こんなスパダリが義弟のワケない

筒井

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10.聞きたい聞けない

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 それから数日は何事もない、今までどおりの日々だった。高城秀一は学園で俺に話しかけてくることもなく、俺も話しかけることもしなかった。

 ただ一日の終わりに、物件探しの進捗メッセージが送られてくる。なんでも、これから先のシーズンになると九月転勤の社会人が新居を探す時期になるため、出来れば早々に決めるのが得策、と賃貸業者は言っているらしい。

『そういうわけで、明日の放課後に三件、内見をしたいんですが、お兄さんは都合どうですか?』

『委員会もないし問題ないよ』

『よかった。じゃあ夕方四時に明大前で』

 了解、と返信すると、変わらずお辞儀をするタヌキのスタンプが送られてきた。ここ数日で見慣れてしまったゆるいキャラクターに、愛着も湧いてくるというものだ。

(それにしても放課後か……。まさか同級生に会ったりしないよな……?)

 学園内で見知らぬふりをしていても、校外で会っていることがバレてしまっては意味がない。とはいえ、変装なんてしても怪しいだけだ。

(出来るだけ目立たないように……っていうか、目立つのは高城秀一だけで、俺なんて他の人たちの目には映らないよな)

 地味顔でよかった、とよくわからない安堵の溜め息を吐いて、俺はすやすやと眠りについた。

 そして翌朝である。

(うーん……降水確率20パーセント……。微妙……)

 テレビから流れる天気予報に、俺は眉をしかめた。折り畳み傘は荷物になるので持ちたくないが、長傘はもっと持ちたくない。

(まあ、降ってきたらビニ傘買えばいいか……)

 そうして溜まっていく一方の傘置き場を見て見ぬふりで、俺はアパートを後にした。

 放課後まで曇り空は耐え忍んでくれて、授業が終わる頃の空は暗かったが、雨は降っていなかった。曇天の下、私鉄に乗って目的の駅へと向かう。

 内見予定の三件の間取りを見ながら集合場所に向かうと、探すまでもなく高城秀一は見つかった。

(……少女マンガかよ)

 早速女に囲まれている未来の義弟に到着した旨のメッセージを送ると、ふと顔を上げた高城秀一と目が合った。

 途端、ほっとしたように微笑むと、大股で囲みを抜けて高城秀一はこちらにやってきた。

「待たせて悪いな」

「いえ。……その、すみません。お兄さん、ああいう賑やかなの、嫌いでしょう?」

 高城秀一を追ってくる女はいなかったが、イケメンが逃げてしまったためか「ざんねーん」と甲高い声が聞こえてくる。

「別に。嫌いっていうか縁がないって思ってるだけ」

「そうですか? お兄さんモテそうなのに」

「……お前ね、俺のどこを見たらそう言えるの?」

「だって、委員会の――」

 と、途中まで何かを言いかけた高城秀一は、ハッと我に返ったように口をつぐんだ。

「……?」

「す、みません。なんでもないです。時間もないし、不動産屋さんに連絡しますね」

 そのまま高城秀一はスマホを取り出して通話を始めてしまった。

(なんだ? 何を言いかけたんだ?)

 首を傾げていると、通話を終えた高城秀一は不動産屋との集合場所へと俺を誘導する。場所はロータリーの一角だったが、屋外に出てようやく気がついた。ついに雨が降りだしていたのだ。

「うわ、ツイてねー……」

「大丈夫ですよ、オレ傘持ってますから」

 そう言って高城秀一が開いた傘に、俺は思わず声をあげるところだった。

――紺地に、赤のパイピング。

(夢に出てきたのと全く同じ傘……)

 そしてそれを頭上にかざされた瞬間に、どこでそれを見たのか思い出した。

(船越さんが入れてくれた傘と、同じ……)

 あの時、船越さんはお兄さんの傘だと言っていた。しかしもちろん、船越さんと高城秀一は兄弟ではない。

 ……ということはつまり、高城秀一が船越さんに傘を貸した……?

 けれどそれでは、彼女が『俺に感謝』と言ったのはなぜ? 兄の傘だと嘘をついたのはなぜだ?

「どうしたんですか? お兄さん、濡れますよ」

「……ああ、入れてもらうよ」

 訊きたいことはいくつもあったが、それを聞いたらとんでもないこと――まるで夢で見たような――が起きてしまいそうで、俺は口をつぐんで不動産屋を待った。
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