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進の退院

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今日は進の退院の日だった。

Kはいつものようにマーブルと散歩をしていた。

「ワン!」

マーブルが白衣姿の森山に気づいた

「あ、森山さ~ん、今日進さんが帰って来るね」

「私用でね」

森山は堅い表情だった。

(どうしたんだろう?)

Kは気になり、こっそり森山のあとを追った。

民家に身をひそめたような昭和をあるがまま素朴に再現した駄菓子屋のなかに森山が入っていった。

(糸ひきあめ、なつかし~)

三角牛乳こそないが、ほこりかぶった三角くじ、梅じゃむ、パイプチョコなどがあった。

「私だ、森山だ」

森山は古めかしいレジカウンターを通り越し、階段を登って行った。

Kはなかの様子をじっと見た。

(あ、あれは)

Kがプレハブに来てから間もない頃、進ともめていた男がいた。

「ワン!」

「マーブル、吠えるな、ちょっと我慢してて」

Kとマーブルは隣の空地に移動した。

「きょう退院か」

「でもまだリハビリが必要だ、からだにさわるといけない、打ち明けるのはもう少しあとだ」

森山が駄菓子屋から外に出た。

Kは森山がしばらく歩いたのを確認すると、

「糸ひきあめください、それとくじも」



◆総合病院

「お世話になりました」

「こちらこそ、マーブルちゃんによろしくね」

進は同じ病室の人々に別れを告げた。

森山が車から降り、病院に入った。

進のいる6階まで階段で駆け上がった、そして病室から出た進を抱きかかえた。

「森山~、やめてくれよはずかしいだろ、いい大人が…」

進は涙をこらえきれず泣いていた。

「これから退院祝いをしたい、進さんのいちばん好きな場所で」

「退院祝い?」

「マーブルもKさんも首を長くして待ってたんだよ」

「いろいろ迷惑かけたな、お前には」

「いまも…むかしも」

「マーブルも入れる店がいいな」

「今日に合わせて、もう貸し切りで予約とっているから」


◆ ときをとめてよ タイムスリップ 店内 貸切

「おかえりなさい進さん」

「ワンワン(笑)」

マーブルは進の顔がとけてしまうかのような勢いでキスをした。進が入院している間、マーブルが神社で祈願したせいか進の退院を祝う客は増えていた。
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