異世界はどこまでも自由で

メルティック

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蒼天の小竜村(現在、書き直し作業中)

0-1.俺達は自由気ままな冒険者《済》

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 どれ程の間馬車に揺られただろうか。既に向かいの席で寝そべるツレと話すこともなくなっていて、馬の蹄や馬車の車輪が小石を蹴飛ばす音を聞くばかりだ。
 手綱を握ったアイツだって、きっとこの深い森の中の変わらぬ光景に退屈していることだろう。森を抜けたら合図をしろ、そう言ったのは今日のうちだったはずなのに、もはや数日前の事に感じてくる。
 ――だが、嫌ではない。

 がたりと一際大きく馬車が揺れ、次いで鉄のぶつかり合うがちゃがちゃした煩わしい音が耳の中に入ってくる。向かいのツレの脱ぎ散らかした鉄鎧や剣鞘が、今の揺れで喧嘩を起こしたようだ。

 「おーい!」と軽快な声が御者台から飛んでくる。いよいよ森を抜けそうか、そう期待して次を待ったのだが――

「そろそろ陽が落ちるぞ、飯にするか?」

 どうやら俺は今日森の中で一日を過ごしたようで、おまけにこのまま深い森の中で一日を終えなければならないようだ。
 寝かせた身体を起こしたツレは、一転して真剣な顔つきになる。

「タジ、とか言ったか。どうやら今日は特別豪勢らしいからな、腹一杯食っておこう」

「……あぁ」

 ツレはどうやら俺の名前を覚えてくれていたらしいが、俺はもう忘れてしまった。

 ――さて、ギルドによると今回のクエスト、依頼主から中々豪勢な料理を支給されたらしい。そして今、その料理の詰まった木箱は俺の足掛けになっている。
 依頼主はよっぽど料理が好きなのか、それともはたまた……等といったような事はまったく考えず、ただありがたいと感謝するだけに留めておいている。

「随分とご機嫌取りが上手い奴のようだな、飯に目がない我々にとっては非常に都合の良い……フフフ」

「ちょっと静かにしててくれ、今何か……」

 ツレの話を止め、俺は咄嗟に木箱に耳を当てた。
 ぽちゃぽちゃと液体の揺れる音が、確かに箱の中で反響している。

「この音は、酒まで入ってるようだぞ」

「ほう? まるで最後の晩餐だな、こんな僻地にあんな報酬と、豪勢な料理とは」

 ツレの口角が自然と上がっていた。冒険者の性は、きっとこれから起こるを楽しみにしているのだろう。

「えっと、こんなクエストを望んで受けたのはどこのどいつ達だったかな?」

 奮い立つツレを更に昂ぶらせようとかけた言葉が――

「そりゃあー、勿論俺だ!」

 御者台の男の心を刺激し、

「そして、俺もだ!」

 向かいのツレの心に響き、

「あと……俺、だったな」

 俺の心を共鳴させた。

 ――間髪入れずに御者台から祈りの言葉がやってくる。

「今日も素敵な戦友と巡り会えた事に感謝いたします我らがエプリオ神よ、未知なる世界への神秘にどうか見えさせ給え! 我が大陸、そして好奇の探求の安寧を祈ります……」

 最後の節を、共に叫ぶ。

「我らが旅路に、光あれ!」

 この世界ではお決まりの掛け合い。気分が高揚した時、士気を鼓舞する際によく使われる祈りの言葉。そして――死地に赴く戦士達には、特に。

 馬車は緩やかに止まっていき、俺達は道ともいえぬでこぼこな地面に飛び出した。
 火事の危険など顧みず、松明の明かりの中で騒ぎ始める。
 乱雑に置いた小奇麗な料理を食い散らかし、飲めや歌えやの大騒ぎだった。
 酔いに酔いしれ、これ以上飲めぬとへたったツレをなんとか馬車に連れ込んでから、夢見心地のままずぶずぶと夢の世界に沈み込んでいった。



