クロラ

方正

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訪れるもの・過ぎ去るもの

生きる現実

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 何やってるんだろう私。
 敵機体の正面を向いて、お互い右回りに機体を回転させて弾丸をひたすらに撃つ。
 いくつもの薬莢は硝煙をあげて空を舞う。
 機体を傾けた状態での銃撃は簡単。先にバランスを崩して倒れた方が負け。
 いつ死んでもおかしくない状態で私は、早く終わらせたいとだけ考えていた。

―――1日前。

「ふーん……」
 私はリンゴをかじりながら、リュウのパーツを付け替えの作業を眺めていた。
 日は一番高い位置に上っている。窓から強い光が差し込む。
 いろいろ悩んだあげく、左後ろに装着していたロケット弾を外した。攻防のバランスを考えた結果これが最善だと思った。
 スモーク弾の場合、短期決戦になり集団戦での戦闘が厳しくなる。
 主砲である前輪の機関砲は外すわけにはいかない。
 手早く工具を使いながら、取り付けていく。正しく動くかも見ながら、おもちゃの戦闘機のようなドローン2機を時々起動させる。
 ドローンは四角錐のフォルムと尖っている方が先端で丸い眼球のようなカメラが装着されていた。そして、三角形の翼が左右に取り付けられている。翼には丸い穴が開いており、その穴の中にプロペラが入っている。左右の翼を動かして自在に空中を飛び回る。
 ドローンの下には黒い筒がある。ここからレーザーが放たれる。当たれば溶けて貫通する事になる。
「なんかペットみたいだね」
 私は片手の人差し指で空中でとどまっているドローンを突く。
「溶解させて貫通させることが出来る危ないペットだな」
リュウは工具と機器を片付けた。
「終わったぞ。試してみろ」
私はいつものフルフェイスのヘルメットを被る。二つの丸い半透明の円がフワフワと、ヘルメットのガラスに映る。
 これは二機のドローンと連動しているのだろう。リュウは一枚の木板の的を指さした。狙ってみろという事だろう。
 的の中心を睨みつけた。すると二つの弾丸ほどの穴が開いた。一つは中心ど真ん中、もう一つは、中心より右に少しずれた位置。
 リュウは腕を組んで少し考えた後でノートパソコンを開いた。
「少しずれていたか、それともバグか……」
リュウはパソコンでドローンのチューニングを始めた。
 私はヘルメットを外して、食べかけのリンゴに再び噛り付く。今日は平和だ。
「邪魔するぞ」
黒いスーツ姿に数人の男を連れた白髪の老人が倉庫に入ってきた。
 私たちの雇い主の代理人だ。この老人の表情は常に変わらない。まるで氷の様に冷たい。
 リュウは作業着のまま、作業の手を止めて老人の前に立つ。
「仕事か?それともただの伝達か」
「仕事だ」
 老人はそういうと、右隣に立っていた男が透明のケースに入った一枚のSDカードを渡す。
 リュウは受け取ると胸ポケットに突っ込んだ。
「前払いと達成報酬はいつも通りに、だろ?」
老人はそれだけを言って、出て行った。私達とは最低限の要件以外は何もかかわりたくないのだろう。
 名前も知らない。私はただやり取りを見ていただけ。
 リュウはSDカードをタブレットに差し込むと、ざっと目を通した。
「ユリ、支度だ。河南省での相手拠点に奇襲とターゲット破壊の任務だ」
リュウの放った言葉に、私は小さくため息をついて、事務室の一角を改造した自室へ荷物を取りに向かう。
 戦う事は嫌じゃない。ただ、消しゴムのような味の薄い保存食品の生活に戻ることが嫌なだけだ。
 早く終わらせて、美味しい物を食べよう。そして、好きなだけ眠ろう。
 荷物をバックに詰め込んでトレーラーの助手席に入れる。
