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46話 久しぶりの笑顔
しおりを挟むそれからフェリス様は事後処理やらで慌ただしく指示を出してから王都へ戻って行った。
あれから5日、お嬢様はずっと塞ぎ込んでいる。
コンコンコン
「お嬢様、セルジュです 」
「どうぞ 」
か細いお嬢様の声を聞いて部屋にそっと入る。
お嬢様は凛とした姿で椅子にかけているけど目に生気が感じられない。
何時もなら笑顔で迎えてくれるその愛らしい顔に笑みはなく、ただ呆然と目に映る景色を捉えているだけだ。
「お嬢様、スープをお持ちしました。少しでも何かお召し上がりになってください 」
「ありがとう、でも要らないわ 」
一昨日まで泣き続けて昨日になってやっと落ち着いたようだがまだ何も口にしようとしない。
お嬢様の事が心配だ。
お嬢様の様子を見たらここを去るつもりだったが、こんな状態のお嬢様を置いて行けない。
「・・・・・・ここに置いておきますので少しでも食べてくださいね 」
「うん・・・ごめんね、お母様やお兄様は悲しみをちゃんと胸に閉まって次へ進もうとしてるのに、私だけ何時までも落ち込んでて・・・ 」
「いえ、お嬢様は心がお優しいからきっと全ての悲しみを背負ってしまうんです。・・・・・・全て私が判断を謝ったからです。全て私の責任なんです。本当に申し訳ごさいません 」
何度謝っても足りない。心から後悔しても遅い。
だって失ったものは戻ってこないのだから。
椅子に座るお嬢様の横で膝をついて頭を下げながら涙が頬を伝う。
その涙に自分で驚く。いけない、何故涙なんか流しているんだ、お嬢様に見られる。
そう思った時、頭にふわりと柔らかな手が載せられた。
そっと優しく撫でられている。
その事に驚いて顔を上げると、お嬢様の優しい泉のような青い瞳と目が合った。
「泣いていたの? ごめんなさい、悲しいのは私だけじゃないのにね、ルーが責任を感じることなんて何も無いわ、ルーは私達を守ってくれたんでしょ? 」
「でも、俺がもっと早く動いていれば・・・ 」
「先の事なんて誰にも分からないもの、ルーは何も悪くない 」
そう言って微かに微笑んだお嬢様に、俺の心が少し軽くなる。
やっと少し笑ってくれた。
「私が何時までも落ち込んでるとルーが悲しむわね、もう悲しむのは辞めるわ、前を向かなくちゃ 」
そう言ったお嬢様の笑顔は何時もの明るい表情に戻っていた。
「・・・・・・無理しなくて良いんですよ、無理して心に隠すといつか心が壊れる 」
「くすっ、大丈夫よ、私にはルーが居てくれるもの、ルーの顔を見るだけで心が癒されるの、心配させてごめんね 」
お嬢様の言葉に心が音を立てて軋む。
いつか近いうちに俺は姿を消すつもりなんだ。
俺はこの信頼を裏切ることになる。
「どうしたの? 」
黙り込んでいるとお嬢様が俺の顔を覗き込んできた。
「あっ、いえ、何でもありません 」
すぐ近くにあるお嬢様の顔に慌てて笑顔を返したが、自分でもぎこちない作り笑いになったのが分かる。
「それより、出来ればお食事を取ってください。暖かいものを用意致します 」
そう言うと、お嬢様は先程俺が持って来たスープに視線を向けた。
「・・・・・・そうね、あまり食欲は無いのだけど・・・・・・ 」
「何か食べないと身体を壊しますよ、そうなると奥様やレオルカ様が心配します 」
「そうね・・・・・・ねぇ、ルー、我儘を言ってもいいかしら 」
少し考えた後、口の端を少し上げて俺を見る。
何かよからぬ事を企んでいそうな表情なのは見て取れる。
だけどお嬢様の我儘なら可愛いものだ。
「はい、何なりとお聞き致しますよ 」
俺の即答に、お嬢様はさらに口角を上げ、満面の笑みになる。
「どんな我儘ですか? 」
「あのね、ルーは最強魔王の生まれ変わりだって聞いたの、本当? 」
何故それを知っているんだ、俺は何も言ってない。レオルカ様は理解しているが・・・・・・レオルカ様からか・・・・・・
「はい・・・俺は魔王の生まれ変わりで、魔王の力を受け継いでいます 」
お嬢様の俺を恐れる顔は見たくなかった。
だけど仕方がない。聞かれた事は正直にレオルカ様やフェリス様にも話したんだ。お嬢様にも嘘はつきたくない。
「ルーは本当に凄い人だったのね、優しくてカッコイイ上に強いなんて、私の好きになった人に間違いはなかったわ 」
「は? 」
頬を染めて満足そうに微笑むお嬢様の反応に俺は虚を突かれて素っ頓狂な声を上げてしまう。
「くすすっ、何を驚いているの? 自分の事なのに、可笑しいわよ 」
あれ? 驚かないのか?
「・・・・・・俺が怖くないんですか? 」
「何処が? 今私の目の前にいるルーは捨てられそうな子犬に見えるけど 」
子犬?! 魔王の俺が子犬だって?
「くっ、あははっ、子犬ですか 」
思わず笑いがこぼれる。
それを見てお嬢様も嬉しそうに微笑んだ。
「で、我儘ってなんですか? 俺の正体を知るのが我儘とは思えませんが 」
笑いをこられながら気を取り直して尋ねると、お嬢様はにやりと笑って俺を見た。
何か嫌な予感・・・・・・
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