異世界はどこまでも自由で

メルティック

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ヴィルハント平原(現在、書き直し作業中)

1-7.全て引きつけた物ならば

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 ――やはり、薄い。俺たちの色は至って普通なのだが、やはりこの世界は全体的に色褪せているようだ。まるで絵本の中に閉じ込められたかのような、そんな錯覚すら覚えてしまう。
 そのまま違和感はずるずると引きずられていくが、他の二人はどのように感じているのだろうか。

「な、なぁ……」
「はい、なんですか?」

 山中が俺の言葉に反応して、顔をこちらへと向ける。
 それにしても、昨日今日で随分と馬の扶助が上手くなったもんだ、やはり彼には将来性がある。

「なんか、薄くね?」
「……薄いって、何がですか?」
「へ? あ、いや……なんか、世界全体が、色が消えてるっていうか、そんな感じの――」

「へぇ、君には薄く見えてるんだ」

 ヨトが横から会話に入ってきて、予想外の言葉を投げてきた。

「え、どういう事?」
「なんだろうね、私は寧ろ濃く、というよりは見えるんだ。ちょっと陽が落ちたのかなって思ったけど、君の話聞く限り違うみたいだね」

 この世界の褪せを見れば、彼女の言っている事は分かる。
 山中はどうやらどういう意味か分かっていないらしい……彼には普通に見えて、俺達には異常に見えている。俺とヨト、そして山中の違いというのは――この異世界での生活日数、というのがまず挙がるだろうか。
 彼女がどうかは分からないが、少なくとも俺は山中よりも生きている、つまりこの異世界での体験が多くなればなるほどここでの色が濃くなる、とかそういうわけではないみたいだ。ならば一体何に起因しているのだろうか。
 とりあえずは疑問を頭の片隅にしまいこんで、また何かこの世界での情報を得た時に思索にふけよう。

 ――ヨトが、刀を抜いた。相変わらずその刀は、僅かに黒紫の炎を帯びている。

「……ねぇ、今度は私から、いい?」
「う、うん、どうした?」

 突然ヨトが真剣な口調で聞いてくるので、少し驚いてしまった。何か気付いたなら早く言って欲しい、特に敵とか、そういう情報なら特に――

「――そこにいる、黒い化物は見えない?」
「へ? 黒い――」
「そっか見えないんだね、ならいいよ」

 ヨトが空中に向かって刀を振ると、ゆがんだ空気が刃となってこちらまで飛んでくる。すると、突如目前から黒い飛沫が飛んできた。

「うわっ、何じゃこりゃ!?」

 その飛沫は身体中を覆って、俺の服や肌にじっとりとまとわりついた。肌の上でうぞうぞとし、まるで身体のなかに浸透していくような感じがして――

「きっもちわりぃ! うわっ、何だよこれ!」

 必死になって肌や服をはたく、若干こびりつくが取れないものでもなく、取れた跡は綺麗スッキリしている。

「ちょっと、ヨトさんやめてくださいよ!」

 どうやら山中にも飛沫がかかったようで、彼もこの気持ち悪いものの除去に悪戦苦闘しているようだ。

「ごめんね、でも見えてないけどこの血は飛んでる、ってことはこいつは本当にそこにいるって事でいいんだね?」

 どうやら彼女にしか見えない透明人間のような敵がいるらしく、ヨトしか認知できないのなら俺らはただ彼女の活躍を祈るしかない。
 ヨトは一つ舌なめずりをした後、深く短い祈りを捧げた。途端にシンキが興奮していくのが分かる、恐らくはまた、あの舞踏を始めるつもりなのだろう。

 ――刹那、上からシャワーのように黒い血飛沫が降り注いできた。

「ちょちょちょっ、何が起きてんだよこれっ!」
「わっ、分かりませんけど、ヨトさんが頑張ってるんですよ!」

 せめて被害を最小限にとどめようと、背負った盾を片手に、上へと伸ばして傘の代わりとして使った。
 上を見ると、後ろから降り注いでくる飛沫――振り向けば、空中に浮いているヨトがいた。いや、正確に言えば何かに乗っかっているヨト。
 彼女は一心不乱に片手で何かを掴みながら、刀を突き刺しては抜き、突き刺しては抜きを繰り返している。そこからは黒い飛沫と同時に紫の火花が飛び散り、謎の生物の体液を燃しているようだった。
シンキに至っては、何もない空間に向かって何度も何度もタックルを繰り出している――彼女らには一体何が見えているのだろうか。ただ一つ、彼女の位置を見てみれば、それが非常にでかい怪物であることが分かる。

