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お弁当の変
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第16話 お弁当の変
兄ちゃんの『お試し』の恋人になって、2週間。俺はずっと機嫌が良い。兄ちゃんが仮と言えど俺のになったから。それでも誰かと(主に朔夜と)話をしているのを見かけると、嫉妬しちゃうけど。
男性ファッション誌『ケルビン』のモデル撮影の日になった。テーマは『友達とのショッピング』。大型ショッピングモールでの撮影だ。俺は時間通り現場に来るが、スタッフさんが異様にざわついている。いつもの忙しさでのざわつきじゃない。俺はマネージャーに話しを聞くことにした。
「長谷川さん、何かあったんですか?」
「祥くんおはよう。実は相手の男性モデルが、事故に会ってしまって……。」
「え!?」
「今急遽皆で代役を探しているところなの。申し訳ないけれど、撮影に時間がかかってしまうわ。」
「俺は時間大丈夫だけれど、代役って見つかりそうなんですか?」
「それが全然。他の撮影の後とかなら来られる、とかなんだけれども。そうなるとモールに言っている撮影時間から大きくズレてしまうの。下手すると、今回の撮影スケジュール変えないと……。」
「そんなぁ……。」
今回はかなり大きな仕事だからと、気合を入れて来た俺はがっかりした。せっかく兄ちゃんにお弁当作ってもらってきたのに。そう思いカバンの中を見る。
「あれ……? お弁当がない……!」
カバンの中をひっくり返す。いつもの仕事道具しかない。俺は心底落ち込んだ。入れた気合も無くなっていく。
「せっかくのお弁当が……。」
「祥くん、どうかしたの?」
「兄ちゃんが作ってくれたお弁当、忘れてきちゃって。せっかく作ってくれたのに……。」
「しょ、祥くん。そこまで落ち込まなくても……。ほら、ここショッピングモールだから! お昼はどこでも食べられるわよ?」
俺が見るからに落ち込んだからか、長谷川さんは俺を慰めてくれる。けれど、俺はあくまで『兄ちゃんのお弁当』が食べたいのだ。ファミレスとかお惣菜屋のお弁当では意味が無い。そんな時、救世主の声が聞こえた。
「祥! 弁当忘れてるぞ!」
「……お弁当ッ!」
「誰が『お弁当』だ!」
お弁当を持ってきてくれた人が来た。紛れもなく、兄ちゃんだ。俺は兄ちゃんに抱き着く。兄ちゃんからは汗の匂いがするし、息が上がっている。急いで来てくれたみたいだ。それが嬉しくて、思わず兄ちゃんの胸に頬ずりする。直ぐに兄ちゃんは俺を引きはがしてきた。
「祥! 人前ではダメだ。」
「えー!」
「あらぁ? 祥くんのご兄弟かしら?」
後ろを見れば、ディレクターがいる。兄ちゃんが頭を下げる。
「祥の兄の啓です。弟が世話になってます。」
「礼儀正しいのねぇ。私はこの現場のディレクターよ。話は聞いていたけれど、祥くんに本当に似ててイケメンねぇ……。」
「双子ですからね。目とか髪の色とか少し違いますけれど。」
「いいわね……。これはいいわぁ……!」
ディレクターが兄ちゃんの手を掴む。ディレクターの目がぎらついている。
「貴方! 臨時でモデルやってくれないかしら!?」
「……はい?」
ポカンとする兄ちゃん。俺は兄ちゃんに事情を話すことにした。
「実は相手のモデルさんが事故にあっちゃって。代役も今見つかってないから、下手すると日にちを改めての撮影になりそうなんだ。」
「ああ、そういう事で『臨時モデル』か……。俺、目立つのは嫌なので、すみませんが……。」
「報酬は日給2万円よ! どうかしら?」
「すみませんが、やはり雑誌に載るのは嫌です。」
「撮影で使った服、プレゼントするから!」
「すみませんが、お断りします。」
ディレクターがあれやこれやと交渉するも、兄ちゃんは首を横に振る。兄ちゃんも頑固だ。その時。
「……祥くん、ちょっと来て!」
ディレクターに腕を引っ張られ、小声で囁かれる。
「祥くん。お兄さんを説得してくれないかしら?」
「俺が?」
「だって祥くんにお弁当作ってくれる程には、お兄さんと祥くんは仲良しなんでしょう? 貴方が説得すれば、きっと頷いてくれると思うのよ。」
「でも兄ちゃん、目立つのは嫌だから……。」
「祥くんは撮りたくないの? 格好良くなったお兄さんとの、ツーショットを!」
「……兄ちゃんとの、ツーショット。」
普段カメラにも映りたがらない兄ちゃんとの、ツーショット。それも、モデル仕様で格好いい兄ちゃんとの。俺は兄ちゃんに向き直る。ここは何とでも兄ちゃんを説得してやる!
