1 / 54
1.「だいこうぶつ」
1-1
しおりを挟む
この世を去ってしまった大切な人に会いたいと思ったことはありますか。
用意するものは、はがきを一枚と、筆記用具のみ。
はがきに書くことは以下のとおりです。
1.あなたの住所と名前
2.会いたい死者の名前と、その人と一緒に食べたいもの
その二つを書き終えたら、宛先を書かずにポストにはがきを投函して下さい。
二、三日待って宛先不明で手元に返送されなければ、成功です。
手紙を出したことすら忘れた頃に、死者と会える日時と場所が指定された招待状が届くでしょう。
その招待状を持っていると、あの世とこの世の境の三途の川にある小さな屋台「よみじや」へと誘われます。
蜃気楼のように現れる屋台――「よみじや」が、あなたと、死んでしまった大切な人とを繋いでくれることでしょう。
*
――深夜。薄暗い寝室。
ベッドの上に寝転びながらスマートフォンを弄る男の顔を淡い光が照らしている。
真夏の寝苦しい夜。中々寝付けずに、肝試しついでにネットで怖い話や都市伝説を調べていたところ、偶然この記事に辿り着いた。
「死者と会う方法」という文字が目に止まり読んでみると、明らかに嘘くさい内容にとんだ肩透かしを食らった気分だった。
「アホらし」
携帯を枕元に置いて仰向けに寝返りを打つ。
視界の端にオレンジ色の豆電球が揺れている。開けた窓からは夜風がそよぎ、カーテンが靡いている。
気づけば時刻は深夜二時半を回ろうとしているのに眠気は一向に襲ってくる気配がなく、数え切れない程の寝返りをずっと繰り返していた。
「……ダメだ。眠れない」
目を固く閉じ、遥か遠くにいるであろう睡魔に懸命に手を伸ばすが一向に意識が沈む様子はない。
このままではラチがあかないと、水でも飲みに行こうと自室を出て階段を降りた。
母親はとうに寝静まり、暗い室内の中台所の明かりを点ける。
耳をすませばボイラーや換気扇の音が妙に大きく聞こえる。少し離れたとはいえ生まれ育った我が家だというのに、何故夜になるとこうも不気味に感じてしまうのだろうかと不思議に思ったことは何度もあった。
冷たい麦茶で喉を潤し一息つくと、居間の隅に置かれた小さな仏壇に飾られた父の遺影と目があった。
その瞬間、ふと脳裏に蘇る先ほど読んだくだらない記事。
「……バカか」
一瞬妙な考えが過ぎった自分に思わず嘲笑を浮かべた。
あんな子供騙しに踊らされるなんて中学生くらいまでだ、と苦言を飲み込みように男はグラスに残っていた麦茶を一気に流し込む。
自室に戻り、ぼすりとベッドに体を沈ませながら部屋に入り込み心地よい夜風を感じながら目を閉じた。
やはりまだ睡魔は襲ってこないが、もう男は目を開けることなく暗闇の静寂に身を任せた。
用意するものは、はがきを一枚と、筆記用具のみ。
はがきに書くことは以下のとおりです。
1.あなたの住所と名前
2.会いたい死者の名前と、その人と一緒に食べたいもの
その二つを書き終えたら、宛先を書かずにポストにはがきを投函して下さい。
二、三日待って宛先不明で手元に返送されなければ、成功です。
手紙を出したことすら忘れた頃に、死者と会える日時と場所が指定された招待状が届くでしょう。
その招待状を持っていると、あの世とこの世の境の三途の川にある小さな屋台「よみじや」へと誘われます。
蜃気楼のように現れる屋台――「よみじや」が、あなたと、死んでしまった大切な人とを繋いでくれることでしょう。
*
――深夜。薄暗い寝室。
ベッドの上に寝転びながらスマートフォンを弄る男の顔を淡い光が照らしている。
真夏の寝苦しい夜。中々寝付けずに、肝試しついでにネットで怖い話や都市伝説を調べていたところ、偶然この記事に辿り着いた。
「死者と会う方法」という文字が目に止まり読んでみると、明らかに嘘くさい内容にとんだ肩透かしを食らった気分だった。
「アホらし」
携帯を枕元に置いて仰向けに寝返りを打つ。
視界の端にオレンジ色の豆電球が揺れている。開けた窓からは夜風がそよぎ、カーテンが靡いている。
気づけば時刻は深夜二時半を回ろうとしているのに眠気は一向に襲ってくる気配がなく、数え切れない程の寝返りをずっと繰り返していた。
「……ダメだ。眠れない」
目を固く閉じ、遥か遠くにいるであろう睡魔に懸命に手を伸ばすが一向に意識が沈む様子はない。
このままではラチがあかないと、水でも飲みに行こうと自室を出て階段を降りた。
母親はとうに寝静まり、暗い室内の中台所の明かりを点ける。
耳をすませばボイラーや換気扇の音が妙に大きく聞こえる。少し離れたとはいえ生まれ育った我が家だというのに、何故夜になるとこうも不気味に感じてしまうのだろうかと不思議に思ったことは何度もあった。
冷たい麦茶で喉を潤し一息つくと、居間の隅に置かれた小さな仏壇に飾られた父の遺影と目があった。
その瞬間、ふと脳裏に蘇る先ほど読んだくだらない記事。
「……バカか」
一瞬妙な考えが過ぎった自分に思わず嘲笑を浮かべた。
あんな子供騙しに踊らされるなんて中学生くらいまでだ、と苦言を飲み込みように男はグラスに残っていた麦茶を一気に流し込む。
自室に戻り、ぼすりとベッドに体を沈ませながら部屋に入り込み心地よい夜風を感じながら目を閉じた。
やはりまだ睡魔は襲ってこないが、もう男は目を開けることなく暗闇の静寂に身を任せた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる