悪役令嬢は、婚約破棄をして騎士団長を目指しておりますわ。

公爵 麗子

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願望のために

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悪役令嬢を演じて見せますわ。そう決心したはずだったのに…。

「ぜ、絶対に嫌です!」
私が悪役令嬢を演じる事に理解を示さないお父様に、私はきっぱりと言い放った。
そんな私にお父様は疲れたように大きくため息を零した。
「ここまで言ってもまだ分からないようだな」
そう言ったお父様は呆れた表情をこちらに向けてきた。
そんなお父様に私は怯む事なく言葉を返す。
「ええ、分かりませんわ!私よりもお兄様の方がよほどこの家の跡継ぎに相応しいです!私では無理ですわ!」
お兄様なら、お父様の言う事を聞くでしょ。
お兄様がこの家の跡継ぎとして育てられてきた事は知っているはずよ。
少しでも私が跡継ぎに相応しくないと言う事を理解して貰わないといけないわ。
私の態度に少し苛立った様子を見せるお父様に、私はさらに言葉を続けた。
「それに、私は今日婚約の解消をお願いするつもりだったのです」
「何?」
私の言葉にお父様は信じられないと言わんばかりに目を大きく見開いた。
そんなお父様の様子に、私は自分の思いをまくし立てる様に言葉を並べていく。
「私はこの婚約が嫌だったのです!婚約者との仲も拗れてしまいましたし、破棄される事を望んだのです!」
「シーラ、落ち着きなさい」
お父様は私の様子に少し慌てる様にそう言った。
しかし私はそんな事を無視してさらに言葉を続ける。
「お父様もそう思われませんか?私よりもお兄様の方が相応しいと!」
「うーむ……」
私の言葉にお父様は何やら悩み始めた。

そんなお父様に私は更に畳み掛けるように言葉を並べた。
「それに私は騎士を目指しているのです!お父様も知っていますよね?」
「ああ、そうだな」
私の訴えにお父様は少し諦めた様な表情を見せた。
そんなお父様の様子に私は勝利を確信したわ。
だけど、それは私の勘違いだったの。
私の言葉にお父様は勝ち誇った笑みを浮かべた後、すぐにニヤリと口の端を吊り上げたの。
そして意地の悪い顔で口を開いたわ。
「お前と私の夢が叶った時も同じ事が言えるかな?」
「……えっ?」
思わぬ返答に私は言葉を詰まらせてしまったわ。
するとお父様は私に追い討ちをかける様に言葉を続ける。
「お前は騎士になりたいのだったな」
「……ええ、そうですが」
私の肯定する言葉にお父様は笑みを浮かべると、優しげな声色で語り掛けてきたわ。
「お前の言う通りだ。お前には才能がある。この国でもトップクラスの実力者になるだろう」
「…………」
まるで自慢の娘を褒める親の様な口調で話すお父様に、私は何とも言えない気持ちになったわ。
そんな私の様子に構う事なく、お父様は言葉を続ける。
「だが、それは本当に幸せと言えるのか?私の夢を継ぐ事が本当にお前の幸せにはならないのか?」
お父様のその言葉に私は何も言い返せなかったわ。
そんな私にお父様は畳み掛けるように言葉を重ねる。
「シーラが騎士団長に憧れるのは、実力でこの国のトップに立ちたいからだ」
「……」
何も言う事が出来ない私をよそに、お父様はさらに続ける。
「お前はどうだ?父親と同じ職業になりたいのか?」
その言葉を聞いた時、私はハッとしてお父様を見つめた。
お父様はそんな私を優しい眼差しで見つめてくる。

