こんなスパダリが義弟のワケない

筒井

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3.父の告白

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 自宅アパートの最寄り駅に着いた俺はコンビニでビニ傘を買って、今日はスーパーに寄らなくていいな、とぼんやり歩いていた。

 普段であればバリバリの肉体労働をこなしてきた父親のために食材を買いに行くのだが、雨の日はそれをしなくていい。父親が外で酒を飲んでくるからだ。

 父親はパチンコもタバコもしない。家では酒も飲まない。

 そんな父親の唯一の楽しみが、雨の日に限って馴染みのスナックに飲みに行くことだった。

 俺が六才の時、母親が病死した。それ以来、男手ひとつで俺を育ててくれた親父。スナックに飲みに行くといっても常識の範囲内での出費のため、家計を任されている俺は口を出すこともなく、それで働く英気を養えるなら良いことだと思っている。

(俺の夕飯は残りの食材でパパッと作るか)

 豚バラの中華炒めにメニューを決めたところで、ちょうどアパートに到着した。

「ただいまー」

 誰もいないとわかっていても、挨拶を欠かさないのは親父のしつけの賜物だ。

「ん?」

 ダイニングキッチンを通り過ぎて自室に向かおうとした俺は、テーブルに一枚のメモ書きを見付けた。父親の字で『今夜は早く帰る。大事な話がある』とあった。

――とうとう来たか。

 伴侶と死別して十二年。息子も手がかからない年頃に成長した。そして何より、家計を管理しているからこそわかることだが、最近の親父は現場の仲間同士の付き合いで度々ある、酒盛りすら断って小金を貯めていたようだった。

 となれば、推測されるのは再婚だ。

 複雑な心境ではあったが、薄れゆく産みの親の記憶より、苦労して育ててくれた父親の幸せを大切にしてやりたい。

(どんな女性でも大丈夫。あの親父が選んだ相手だもんな)

 知らず微笑んだ俺は、カバンから財布だけを取り出してスーパーに向かった。祝いの気持ちを料理であらわすために。

 夜の八時頃になって帰宅した親父は、いつもより豪華な夕飯に目を丸くした。

「どうしたんだ誠二。ずいぶん豪勢だな」
「そりゃ、新しい門出の日だし?」

 俺の言葉に一層驚いた顔をする父親に、にっこりと俺は笑った。

「話したいことって、再婚……だろ? 心配しなくても、俺は親父の人を見る目を信頼してるから。……おめでとう」
「誠二……」

 親父はでかい図体で作業着のまま、きつく俺を抱き締めた。

「ちょ、親父。汗くさい」
「……ありがとう、誠二。お前は俺の自慢の息子だよ……」

 大きな子供のようだと思いながら、昔より小さく感じる背中をポンポンと宥めるように叩くと、俺は親父を風呂に促した。

 風呂上がりの父親と食卓を囲みながら、どんな女性なのかとあれこれ訊ねた。なんでも、雨の日に通っていたスナックのママだということだ。

「秀子さんっていうんだが、その……お前のひとつ下の息子さんがいるんだ」
「子持ち? 別に気にしないよ。弟ができるってことだろ?」

 さばさばした俺の様子にホッとした素振りを隠そうともせず、親父は牛すき焼きを頬張った。

「今週の日曜日に秀子さんと息子さんと会う約束をしてるんだ。お前も着いてきてくれるか?」
「当然だろ。きちんとした格好してったほうがいい?」
「そうだな。高級ホテルのラウンジだから、制服で頼む」
「オッケー」

 今日が木曜日なので明明後日だ。

 進学間近の最中、きっと暮らしぶりは変わるだろう。それでも、俺だってもう十八才だ。

(秀子さんと弟か……。上手くやっていけるといいな)
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