異世界はどこまでも自由で

メルティック

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ホロトコ村

2-5.毒の混じった話し合い

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「んっ……あれ、ここどこ?」

 激しい頭痛と共に目を覚ました少女は咄嗟に辺りを見回した、しかし視界はぼやけにぼやけて何も見えないのと違いがない。

「あ、姉ちゃー起きた」
「醒めたか?」

 聞き慣れた声と聞き覚えのある声、冷静に状況を分析する。ここに自分が倒れていて、妹のミューゼの声、そしてもう一つ、男の旅人の声が聞こえた。
 徐々に視界がはっきりしてきて、綺麗に傷ついた床と刺さりっぱなしの斧が目につく――あぁ、またやってしまったのだろう。そう理解するのに一瞬の時間も要することはなかった。

「あっ……ごめんね、私やっぱり駄目かもしれない」
「そんな事ないよ、姉ちゃーかっこよかった」
「ハッ、色々と笑わせてくれるな。そのかっこいい姉ちゃーに殺されかけたのはどこのどいつだっけか」
「えっ、私――」

 鮮明になっていくのは視界だけでない、彼女の記憶もまた明瞭になってくるのだ。
 侵入者を追いかけることに夢中になっていたシトレア、背負った妹の事など全く気にかけずに走り回ったシトレア、侵入者を見つけ斧を振ったシトレア――そして、後ろから嗅ぎ取った生物のを敵として認識し、そのまま切り返すように斧を振るったシトレア。彼女は彼女自身の感覚、感情、記憶を全て思い出してしまっていた。

「……ミューゼっ! ごめんなさい、本当に私っ、私っ……!」

 目の前にある愛おしい柔肌を両手で包み込むと、目に熱いものがこみ上げてきて、またも視界がぼやけていった。

「むにゅー、ねいひゃー大丈夫大丈夫」

 無気力でとろんとした目をしたまま受け答えするいつもの妹がそこにいる。もしあの時、白い鎧が妹をすぐさま引っ張り上げていなければ文字通りこの子は真っ二つになっていたのだろう。

「じゃあ落ち着いたところでいいか? お前はもうちょっと感傷に浸っていたいんだろうが、俺はさっさとこの気持ち悪い問題を解決してゆっくり休みたいんだ」

 ヴィルシスは姉妹から目を背けるようにあぐらをかきながらそう切り出した。
 その言い方にシトレアの瞳孔が開きかけたが、すぐに高ぶる自分を抑えて落ちつかせた――開きかけたミューゼの口を塞ぎながら。

「――んむー、むえむえむえむえむえむえむえ」
「わひゃっ! くすぐったいよちょっと!」

 塞いだ手のひらが生暖かいものにくすぐられ咄嗟に手を離してしまう。すぐさま離して確認した手のひらには何かぬるぬるしたものがべっちょりついていた。

「もうちょっと言い方を考えろバーカ、間抜け、真犯人」

 すぐさまミューゼの口から壊れた蛇口のように悪口が漏れ出す。
 ヴィルシスは反応すること無くただただ黙っていた。反応する気などとうに失せている、といったほうが正しいのかもしれない。

「やめてよミューゼ、そんな子じゃないでしょ!?」
「こいつが悪いのが悪いんだもん」
「お姉ちゃんそろそろ怒るよ?」

 まさか自分の妹がそんな筈はないとでも思いたそうな、悲しげでどこか祈るような表情で発した姉を見たミューゼは流石に黙ったようだった。
 少し静寂が続くと、ヴィルシスがようやく口を開ける。

「さっきお前がトチ狂ってぶっ殺そうとした奴は床を貫通して落ちるみてえに消えた。そこの口の悪いやつも見ていたんだから、確かだ」
「えっ?」
「意味わかんねぇと思ってるなら構わねぇよ俺だってよく分かんねぇからな。ただ物凄く面倒だということだけは確かだ」

