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31話
しおりを挟むさっき魔術攻撃を受けた左手は感覚が無い。
崖に投げ出された自分の身を守る術は俺にはない。このまま下まで落下するより他ない。
くそっ、こんな所で死ぬのか? シンシアも守ることが出来ず、約立たずのまま・・・・・・
シンシアは俺を守ろうとしてくれたのに、俺は何も出来なかった。
・・・・・・・・・お願いだ、俺にシンシアを、誰かを守る為の力が欲しい!
誰に願うでもなく、俺の気持ちとは裏腹に青く晴れ渡る空に向かって動く右手を伸ばして空を掴んだ。
その瞬間、パンッっと何かがはじける音と共に全身を光が包んだ。
何が起こったのか分からないくらいほんの一瞬の事だったけど、確かに光った。
「・・・・・・何が起こったんだ? 」
その光の後、違和感が身体を襲う。
これは・・・・・・身体の中から沸き起こる力、これは魔力だ。
「・・・・・・嘘だろ? 何で今? 」
もう下まで後わずかの所まで落ちていた。
ここからどうすればいいんだ。
そう思った瞬間、何かが飛んできて俺の身体の下に入った。
その何かは俺を乗せてそのまま上に飛び上がる。
俺を乗せた物をよく見ると、俺は竜の背に乗っていた。
「え? 」
「良かった、ご主人様が落ちてくのが見えてどうしようかと思った 」
俺を乗せた竜が話す声が聞こえる。
よく見ると竜の身体は青い。
「ご主人様? 青い身体・・・・・・まさかルード? 」
「うん、そうだよ 」
「な、お前話せたのか? それに何でこんなにでかくなったんだ?」
俺を乗せて飛ぶルードは親竜ほどではないけど、人間を載せて飛べるほど大きい。
何で突然成長したんだ?
「ご主人様が魔力をくれたからだよ 」
「俺が魔力を? 」
「うん、僕はご主人様に名前を与えられて契約したから、ご主人様の魔力に応じて力を発揮出来るようになったんだ。 ご主人様の魔力美味しくて好き! 」
おいおい、何を言ってるんだ、名前をつけた時に契約した形になったのか? 知らなかった。
それに、俺の血を好むのはもしかして血に魔力が含まれていたからなのだろうか?
考えることはいっぱいあるけど、今はそれどころじゃない。
「ルード! 助かった、ありがとう。このまま上の道を走る馬を追ってくれ 」
「はーい! 」
俺の指示を、ルードは遊びでもするように軽い返事をして一気にスピードを上げる。
あっという間に俺がさっきまでいた道の上空に上がった。
下には馬を走らせる頭目とシンシアの姿が見える。
「ルード、あの馬の前に出て 」
「了解 」
俺の指示に従って走る馬の少し前にルードが降りる。
突然の竜の出現に、馬は驚いて足を止めた。
「なっ、竜? さっきの坊主! お前何者だ? 」
頭目は落ちたと思った俺が竜の背に乗って再び現れた事に驚きを見せる。
「シンシアを返せ 」
魔力が無くなってから魔術は使ったこと無かったから詠唱の呪文が浮かばないけど、どうすれば魔術が使えるのかは何となく分かる。頭の中で魔力の塊を想像すると、俺の右手には魔力の塊が浮かんでいた。
さっき頭目が放った魔力の塊より遥かに大きな魔力に、頭目が怯むのがわかる。
「なっ、詠唱も無しにどうやって、お前魔術使えたのかよ! 」
「ついさっきね 」
「はあ?? こんな強い魔術が使える奴が今身につけた分けないだろ! お前の相手なんてやってられるか、こいつは返してやるよ! 」
頭目はそう言うと気を失ったままのシンシアを崖めがけて投げ捨てた。
「シンシア!! ルード! 」
「はーい 」
ルードは気を失ったまま落ちていくシンシアに直ぐに追き、俺はなんの躊躇いもなくシンシアを受け止めた。
「・・・・・・・・・移動・・・しない? 」
何故か分からないけどシンシアに触れたのに移動しなかった。
ちょうどいい。
「ルード、上に戻ってくれ 」
俺はシンシアを抱えたまま上に戻ると、馬を走らせ逃げて行く頭目に向かってさっき作ったまま頭上に浮いていた魔力の塊が頭目に当たるようイメージする。
魔力の塊はイメージ通りに頭目に飛んで行き、見事命中して俺の攻撃を受けた頭目は馬から退崩れ落ちた。
それを見てほっと息を吐き出しながらシンシアを見る。
良かった、俺の手で助けることが出来た。
だけど、さっきあいつに殴られた頬が赤く腫れて口に血が滲んでいる。
「ごめんね・・・・・・」
俺が最初に助ける事が出来ていればシンシアが殴られることは無かった。
俺はルードの背に座って右手でシンシアを抱えながら左手でシンシアの唇に滲んだ血を拭う。
「って・・・・・・ 折れてるのか? 」
左手の感覚は少し戻ってるけど、動かしたら激痛が走った。
それを皮切りにズキズキと脈打つように激しい痛みが襲って来る。
さっきはシンシアを受け止めるのに必死だったけど、よくこの手で受け止める事が出来たな・・・・・・落とさなくて良かった。
「・・・・・・うっ・・・・・・ 」
「シンシア? 良かった、気が付いた? 」
「・・・・・・カイン様? 」
「怖い思いをさせてごめんね、もう大丈夫だから安心して 」
「・・・・・・私今カイン様の腕の中に居ます? 」
シンシアは見えないから状況が分からないので、確認するように問いかけてくる。
「うん、突然大きくなったルードの背に乗って飛んでるだよ 」
「そ、そうなんですか? 」
俺の返事を聞いたシンシアは突然両手で顔をおおって隠してしまった。
見える部分が赤く染ってるように見える。
可愛いんだけど、これは照れているんだろうか?
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