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⑦婚約発表(クロード)
しおりを挟む上皇と上皇后が会場へ入ってしばらくしてから俺が入ることになっている。
今日はレイラ嬢も一緒だ。
今日のレイラ嬢はいつも以上にとても美しい。
白銀の髪をアップにまとめ、青薔薇を髪に飾っている。俺の瞳の色をレイラ嬢の衣装に入れてくれとは頼んだが、こんなに素晴らしい仕上がりになるとは、想像以上だ。
思わずずっと眺めていたくなったが、そういう訳にも行かない。
出来れば早く終わってレイラ嬢を眺める時間を作りたい所だ。そう思いながら隣のレイラ嬢を見る。レイラ嬢は緊張しているようで、表情が固まっている。
「緊張されていますか?」
俺の質問に、ゆっくりと顔を上げるレイラ嬢。
「とても緊張します。」
強ばった笑顔で俺に答える。
その表情に思わずくくっと笑ってしまう。
「陛下!笑わないでくださいよ!」
レイラ嬢が膨れて俺を見る。その顔が可愛らしくて、つい額にキスを落とす。
「行きましょうか。」
そう言って、俺はレイラ嬢の腰に手を添えて会場へと入って行った。
会場へ入ると拍手と歓声が鳴り響く。
俺は皆より一段高くなった場所に設けられた席へと歩く。その席の横には既に上皇と上皇后が座している。俺はレイラ嬢と共にその席の前まで来ると、振り返って皆を見る。
国中から貴族が呼ばれている為、クーデターにより大部分を粛清したとはいえ、凄い人数が集まっている。
俺を初めて見るご婦人方が顔を赤らめて俺を見つめている中、あちこちで俺の隣に三歩下がって控えるレイラ嬢にチラチラと視線を向ける者が居る。
「皆の者、今日は新皇帝クロードの為にお集まり頂き感謝する。」
上皇が立ち上がり俺を紹介する。
「クロードは先の内乱を見事に抑え、私達を救ってくれた。兼ねてより成人の暁には皇帝の座を譲るとの盟約により、成人を迎えたクロードを皇帝とする。」
上皇の言葉に皆が一斉に拍手と喝采を送る。
俺はその様子をしばらく眺めてからおもむろに口を開く。
「皆、今日は良く集まってくれた。皆も知っての通り、先の内乱によって多くの尊い命が失われた。また、首謀者は一部は捕らえ、一部については既に処分が終わっている。優秀な人材も多くが加担していた為、今この国は人材が不足している。私は優秀な人材を登用し、国の安寧に尽力する。我こそはと思われる者は名乗りを上げて欲しい。私と共に帝国の繁栄と安寧に努めよう。」
俺の言葉に皆が一斉に喝采を上げる。
実際、多くの優秀な人材を失った帝国は今実務をこなすのがやっとだ。兵も整え直さないといけない。若い人材が必要なのだ。
「そして、内乱の制圧にそれほど時間を要さなかったのは、隣国のイルザンド王国が大いに尽力してくれた為である事を忘れないでいて欲しい。」
俺はそう言った後、少し様子を伺う。
イルザンド王国の旗を掲げて入ってきた時は隣国に侵略されたのかと思った者も居るだろう。
また、遠方で話しを聞いた者はその存在すら知らなかった者も多い。
口々に「そうだったのか」「知らなかった」等と呟いている。
イルザンド王国の力を借りることが出来たからこそ、内乱を抑えることが出来た。皆の頭にそれを刻み込む。
「そして、今日は私から皆に伝いておきたいことがあって来た。」
俺の言葉に、それぞれ話しをしていた者達が俺に注目する。
「皆私の隣に立つ令嬢が気になっていると思うが、彼女はイルザンド王国のグレイシス侯爵令嬢のレイラ・グレイシス嬢だ。俺はこの場にレイラ嬢との婚約を発表する。」
そう言って、後ろに控えていたレイラ嬢の手を引いて俺の隣に立たせて腰を抱くと、女性達の間から悲鳴のようなものが聞こえる。
ざわめきと、拍手が入り交じる。
反対の者も、賛成の者も居るだろう。
だが、これでレイラ嬢は正式に俺の婚約者として認識される。それは、危険なことでもあるのだが、いつまでもレイラ嬢を中途半端な存在にしておきたくない。
レイラ嬢を見ると、さすが元ヘンリー王子の婚約者。幼い頃から王妃になるべく教育されてきただけあって、皆の前では優雅に微笑んでいる。
でも俺は知っている。
レイラ嬢はかなりテンパっている。笑顔のまま硬直しているのだ。
その可愛い姿に内心くくっと笑ってしまう。
「今日は立席だが、ゆっくりしてくれ。皆楽しんでいって欲しい。」
そう言って俺は締め括った。
俺は皇帝のために用意された椅子に座る。
レイラ嬢はまだ婚約者という立場なので、椅子の用意はないので俺の隣に立つ。
俺が座ったのを見計らって、名のある貴族達がひっきりなしに俺に挨拶にやってくる。
レイラ嬢にとっては苦痛でしかないだろう。申し訳無い気持ちだが、これも通らなければいけない事だ。レイラ嬢も理解しているからそこ、笑顔を絶やさず自身に向けられる好奇の目に耐えてくれている。
俺は俺の座る椅子の肘掛に手を添えるレイラ嬢の手にそっと俺の手を重ねた。
「クロード陛下、お初にお目にかかります。」
しばらくして、人もまばらになった頃、そう言ってニコニコと近付いてきた5人組に、俺は気を引きしめる。
「レイラ嬢、俺から離れないように。」
ぼそりとレイラ嬢に向かって呟くと、俺は手を何時でも剣が抜ける位置に置く。
明らかにこの五人は殺気を放っている。
帯剣は禁止したはずなのに、腰元にはマントで隠れているが、明らかに剣を下げている。
おれが剣の引ける位置に手を置いたのを見て、一人が剣を抜く。
「クロード!死ね!!」
その合図と共に全員が剣を抜いて俺に向かってくるるのを見て、周りが「キャーーっ」と騒ぎ立てる。
俺は剣を抜いて迎え撃つが、この五人は囮だったのか、別の位置から数人が上皇に向かっていくのが見えた。
しまった!衛兵が間に合わない!
「父上!」
俺は目の前の奴をあしらうと、上皇の方へ向う刃を受け止める。
父上も遅れて剣を構え、敵に立ち向かう。
衛兵も混じり、あっという間に反乱分子を抑えることが出来た。
雲の子を散らすように遠巻きに見ていた者達が、取り押さえたのを見ると慌てて駆け寄ってきて、「陛下、お見事です」と口々にお世辞を並べる。
誰も怪我はなかったか?
俺は辺りを見回す。
そして、次の瞬間、心臓がドクンと大きく跳ねる。
レイラ嬢が居ない!!
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