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女装コンテスト
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斎ディレクターと打ち合わせたりモデルとしての動きを練習していると、大学祭当日はあっという間にやって来た。自分のお手入れも少し面倒な打ち合わせも、全部兄ちゃんに俺を見て欲しいからだ。その為に俺はここまで頑張ったのだ。
コンテストの準備まで、俺は兄ちゃんと皆で屋台を巡る。フランクフルトやフライドポテト、焼き物の屋台なんかも数多くある。
「皆、『沖縄名物店』とかあるよ! ソーキソバとかないかな?」
「やっぱり肉だろ! 焼き鳥買おうぜ!」
「特設ステージで今ダンスやってるって!」
皆思い思いにはしゃぎ、買い物をする。俺は兄ちゃんとはぐれないように手を繋ぎ、ロングポテトを食べている。塩加減が絶妙だ。
「兄ちゃん、ポテト食べる?」
「そうだな、少し貰うか。」
兄ちゃんがポテトに手を伸ばしてきたので、俺はポテトの入った容器を差し出す。一本ポテトを取り出すと、サクサクと食べ舌なめずりをする。それがどうしても夜伽を思い出させて、俺は少し顔が熱くなる。
「なかなかだな。……祥、顔赤いぞ? 大丈夫か?」
「え!? だ、大丈夫!」
「そうか? 無理はするなよ。」
「うん!」
いつも通り元気に返事をして、俺は兄ちゃんの手を引っ張って次の屋台へ向かった。
第29話 女装コンテスト
屋台巡りやアトラクション、特設ステージでのイベントを見て回ると時間はあっという間に過ぎていった。
「祥、そろそろコンテストの準備しないといけないだろう?」
兄ちゃんの声に俺は慌てて時計を見る。待ち合わせ10分前だ。
「もうこんな時間! 兄ちゃん、俺行ってくる!」
「ああ、気を付けてな。」
名残惜しいが兄ちゃんの手を離し、俺は控室へ向かった。時間通りに到着すると、既に斎ディレクターとスタッフが来ている。
「祥くん、いらっしゃい! さぁ、ドレスアップするわよ!」
「はい! 今日はよろしくお願いします!」
「ふふ、腕が鳴るわぁ……!」
スタッフに渡された衣装は秋物のワンピースだ。ストールもある。そして何故か渡される、女性ものの下着。
「ちょっとディレクター! 何で下着まであるの!?」
「あらぁ、祥くんは女の子になるのよ? なら身に着けている物も全部女の子仕様にならなきゃ!」
「そ、そんなぁ……。」
ディレクターの目は狩りをする者の目だ。拒否権はなさそうだ。更衣室へ行き着替えるが、下着の身に着け方が分からない。悪戦苦闘していると、カーテンの向こうから声がかかる。
「祥くん、コレ一人で着れる?」
「うーん、着方がよく分からないかも……。」
「じゃあ手伝うから、見てもいい?」
「お願いします。」
スタッフに手伝って貰い何とか着替える。ワンピースもストールも着替えを手伝ってもらい、何とか更衣室を出る。
「あらヤダ良い女になって来たわね!」
「下着が凄い違和感があるんですが……。」
「そこは慣れよ! さてメイクしちゃうわよ!」
ウィッグを付けヘアメイクをし、更にいつもと違う女性用メイクをされる。かなり時間がかかったものの、何とか準備が終わる。
「祥ちゃん、良い女よ! これは食べちゃいたいくらいだわぁ……!」
「そ、そんなに……?」
「1回鏡見てみなさいよ!」
言われるがまま姿見を見てみる。赤毛のサラサラとした長い髪に、赤を基調としたメイク。ベージュのワンピースにフリルのついたストール。どう見ても別人の俺が居た。
「これが、俺……?」
「祥ちゃん、貴方今は女の子なのよ? 『私』って言いなさい!」
「は、はい……!」
「ふふ、頑張ってらっしゃい!」
俺はディレクターとスタッフに見送られ、控室を出た。
______
「それでは瀬田大学恒例行事『女装コンテスト』を開催いたします!」
特設ステージの真横の控えで、そう宣言するアナウンスの声を聞く。周りを見れば皆可愛い女の子……みたいな男子が集まっている。皆緊張をしてはいるものの、気合を入れているのがわかる。何人かは雑誌で見かけた事のある人気読者モデルもいる。
兄ちゃんの視線が、この人に向けられたら……。
そんなの、嫌だ。負けてられない。俺も気合を入れステージを向く。
「それでは本日限りのミス・瀬田大候補達の登場です! どうぞ!」
順番通りに並んでステージに上がる。観客は歓声を上げて俺達、否、私達を見る。ここまで多くの人に見られるのは初めてだ。手が汗でにじむ。
「それでは順番にアピールしてもらいましょう! 1番の方!」
「はぁい!」
可憐な女性から野太い声の返事が返って来る。何だか頭が混乱しそうだ。それぞれがポーズを取り、体や服をアピールする。アナウンサーとのインタビューでも皆見せ方が上手い。正直自信が無くなってくる。
「それでは8番の方、どうぞ!」
「は、はい!」
いよいよ俺の番だ。練習してきた歩き方で前を出て、アナウンサーの横に立つ。
「本日のコンセプトやポイントは何処でしょうか?」
「えっと、」
言葉に詰まりかけたその時、ステージ近くに兄ちゃんを見た。兄ちゃんは俺を見てた。呆けた顔で、その青の目で、俺だけを見てた。それが嬉しくて。
「私だけを見て欲しい、っていうのがポイントです……!」
そう言って私は兄ちゃんに向けて微笑んだ。それに兄ちゃんは笑って返してくれた。