「お前が本当にやりたい事を見つけた時、私がお前を認めよう」
お父様はそう言って優しく微笑むと、私の頭をそっと撫でてくれたわ。
そんなお父様の態度に私は込み上げる涙を堪えるのに必死だった。
それから数ヶ月後、騎士団長から私宛に一通の手紙が届いたわ。
手紙の内容は私の騎士への入団を認めると言う内容だったわ。
こうして私は念願の騎士になる事が出来たの。
騎士団に入ってからも私は自分の夢を叶える為に一生懸命頑張ったわ。
そんなある日、私は突然呼び出されて団長の部屋にやって来たの。
「失礼します」
そう言って部屋に入ると、そこには団長の他にお兄様の姿もあったわ。
私の姿を確認すると、団長は私達を席に座らせると話を始めたの。
その内容は今まで考えてもいなかった事で、私の実力を認めてくれた証拠だったわ。
だけどその反面でこのタイミングで私の実力を認めたと言う事は何か理由があるのだろうとも思った。
もちろん、今まで積み重ねてきた私の努力を認められた事は嬉しかったけど、私は内容も聞かずに素直に喜ぶ気にはなれなかったの。
そんな私の気持ちを汲み取ったのか、団長はゆっくりと私に語り始めたわ。
「シーラ、お前は剣の才能がある」
「……ありがとうございます」
団長から告げられたその言葉に私は素直にお礼を口にしたわ。
そんな私に団長はさらに言葉を続ける。
「そしてそれは騎士に向いている才能だ」
「……そうでしょうか?」
騎士としては当たり前の話だけど、私は違うと思っていた。
なぜなら私が目指しているのは騎士ではなく、騎士団長だからだもの。
そんな私に団長は真剣な表情で語りかけてきたわ。
「確かに騎士になるのに剣の才能は必要だ」
「……」
それは分かっていた事だけど、改めて言われると何だか複雑な気持ちになったわ。
そんな私の心情を察したのか、団長はさらに言葉を続けた。
「だが、それはあくまで戦闘技術に優れていると言うだけだ」
「……それがいけないのでしょうか?」
そんな私の言葉に団長は首を横に振りながら口を開いたわ。「いや、そんな事は無い。お前の剣の技術はこの国でもトップクラスだろう」
団長の言葉に私は驚きを隠せなかったわ。
確かに私はこの数年間で騎士団の誰よりも強くなっていた自信があった。
だけど、それはあくまで周りと比べての話だと思っていたわ。
そんな私の気持ちを察したのか、団長はさらに言葉を続けたわ。
「お前はもっと強くなる必要がある」
「……」
真剣な目で見つめる団長に私は何も言えなかったわ。
そんな私にお兄様が語りかけてきたの。
「……父上の言う通りだ。お前はもっと強くなる必要がある」
お兄様の真剣な表情に私は少しだけ驚いたわ。
だけど、すぐに冷静さを取り戻した私はお兄様の言葉に答えたわ。
「……でしたらなぜ騎士団に入れたのでしょうか?私が実力不足だと言う事でしょうか?」
そんな私の反応に、団長は少し困った表情を浮かべると私を見つめてきたわ。
「シーラの実力はこの国でもトップクラスだろう。……だがそれはあくまでこの国の基準での話だ」
「……意味が分かりませんね」
私は苛立ちを隠そうともせずに団長の言葉の意味を問いただしたわ。

すると団長は少し悩んだ様子を見せた後、ゆっくりと口を開いたわ。「シーラ、お前は騎士になりにここに来たわけではないだろう?」
「……はい」
そう言って頷いた私に団長は苦笑を浮かべながら言葉を続けたの。
「そうか……まあ、それはいいとして……だ。お前を騎士団に入れたのは私の個人的な我儘だ」
そんな突拍子も無い事を言い出した団長に対して私は思わず顔をしかめたわ。
そんな私に構わずに団長はそのまま話を続けたの。
「実を言うと、お前には騎士としてではなく別の形で騎士団に貢献してもらいたいと思っていたのだ」
「……おっしゃっている意味が分かりません。それに先程実力が足りないと……」
「確かに今のままのお前では騎士団に相応しくないと思っている」
団長の言葉に私は思わず息を呑んだわ。
そんな私に団長はゆっくりと語り始めたの。
「だがそれはお前の才能を見極める為の試練だと思ってほしい」
「……試練ですか?」
何だか嫌な予感がすると思ったわ。だけどここまで話を聞いておいて今更断れるはずもないと思い、私は話の続きを黙って聞く事にしたわ。
「シーラ、お前には騎士団としてではなく、雇われ冒険者として働いてもらいたい」
その言葉に私は思わず目を見開いたの。
まさか私が騎士団長を諦めさせられるだけでなく、雇われ冒険者になる事まで考えられていたなんて……
あまりの衝撃に言葉を失っている私に団長はさらに言葉を続けたわ。
「もちろんお前が騎士を辞めさせられる訳ではない」
「……本当ですか?」
ようやく出た言葉に団長はゆっくりと頷くと私を見つめたわ。
その表情は真剣そのもので、冗談ではないとすぐに分かったわ。
だから私は素直に答えたの。
「分かりました」
そんな私の返事に、団長は笑みを浮かべると口を開いたの。
「お前ならそう言ってくれると思っていたよ」
団長の言葉に私はただ黙って頷く事しかできなかったわ。
(こんな所で諦めてたまるか!)
そう心の中で呟きながら、私は騎士団長の部屋を後にしたの。
そしてその後は何も言わずに部屋に戻ったわ。
(まだ試練は終わってない!もっと強くなれば騎士に戻れる可能性はあるんだから!)
そんな事を考えながらも私は騎士団長を目指していくのであった。
それに、歳は離れているけれど、子供の頃に助けてもらった騎士団長のことをお慕いしているんですもの。
なんとしてでも、認めてもらい好きになってもわらないといけませんわね。
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