25 / 35
残暑の香水
しおりを挟む
残暑の厳しい中、俺達はとある香水広告のモデルに抜擢された。抜擢したのは、案の定斎ディレクターだ。
「啓くん、祥くん! 時間通りね! 早速おめかしお願い!」
「はい、よろしくお願いします。」
「ディレクター! よろしくお願いします!」
ディレクターを始めとした現場のスタッフに挨拶をし、二人で楽屋に向かった。
第25話 残暑の香水
用意された衣装は秋物の衣服だった。この時期にしては少し暑い。ヘアメイクをお願いしていると、祥が隣から話しかけてくる。
「兄ちゃん、今回俺達が広告する香水の試供品ってあるのかな?」
「そういえば貰ってなかった気がするな。貰っても、どうしたらいいか分からないが……。」
「だよねぇ。」
「でも雰囲気次第でどうポーズをとるかは変わるから、知りたいのはわかる。」
「純粋に気になるしね。」
そう話していると、ヘアメイクのスタッフが話しかけて来た。
「ヘアメイクが終わったら、最後に試供品の香水をかけさせて貰うから、香水の香りは分かると思うわよ。」
「そうなんですか。それは助かります。」
「教えてくれてありがとうございます!」
「どういたしまして。」
暫くヘアメイクをした後、スタッフが香水を2つ持って来た。
「ヘアメイクは終わりよ。それじゃあそれぞれに香水をかけるわね。」
「『それぞれ』に?」
「今回啓くんにはタイプ1のを、祥くんにはタイプ2の香水を使ってもらうわ。どちらも金木犀の香水だけれども、少し香りが違うのよ。」
そういって俺には色の濃い香水を、祥には色の薄い香水をかける。嗅いでみれば、確かに金木犀の香りがする。
「結構強い香りなんだな。」
「そうなの? 俺のは本物より少しさわやかかな?」
「俺のは結構甘い香りがするなぞ。」
祥に香水をかけて貰った部位を嗅がせる。
「……本当だ。なんて言うか、兄ちゃんらしい香りね。」
「どういう香りだ。」
「うーん? 上手く言えないなぁ……。」
俺達は楽屋を出てスタジオに入る。ディレクターが入って来た俺達を見て目を輝かせた。
「あんらぁ! すっごく素敵よ! 食べちゃいたい!」
「ディレクター、眼が本気です。怖いので勘弁してください。」
「ふふ、冗談よ! さて、香水のパッケージを持ってこっちに立って頂戴!」
「はい! パッケージ貸してください!」
「分かってるわよ! でも先に啓くんから撮影するから、祥くんは待っててね?」
「分かりました。祥、行ってくる。」
「行ってらっしゃい!」
俺は祥に見送られ、用意されたセットに立つ。さて、仕事の時間だ。
______
「啓くん、もう少し顎を下げて! 髪の毛かき上げてみて!」
「啓くん! いいよぉ! キマってるよ!」
「こう、ですかね……。」
俺は試供品の香水を持ち何度かポーズを変え、撮影を進める。ディレクターとカメラマンからの声もかかる。暫くしたらオーケーが出て休憩になる。代わりに祥の撮影が始まる。
「兄ちゃん! 行ってくる!」
「ああ、頑張れよ。」
祥は俺に手を振ってセットの上に立つ。俺とペアルックの衣服で、ディレクター指示のもと先程俺が取っていたポーズと似たポーズをとる。
「祥くん、腕をもう少し前に出して!」
「はい! こうですか?」
「いいよ! そのままでいこう!」
「いや、さっきの啓くんともう少し差別化させたいわね……。少し顔を上げてみて!」
「はい!」
「オッケーよ! そのままで!」
祥の撮影は、俺の取っていたポーズとの差別化でなかなか要望が多い。モデルとして少し経験値が多い祥なら対応が出来ると踏んでの事だろう。暫く撮影した後、今度は二人並んでの撮影だ。
「啓くん、胸元を少し緩める仕草で! 祥くんは顔に商品を近づけてポーズをとって!」
「はい。……こうかな。」
「はーい! こうですか?」
「啓くん! 商品もう少し持ち上げて!」
「はい。」
「うん、二人ともいい感じよ! そのままポーズ取ってて!」
俺は祥とポーズを取って待機する。しばらくして一度写真の確認が入る。その作業中、祥が小声で話しかけてくる。
「兄ちゃん、凄くいい匂いする。」
「香水つけてるからな。」
祥からも爽やかで透き通るような甘い香りがする。ここで少し香りに変化を感じたのに気づいた。
「なんか祥の香水の香り、ふわふわする感じになってないか?」