 いつしか俺は馬を止めていて、彼女の方を向いていた。このまま彼女を置いておけば、恐らく俺達はその見えぬ何かに狩られるのであろう。
 山中だって気持ちは同じらしい、俺の馬の近くに寄り、彼女の動向をうかがっている。

 ヨトは、最後に一つ刀を横にして、首を掻っ切るような動作で一気にそれを引いた。
 黒い血飛沫は辺りを覆い、既に草地が黒い泥の湿地と化していた。

「ちょっ、そんなところにいないでよ! もっと遠くに離れて遠――」

 そう叫びながら俺達の方を見たヨトの顔が、一気に青ざめていった。

「走れ! 私は後で追いつくから、全力で走ってさっさと行け! 私達は後で追いつくから、前だけ見て走ってろ!」

 部分部分が金切声と化していて、その表情は、焦燥、恐怖、絶望で満ちていた。
 俺達はただそれを聞いた後、何も言わずに前を向き直し、無言のまま馬を走らせた。それも全力で、彼女のリクエスト通りにただ前だけを向いて、ひたすらに走っていった。

「山中、ついてきてるか?」
「ちょっと早いけど、だ、大丈夫です!」

 非常に速く馬を走らせているので、山中がついてこれているか不安だったがまずは一安心だ。俺は振り向いて彼の姿を急いで探り、横並びになった後に盾を手渡す。

「これ、使え」
「えっ、それタジさんの……」
「俺は槍がある。直剣だけじゃ心もとないだろ?」
「――あ、ありがとうございます」

 山中はあまり躊躇わず素直に盾を受け取ってくれた。そのまま付かず離れずの距離で槍を手にし、短く祈りを捧げる。
 ヨトの風技で思い出したが、こんなものもあったっけか。滅多に使わないが風棘という負担の軽い槍技があり、それならば当てずっぽうでダメージを与えられるかもしれないと考えた。
 ――生温かいものに包み込まれるのを感じた後、目を開いて、槍を投げるような要領で……突く!
 鋭い風が風棘となって空中を飛ぶ。そのまま辺りを手当たり次第突き、二つ三つと風棘を飛ばしていった。
 その一つが何かに突き刺さり、飛沫が散る。山中の近くだ。
 彼はそれに気付くと急いで俺の手渡した盾を構える。何かが盾の上にのしかかってきたような苦しそうな姿勢になったため、急いで更に二つの風棘を飛ばした。
 盾の上のそれが軽くなったようで、山中はそれを押し返すと更に馬を速く走らせた。

「なっ、何かに潰されそうになりました! タジさんの方も気をつけてください!」
「おう、こりゃ何かいるっていうのが確定だな」

 ヨトがいないまま、一人でこのクエストを受けていたら俺はどうなっていたのだろうか――そもそも、この空間に入れたどうかすら疑わしく、そうなったらもう面倒くさくなって破棄していただろう。
 ――色褪せた世界に、少しずつだが色がついてきているように感じる。馬を走らせていくうちに、鮮明に、色づいていって……



 ――後ろを見ると、赤く大きな瞳がこちらをじっと見ていた。



「うわっ!?」
「どうしたんですかタジさ――ヒッ」

 どす黒い一つ目の巨人が、四つん這いになりながら俺達を捕らえようと手を伸ばしている。ぐりぐりとしたおぼつかない瞳がこちらを見据え、イボだらけの指で俺達の身体を摘もうとしている。
 しかし世界が色づいたその境目に壁があるらしく、その壁に阻まれて向こうから先には入れないようだった。

「……」

 馬から降りて、巨人を見つめる。
 先程のヨトにはこの巨人が見えていたのだろう。確かに人の形をしているが、全く出来損ないだ。この黒い物体を継ぎ接ぎして、なんとか人の形を保っているような物体。ここから先に来れないのなら、俺は全くこの異物を恐れる理由がない――こっち側にいる限り。