 リュウはトレーラーの荷台に私の機体を載せて、緑のシートで覆っていた。
 明日の今、私は戦っているだろう。今回はただ兵器を破壊するだけ、傭兵同士の戦いよりは簡単かな。
「いくぞ。約5時間の旅だ」
リュウは運転席に乗って、トレーラーを起動させた。大型のエンジン独特の振動を感じる。
 やっぱり、大型のエンジンは気持ちいい音を出す。振動も心地いい。
 軍事基地に挟まれた、通りを抜けて数日前に見た検問と大門を抜ける。
 そこはまるで、異世界だった。少しずつ閉まっていく大門をサイドミラーから眺めてた。
 目的地まで私は目を閉じて、戦闘のイメージをする。アクセルとブレーキのタイミングに合わせて引き金を引く。
「ほら、好きだろ?」
そう言って、イメージトレーニングをしている私の太ももの上に、一つの小さな紙袋を置いた。
 紙袋を開くと、ゴマ団子が6個入っていた。一つつまんで口に放り込む。
「美味しい……ありがとう、リュウ」
リュウは何も言わずに、缶コーヒーを片手で開けて口を付けて飲む。
「ん?何か言ったか?」
缶コーヒーから口を離すと1メートルあるか無いかの声も聞こえないらしい。
「いや別に、なにも」
この男はいつも通りだ。左側の運転席で私のバイクを運んでくれる。
 私は右側の助手席の窓を開けて、片腕を窓から出して、遥か彼方の地平線を眺める。
 トレーラーでの移動時間が私たちが傭兵ではなく、ただ旅をしているという錯覚を味わえる。
 自由に生きている。この感覚は何とも言えないほど気持ちいい。
 他愛のない会話と沈黙を繰り返しながら、目的地に着いた。
 周りは崩れかけのビル群で、ビルから様々な植物が生えている。ビルの一階を見ると、白骨化した死体達が散らばっている。
 遥か昔の国家と企業が戦争を起こした戦争で、この市街地で一般市民を巻き込んだ激しい戦闘があったのだろうか。
 どちらにしろ、こんな人骨だらけの場所を野営地にしたくはないだろう。
 コンクリートむき出しのビルとビル間にトレーラーを止めた。
 荷台からバイクを降ろして、リュウと共に各武器の弾薬を詰める。
「夜明けと共に作戦開始か」
武器に弾薬を詰め終えて立ち上がって汗を拭く。
「北側に10キロ進めば敵の前線部隊の拠点だ」
 リュウは弾薬が詰まった箱を持ち上げて、トレーラーの荷台の片隅に置いた。
 左腕に付けた腕時計を見ると、5時17分を表示していた。時間まで退屈だ。私は荷台に座って、少しづつ暗くなる空を見上げていた。
 星が輝きだすと、野外用の照明器を片手に持って二人分の食事を持ったリュウが隣に座った。
 リュウから一つ貰って、温めてある缶詰を開くと温かい湯気が上がる。
「ポトフか…」
白いプラスチックのフォークでジャガイモを刺して、口に運ぶ。
「どうだ?香港の補給兵から買ったんだ」
口に入れたジャガイモを飲み込んだ。少し硬いパンに一口噛り付く。
 ニンジンやホウレン草などの野菜のジュースに口を付ける。
「美味しいけど、パンが硬いのが不服」
「贅沢言うな」
そう言って、私の額を指で突いた。不服な視線を向けるが、私は笑って見せる。
 リュウも微笑み返してくれる。
 私はポトフとパンを食べ終え、野菜ジュースを飲みながら話しかける。
「みんな、何してるかな」
「さぁな、戦場を駆け回っているだろうさ」
 口に最後の一切れのパンを放り込んで、リュウは荷台から飛び降りた。
 食べた残りの缶詰とパンの入っていた袋を一つにまとめて、持っていく。運転席で寝るらしい。
 私は、小さくため息をついて空を見た。生きるって難しいね。
 寝袋を取り出して、バイクのそばで眠りにつく。
 もう少しだけ、生きる事が楽しければなぁ。
 今は少しでも、体を休めよう。
 そっと目を閉じた。
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