「そう? でも兄ちゃんの匂いもさっきより薄めだけれども、さっきと違う気がする。なんか、その、ドキドキする……。」
「……祥、今は我慢だ。な?」
「わ、分かっているよ!」
祥が顔を赤らめて俺の胸を叩く。俺はそれを受け止め、ヘアセットが崩れないように撫でる。そこでディレクターから声がかかる。
「お取込み中だけれども、撮影オッケーよ! お疲れ様!」
「お疲れ様です。確認終わったんですね。」
「ええ、二人も見てみて!」
「わぁ! 楽しみ!」
見れば気取った俺とあざといポーズをとった祥が写っている。特に問題はなさそうだ。
「問題無さそうですね。大丈夫かと。」
「俺もです! ありがとうございます!」
「ふふ! そう言ってくれて嬉しいわぁ! 完成、楽しみにしておいて。それと、持ってる商品はそのまま持って帰っていいわよ。気に入ってくれてるみたいだし、会社からもオッケー出てるから!」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「わざわざすみません、有難く頂きます。」
俺はディレクターやスタッフに頭を下げ、楽屋へ戻り帰路についた。
______
マネージャーに自宅まで送ってもらい、玄関を開ける。すると、祥が後ろから抱き着いて来た。
「祥? どうした?」
「兄ちゃん、すっごいいい匂い……。」
「香水のおかげかもな。でも汗かいたし風呂入って流してくるかな。」
「やだ。」
「はぁ?」
祥の言葉に俺は祥を引きはがす。だが後ろに祥が居るので上手く引きはがせない。
「祥、離れてくれないと風呂に入れないんだが。」
「兄ちゃん……。」
「なんだ?」
「俺、その、香水着けたままの兄ちゃんに抱かれたい……。」
祥の『誘い』にドキリとする。『今すぐ抱きたい』と叫ぶ本能を押さえ、俺は祥に話しかける。
「なら、風呂に入ってからまた香水つけてやる。それでいいか?」
「……うん。」
「なら先に祥が浴びて来い。準備あるだろう?」
「……わかった。」
そう言って祥は頬を赤らめながら離れ、一度着替えを取りに部屋へ入っていった。俺はその間、軽めの夕食を作るため台所に向かうのであった。
「啓くん、祥くん! 時間通りね! 早速おめかしお願い!」
「はい、よろしくお願いします。」
「ディレクター! よろしくお願いします!」
ディレクターを始めとした現場のスタッフに挨拶をし、二人で楽屋に向かった。
第25話 残暑の香水
用意された衣装は秋物の衣服だった。この時期にしては少し暑い。ヘアメイクをお願いしていると、祥が隣から話しかけてくる。
「兄ちゃん、今回俺達が広告する香水の試供品ってあるのかな?」
「そういえば貰ってなかった気がするな。貰っても、どうしたらいいか分からないが……。」
「だよねぇ。」
「でも雰囲気次第でどうポーズをとるかは変わるから、知りたいのはわかる。」
「純粋に気になるしね。」
そう話していると、ヘアメイクのスタッフが話しかけて来た。
「ヘアメイクが終わったら、最後に試供品の香水をかけさせて貰うから、香水の香りは分かると思うわよ。」
「そうなんですか。それは助かります。」
「教えてくれてありがとうございます!」
「どういたしまして。」
暫くヘアメイクをした後、スタッフが香水を2つ持って来た。
「ヘアメイクは終わりよ。それじゃあそれぞれに香水をかけるわね。」
「『それぞれ』に?」
「今回啓くんにはタイプ1のを、祥くんにはタイプ2の香水を使ってもらうわ。どちらも金木犀の香水だけれども、少し香りが違うのよ。」
そういって俺には色の濃い香水を、祥には色の薄い香水をかける。嗅いでみれば、確かに金木犀の香りがする。
「結構強い香りなんだな。」
「そうなの? 俺のは本物より少しさわやかかな?」
「俺のは結構甘い香りがするなぞ。」
祥に香水をかけて貰った部位を嗅がせる。
「……本当だ。なんて言うか、兄ちゃんらしい香りね。」
「どういう香りだ。」
「うーん? 上手く言えないなぁ……。」
俺達は楽屋を出てスタジオに入る。ディレクターが入って来た俺達を見て目を輝かせた。
「あんらぁ! すっごく素敵よ! 食べちゃいたい!」
「ディレクター、眼が本気です。怖いので勘弁してください。」
「ふふ、冗談よ! さて、香水のパッケージを持ってこっちに立って頂戴!」
