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8話 2度目
しおりを挟む「・・・・・・・・・嘘だろ・・・」
またどこかに飛ばされた。
俺の目の前にはシンシアとシンシアの従者のキースが立っている。
また一緒に飛ばされたのか・・・・・・
「本当に、一瞬で別の場所に移動しましたね 」
「え? 」
俺の後ろから声がして振り向くと、そこにはジュナが目をぱちくりさせて立っていた。
「お前も飛ばされたのか?! 」
「どうやらそのようですね 」
ジュナは落ち着いて答えながら辺りを見回す。
「何処かの街道のようですね 」
そう言われて俺も辺りを見回す。
確かに、今回は森の中ではない。ちゃんと整備された道がある。
「とりあえず、早急な危険はなさそうですね 」
キースも辺りを確認してシンシアに状況を報告する。
でもまた何処にいるのか分からないから、どっちへ行けばいいのかも分からない。
「どっちに行く? 」
「そうですね、少しお待ちを 」
ジュナはそう言うと短く詠唱して魔術で体を浮かせた。そして街道沿いの木々より高く飛び上がる。
つくづく、ジュナの風の魔術は羨ましい。
魔力をかなり消費するからそんなに飛べないみたいだけど、鳥のように空を飛べるなんて俺からしたらめちゃくちゃ羨ましい。
「あちらの方角に街が見えます。こっちはまだずっと道が続いていますので、とりあえず街をめざしましょう 」
ジュナは降りてくると方角を指し示す。
「ここから1時間ほど歩けば街に出れるでしょう、そこでここが何処なのか改めて確認しましょう 」
「分かった。シンシア、歩ける? 」
「はい、大丈夫ですわ 」
シンシアはコクリと頷く。
こんな立て続けに知らない場所に飛ばされて、俺たちよりもっと不安だろうに、そんな素振りは少しも見せないで、にっこり笑ってみせる。
やっぱり聖女様ともてはやされるだけあるな。
そんなことを思いながら街をめざして歩き始めた。
しばらく歩いた所で荷車が後ろからやって来た。
「あんれ、貴族様がこんな所で何してなさるんだ? 」
荷車の男は俺たちを見ると馬を止めて話しかけて来た。
「足を無くしてしまいまして、街まで向かっていたところです 」
ジュナが社交的な笑顔を浮かべて対応する。
荷車の男に言われて気が付いた。俺たちの服装は目立つみたいだ。
「出来ればその荷車に彼女だけでも載せていただけないでしょうか? 」
「ああ、いいだよ、狭いけど4人みんな乗れるだろう、もうすぐ街だ、そこまで送っていきますだよ 」
「有り難い、助かります 」
ジュナのお陰で俺達は荷車に乗ることが出来た。
誰かも分からない俺達を怪しむこと無く載せてくれるなんて、いい人に出会えて良かった。
「すみません、あの町は何という名前でしたか? 」
ジュナが荷車の後ろで野菜たちと一緒に揺られながら御者の男に問いかける。
「チェスコだよ、なんだ、あんたたちこの辺の貴族じゃないのかい? 」
不思議そうに俺たちを見る男に、ジュナはまた微笑んで返す。
「ええ、旅の途中なのです 」
「そうですかい、それで足が無くなったのなら一大事だしたな 」
「ええ、でもこうして貴方に会えて助かりました 」
「いや、いいだよ、こんな綺麗な人達を載せたなんて一生の自慢に出来まさぁ 」
そう言われてシンシアを見る。どう見ても町娘には見えない。何処かのお嬢様だよな・・・
「ジュナ、チェスコって何処だ? 」
俺はこっそりジュナに問いかける。
俺の国にそんな名前の街あったっけ?
「チェスコは我が国の南側に隣接するマドール共和国の西の都に近い町です 」
「え? 外国に飛ばされたのか? 」
「どうやらそのようですね、ここではあまり身分を明かさない方が良いでしょう 」
ジュナがこっそりと俺達に言う。
「何で? 」
「国内ならまだしも、ここは貴方様が王子である事は伏せておいた方が面倒も危険もないと思います 」
「面倒? 危険? 」
ジュナは遠回しに言うけど、もう少しはっきり言って欲しい。
「例えば、何故隣国の王子が馬も馬車も連れずこんな所にいるのか? 何かあったのだろうか? と勘ぐられたり、下手すれば誘拐、暗殺に巻き込まれかねません。政治的な話にもなり得ます。シンシア様もいらっしゃることですし、出来るだけ危険は回避した方がよろしいかと 」
「なるほどね、分かった。でも、俺たちの服装はどう見ても貴族だ、目立つみたいなんだけどどうする? 」
「街に入ったら服を買って着替えましょう 」
俺の問いに答えたのはシンシアだ。
「ああ、シンシアがいいならいいけど、庶民の服を着るのは大丈夫? 」
「全然問題ありませんわ 」
にっこり笑うシンシアに思わず見とれてしまう。
「君は強いね 」
「シンシア様のご提案は私も賛成です。私もそう申し上げようと思っておりましたが・・・ 」
ジュナが少し言い淀む。
「なんだ? 」
「先立つ物がこれしかありません 」
そう言って見せたのは小さな布袋。
「突然の事でしたので、持ち合わせがあまりないのです。申し訳ございません 」
「私も少しならありますよ 」
キースも小さな布袋をとりど出してみせる。
もちろん俺もシンシアもお金を持ち歩く週間なんて無いので無一文だ。
「とりあえず、足りなければ何かを売ってお金に変えるしかないですね、服と食料、馬車か馬は手に入れたいですし 」
「そうだね 」
「それでしたら私のアクセサリーを売ってください 」
そう言ってシンシアは自分の身に付けていたアクセサリーを外して手のひらの上に乗せて差し出す。
「シンシア様、お気遣いありがとうございます。ですが、それは持っていてください。もしも足りなければその時はお願いいたします 」
ジュナはシンシアの手のひらをそっと包み込んで丁寧に断る。
「街の手前で荷車を降りて私が調達に行ってまいります 」
「私も行きましょう 」
ジュナの提案にキースも同伴を申し出る。
「いえ、貴方はお二人の護衛をお願いいたします 」
物腰柔らかなジュナは笑顔ひとつで相手に不快感を与えないっていうのを分かっているのか、自分の武器を最大限に活かせてると思う。
「ああ、そうですね、では護衛お任せ下さい 」
キースも男らしい明るい笑顔で返す。
ジュナはどっちかと言うと女性よりの美しさがあるけど、キースは男過ぎない爽やかな印象だな。
そうして、予定通り、街の外で荷車を降りた俺達はジュナの帰りを木の影に隠れて待つことにした。
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