 ――気付けば馬車は走り出していた。何とかだるい身体を起こし、席へと持ち上げどさっと下ろす。

 空から、大きな唸り声だ。

「これはドラゴンだな……それも小さいとみた」

 向かいのツレが小さく呟く。どうやら昨日の酔いは既に抜けきっているようだ、目が爛々としている。

「あぁ……じゃあつまりはここって事か」

「あぁ、これが目印と言っていたな」

 一気に頭が冴えてきた。その声が響いているってことは、既に森を抜けているのだろう。

 少し経つと、ツレはついに乱雑に置いた重そうな鉄鎧を着込み始める。バケツのような兜まで被り終えるのを見届けると同時に、御者台から抜けた声が聞こえてきた。

「お二人さん着きますぜ。ここが小竜村だ」

 席を兼ねた荷台を飛び出すと、幻想的な光景が目に映る。
 赤土色の谷に透けた空、そこに黄土色の竜の虹がかけられていた。
 幾重にも重なって響いてくる翼の音、そして鼻に入る清涼な空気が心地よい。

「あんたらがギルドのもんかい?」

 僅かに高い芯の通った声。魔女を想起させるようなそれを発したのは、馬車の近くにいた腰の曲がった老婆だった。

「貴女がミリーさんですね、件の竜はどちらに?」

 御者が老婆と話し込んでいる最中、俺は興奮するツレと共に低空を舞う子竜の数々を見回す。

「うおぉぅっ、うぉぉっ! 竜で一杯だ、辺りが竜で一杯だ! タジとやら、後で共に竜に乗ろうぞ!」

 興味がないわけではないし、寧ろ興味津々だ。というより、このために今回のクエストを受けた。
 ――快く頷く。

「おう、気持ちだけでもドラゴンライダーってもんを体験できる機会なんて滅多にないしな」

「それでは、そちらのお世話はお任せください!」

 御者の気張った声が翼音に負けず響く。

「にしても運が良いねぇあんたたち、このクエストは相当人気だったろうに」

「へへっ、落選してしまった大勢の分も、楽しまなければいけませんねぇ」

 様々な雑音で掠れ消えかけた声、振り向くと見えた老婆と御者の背中は激しく揺れていた。



~~~ ~~~ ~~~~~~~



 ――この世界の冒険者の大多数は、俺の元いた世界で言うニートと殆ど同じ思考をしている。

 自由気ままに生きて、楽なクエストをギルドで受けて生計を立てる。依頼を途中で破棄するのも完遂するのも自由。それをギルドが黙認しているわけだし、そういう輩が多出するのも当然だろう。

 依頼は本当に切羽詰まったような頼みごとから、馬鹿げたものまでいくらでもある――流石に状況の不味いクエストの途中放棄は許されていないらしく、ギルド側も慎重に受注者を選んでるらしいが――。

 その中でも特に人気なのが旅クエというやつだ。依頼自体はとても簡単だが、報酬はあまり良くなく基本的にその道程は長い。
 しかし、その到達先というのが一度は行ってみたいような観光地だったり、サナトリウムでも建てられそうなくらい空気の澄んだ素敵な場所だったりする。おまけに目的地までの過程分、絶対と言っていいほど料理がついてくる。
 つまり、お遊び感覚で旅行に行くためだけに受けることだってできるのだ。

 今回俺たちが受けたクエスト、その目的地である小竜村はドラゴンライド体験で有名な子竜の育成地。某森の奥地を越えた所という場所が場所なだけあって、道中落石の危険もあり、ギルドの指示無しでは行くことすら難しかったりもするためか幻の観光地とも言われている。
 このような旅クエには抽選式と即決式があり、今回のクエストは抽選式。俺を含めた三人が運良く当選、今に至る。

 ――そう、俺達は自由気ままな冒険者。何をしても良い、正義なら正義、悪なら悪を振る舞えば良いのだ。
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