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36話 捜索
しおりを挟む「このタイミングでアイリーンが攫われたのは偶然か意図的か、偶然の線はさっきの手紙で無くなったけど、意図的に攫われたのなら、この国にグレイズの間者が居ることになる。これってかなりヤバいよね 」
「はい・・・ 」
そうなんだ、レオルカ様の参戦を拒むのはレオルカ様の実力を知っているからだ。
レオルカ様はチェスター領に戻ってからの一年は特に目立ったことはしていない。
唯一、この前ディトスで少し暴れた位だが・・・もしかしてディトスに間者が居るのか?
「レオルカ様の凄さを知っている者で、レオルカ様がチェスター領に戻ると、グレイズにとって不利になると思っている人物ですよね 」
「そうだね、何か心当たりある? 」
心当たりと言えばディトスが怪しいという事くらいだ。
「・・・・・・ディトス領主のディトス伯爵が何かを企んでいそうなのは確かです。そしてハルバート様の死にも何か関係がありそうなのですが・・・怪しいと言うだけで断定はできません 」
「それって、もしもディトス領主がグレイズ帝国に協力しているのだとしたら、ハルバート殿はその計画を偶然聞いてしまって消されたって事なんじゃないの? 」
キリクの何気ない表情から出る言葉に虚をつかれ、思わず目を見開いてキリクを見る。
「・・・・・・キリク様、そうかも知れません。なんか今凄くしっくり来ました 」
「かも知れないってだけだよ? 」
いや、何故その思いに至らなかったのか、それが真実だとしたらディトスからの援軍は来ない。
チェスター領が危ない、一刻も早くお嬢様を助け出して援護に向かわなければならない。
「いえ、その可能性は充分あるかもしれません、そうなるとチェスター領が危ないですね 」
「うん、そうだね、ディトス伯爵の息のかかってそうなところを当たってみようか、だけど、簡単にしっぽを掴まれるような事はしないだろうね 」
「ええ、余程のマヌケで無ければ自分が関わっているという証拠を残すような事はしないと思うので、恐らくディトス伯爵の息の掛かった場所にお嬢様は居ないでしょう 」
「うん、だとすればどこを探そうか? 」
ああ、また結局振り出しに戻る。
ディトスは指名手配されていて姿をくらましているヤツらを多く匿っていた。
そいつらはこの前の件で顔とディトスとの繋がりをレオルカ様に知られているので、恐らく消されている。
証拠がなければ知らぬ存ぜぬでやり過ごすつもりだろう。
だとすれば他にも指名手配されている奴が協力している可能性は大いにあるけど、何処にいるか分からないから指名手配されていて捕まっていないんだ、そいつらの居場所を知るはずがない。
「とりあえずディトス家の王都の屋敷を張りこもうか、出入りしているヤツらを片っ端から着ければいいんじゃない? 」
「そうですね、アイリーンお嬢様の事が心配ですが、手掛かりがない以上そうするしかないですね・・・何かいい方法があればいいのですが・・・ 」
「心配だけど、俺に出来るのは人手を融通する事とアイリーンが今何を見てるのか、視覚共有して見るくらいだよ 」
「え? キリク様、今なんて言いました? 」
「ん? 人手を融通するとこ? 」
「いえ、その後です 」
「視覚共有? 俺、魔法は殆ど使えなくてさ、唯一できることって言ったら視覚共有して相手が見てることを見るくらいしか出来ないんだよね 」
「それ! すごい能力じゃないですか! 」
「え? でも、アイリーンが目隠しされてたり、眠らされてたらなんも見えないよ? 」
「その可能性は大いに有りますが、お嬢様の見ている物から手が狩りが掴めるかもしれません 」
「そうだね、やってみてもいいかもしれない 」
キリク! そんなすごい能力をなぜ今まで黙っていたんだ! それならお嬢様の安否も確認できるじゃないか。
「どうすればいいんですか? 」
視覚共有に何か必要ならすぐにでも用意する。キリク、早く言ってくれ!
「アイリーンが普段よく使ってるものなら何でもいいんだけど、アイリーンの魔力が残ってそうなものを用意して欲しい 」
「わかりました 」
俺は慌ててお嬢様の部屋に向かい、何時もお嬢様が使っているヘアブラシを持って走ってキリクの居る応接室に戻る。
いつも髪を梳いている物だからお嬢様の魔力も微弱ながら残っている。これなら大丈夫だろう。
「キリク様、持ってまいりました 」
「ありがとう、集中するから話しかけないでね 」
「はい、お願いいたします 」
キリクは俺からヘアブラシを受け取ると、両手に大事そうに持って何か呪文を唱え始めた。
この呪文は初めて聞く呪文だ。魔王の中にも魔眼を持っていて離れた場所にいる奴のことを見る事が出来る奴もいるけど、それとは違う。
話しかけて気が散るといけないので固唾を飲んでキリクを見守る。
どうか無事でいてくれて!
「・・・・・・・・・見えた、・・・・・・周りには誰も居ないみたい。窓がないから薄暗い、ロウソクの明かりで何とか見えてるのかな、レンガで囲まれた部屋だ。・・・・・・もしかして地下かな? 」
「お嬢様の様子は? 」
「アイリーン目線だから自分の事はあまり見えないけど、手足は拘束されてる 」
「何か手掛かりになりそうなものはありませんか? 」
俺は静かにしていろと言われたことも忘れてキリクに話しかける。
「・・・・・・うーん、特に何も無いんだよね、アイリーンは今の所無事みたいだけど、しばらくこのまま共有してるからあまり気を散らすような事しないでくれる? 」
「分かりました、何かあれば仰ってください 」
しばらくこのままって、キリクの魔力でどこまで持つのか分からないが、今はキリクを頼る他ない。
自分の力が役に立たないのが歯がゆい、何のために魔王の力が戻ったんだ?
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