 その巨人の目に槍を突き入れると、黒い飛沫だけはこちらに飛んでくる。先程のヨトの行動の意味が分かった、こいつのまぶたと思しき場所を掴んで、一生懸命突き刺していたんだろうか。
 ――にしても、驚くほど反応が無い。目玉を思いっきり突いたのに、呻き一つ、身動ぎ一つしない。ただただこちらを摘もうと必死になっている。

「タ、タジさん、ちょっとかわいそうじゃないですか?」

 すこし尻込み気味で俺の後ろについていた山中がそう言ってくるが、何故かわいそうだと思えるのかが分からない。
 そのまま目玉の中で槍を動かすと、ぶちぶちと目玉の筋繊維のような黒物質が千切れていく音が聞こえてくる。目玉を蹴って槍を引っこ抜き、考える。

「見ろ、全く痛みを感じていないんだぞこいつは。山中くんだったら、どう殺す?」
「えっ、どうって……首を、掻き切る?」
「できれば良いんだけどねぇ」

 ヨトの最後に行っていた行動、あれがヒントになるだろうか。とりあえずは真似をしようと思い槍で何度も目玉を突いてみるが何も変わらない。

「ちょ、ちょっと、飛び散るのでもうやめましょうよ! こいつがこっちに来ないなら、もういいじゃないですか!」

 ビクビクと後ろで盾を構えながら中山が一言、これ以上やっても何も変わらないだろうしもう相手にする必要もないだろう。問題は――

「ヨトは?」
「えっと、こ、こいつが邪魔で見えないですね……」

 どんなに目玉を突かれようと、ただただこっちを摘もうとしてくる。横に動くと這いずってきてまたこちらを摘もうとしてくる。

「ヒィッ! あぁ、もっ、もう……タジさん、こんなの殺しちゃってくださいよ!」

 よほど心臓を冷やされたようだ、山中は冷や汗をたっぷりかいてそうな声で訴えてきた。
 これでは埒が明かないが、馬に乗れば回避できるのは分かっている。見えない壁の向こうに行ってしまわないように気をつけながら、俺は馬に乗って向こうの様子を伺った――

 ――巨人が一斉に、一箇所に群がっていた。恐らくはその中央にヨトがいて――

「っ!? あの馬鹿っ! おい山中、盾を返せ!」
「ちょっ、ちょっと待っててください! ヨトさんは、ヨトさんはどうなっ――ちょっ、なんですかあれは、まずいですよ! どうするんですかタジさん!」

 俺が叫ぶと、山中は急いで馬に乗りこちらへ向かってきた、途中であの惨状を見たらしく、盾を渡す手が大きく震えている。

「盾ありがとう、さーて……山中、ちょっとここで待っててくれ。もし帰ってこなかったら、そのまま先に進んでてくれないか」

 山中は不安げな顔で俺を見るが、それ以上何も言ってやれなかった。そのまま彼を無視して、巨人の数を見る。
 群がっているところはすぐに分かる、周辺には一、二匹うろついてる奴がいるだけだ。
 それだけで十分だ、ここから見ていれば思っていたより奴らの動きは鈍重、ヨトならどうにかできているんじゃないか。
 俺はただそこに向かって、馬を走らせた。

「タジさっ――」
「大丈夫だって、絶対帰ってくるからな!」

 ――やはり色褪せる、どんどん色が薄くなっていって、巨人たちの姿はすぐに見えなくなった。ヨトの姿があるなら、見えるはずだが……

「……ッ!!」

 誰も、自分を犠牲にしろだなんて言ってない。ただ彼女は、見えない俺達のために誘導をしたのかもしれない。しかし、俺達を逃がす為に自分への意識を疎かにしろ、とかそんな事は誰も望んじゃいない。
 ヨトの身体は宙に浮いていた。横たわり、浮かんで、まるで泥人形のような状態だった。彼女の刀はその傍らに刺さったまま、同じく浮いている。
 ――そして、その足元にいるシンキだけが必死に動き回っていた。巨人の攻撃を避けているのだろう、彼らの集中攻撃を避けながら主人を救う機会を伺っているのだろうか。

「ははっ……」

 乾いた笑いが漏れた。
 ――いつの間にかシンキの姿が大きく見えていて、すでに巨人の足元にいることを悟る。

「痛みも感じてないならよ……こうしてもいいってことだろ!」

 俺は、そこいらを手当たり次第槍で突いていき、確かにそこに黒飛沫が飛ぶのを確認した。そのまま周辺を手で掴むと、手応えがある。そこから巨人の身体を思い出し、自分が今どこにいるのかを考えながらその巨体を登っていった。
 するすると登っていき、あっという間にヨトのところにたどり着く――正確に言えば、ヨトが視界の一直線上にいるところに。

