ロイレシア戦記:青の章

方正

文字の大きさ
12 / 27

第十二話

しおりを挟む
 冷たい黒い鉄の長剣を弾いてから、森の中に剣撃が鳴り響く。
 すぐさまに体を半回転させて、長剣を握っていた敵兵の両手首を切り落として地面に転がす。
 白樺の樹木には複数の矢が突き刺さり、マスケット銃の弾丸が丸い衝突痕を残していた。
 息を吐いてから頂上の方へと視線を向けると兵士達が白人戦で入り乱れている。
「お嬢、大丈夫ですか?」
前線から漏れた複数名の敵兵士を打ち倒したクロウが戻ってくる。血が付いた刀を軽く振り払い鞘へと戻す。
「何とかね。今のところは押してるけど」
思ったよりも均衡してる戦場になっている。
 何とか前線を押し上げたいが援軍を望めない点を考えると彼らに頑張ってもらうしかない。
 伝令兵が私の目の前に走って近づいた。
「イエルハート様。そろそろ油瓶をこの地帯に蒔く指示を」
その言葉に私は静かに頷いた。指笛で音を鳴らして、伝令兵達が近くの部隊に伝えると同時に瓶の封を開けると一帯に黒い色をした油をばら撒いた。
 ここは森林地帯。この落ち葉で湿っている地面に油が染み込んで馴染むまでは相当な時間が掛かるだろう。
 水の上に油を浮かせるように。
 その上を踏みしめて前に進む。奥地へと進むと共に敵兵の数は多くなる。
 最初は草木に隠れた弓兵のクロスボウによるけん制から、斧や長剣を持った兵士達の近接戦へと切り替わる。
 私達は樹木や岩陰を盾にして、クロスボウをやり過ごすがどうしても被弾してしまう人が出てしまう。
「くっ……」
私の傍について来ていた伝令兵の方に被弾してしまう。
 樹木を盾にして左側にある白樺の真っ白な樹皮に噴き出た血で赤い斑模様が出来てた。
「大丈夫?彼の治療を!」
護衛役に連れていた二人の内、一人に治療を指示する。
 クロスボウのボルトを引き抜いて、厚い布を肩に空いた穴に押し当ててその上から包帯を巻きつけて止血した。
 少しだけ苦痛の表情をして、簡易的な治療が済むと大きく息を吸い込んで静かに吐き出す。
「あなたに倒られてしまうと私達は攻略を出来なくなってしまう。ついて来てもらうから覚悟しなさい」
伝令兵は小さく謝罪の言葉を放って一人で立ち上がる。護衛の二人に彼の守りを指示した。
 クロウを先頭に立って進んでもらった。
 彼に迫る敵兵を刀で的確に急所を切り裂いては突き刺す。
 うめき声を上げて倒れる敵兵は糸が切れた人形の様に地面に倒れ込む。
 既に亡骸と化していた私の兵士の上へと。見覚えのある兵士。
 昨年の秋に新兵として私が受勲した年齢が変わらない男性だった。
 その亡骸をジッと見つめて、唇を噛み締めて青いバスタードの柄を力強く握りしめる。
 何度もごめんなさいと心で呟いた。今までは前線で戦う事が無かったゆえに、兵士が死ぬことはほぼ無かった。
 しかし、亡骸になってそう時間が立っていない人だったものは精神をえぐり取られる感覚が全身を巡る。
「お嬢!」
クロウの声に意識を現実へと呼び戻された。
 数メートル先には両手で長剣を握りしめ、大きく頭の上に振り上げて迫っている。
 青のバスタードを両手で柄を握り占めてから剣先を地面に向けて斜めに倒し、柄を顔の横近くへと近づけた。
 長剣が振り下ろされると同時に、長剣を左横から振り払うとバランスを崩してよろける。
 その刹那に柄を握り占めて、右から左へと切り返して腹部を切り裂く。バスタードの刃から伝わる人肉を切り裂いた感触が手と腕に伝わった。
 そして、すれ違う形で私の右隣りへ倒れて腸が外へと出ている。表情は苦悶の表情を浮かべて光の無い瞳で虚空へと視線を向けている。
「進みましょう。私達に出来る事はそれだけよ」
200メートルから300メートルほど進んで、二度目の油をまいた。
 次はそれから更に200メートル進んで最後の油をまき散らす。
 各部隊の伝令兵達が空へとクロスボウの先を向けて、真っ白な煙を上げた。
「ここから正念場ですねぇ?」
クロウは悪い顔をして、刀に付いていた血を振り払った。白樺の白い樹皮に赤い血で線が描かれる。
 しばらくして、後方から大きな火球が私達の数十メートル先へと落ちてきた。ヴィオの軍が投石器を使って放ったのだろう。
