俺の友人は。

なつか

文字の大きさ
10 / 38

翔の場合 3.

しおりを挟む
それ以来、何とか三星くんと話すきっかけはないかと探ってはいるけど、彼は教室にいるときはずっと本を読んでいる。
前は本を読んでいるときに話しかけて睨まれてしまったから、同じ轍を踏むことは避けたい。
とは言っても、昼休みは教室を出て行ってしまうし、帰りも速攻でいなくなる。なかなかタイミングをつかめないまま、明日からはもう夏休み。日和っているとしか言いようがない。
一応この間、意を決して期末テストの結果発表の後に話しかけてみたんだよ。でも、それも結局失敗に終わった。
「いつもすごいね」って、俺としては純粋に成績を褒めたつもりだったけど、後で明希に何がダメだったのか聞いてみたら、一位のお前が言うと取りようによっては嫌味に聞こえる、と言われてしまった。
その通り、三星くんにはまたきっつく睨まれましたとも。
どれだけ取り繕っていても、”本当の俺”は他人の気持ちを推し量れないポンコツなんだろう。小学生の時から全然成長できていない。
反省はするものの、じゃあどうするかといわれても、いくら気を付けても自分では無意識なんだからどうしようもない。ダメな時は明希に注意してもらって、経験値を稼ぐしかないかな。

トイレから教室に戻りつつ心の中でため息をついていると、教室の外で珍しく女子としゃべる明希の姿を見つけた。
「ただいまー明希。どうかしたの?」
「わっ、諏訪野くん…!」
明希の肩に手をまわし、明希の前にいた女子にニコッと笑いかける。彼女は突然登場した俺に驚いた後、ぽっと顔を赤らめて視線をさまよわせた。
「おかえり。なんか映画に出てくれないかって言われて」
「そう、文化祭に出す映画に出てほしいの! もう須藤くんしかいないってくらいぴったりの役柄で!」
人づきあいが苦手な大人しい女の子と、ヤンキー男子。クラスで浮いている二人の甘酸っぱい恋を題材にした青春映画。そんな映画の内容を興奮気味に語るその子と、明らかに困惑顔の明希。
あっ俺から見たら困惑顔だけど、多分他から見たら相当不機嫌に見えると思う。そんな明希に怯まない女の子は珍しいなと思ったけど、この子、確か一年生の時も明希と同じクラスだったはず。だから、明希が見た目に反して実は優しいことを知ってるんだろう。
なぜかすこしモヤッとした気持ちは彼女の次の言葉で吹き飛んだ。
「心優しいヤンキーなんて、この学校じゃ須藤くんにしかできないもん! だからお願いします!!」
「ブッ」
吹き出したら、明希に睨まれた。
「あー、悪いけど夏休みはほとんどバイトだし、家のこともあるから無理だ」
すげなく断る明希にその子は「そこを何とか!」なんて粘ってたけど、予鈴の音でそれも打ち切り。がっくりと肩を落としながら自分のクラスへと帰っていった。
俺はというと、『心優しいヤンキー』にまだツボっている。明希は素行は悪くないから決して”ヤンキー”じゃないけど、見た目だけで言えば間違いなくぴったりだし、”心優しい”のは間違いない。
「いつまで笑ってんだよ」
「ごめんごめん、雨の中捨て猫を拾う明希を想像したらあまりにぴったりで」
そんな心優しいヤンキー少年に女の子が惚れるなんて、あまりに使い古されたシチュエーション。今時ウケるのかな、と正直なところ思うけど、子猫を抱く明希はきっとかわいい。
「明希の出る映画、見たかったな」
「嫌だよ。演技なんてできないし。そういうことは翔みたいなイケメンがやればいい」
「俺だって無理だよ。部活あるし。それに、明希と遊べなくなるのも嫌だし」
せっかく明希と仲良くなれてから初めての夏休みなんだ。ただでさえ明希は夏休みのほとんどをバイトに費やすつもりらしいし、そうじゃない日も勉強しないととか言う。
俺だってほとんど部活だし、大会だってある。そこにさらに他に用事を作られたら、明希と一日も遊ぶことなく夏休みが終わりかねない。
「お前、そういうとこだぞ」
眉間に深い皴を寄せながらも赤く染まる顔をぷいっと横にそらせた明希に自然と顔が緩む。

