寡黙なお兄ちゃんは小悪魔な弟が気になります。

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ミスコンの行方

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 第30話 ミスコンの行方



 ミスコンの時間がやって来た。俺は祥の女装をまだ見ていないので、どんな装いなのかは知らない。控室には入らないように、とディレクターから指示があったのだ。

「どうなってる事やら……。」
「でも祥の女装、楽しみだよな!」
「そうね! あの顔であの愛嬌でしょ? 優勝狙えるんじゃない?」

 剛や美里たちはウキウキでステージを見る。俺も少しドキドキしてしまう。

「それでは本日限りのミス・瀬田大候補達の登場です! どうぞ!」

 そう司会が言うと、女性のような男子がゾロソロと出てくる。その中でひと際目を惹くのが一人。祥だ。殆ど別人のようだが顔立ちで直ぐにわかった。

「……本当に女子みたいだ。」
「あれ、祥くん? 本当に女子じゃん!」
「私ちょっと女として自信無くすわ……。」

 皆で話をしながら祥を見る。祥は真っすぐ正面を見ているが、緊張をしているようで表情はこわばっている。

「あいつ、大丈夫か? 緊張してるな。」
「そうなの?」
「でも確かに口元固い気がするよね。」

 司会のアナウンスが響く。

「それでは順番にアピールしてもらいましょう! 1番の方!」
「はぁい!」

 可憐な女性から野太い声の返事が返って来る。何だか頭が混乱しそうだ。なんだコレ。

「なんかカオスだな……。」

 浩二のその言葉に俺達は頷いた。

「本日のコンセプトやポイントは何処でしょうか?」
「えっとぉ、『みんなのアイドル』がモチーフでぇす!」

 野太い声でそんな事言われても、何1つ萌えない。確かに見た目はフリルとピンクが良く似合うのだが。

「なるほど! では趣味はありますか?」
「あまぁいお菓子を作るのが得意です!」
「女性らしいですね! 素敵です!」
「ありがとうございますぅ! では皆さんに一言どうぞ!」
「皆ぁ! 私に投票お願いね? 待ってるわ!」
 
 遠くで歓声が聞こえる。それに手を振り返す野太い声の見た目女性。なんだコレ。

「俺、ちょっと混乱してきた……。」
「わかる。こんなに可愛いのに声が野郎なの、ヤバい。」
「本当カオスだな。」

 順番通りにインタビューとアピールが進んでくる。いよいよ祥の出番が来る。

「それでは8番の方、どうぞ!」
「は、はい!」

 祥が緊張した面持ちで前に出る。それが何とも言えず庇護欲に駆られる。

「本日のコンセプトやポイントは何処でしょうか?」
「えっと、」

 そう言いかけて、祥は俺を見た。目が合う。女の子みたいな祥からの目線に、俺の心臓がドクンと跳ねた。可愛い。いつもと違う可愛らしさがあった。祥は俺と目を合わせたまま微笑んだ。

「私だけを見て欲しい、っていうのがポイントです……!」

 祥はそう言い、ふわりとはにかんだ。無性に祥を独り占めしたくなる。腕に抱き留めたくなる。司会がインタビューを続ける。

「……なるほど。それは素敵ですね!」
「ありがとうございます!」
「ちなみに見て欲しい相手はいらっしゃるんですか?」
「はい! 誰かは内緒なので言えませんが。」
「きっと伝わってると思いますよ! それで、趣味はありますか?」
「趣味は読書とショッピングです! その、大好きな人と一緒に過ごすのが好きなので、同じ時間を共有できる読書とショッピングが好きなんです!」
「いいですね! それでは皆さんに一言どうぞ!」
「えっと……、私だけを見て欲しいな? 投票お願いね?」

 祥が照れながら手でハートを作って俺に向ける。あざとく、なにか胸に来るものを感じる。辺りはさっきよりも歓声が上がる。かなり人気があるらしい。

「祥くん、あざとい。」
「私、完全に祥くんに女として負けたわ……。」
「私も……。あんなあざと可愛いの卑怯だよ……。」
「だが男なんだよな……。」

 皆の感想が耳には入るが、頭には入ってこない。さっきの祥の姿が目に焼き付いて離れない。

「……本当、お前って奴は。」

 俺を惑わせるのが得意だ。

 ______

「それでは投票の時間となります! ステージ横にて投票をお願いします! 一人一票ですよ! 14時開票となります!」

 ステージに居たモデルが引っ込み、投票受付時間となる。シールが渡され、それを番号の看板に貼って投票するシステムだ。

「皆、どこに投票する?」
「そりゃ祥くんでしょ! ダントツで可愛かったもの!」
「だが男なんだよなぁ……。惜しいな。」
「ちょっと気持ち分かるけど、惜しむなよ。」

 皆で祥の番号に投票する。既にいくつかシールが張られている。辺りからも評価の声が聞こえる。

「8番、めっちゃ可愛かったよなぁ!」
「あれ本当に男子かよ? 女子じゃね?」
「でも声は男だったよな。」
「あーあ、あんな彼女欲しいわ……。」

 その声に思わずほころぶ。仮とはいえ、祥と付き合っているのは俺なのだ。少し機嫌が良くなった俺はハーブティーを数本買い、会場に戻る。後で祥やディレクター達へ配るためだ。
 投票結果はどうなるのだろう。正直、どうなってもいい。祥が俺の為に女の恰好をして、俺だけを見てくれたのだから。ニヤつきそうな顔を押さえ、俺は会場で開票を待つ事にした。
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