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③アイリス殿下
しおりを挟む「お嬢様、大変です!アイリス殿下がレイラお嬢様に会いに来ました!」
慌てて入ってきたのは侍女のミーナだ。
「え?アイリス殿下が?」
わたくしはミーナの言葉に驚く。
ここに来てから、会うのはミカとアルファスト侯爵様だけで、まだ何方ともお会いしていなかったからだ。
アイリス殿下はミカの父母共に血の繋がった妹君です。
「まぁ・・・では、急ぎお茶の用意をしてちょうだい。何かお茶菓子になるものはあったかしら?」
「昨日皇帝陛下がお越しになった時に頂いたものがございます。ご用意させていただきますので、レイラお嬢様もご準備を。」
ミーナがすかさず答えてくれる。
「そうね、ありがとう。」
わたくしはミーナにサッと身なりを整えてもらうと、応接室へ向かった。
「失礼致します。アイリス殿下。お待たせ致しまして申し訳ございません。」
わたくしが部屋に入ると、アイリス殿下は座っていた席から立ち上がってこちらを向かれる。
わたくしは淑女の礼をして深く腰を下げた。
「アイリス殿下、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。わたくしイルザンド王国のレイラ・グレイシスと申します。本来であればわたくしからご挨拶に伺わなければならない所、わざわざお越しくださりまして恐悦至極にございます。」
「私はご存知の通り、アイリスよ。堅苦しい挨拶は結構よ。」
初めてお目にかかったアイリス殿下はミカと同じ黒髪で、ストレートで腰まで伸びた髪の先はくるりと軟らかなウエーブを描いている。
瞳の色は灰色で、ミカの瞳とは違うけれど、血の繋がりがよく分かるミカと同じ顔立ちをしている。とても綺麗なお姫様です。
§§アイリス§§
入ってくるなり丁寧な挨拶をしたのは小柄で華奢な女性だった。
髪は腰まで伸びたストレートで、白銀色をしている。髪の色だけ見ると、冷たそうな雰囲気だけど、紫色の大きな瞳で柔らかく微笑むので冷たそうな感じはしない。それ所か清楚で可愛らしい印象だ。
「貴方がクロードお兄様の恋人ね。」
私は率直に聞く。
すると、レイラ嬢は何故か顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「こ、恋人・・・」
レイラ嬢がか細く呟く。
「恋人じゃないの?じゃあ、貴方はクロードお兄様の何?」
「恋人・・・ですわ。」
何故か恥ずかしそうに答えるレイラ嬢。
何だか拍子抜けだわ。
ずけずけとこんな所まで入り込んで、離宮を独り占めしている女なんて、きっとろくなものでは無いと思っていたのに、何この態度。
可愛らしいわね・・・
とりあえず、私の知らない間のお兄様の事が知りたい。
「お兄様がイルザンド王国にいる時の事知っているんでしょ?教えてくれない?」
そう言って私は席に着く。
それを見て、レイラも向かいの席に座った。
それを見計らって、侍女がお茶を出してくれたので、私はカップに手を伸ばす。
「ミ、陛下の事ですか?どのような事をお話させて頂けばいいでしょう?」
レイラ嬢は困った顔で私に問いかける。
「何でも。ここから居なくなった7年間、どこでどんなことをしていたのか知りたいの。」
そう、私のお兄様が今までどんな生活をしていたのか知りたいのよ。
「失礼ですが、アイリス殿下は陛下のイルザンド王国での事を何処までお聞きですか?」
レイラ嬢がまた質問してくる。
何が言いたいのかしら。さっさと教えてくれればいいのに。
「お兄様には何も聞いていないのよ。何をしてたのか聞いても教えてくれなくて、レイラ嬢なら知ってるんでしょ?」
「申し訳ございません。知っていますが、陛下が何もおしゃべりにならないのであれば、殿下でもお教えすることはできません。」
気弱な子なのかと思ったらハッキリと断られた。
「何で?何か秘密でもあるの?私はクロードお兄様の妹よ?教えてくれてもいいじゃない!」
私は思わずレイラ嬢に詰め寄った。
優しそうな子かと思ったのに、意地悪な子なの?
「そんなに俺の事が知りたいのか?」
突然横から声がして振り返るとお兄様が立っていた。
「お、お兄様!いつの間にいらっしゃったのですか?」
「アイリス、何故ここに居る?」
私の問いかけには答えず、私に質問を投げかけるお兄様。
「だって、お兄様全然彼女の事紹介してくれないから会いに来たのよ。」
「ちゃんと紹介するからもう少し待てと言っただろう?」
お兄様は嘆息して子供をあやす様に話す。
「レイラ嬢、すみません。アイリスがこちらに入ったと聞いて駆けつけたのですが、大丈夫ですか?」
お兄様がレイラ嬢に近付きなから話す。
その表情は柔らかくて、何時もの表情とは違う。
「大丈夫ですわよ?アイリス殿下が何かするとでも?そんなことないわ。」
大丈夫かと聞かれたレイラ嬢がきょとんとした表情で答える。
「それより、アイリス殿下にお会い出来てとても嬉しかったわ。ミ・・・陛下のイルザンドでの事をお話してもいいかしら?少しお話しにくいのだけど・・・」
話しにくい?どういう事?
お兄様はレイラ嬢の隣に座ると、クスクスと笑いながらレイラ嬢を見つめる。
「そうですね、レイラ嬢からは少し話しにくいですよね。」
私の前で見つめあわないで!
私凄い邪魔者みたいなんだけど!
お兄様が誰かをこんな風に見つめる姿なんて見たくない。
「ちょっと、お兄様!話しにくいって?何があったの?」
「いや、別に俺からは全然話せるけど、レイラ嬢からは言いにくいと思うんだ。俺から話すよ。」
そう言ってお兄様がイルザンド王国でのことを話し始めた。
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