 炎の壁が燃え上がり敵軍を退路断ち、敵軍の増援を阻止する事が出来た。
 これでいい。残りは殲滅戦だ。
 一部残っていたとしても、投石器を使用した森林地帯を燃やし尽くす二回目の投擲で全滅する。
 これからは自軍も含めて、撤退も同時に行う。
「いい?よく聞いて!負傷した人を先頭にして麓に下りなさい。まだ、戦える人は護衛に付きなさい!」
各部隊長は私の声に返事を返して、徹底を始める。
 私達は最も最後尾から最前列へ。私が連れていた伝令兵は別に護衛を依頼して先に麓に向かう事になった。
 クロウは私に視線を向ける。
 私はそれに対して小さく頷いた。
 やがて、少しずつ麓へと下がりつつ襲い掛かる残党達を討伐する。
「いいから先へ!……くっ!」
クロスボウの矢をバスタードの面で弾く。
 そうやって、攻防を繰り返していくうちに
 轟々と燃える火の壁に照らされている私達。それ以上に夕日は私達を赤く染める。
 時期に日暮れになる。
 私達も森を抜けなければならない。
「クロウ?そろそろ私達も逃げないと」
逃げなければ、この森の中で大きな火球に撃たれながら死を迎えることになってしまう。
 私が声を掛けて視線を送ると腰を深く落として鞘に刀を納めていたが、いつでも抜けるようにしていた。
 近づくと赤く燃えている炎の壁を見て、獣の目つきで睨んでいる。
「お嬢、武器を構えておいた方がいい。恐らくはとんでもない怪物がくる」
クロウが見つめる先へと視線を向けると、ハルバードを肩に掛けてから漆黒の鎧に身を包み、その上から剣を持った虎の紋章が施された旗をマントの様に羽織っている。
「やれやれ、まさかこんな風になるとは思ってもいなかった。おかげで俺の騎士団は全滅だ」
兜を外してから軽く首をまわす。その場に兜を転がして。
 下に隠れていた顔は坊主頭に白い無精髭が生えている。
 それに顔は歴戦の戦士の表情をしていた。目つきはまるで獅子の様な目つきをしている。
 獣を狩る目だ。
 この目つきは何度も見たことがある。
 とっさにこの男に向けて剣先を向けた。
「さてと、俺の相手をしてもらうか?……その青いバスタードはイエルハート家の者か?これはいい」
私の方を見るとケタケタと笑って厚手のガントレットで覆われている手で頭を撫でていた。
「ロイ・ライト・イエルハートには手を焼いた。あの魔人との戦いは今でも鮮明に覚えている」
まさか、父上の名前が出てくるとは思わなった。
 父上と互角の戦いを行っていたとなると確実に私達よりも実力は上だ。
 笑い声が治まると、ハルバードを私達に剣先を向ける。
 クロウが握っていた柄を強く握る。私も強く柄を握りしめた。
「お嬢。こいつを逃しておくと、撤退中の部隊は全滅しちまう」
「そうみたいね。父上と渡り合ったって事はわかるでしょ?」
クロウが頷く。剣術の指南として父上と何度も手合わせをしているからだ。
 何度も挑んだが、ほとんど負けたところしか見たことはない。
「さてといいか?若造ども。このバンディットの手柄になってもらうぞ!」
突進してから振りかざしたハルバードの斧を剣で受ける。
 剣から伝わる衝撃が肉と骨を震わせる。
 とても重い攻撃。それと同時に、クロウは鞘から刀を放って鎖骨へと刃を振り下ろした。
 しかし、その致命傷を与える攻撃は手首を覆っているガントレットによって攻撃を止められている。
 私が攻撃を受けた時に、ハルバードから片手を放して咄嗟に攻撃を防いでいた。
「チッ、しぶといおっさんは嫌われるぞ」
クロウが暴言を口から吐き出すと私達は距離を取る。
 今度は鞘へと納めずに両手で柄を握り、剣先を地面の方へと降ろした。
 私は握りしめたバスタードの先を再びバンディットの方へと向ける。
「知った事か。しかし、素晴らしい攻撃だった。それに良き連携だな」
ハルバードの石附を地面にむけて、軽く落とした。
「名を名乗れ。二人ともだ」
「イエルハート家、当主代理。フィオラ・ライト・イエルハート」
クロウは私を目だけを見ると大きく目を開いた。
「俺はクロウだ。イエルハート家当主代理の騎士」
バンディットは再び笑い出す。そして、その力を私達へと向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...