「……ったく、そんな心配する必要無いのにさ。でもまぁ助けてくれたっていうなら、それに応えないと」

 盾を構え、巨人の身体に押し付ける。確かにここだ、背中辺りだろうか。そこに突き刺した槍をしっかりと握り、身体から落ちないように身体を支える。
 ――そのまま、深く集中し、イメージの中で一気に駆け抜ける!
 身体が一気に引っ張られるのと同時に、盾がそのまま巨体を貫いていき、一気にヨトの元へ、物量など無視して辿り着くことができた。
 とはいえそれもこの突進の最中、一瞬でその身体を小脇に抱え、そのまま巨人の大群の身体の中を駆け抜けた。
 やめどきが分からず、ただただ集中力の続く限り、突進を続けた。次第に集中力が切れ、俺の身体は少女を抱えたまま宙を落下していく。



 ――彼女の相棒が、宙に舞った俺を見事背中でキャッチしてくれた。

「……ありがとう、シンキ」

 シンキはそのまま速く走り始め、巨人から遠ざけようとしてくれているようだ。
 その間に、小脇に抱えた彼女を前に下ろしてから、槍を背負ってその上に盾を重ねる。
 泥人形のようになったヨトの顔にこびりついた血を落とすと、すぐに咳き込み意識を戻した。

「けほっ、けほっ!……んえ? あれ、なんで?」
「思い出せないか?」
「あー、捕まっちゃったんだ、でもなんで?」
「ん、なんでって?」
「いや、なんで戻ってきたんだって!」
「助けるために決まってんだろ!」

 助けられた彼女は、何故か納得がいかないようだった。そのまま前を向き直すと、身体中の血をはたき落としてから馬の扶助を始めた。

「良く分かんないけどありがとう、でもどうやって助けたのさ」
「あるところを境目にしてだな、巨人共が見えるようになったんだ」
「ふーん、今は?」
「見えないよ」
「不思議だねぇ、まぁいいや君はシンキちゃんに乗っててよ、私は君の馬に乗って帰るから」
「えっちょっとどういうこと?」

 ヨトは突然こっちを振り向いて、俺の手を両手で握ると笑顔で一言、

「ありがとうってこと」

 彼女はそのまま馬を飛び降りると、そのまま大地を走っていった。

「ちょっ、何やってんだよ戻ってこいって! また捕まったらどうすんだ!」
「大丈夫大丈夫!」

 やっぱダメだ、彼女を放っておけない! また何か無茶をするつもりだ、大方予想はつく、あの刀を取り戻すんだろう。なら俺のできることっていうのは――

 彼女はするすると巨人の上を登っていく。見えない俺は槍で突いて手探りで登るのが精一杯だったが、見えたらあそこまで違うのだろうか。にしても身のこなしが軽すぎる、俺には到底あんな動きできないだろう。軽々と山を登っていくかのような動きは、見ていて惚れ惚れするものだ。

 恐らく頭頂部まで辿り着いたのだろう、頭の上から何かを探している。俺はすかさず、彼女に聞こえるよう、必死に大声で叫んだ。

「お前からみて左前だ! 左前のやつに刺さってる!」

 俺なら、彼女の捜し物の位置を一発で見ることができる。俺の言葉が無事届き、彼女はそのまま刀を取ることができたようだ。
 そのまま降りてくる彼女を俺はシンキを動かして迎えようするが、俺の思うとおりには動いてくれなかった。
 巨人を避けているのだろう、俺はそのままシンキを信じてヨトの方へと向かった。それに気付いた彼女は、シンキが脇に近付くとすぐに俺の前に飛び乗る。