「兄ちゃん! 今回だけでいいから、俺と撮影して!」
「祥、俺写真はちょっと……。ましてモデルなんて玉じゃない。」
「兄ちゃんは撮りたくないの!? 俺とのツーショット!」
「……。」
兄ちゃんの眉間に皺が寄る。悩んでいるサインだ。俺は意を決して兄ちゃんの耳で囁く。
「早く撮影終わったら、兄ちゃんの、舐めてあげる。」
「……ッ!?」
兄ちゃんの顔が赤くなる。俺も顔が熱い。兄ちゃんのモノを舐めるなんて、正直恥ずかしくて溜まらないけれど、効くはずだ。俺は兄ちゃんの耳から顔を離すと、今度は兄ちゃんが俺の耳元で囁いた。
「帰ったら覚えてろよ。」
「……うん。」
兄ちゃんが俺の頭を一撫でする。そしてディレクターに向き直る。
「今回だけ、撮影に参加してもいいですよ。」
「ホント!? 嬉しいわぁ!」
「弟から『お願い』されましたので。」
「フフッ! 祥くんったら、おねだり上手ね! 早速二人とも、準備するわよ!」
ディレクターが皆に声を掛ける。
「代役で祥くんのお兄さんがやってくれるわよ! 皆、準備してあげて頂戴!」
場は安堵し、いつもみたいな忙しさになる。俺は用意された服の着替えに、兄ちゃんは服のサイズ合わせに連れていかれる。
「祥、後でな。」
「うん! 後でね!」
恥ずかしい約束をしたけれど、格好いい兄ちゃんとのツーショットの為! 俺は気合を入れ直した。
兄ちゃんの『お試し』の恋人になって、2週間。俺はずっと機嫌が良い。兄ちゃんが仮と言えど俺のになったから。それでも誰かと(主に朔夜と)話をしているのを見かけると、嫉妬しちゃうけど。
男性ファッション誌『ケルビン』のモデル撮影の日になった。テーマは『友達とのショッピング』。大型ショッピングモールでの撮影だ。俺は時間通り現場に来るが、スタッフさんが異様にざわついている。いつもの忙しさでのざわつきじゃない。俺はマネージャーに話しを聞くことにした。
「長谷川さん、何かあったんですか?」
「祥くんおはよう。実は相手の男性モデルが、事故に会ってしまって……。」
「え!?」
「今急遽皆で代役を探しているところなの。申し訳ないけれど、撮影に時間がかかってしまうわ。」
「俺は時間大丈夫だけれど、代役って見つかりそうなんですか?」
「それが全然。他の撮影の後とかなら来られる、とかなんだけれども。そうなるとモールに言っている撮影時間から大きくズレてしまうの。下手すると、今回の撮影スケジュール変えないと……。」
「そんなぁ……。」
今回はかなり大きな仕事だからと、気合を入れて来た俺はがっかりした。せっかく兄ちゃんにお弁当作ってもらってきたのに。そう思いカバンの中を見る。
「あれ……? お弁当がない……!」
カバンの中をひっくり返す。いつもの仕事道具しかない。俺は心底落ち込んだ。入れた気合も無くなっていく。
「せっかくのお弁当が……。」
「祥くん、どうかしたの?」
「兄ちゃんが作ってくれたお弁当、忘れてきちゃって。せっかく作ってくれたのに……。」
「しょ、祥くん。そこまで落ち込まなくても……。ほら、ここショッピングモールだから! お昼はどこでも食べられるわよ?」
俺が見るからに落ち込んだからか、長谷川さんは俺を慰めてくれる。けれど、俺はあくまで『兄ちゃんのお弁当』が食べたいのだ。ファミレスとかお惣菜屋のお弁当では意味が無い。そんな時、救世主の声が聞こえた。
「祥! 弁当忘れてるぞ!」
「……お弁当ッ!」
「誰が『お弁当』だ!」