 そのままヴィルシスが続ける。

「お前のいう山賊がこの村に来ているのは確かだが、人がどんどん居なくなってるっていうんならさっき俺――とそいつが見た事象のが意味合いってのは近いはずだ。何の前触れもなく、確かに人が消えていったよ」
「じゃ、じゃあこの山賊達は人攫いの犯人じゃないってこと?」
「知らね。家に入ってるんだから何かしらしに来てるんだろうけどよ、山賊の事はの方に任せとけばいいだろ。俺はこっちを考える」

 いまいち状況が飲み込めていないのか、シトレアはミューゼの方を見る。
 それに気付いた彼女の妹はただ一つこくりと頷いただけだったが、それだけで何かを確信に変えたようだった。

「じゃあ私も切り替える! その、さっき私が殺そうとしちゃった山賊を消したやつっていうのが真犯人ってことだね?」
「じゃあやっぱりそこの悪いやつが犯人だよ、姉ちゃーはやくこいつのこと殺して」

「はぁー……一つ分かるのは魔術ではないってことだ、だから面倒くせぇんだ」
「ん、魔術じゃないならどういうことなの? まさか本当に床の中に潜ってるとかってわけじゃないよね?」

 シトレアも遂に妹の毒に反応することをやめたようだった。誰にも反応されないのが嫌だったのか、ミューゼはぐいぐい姉の長い髪を引っ張り始めた。

「それは一番あり得ねぇ。魔術じゃねぇってことは、つまり純粋な魔力を使っていないってことだ。回復魔法みてぇなのがそうだな、ただ馬鹿みてぇに炎出したり雷出したりするのとは違うってわけだ」
「馬鹿みたいとはなんだ、お前なんか私のサンダー一発でぶち殺せるんだぞ」

「うるせぇからちょっと黙っててくんねぇか?……馬鹿とは違うってところが厄介だ、しかしまぁ回復魔法だとかいうのならお前だって知ってるものはあるだろう」
「さっきエリシエさんにかけてもらったから分かるよ、今も頭の中でピカピカしてるやつ!」
「そうだろうな、問題なのは意味の分かんねぇ魔力の派生っていうのがごまんとあるって事だ。何仕掛けられるか予想するのが難しくなる物もあるし、下手すりゃ何されたかすら分かんねぇ物もある。どこぞの馬鹿が思いつきの自己流謳ってやってるもんなら少しは有り難いが」
「くどいぞー、自分は何も分かりませんでしたでいいだろ馬ー鹿」

「……そういうことだ、何も分からないしもう一度確認でもしねぇと下手すりゃ何も分からねぇまま終わる。またあんな現場でも目撃しねーと何も分からねぇだろ、ふあーあ」

 一つ大きなあくびをしてから、ヴィルシスはまた話を続ける。

「そんなに長居するつもりはねーからな、ギルドの野郎はともかく俺達が通りすがりの旅人ってこと忘れんなよ。あんなもん見せられたら俺まで消えちまわないか心配で尚更だよ」
「姉ちゃーこいつやっぱり冷酷人間だぁ、人間じゃなかった化け物化け物」

「……俺が本当に化け物になる前にこいつの口を閉ざしとけ」
「じゃあ私達は今何も出来ないってこと?」

 羊頭の男はシトレアの言葉を聞いて黙りこくる。「あーそうだった」というと同時に、漸く彼は彼女らの方を向き直った。
 ――シトレアの髪が先程よりも大分派手に飛んだり跳ねたりしている事にぎょっとする。隣でその髪を弄って遊んでいる少女を見れば、瞬時の理解がため息となってでてきた。

「あいつが落ちる時、床が水にでもなったみてぇに波打ってたよ、手がかりっていうとそれだけかなあー」

 語尾を思いっきり伸ばして話を終える、他にあるなら続けて言おうと考えた彼は先程の状況を振り返って記憶から新たな情報を探ろうとしたが無駄だった。

「――ねぇミューゼ、一緒に探検した時のこと覚えてる?」
「母ちゃーに怒られたやつ」

 妹のその言葉を聞くと、シトレアの喉から自然と、微かに震えた声が漏れ出た。

「……そう、あの時。おっきな花畑の向こうにある変な建物に入ったよね」

 ――ヴィルシスが咄嗟に振り向き、それにつられて、話をしていた彼女らもまた彼と同じ方向を見つめる。

「あぁいやすまん続けろ」
「う、うんっ、それだけ何だけど」
「それで建物がどうしたんだ?」
「中に水が張っててね、ミューゼと一緒にいっぱい水遊びしてたんだ。真っ暗で怖くてドキドキしたけど、それが逆に私達には楽しくってさ」
「母ちゃー怒ってた」
「そうそう、川で遊んだって誤魔化したんだけどね」