「……なるほど。それは素敵ですね!」
「ありがとうございます!」
精一杯の笑顔を、私は兄ちゃんに向けた。
コンテストの準備まで、俺は兄ちゃんと皆で屋台を巡る。フランクフルトやフライドポテト、焼き物の屋台なんかも数多くある。
「皆、『沖縄名物店』とかあるよ! ソーキソバとかないかな?」
「やっぱり肉だろ! 焼き鳥買おうぜ!」
「特設ステージで今ダンスやってるって!」
皆思い思いにはしゃぎ、買い物をする。俺は兄ちゃんとはぐれないように手を繋ぎ、ロングポテトを食べている。塩加減が絶妙だ。
「兄ちゃん、ポテト食べる?」
「そうだな、少し貰うか。」
兄ちゃんがポテトに手を伸ばしてきたので、俺はポテトの入った容器を差し出す。一本ポテトを取り出すと、サクサクと食べ舌なめずりをする。それがどうしても夜伽を思い出させて、俺は少し顔が熱くなる。
「なかなかだな。……祥、顔赤いぞ? 大丈夫か?」
「え!? だ、大丈夫!」
「そうか? 無理はするなよ。」
「うん!」
いつも通り元気に返事をして、俺は兄ちゃんの手を引っ張って次の屋台へ向かった。
第29話 女装コンテスト
屋台巡りやアトラクション、特設ステージでのイベントを見て回ると時間はあっという間に過ぎていった。
「祥、そろそろコンテストの準備しないといけないだろう?」
兄ちゃんの声に俺は慌てて時計を見る。待ち合わせ10分前だ。
「もうこんな時間! 兄ちゃん、俺行ってくる!」
「ああ、気を付けてな。」
名残惜しいが兄ちゃんの手を離し、俺は控室へ向かった。時間通りに到着すると、既に斎ディレクターとスタッフが来ている。
「祥くん、いらっしゃい! さぁ、ドレスアップするわよ!」
「はい! 今日はよろしくお願いします!」
「ふふ、腕が鳴るわぁ……!」
スタッフに渡された衣装は秋物のワンピースだ。ストールもある。そして何故か渡される、女性ものの下着。
「ちょっとディレクター! 何で下着まであるの!?」
「あらぁ、祥くんは女の子になるのよ? なら身に着けている物も全部女の子仕様にならなきゃ!」
「そ、そんなぁ……。」
ディレクターの目は狩りをする者の目だ。拒否権はなさそうだ。更衣室へ行き着替えるが、下着の身に着け方が分からない。悪戦苦闘していると、カーテンの向こうから声がかかる。
「祥くん、コレ一人で着れる?」
「うーん、着方がよく分からないかも……。」
「じゃあ手伝うから、見てもいい?」
「お願いします。」
スタッフに手伝って貰い何とか着替える。ワンピースもストールも着替えを手伝ってもらい、何とか更衣室を出る。
「あらヤダ良い女になって来たわね!」
「下着が凄い違和感があるんですが……。」
「そこは慣れよ! さてメイクしちゃうわよ!」
ウィッグを付けヘアメイクをし、更にいつもと違う女性用メイクをされる。かなり時間がかかったものの、何とか準備が終わる。
「祥ちゃん、良い女よ! これは食べちゃいたいくらいだわぁ……!」
「そ、そんなに……?」
「1回鏡見てみなさいよ!」
言われるがまま姿見を見てみる。赤毛のサラサラとした長い髪に、赤を基調としたメイク。ベージュのワンピースにフリルのついたストール。どう見ても別人の俺が居た。
「これが、俺……?」
「祥ちゃん、貴方今は女の子なのよ? 『私』って言いなさい!」
「は、はい……!」
「ふふ、頑張ってらっしゃい!」
俺はディレクターとスタッフに見送られ、控室を出た。
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「それでは瀬田大学恒例行事『女装コンテスト』を開催いたします!」
特設ステージの真横の控えで、そう宣言するアナウンスの声を聞く。周りを見れば皆可愛い女の子……みたいな男子が集まっている。皆緊張をしてはいるものの、気合を入れているのがわかる。何人かは雑誌で見かけた事のある人気読者モデルもいる。
兄ちゃんの視線が、この人に向けられたら……。
そんなの、嫌だ。負けてられない。俺も気合を入れステージを向く。
「それでは本日限りのミス・瀬田大候補達の登場です! どうぞ!」
順番通りに並んでステージに上がる。観客は歓声を上げて俺達、否、私達を見る。ここまで多くの人に見られるのは初めてだ。手が汗でにじむ。
「それでは順番にアピールしてもらいましょう! 1番の方!」
「はぁい!」
可憐な女性から野太い声の返事が返って来る。何だか頭が混乱しそうだ。それぞれがポーズを取り、体や服をアピールする。アナウンサーとのインタビューでも皆見せ方が上手い。正直自信が無くなってくる。
「それでは8番の方、どうぞ!」
「は、はい!」
いよいよ俺の番だ。練習してきた歩き方で前を出て、アナウンサーの横に立つ。
「本日のコンセプトやポイントは何処でしょうか?」
「えっと、」
言葉に詰まりかけたその時、ステージ近くに兄ちゃんを見た。兄ちゃんは俺を見てた。呆けた顔で、その青の目で、俺だけを見てた。それが嬉しくて。
「私だけを見て欲しい、っていうのがポイントです……!」
そう言って私は兄ちゃんに向けて微笑んだ。それに兄ちゃんは笑って返してくれた。
「……なるほど。それは素敵ですね!」
「ありがとうございます!」
精一杯の笑顔を、私は兄ちゃんに向けた。
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