お弁当を持ってきてくれた人が来た。紛れもなく、兄ちゃんだ。俺は兄ちゃんに抱き着く。兄ちゃんからは汗の匂いがするし、息が上がっている。急いで来てくれたみたいだ。それが嬉しくて、思わず兄ちゃんの胸に頬ずりする。直ぐに兄ちゃんは俺を引きはがしてきた。
「祥! 人前ではダメだ。」
「えー!」
「あらぁ? 祥くんのご兄弟かしら?」
後ろを見れば、ディレクターがいる。兄ちゃんが頭を下げる。
「祥の兄の啓です。弟が世話になってます。」
「礼儀正しいのねぇ。私はこの現場のディレクターよ。話は聞いていたけれど、祥くんに本当に似ててイケメンねぇ……。」
「双子ですからね。目とか髪の色とか少し違いますけれど。」
「いいわね……。これはいいわぁ……!」
ディレクターが兄ちゃんの手を掴む。ディレクターの目がぎらついている。
「貴方! 臨時でモデルやってくれないかしら!?」
「……はい?」
ポカンとする兄ちゃん。俺は兄ちゃんに事情を話すことにした。
「実は相手のモデルさんが事故にあっちゃって。代役も今見つかってないから、下手すると日にちを改めての撮影になりそうなんだ。」
「ああ、そういう事で『臨時モデル』か……。俺、目立つのは嫌なので、すみませんが……。」
「報酬は日給2万円よ! どうかしら?」
「すみませんが、やはり雑誌に載るのは嫌です。」
「撮影で使った服、プレゼントするから!」
「すみませんが、お断りします。」
ディレクターがあれやこれやと交渉するも、兄ちゃんは首を横に振る。兄ちゃんも頑固だ。その時。
「……祥くん、ちょっと来て!」
ディレクターに腕を引っ張られ、小声で囁かれる。
「祥くん。お兄さんを説得してくれないかしら?」
「俺が?」
「だって祥くんにお弁当作ってくれる程には、お兄さんと祥くんは仲良しなんでしょう? 貴方が説得すれば、きっと頷いてくれると思うのよ。」
「でも兄ちゃん、目立つのは嫌だから……。」
「祥くんは撮りたくないの? 格好良くなったお兄さんとの、ツーショットを!」
「……兄ちゃんとの、ツーショット。」
普段カメラにも映りたがらない兄ちゃんとの、ツーショット。それも、モデル仕様で格好いい兄ちゃんとの。俺は兄ちゃんに向き直る。ここは何とでも兄ちゃんを説得してやる!
「兄ちゃん! 今回だけでいいから、俺と撮影して!」
「祥、俺写真はちょっと……。ましてモデルなんて玉じゃない。」
「兄ちゃんは撮りたくないの!? 俺とのツーショット!」
「……。」
兄ちゃんの眉間に皺が寄る。悩んでいるサインだ。俺は意を決して兄ちゃんの耳で囁く。
「早く撮影終わったら、兄ちゃんの、舐めてあげる。」
「……ッ!?」
兄ちゃんの顔が赤くなる。俺も顔が熱い。兄ちゃんのモノを舐めるなんて、正直恥ずかしくて溜まらないけれど、効くはずだ。俺は兄ちゃんの耳から顔を離すと、今度は兄ちゃんが俺の耳元で囁いた。
「帰ったら覚えてろよ。」
「……うん。」
兄ちゃんが俺の頭を一撫でする。そしてディレクターに向き直る。
「今回だけ、撮影に参加してもいいですよ。」
「ホント!? 嬉しいわぁ!」
「弟から『お願い』されましたので。」
「フフッ! 祥くんったら、おねだり上手ね! 早速二人とも、準備するわよ!」
ディレクターが皆に声を掛ける。
「代役で祥くんのお兄さんがやってくれるわよ! 皆、準備してあげて頂戴!」
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