「はい! パッケージ貸してください!」
「分かってるわよ! でも先に啓くんから撮影するから、祥くんは待っててね?」
「分かりました。祥、行ってくる。」
「行ってらっしゃい!」
俺は祥に見送られ、用意されたセットに立つ。さて、仕事の時間だ。
______
「啓くん、もう少し顎を下げて! 髪の毛かき上げてみて!」
「啓くん! いいよぉ! キマってるよ!」
「こう、ですかね……。」
俺は試供品の香水を持ち何度かポーズを変え、撮影を進める。ディレクターとカメラマンからの声もかかる。暫くしたらオーケーが出て休憩になる。代わりに祥の撮影が始まる。
「兄ちゃん! 行ってくる!」
「ああ、頑張れよ。」
祥は俺に手を振ってセットの上に立つ。俺とペアルックの衣服で、ディレクター指示のもと先程俺が取っていたポーズと似たポーズをとる。
「祥くん、腕をもう少し前に出して!」
「はい! こうですか?」
「いいよ! そのままでいこう!」
「いや、さっきの啓くんともう少し差別化させたいわね……。少し顔を上げてみて!」
「はい!」
「オッケーよ! そのままで!」
祥の撮影は、俺の取っていたポーズとの差別化でなかなか要望が多い。モデルとして少し経験値が多い祥なら対応が出来ると踏んでの事だろう。暫く撮影した後、今度は二人並んでの撮影だ。
「啓くん、胸元を少し緩める仕草で! 祥くんは顔に商品を近づけてポーズをとって!」
「はい。……こうかな。」
「はーい! こうですか?」
「啓くん! 商品もう少し持ち上げて!」
「はい。」
「うん、二人ともいい感じよ! そのままポーズ取ってて!」
俺は祥とポーズを取って待機する。しばらくして一度写真の確認が入る。その作業中、祥が小声で話しかけてくる。
「兄ちゃん、凄くいい匂いする。」
「香水つけてるからな。」
祥からも爽やかで透き通るような甘い香りがする。ここで少し香りに変化を感じたのに気づいた。
「なんか祥の香水の香り、ふわふわする感じになってないか?」
「そう? でも兄ちゃんの匂いもさっきより薄めだけれども、さっきと違う気がする。なんか、その、ドキドキする……。」
「……祥、今は我慢だ。な?」
「わ、分かっているよ!」
祥が顔を赤らめて俺の胸を叩く。俺はそれを受け止め、ヘアセットが崩れないように撫でる。そこでディレクターから声がかかる。
「お取込み中だけれども、撮影オッケーよ! お疲れ様!」
「お疲れ様です。確認終わったんですね。」
「ええ、二人も見てみて!」
「わぁ! 楽しみ!」
見れば気取った俺とあざといポーズをとった祥が写っている。特に問題はなさそうだ。
「問題無さそうですね。大丈夫かと。」
「俺もです! ありがとうございます!」
「ふふ! そう言ってくれて嬉しいわぁ! 完成、楽しみにしておいて。それと、持ってる商品はそのまま持って帰っていいわよ。気に入ってくれてるみたいだし、会社からもオッケー出てるから!」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「わざわざすみません、有難く頂きます。」
俺はディレクターやスタッフに頭を下げ、楽屋へ戻り帰路についた。
______
マネージャーに自宅まで送ってもらい、玄関を開ける。すると、祥が後ろから抱き着いて来た。
「祥? どうした?」
「兄ちゃん、すっごいいい匂い……。」
「香水のおかげかもな。でも汗かいたし風呂入って流してくるかな。」
「やだ。」
「はぁ?」
祥の言葉に俺は祥を引きはがす。だが後ろに祥が居るので上手く引きはがせない。
「祥、離れてくれないと風呂に入れないんだが。」
「兄ちゃん……。」
「なんだ?」
「俺、その、香水着けたままの兄ちゃんに抱かれたい……。」
祥の『誘い』にドキリとする。『今すぐ抱きたい』と叫ぶ本能を押さえ、俺は祥に話しかける。
「なら、風呂に入ってからまた香水つけてやる。それでいいか?」
「……うん。」
「なら先に祥が浴びて来い。準備あるだろう?」
「……わかった。」
そう言って祥は頬を赤らめながら離れ、一度着替えを取りに部屋へ入っていった。俺はその間、軽めの夕食を作るため台所に向かうのであった。
0
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる