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38話 安堵
しおりを挟む「ごめん、そろそろ限界・・・・・・ 」
キリクが視界共有を初めて約3時間、魔力と体力の限界だ。
長時間他人の視界を共有し続けたんだ、よく持った方だと思う。
視界共有での手がかり模索はしばらく中止せざるを得ない。
「何も手がかりが掴めないままだ、ごめん。・・・・・・いや、ちょっと待って、今扉が開いた! 」
「本当ですか?! 」
「うん、男が二人・・・・・・ああ、お前にも共有出来ればいいんだけど・・・・・・ 」
キリクはどうやら男の顔を見ているようだ。
俺もお嬢様が見ているものを見たいけど、俺の力でそんな能力あっただろうか・・・・・・
「キリク様! どんな男ですか? お嬢様は無事ですか?! 」
とにかく犯人がお嬢様の元にやって来たんだ、お嬢様に危害を加えるかもしれない。お嬢様の事が心配だ。
そう思ってキリクの肩を掴んたその時、俺の脳裏に知らない男の顔が流れ込んで来た。
これは・・・・・・そうか、俺はキリクの思考を読んだのか、キリクは今男達の顔を脳裏に焼き付けようと必死なんだ。
「キリク様、ありがとうございます。私にも見えました 」
「え? 本当? 」
「はい、今キリク様が脳裏に描いている男2人の顔は覚えました 」
「そうか、良かっ・・・・・・た・・・・・・ 」
「キリク様! 」
キリク様は俺の言葉を聞いて安堵したように気を失ってしまった。
「キリク様、ありがとうございます。キリク様のご協力、決して無駄にはしません 」
俺はキリクをソファに寝かせてそう言うと、蝙蝠を大量に作りだ出した。
窓から送り出しながら作った蝙蝠はざっと千匹が空に飛んで行った。
王都内の至る所に飛び立った蝙蝠でさっき見た男を探す。
重要な手掛かりだ。必ず見つけ出してみせる。
そして探す事5時間、男が一つの建物から出てくるのを見つけた。
しばらくしてまた戻ってきた事を見るとあそこにお嬢様が居る。
やっと見つけた! あの建物だ!
「見つけました、直ぐに行ってまいります 」
少し前に目を覚ましたキリクに報告を入れる。
「待って、君一人では危険だ! 」
「大丈夫です。私は負けません。場所を教えるので後で犯人を捕まえに来てくだされば助かります 」
俺は挨拶もそこそこに蝙蝠をキリクの元に置いて走り出した。
現地に着いて直ぐに中の様子を確認する。中には人が6人、地下に1人、きっとお嬢様だ。
俺は直ぐに扉を吹き飛ばして中に入った。
「なっ、なんだお前は! 」
俺の登場に慌てる男達を一瞬で気絶させる。
こいつらは殺せない。活かしておいて後で誰がやったのか吐かせる必要がある。
気絶した男達の中にお嬢様が見ていた2人も含まれている。
そのまま地下への階段の前にいた男も気絶させて慌てて階段を掛けおり、地下にある部屋の扉の鍵を魔力で開け、そのまま中へと駆け込んだ。
「お嬢様! 」
叫ぶのと同時にお嬢様の手足、口を縛っている布を外すと、お嬢様が俺の名を呼んでくれた。
その声を聞いた途端、俺は膝をついてお嬢様を抱きしめていた。
「すみません、俺が警戒を怠ったばかりにお嬢様に怖い思いをさせてしまいました 」
「私は大丈夫よ、私こそ迷惑をかけてごめんなさい。来てくれてありがとう 」
本当になんと詫びていいのか分からない気持ちでいっぱいだった俺に、お嬢様は気丈にも大丈夫だと言ってくれた。
だけどその後思わず抱きしめてしまった俺の腕の中で安心したのか、声も無く泣くお嬢様の姿に、本当に怖い思いをさせてしまって申し訳ない気持ちと、無事でいてくれて良かったと思う安堵感と、俺の腕の中で安心して泣くお嬢様の姿をとても愛おしく思う気持ちが俺の感情を支配していた。
「ルー、本当に来てくれてありがとう、もう大丈夫よ、泣いちゃってごめんね 」
涙でクシャクシャになった顔を見られるのを恥ずかしそうに手で顔を覆いながら、それでも落ち着きを取り戻したお嬢様が出来るだけ明るい声で話す。
「いえ、俺も動転して思わず抱きしめてしまいました。申し訳ございません 」
改めて思うと、とんでもない事をしてしまったと我に返る。
「ふふっ、ルー、自分のこと『俺 』になってるわよ 」
「あっ、すみません、本当に動転していたようです 」
「私はその方が親近感が湧いて好きよ、後、私はルーの事が好きなんだから、抱きしめられて嬉しかったの、ちょっと得しちゃった 」
少し照れながら、それでも嬉しそうに言うお嬢様。
何だこれ、可愛い。
「君って何者なんだ? 」
気まずい空気を破るように声を発したのはキリクだった。
扉の前で驚きを通り越して呆れたような表情で座り込んでいる俺を見下ろしている。
「どんな魔法を使ったのか知らないけど1人で王都全域を見張っていた事といい、見つけてからの対応の速さといい、レオルカが信頼して傍に置いているんだから只者じゃないとは思ってたけど・・・・・・ 」
「私の自慢の護衛です。素敵でしょ? 」
どう答えるか悩んでいると、お嬢様が嬉しそうに答えた。
「うん、本当にすごい護衛だね、アイリーンが無事で良かった 」
「ありがとうございます。まさかキリク様にまでご迷惑かけてしまっていたなんて、申し訳ございません 」
「俺は大したことしてないから、それより犯人は捉えたから直ぐに首謀者を割り出さないと、アイリーンが安心できないよね 」
「お気遣いありがとうございます 」
お嬢様は丁寧に頭を下げて感謝の意を伝える。
そんなお嬢さまの左腕に着いている銀色の腕輪に目が止まった。
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