 二人は思い出話で顔を綻ばせていたが、ヴィルシスは首を傾げていた。

「で、そこでお前が水掛けあったのが何か関係あるのか? 水ってだけで思い出したのか?」
「えっとね、そこの水がね、何もないのにゆらゆらしたりしなかったりして、それを二人で見るのも楽しかったの」
「波みたいなものか?」
「ううん、そんなに激しくはないけど私達が入る前からゆらゆらしてて面白かったの、ねー」
「ねー……べー」

 二人で顔を合わせて微笑んだかと思えば、白髪の子がヴィルシスの方を見て目の下指を当てて真っ赤な舌を出す。

「お前は俺を貶さないと死ぬのか?……そうだな、どうせなら行ってみねぇか」
「えっ、でもそれじゃ村を離れる事になっちゃって――」
「村の警護ったって突然どっからか魔法しかけてくるなら意味ねぇだろ、行くぞ」
「でも、山賊が――」
「物とか人とか盗られてんならの方に任せときゃどうとでもなるだろ」
「でももし皆が帰ってきた時に私達がいなかったら――」
「でもでもうるせぇな、ちゃっちゃと行ってちゃっちゃと帰ってくればいいだろ、何もなければそれでいいだろ」

 シトレアの懸念を気にかけないようなヴィルシスの態度に、ミューゼが突然怒って口を挟む。

「それならお前が一人で行けばいいだろー! お前こそだろだろうるさいんだろー!」
「あぁこいつと一緒に行くって思うと嫌だな確かにな、じゃあが戻ってくるまで待つか」

 呆れたヴィルシスがそう言うと、彼らはそのまま家を出て村の警護を続けた。
 それからは特に侵入者が見つかるわけでもなく、人っ子一人見当たらないような村を歩き回るだけで時間だけが無駄に過ぎていき、それにつれ度重なっていくミューゼの暴言でヴィルシスのストレスも無駄に積もっていった。



~~~ ~~~ ~~~~~~~



「どうです、すぐに見つかったでしょう!」
「やばいっすねこの魔法、さっきエリシエさんがやり過ぎって言ったのも分かりますよ」

 山頂についてから山の周りを、徐々に下山するようにぐるぐる走り回っていたところすぐにそれらしきところが見つかってしまった。
 どんな角度になっていようともお構い無しで、重力の向きでも変わったかのように足をつけて走ることができたのでもはやスタミナを回復するとかそういうレベルじゃない気がする。

「僕、こんなに気持ちよく走れたのって初めてな気がします!」

 山中くんが目を輝かせながらそう言ってました。俺もそうですよ、というか元いた世界でこんな体験した人はいないでしょう。

 大きな岩にぽっかり四角い穴が空いたような入り口は、どこか古い遺跡めいた雰囲気を醸し出している。
 早速その中に入ろうとすると、中から何やら声が聞こえた。

「おいそこのガキ共何か用か、用がねぇってんなら――普段だったら首でも切り落とすところだが、用があっても無くても構わねぇ、とりあえず中に入ってこい」

 暗い中から響いてくる野太い男の話は、俺が想定していたのとは真逆のものであった。

「じゃあお邪魔しましょう、聞きたいことがあるんです」
「そうかい、手厚いもてなしはできねぇが、それでも長い間生かすことはできると思うぜ」

 男の話に小さな違和感を覚えたが俺達はこの真っ暗な山賊の拠点であろう場所に、お言葉に甘えてお邪魔した。
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