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第二話 ハッピー性奴隷ライフ
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しおりを挟む一人になってから、メグは僧衣を脱ぎ、丁寧に畳んだ。なにしろ、大事な一張羅だ。
姉妹が持ってきてくれた着替えは、麻でできた半袖のチュニックに膝丈のズボン、そして履き物はサンダルだった。
涼し気な服でちょうどいい。夏だから暑いのは当然なのだが――と思ったところで、メグの頭に疑問が浮かんだ。
「ここ、どこ……?」
メグは、クィンキー山脈のうちのひとつを登ってきた。そこで罠にハマり、意識を失って、ここまで連れて来られたのだが。
「クィンキー山脈のどこか、だよねえ……?」
もしも異世界だとか、次元の狭間だとか、突拍子もないところにいるのだったらどうしよう……。
「とりあえず、自分がどこにいるのか、探れるだけ探ってみるか」
服を着替え終わると、メグは自前のニットキャップをかぶった。そして数珠を首からさげる。ジグ・ニャギ教の僧侶は、常に数珠を携帯していなければならないのだ。
「こんなもんか……」
メグは部屋に備えつけてあった姿見で、自身の格好を確認してみた。
新しい服も、なかなか悪くない。
「んじゃ、行くか。ボンボア、いい子にしていなさいね」
グライアたちが解錠してくれた扉から、メグは外に出た。
ところで自分のいる小屋は、どんなもんだろうか。一度振り返って確かめてみれば、なんの変哲もない素朴なロッジが佇んでいた。
隣からもずらっと、同じような外観の建物が並んでいる。
メグの小屋は北側の端で、隣に二棟。通路を挟んで、南側にまたひとつ、ふたつ……と、瓜二つのロッジがきっちり列をなして建っている。
「なんというか……。近代的? 整然としている?」
そう、秩序を感じる。どうもここいら一帯は、恐ろしきズメウの巣というイメージにそぐわない。
魔物が支配している土地なのだから、もっと混沌としていてもおかしくないのに。いや、そうであるべきではないか?
メグは首を傾げつつも、とりあえずはグライアに案内されたとおり直進した。そうすれば、「昨日の小屋」にぶち当たるとのことだったが。
「ここかな……?」
十mほど行ったところに、他のロッジよりもやや大きな建物を見つけ、入ってみる。
中には五、六人ほどが詰めていた。皆、女性だ。
それらの面々が、ふらりと現れたメグに注目する。反応は、まちまちだった。
値踏みをするように、不遠慮にじろじろ眺めてくる者。ニコニコと、友好的な笑顔を向けてくる者。
しかしいずれも美人ばかりで、メグの鼻の下はデレデレと伸びてしまう。
しかし。
――この人たちも、ズメウってことだよな……。
危険な淫魔たち。油断すれば、精根尽き果てるまで、貪られてしまう。
「よっ。ここ、すぐ分かったか?」
入り口近くの席にいたグライアが立ち上がり、メグに声をかけてくれた。
「このロッジはみんなで使ってる、まあ、いわゆる集会所だな。食事もここで配られるんだ。一日三回、朝昼晩な。小屋についてるミニキッチンで、自炊してもいいぜ。食材は厨房にあるから、適当に持ってけ」
説明しながら、グライアは奥を指さした。
カウンターで仕切られた向こう側が厨房らしい。
そのカウンターの隙間越しに、エウフロシュネが手を振っている。
「メグちゃん、やっほー」
グライアはメグを促し、厨房に足を向けた。
「メシは、女たちが交代で作るんだ。今日の当番は、エウフロシュネだ。あいつのタマゴサンドは絶品だから、ぜひ食ってやってくれ」
「はい、メグちゃん。いっぱい食べてね! ここ、朝の七時に開いて、だいたい五時間ごとにメニューが変わるから。あと、夜の八時には閉まっちゃうから、気をつけてね!」
言いながらエウフロシュネは、朝食の乗ったトレイを渡してくれた。
噂のタマゴサンドと、野菜スープ。そして、コーヒーだ。
礼を言ってから近くに着席すると、メグはそれらを口に運んだ。
「美味しい……!」
分厚いふかふかの食パンに、濃厚なタマゴペーストがたっぷり挟んである。混ぜてあるマスタードのピリッとした辛味が、大人の舌によく合った。
大きめに切られた野菜入りのスープも、食べごたえがある。自然の甘みと丁寧に作られたブイヨンが絡み合い、シンプルでありながら芳醇な味わいだ。
空腹だったこともあいまって、メグはガツガツと夢中でそれらを食べた。
「美味いってよ」
グライアが厨房に声をかけると、顔を出したエウフロシュネは、誇らしげにピースした。
しかし腹が膨れてくるにつれ、メグは自分に注がれる女たちの視線が気になりだした。
じっと凝視され、どうにも食べづらい……。
赤面しながらもぐもぐ口を動かすメグを、グライアがからかった。
「ここの女たちは、食欲と性欲は比例するって考え方でな。どっちも旺盛のほうが、歓迎されるってわけ。――その食いっぷり、お前は合格みたいだな。おめでとう、メグ」
「うぐ……!」
そんなことで、自分のシモの能力が計られていたなんて。メグはせっかくの料理を、喉に詰まらせてしまった。
それでもなんとか食べ終えて――さて、このあとは、なにをしたらいいのか。
グライアたちの答えは、「好きに過ごせ」だった。
「えっ……」
メグは戸惑う。一応は虜囚なのだから、なんらかの労働を強いられるものと思っていたのだ。
「この集会場の中に、本やゲーム類がいっぱいあるから、それで暇つぶししてもいいし。ダラダラ寝ててもいいし。まあ、女たちからなにか頼まれたら、できれば引き受けてやってほしーけど」
「頼まれごと?」
「DIYなんかの力仕事とか、ゲームの相手とか。――あとは、分かるでしょ?」
当番を終えたエウフロシュネが横に来て、エプロンを外しながら、意味ありげに「くふふ」と笑った。
「そうだ、あとは農作業や、家畜の世話だな。男衆はだいたいそっちに集まってるはずだから、挨拶も兼ねて、行ってみたらどうだ?」
「ああ、はい」
やはり、まるっきり女だけの集落というわけではなく、男もいるのだ。その男たちも、メグと同じく、囚われているのだろうか。
なんにせよ会って、色々と聞いてみたい。
メグは畑の位置や家畜の飼育場所を、姉妹に聞いた。それらを伝えてから、グライアはにっこり笑った。
「ともかく、お前たち男どもの一番の仕事は、オレたちのエサになること。具体的に言えば、チンポをがっつり勃たせて、びゅーびゅー射精すること。それ以外の労働は全部おまけに過ぎないから、ま、気楽にな」
「は、はあ……」
そんな風に明るく言い切られても、どんな顔をしたらいいのか……。
メグは引き攣った笑顔を浮かべた。
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