………」
コトロが見ると三枚目の絵はすでにリリアモデルのセットと一緒に壁に飾られていた。
“ドラゴンに乗る勇者リリア”(非売品)と題してあった。
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