「どうも、お陰で大事なものを取り返せたよ、君がパートナーで良かったかな!」
「……おう!」

 ヨトから素直な笑顔を受け取って、俺も素直にそれに応える。そのままシンキが俺の乗っていた馬に近付くと、ヨトはそいつに飛び移った。

「ほいやっ、動け!」

 ヨトは燃えた刀の峰で馬の尻を引っ叩くが、馬は全く動かなかった。

「むっ、何だよこいつ反抗期か!? おいタジ、ちゃんとしつけてよ!」
「えぇ……」

 いつもの調子に戻ったようだ、ヨトは馬の腹をちょいちょい蹴って、普通に走らせていった。シンキはそのまま、馬の横に並んで走り出した。



 ――にしても、シンキは本当に凄い馬だ。ここまで調教されている馬というのも見たことがない、というより人並みの自我を持っているといっても過言ではない。

「それで、ちょっと詳しく聞かせてくれないかな? 巨人が見えた経緯っていうの?」
「あぁ、そうだな……」

 俺は山中と一緒に見たものを、全てヨトに話した。

「へぇ……っていうと、あそこでなんか一人だけ犬の真似してるのが、例のそいつってわけだ」
「そうそう、あそこを堺に壁があって、その向こうで山中くんが待ってくれている」

 山中は、彼の馬と一緒に確かに向こうで待ってくれている。さっさと壁の向こうにいって、さっさと桜を探しに行こう。



「タっ、タジさんに……ヨトさん、大丈夫でしたか!?」
「あいよー、おかげ様でばっちり快調だよ!」
「ほらっ、世界の色もここで戻るでしょ?」
「そうだね、あんな気持ち悪い世界もう二度と見たくないなぁ、明るいだけでこの化物共も大分印象が変わるねぇ」

 見えない壁の向こうで遂に三人集まり、再会を喜んだ。
 ヨトは後ろの巨人を見てしみじみとしているようだ、そうだった、ここからならあいつらが――

「――ひゃあああっ!?」
「どうしたんですかタジさ――きゃあああっ!」

 女の子みたいな叫び声を出してしまった。確かにこっちからならあの巨人共が見れるのだが……



 そこにはまさしく巨人の壁とでもいうべきか、何体もの巨人が集まってこちらを捕まえようと何度も手を伸ばそうとしている姿があった。視界にはいくつもぎょろついた赤い目玉が映り、蠢く赤い目目連のようだ。
 こんなのが暗い世界に、赤い目玉を光らせて何匹も何匹もやってくる様を想像すると、確かにこれ以上怖いものなんて無い。情けない話だが見えなくて良かったかもしれない。

「あははっ、なんで乙女よりも乙女っぽい反応してるんだろうね!」

 ――その光景を目撃していた当の本人は俺達を茶化す程には余裕のようだ、もう彼女には頭が上がらない。

「じゃあ行こっか、さっさと桜探すよ!」

 俺達は馬をもとに戻して、そのまま巨人達から離れるように、桜を探しに緑の草原を駆けていった。
 ――後ろを見ると、巨人の壁がどんどん小さくなっていく。ここで巨人が見えている人間と見えていない人間の違いというのが一つ分かる。
 見えている人間は非常に巨人を引きつけやすいということだ、言うまでもないが。ヨトに群がったのも、ヨトがきてから大量の巨人がへばりついたのも、彼女に引き寄せられたんだろう。
 となれば、やはり自然と彼女の持つあの刀が気になってくる。思えばこの世界、このクエストじゃほとんどヨトが主役だ。ヨトにしか開けない世界をひらき、更にはこの世界にはヨトにしか見えない敵がいた――見えない壁を越えるまでは――。

 ……この世界に、ヨトあるいは彼女の持つ刀が深く関わっている事は間違いない。そしてヨトがサイカを手に入れるクエストで得た情報、ヴィルムの双英雄タジャとナッキ、そして彼らが打ち倒した闇の大王。空間の歪の中にいた巨人の黒い血と、サイカの纏った黒紫の炎に、依頼文を燃やした炎、そしてこの世界へと導いた黒い液体の滴る炎、そして彼女だけに見える世界――思い返せば明らかだ。これら全ての事象は、全て一つのワードに関連付ける事ができる……



”闇”



 ……もしかしたら俺達は、これから意図せず大きな物語の幕引きをすることになるのかもしれない。

 ――波の音が聞こえてきた。静かで心地よい、海の音が聞こえてくる。そのまま、二つの岩山に挟まれた道を進み続けると広い場所に出た。



 その向こうには海が見えた。
 小さく起伏した草原の最果てには、一本の桜が咲き誇っている。
 その前で一人、薄灰色のローブを羽織った老人が佇んでいた。
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