三星くんのことは気になる。でも、焦る必要もない。どうせ夏休みに入ったら会えないんだし。それなら今は楽しいことだけ考えたほうがいいでしょ。

明希とは大会の後と、八月末にある地元の祭りに行く約束はできた。でも、俺としてはそれは最低限なわけで。
俺の友達も含めて海に行こうって誘ったら秒で断られたし、もっと会いたいって言ったら不可解な顔をされて流された。明希は本当に釣れない。
それなら一緒に宿題をやろうと、空いてる日に連絡して! って言ったけど、明希はスマホを持ってない。こっちから誘おうにも連絡先がお父さんの携帯ってハードルが高すぎる。
でも、絶対に誘ってやる。


なんて意気込んでいたのに、結局夏休み中もともと約束してた二日と、意を決して明希のお父さんに電話して誘った一回だけ。
それも図書館で一緒に宿題しただけで終わり。健全すぎる。
とはいっても、ゲーセンは明希が嫌がるし、カラオケは俺もあんまり好きじゃない。暑すぎるからぶらぶらと出かける気にもならないし、家に誘っても断られる。明希の家も無理だって。そんなんだったから、唯一ちゃんと”遊んだ”って言えるのは夏祭りの日だけ。それでも、偶然俺の友達に会ったら、あいつ帰ろうとするんだもん。慌てて引き留めたら、
「あっちの人たちといたほうが楽しいだろ?」
そんなふうにキョトンとした顔で言うから、さすがの俺も怒った。
「なんでだよ! 俺は明希と来たかったから、明希を誘ったんだよ」
「そんなに俺に気を使わなくてもいい」
「そういうことじゃない!」
いくら真剣に言っても、明希は困ったような顔をするだけで。
俺は愕然とした。

二年生になってから、明希と俺は学校ではいつも二人でいた。
ペアになるような授業ではいつも俺と明希はセットだったし、昼ご飯だって毎日二人で一緒に食べていた。いろんなことを話して、笑って、互いのことを知って、仲良くなれたと思っていた。
俺にとって明希が代わりのいない存在であるように、明希にとっての俺もそうなんだと思っていた。
でも、違った。
いくばくか他の人よりかは心を開いてくれているかもしれない。でも、ゆだねてはくれていない。
明希は、俺がそばからいなくなっても、「仕方がない」できっと終わらせてしまう。手を放してしまえる存在なんだ。


そして、それはその後、確信に変わる。

「……ない、ことも、ないんじゃ、ない…かな?」

明希との間に明確にひかれた線。こちらをうかがう瞳が、その線を超えてこないでくれと懇願しているようで。

でも、そんなの、ダメだ。

許せない。



許さない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦

中岡 始
BL
「好きって言ったら負け」 それが、俺たちの間にある、たったひとつのルールだった。 星遥学園の顔、生徒会長・一ノ瀬結翔と副会長・神城凪。 容姿、成績、カリスマ性――すべてが完璧なふたりは、周囲から「最強ペア」と呼ばれている。 けれどその内側では、日々繰り広げられる仁義なき恋愛頭脳戦があった。 ・さりげない言葉の応酬 ・SNSでの匂わせ合戦 ・触れそうで触れない、静かな視線の駆け引き 恋してるなんて認めたくない。 でも、相手からの“告白”を待ち続けてしまう―― そんなふたりの関係が変わったのは、修学旅行での一夜。 「俺、たぶん君に“負けてもいい”って思いかけてる」 その一言が、沈黙を揺るがし、心の距離を塗り替えていく。 勝ち負けなんかじゃない、想いのかたちにたどり着くまで。 これは、美形ふたりの駆け引きまみれなラブコメ戦線、 ついに“終戦”の火蓋が落ちるまでの物語。

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

青い炎

瑞原唯子
BL
今日、僕は同時にふたつの失恋をした——。 もともと叶うことのない想いだった。 にもかかわらず、胸の内で静かな激情の炎を燃やし続けてきた。 これからもこの想いを燻らせていくのだろう。 仲睦まじい二人を誰よりも近くで見守りながら。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

処理中です...