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⑧焦り(クロード)
しおりを挟む俺は慌てて辺りを見回す。
「どうした?」
その姿に、近くにいた父上が話しかけてくる。
「レイラ嬢が居ない!!」
「何?!お前達!入口を塞げ!」
上皇が衛兵に指示を出し、直ぐに近くにいた者が動き出す。
俺はレイラ嬢の姿を探しながら呼吸が止まりそうなほど胸が締め付けられ、取り乱していた。
「クロード、落ち着け、お前が取り乱すと弱みを握られる。」
父上が俺の横でそっと囁く。
それは周りに聞かれないように、小声で俺にだけ聴こえるように。
父上のその言葉に、俺は我に返る。
「父上、ありがとう。」
俺はそう言うと、ざわめく皆の前に出る。
「皆、落ち着いてくれ、反逆者の残党を逃さない為、ここの入口を封鎖した。来てくれた皆には申し訳無いが、しばらくここに留まっていて欲しい。」
俺の言葉に耳を傾けていた者達がその言葉を聞いてざわめく。
「落ち着いて、ご婦人方と足の悪い者、体調の優れないものには椅子を用意させる。しばらく我慢して欲しい。衛兵が皆の持ち物検査をさせて頂くが、どうか気を悪くせず協力してくれ。」
俺はそれだけ言うと、後を父上に任せてその場を後にした。
これで、中に居る残党は捕まえることが出来るだろう。
問題はレイラ嬢が既に会場に居ない事だ。どこへ連れていかれた?
今日は来客が多いので、警備も入念にしている反面、貴族相手だ。緩くなっている所も沢山あったのだろう。その隙を突かれた。
くそっ!最悪だ。油断した。
国内のクーデターは制圧したとはいえ、所詮身内の争いだ。何処に残党が隠れているかわからない。俺が表に出るこの機会に必ず動きがあると踏んでいた。
そんな中にレイラ嬢を連れてくるのは正直迷ったが、レイラ嬢を婚約者として早く皆に知ってもらうのもこの機会しかないと思った。俺が付いていれば大丈夫だという奢りもあった。
まさかレイラ嬢が誘拐されるなんて・・・レイラ嬢の存在を知っていた者は限られる。首謀者はその中の誰かか?それとも、今日この場で誘拐を決めたのか?嫌、レイラ嬢と真逆に居た上皇を狙ってレイラ嬢から皆の視線を逸らしている。計画的な犯行か?・・・
レイラ嬢、何処にいる?どこに連れていかれたんだ?誰にも咎められずに外に出るなんて出来ない。嫌、外へ続く通路を守っていた者が全て残党だったとしたら?・・・
「陛下。」
俺が考え込んでいると、アルファスト侯爵が駆けつけてくる。
アルファスト侯爵は真っ先に出入口の封鎖に向かってくれていた。
「怪しいやつが出た形跡はあったか?」
俺は戻ってきたアルファスト侯爵に聞く。
「いいえ、しかし、数人の怪しい衛兵は捉えました。誰にも見られずにレイラ嬢を連れ去れたのは彼等が逃走路にいたのでしょう。」
「アルファスト侯爵、兄達を幽閉している塔をすぐに手分けして探ってくれ。」
俺の言葉に、アルファスト侯爵が疑問の表情をする。
「塔をですか?」
「ああ、俺はルーカスを幽閉している塔へ向かう。後の四箇所は兵を向けてくれ。」
「分かりました。直ぐに向かいます。」
アルファスト侯爵は返事をすると直ぐに指示を出しに向かった。
俺はレイラ嬢はまだ宮廷の中に居ると考えた。
レイラ嬢を攫った目的は何か?
残党の仕業だとするなら、兄達の解放を求めるのではないか?
それなら、レイラ嬢と引き換えに、自分たちは安全な場所から要求を出してくるだろう。
それも考えられる。だが、一人の皇子の要望なら?
レイラ嬢を盾に宮廷から抜け出す事を考えるのでは無いだろうか?
自分勝手な奴らだ。充分ありえる。
俺は走りながら第一皇子のルーカスを幽閉している塔へ向かう。
一番我儘で自分勝手なのはあいつだ。あいつの部下がまだ紛れていたのかもしれない。
第一皇子のルーカスは三十二歳で、その名の通り、俺の一番上の兄だ。最初に生まれた皇子で、その後四年間王子が生まれなかった為、大事に育てられたようで、とても我儘な性格になってしまった。その後皇子が生まれるも、長兄という立場なので、自分が皇帝になるのだと思っていたようだ。
ルーカスが二十四歳になった時、皇帝の後継者の話が出て、自分の番だと思ったのだろう。
所が、父上が時期皇帝に選んだのはまだ十二歳の俺だった。
ルーカスは怒り狂ったと聞く。
俺に一番恨みを持っているのは間違いなくルーカスだ。そして、ルーカスには第一皇子という立場に寄ってきた沢山の支援者がいるはずだ。
レイラ嬢、どうか無事ていてくれ・・・
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