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59話 ギルと僕(クリストファー)
しおりを挟む僕は声もなく泣いていた。
魔族の国に来て9年、人間の国で暮らしていた頃より長い年数をここで過ごして、僕の事はもう忘れられているだろうと思っていた。
なのに、レティシアは僕の事をずっと探してくれていた。
レティシアはきっと、僕を探すために自分を男と偽って生きてきたんだ。
レティシアにとって、それがどんなに辛いことだったか・・・
「・・・ごめん・・・」
僕はここに来て、辛いこともあったけど、幸せに暮らせてた。
その間、レティシアは僕の為にずっと苦しんでいたなんて・・・
レティシアの人生を僕が奪ってしまった。
「ごめん・・・」
「・・・? 何を謝るんだ? クリスが探していたレティシアを見つけることが出来たんだ。俺は今すぐにでもクリスに伝えたい。」
ギルバートは全身を強く打っていたので、ベッドに横になったまま、動く手だけを動かして、声もなく泣く僕の手を握ってくれる。
その言葉に我に返る。
「・・・クリスが・・・ここに来るの? 」
「あいつは必ず来る。途中で俺が崖から落ちてしまったから、一度引き返したかもしれない。だけど、あの洞窟の存在を知っているし、洞窟の先にレティシアが居るって、あいつは確信を持っていた。必ず来るよ。」
ギルバートの自信に満ちた言葉に、本当に来るかもしれないと思った。
9年前に生き別れた双子の片割れ・・・
だけど、それが本当なら大変だ、警戒しておかないと、今洞窟周辺は紛争地帯だ。
人間殲滅派に見つかるとヤバい。
すぐに隊を交代で見張りに行かせよう。
「だけど・・・あいつはすぐに無茶するから心配だ。俺が迎えに行きたいけど、足の感覚がない・・・」
ギルバートは不安そうに僕を見る。
「ギルバート、君の足は折れているんだ。しばらくは歩けないだろう。僕が迎えを向けるから、君は安心して、今は傷を治そう。すぐに元通りになるよ。」
そう言って微笑むと、ギルバートは僕をまじまじと見る。
「・・・顔は違うけど、性格はクリスによく似てるな・・・」
僕とクリスの顔が違うと言われたのは初めてだ。
まぁ、男女の双子で、9年経ってるんだから違ってて当然なんだろうけど・・・僕と性格似てるって、レティシアは相変わらずのようだな。
それから僕は洞窟前の見回りと、ギルの看病をする毎日を過ごした。
3日目に、レイがギルの所に来て僕の恋人だと知ると、
「そうか、幸せだったんだな」
と嬉しそうに喜んでくれていた。
ただ、僕の事は女だと思ってるんだけどね・・・
ギルは真面目なのか、信じやすいのか、僕がこんな感じなのに全然疑わないんだよね・・・たまに男の格好もしてるんだけど・・・おかしいな・・・
レティシアが今まで隠していたのなら僕から言うのも悪い気がしてまだ言えてないんだけど・・・どうしようか・・・
ギルと一緒にいる間はレティシアのことをたくさん聞いた。
シアはかなり努力したんだろう、男の中でも飛び抜けた戦闘能力を持っているらしい。
だけどそれが、僕を助けに来る為だけに努力してきた事だと聞いて心が痛かった。
僕がレティシアの女としての9年間を奪ってしまった。
それから、ギルと話しててだんだん引っ掛かる事が出てきた。
ギルがレティシアのことを話してる時に、時折レティシアの事をとても愛おしそうに話す時がある。
ギルはレティシアの事をクリス(男)だと思っているのに・・・どういう事なのか・・・
「ねぇ、ギル、君はその・・・同性愛者なの? 」
僕の質問にギルは、一瞬僕を見つめた後、不意に目線を逸らした。
「何でそんなこと聞くんだ? 」
この態度・・・やっぱりギルはレティシア・・・いや、クリスを好きなのか?
「ギル、ひょっとしてクリスのことが好きなの? 」
僕がそう言うと、ギルはカッと顔を赤くして僕から顔を逸らす。
「・・・俺は男が好きなんじゃないよ、クリスが好きなんだ。好きになったクリスが、たまたま男だっただけだ。」
「そうなんだ、じゃあ、クリスがもし女だとしても好き? 」
「当たり前だろう! 俺はクリスを愛してるんだ。男でも女でもそんな事関係ない。」
ギルは僕を見ると力強く答える。
ギルは本当にレティシアの事を愛してくれているようだ。
レティシアはずっと男として生きてきたのに、ちゃんと愛してくれる人はいた。
その事に、少し救われた気がした。
なのに、その後ギルは悲しそうな顔をする。
「どうしたの? 」
「俺はクリスに告白して振られたんだ。嫌われた・・・当然だよな、クリスは男だ。男に告白されても気持ち悪いだけだよな。」
ギルの言葉に僕はガッカリしてしまった。
ギルの事はこの数日しか知らないけど、とても良い奴だと思う。
だけどシアには気に入られなかったようだ。
レティシア・・・ギルを振ったのか・・・
それからしばらくして、ギルも少しなら杖をついて歩けるようになり、回復していたある日、見回りの時に洞窟の中で剣を交える音が聞こえてきた。
僕は慌てて兵と共に中に入った。
レジスタンスの奴ら、いつの間にここに入り込んだんだ?
それより、戦っている3人は人間だ、10人相手に結構やりあえている。
その中に背の低い男がいる・・・レティシアだ!
僕は押されていたレティシアを助けに入った。
僕の登場にレティシアはとても驚いて、持っていた剣を落とすと、僕に抱きついて泣いた。
・・・・・・本当に来てくれた・・・
ここまでの道のりはそう簡単ではなかったはずだ。
それを微塵も感じさせず、レティシアは僕を見て微笑んでくれる。
それから一緒にいた2人を紹介してもらったんだけど、レティシアは、顔が良くて騎士団団長で王子と言う超ハイスペックな男2人を連れていた。
レティシア・・・我が姉ながら王子2人を従えるとは・・・やるな・・・
ギルを振ったということは、こっちのハイスペック王子のどっちかが本命なのかな?
とりあえず僕は城に3人を連れて行き、まず休めるよう手配した。
疲れを落とすため、風呂を用意して入ってもらってる間に、ギルにこの事を伝えに行った。
ギルは僕の報告を聞いた途端、足を引き摺って部屋を出て行ってしまった。
「ギル! 急ぐと危ない! クリスは逃げないから落ち着いて! 」
僕の声を無視して、ギルは風呂のある方へと急ごうとする。
仕方ないので肩を貸してやりながら向かう事にした。
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