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13.正夢
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待ち合わせ場所に行くと、昨日と同じように女性たちに囲まれる高城秀一の姿があった。昨日は、なんだか大変そうだな、なんて思ったけれど今日はそうはいかない。あの笑顔の下で、あいつが何を隠しているかわからないのだ。
「あ、お兄さん。……っ!」
こちらに駆け寄ってきた高城秀一は、俺が手にしている傘を見るなり、ギクリと表情を変えた。
「……おまたせ」
「……いえ……」
「この傘について話すのは後にしておく。まずは内見に行こうぜ」
「はい……」
すっかり消沈した面持ちの高城を連れて、俺たちは賃貸会社の用意した車に乗って二件の物件を見に行った。
一件目は別の人が内見を希望しているというほうだ。
「3DKで収納もバッチリですし、コンロはIHなんですよ」
「あー、それじゃ人気あるはずですね」
物件会社の人が勧める言葉を連ねる中、高城秀一は昨日と同じように室内の写真をスマホに収めていた。気まずいことがあってもやるべきことはやるのだから、全くソツのない奴だ。
二件目は一件目に比べて難があった。2LDKということで、夫婦の部屋と兄弟の部屋しか取れないのだ。
(それ以外の設備は理想的なんだけど、こいつと同室っていうのはな……)
昨日までの俺ならそれくらい気にしないと言えただろうが、今は疑心のほうが強い。
「それじゃあ、いいお返事を待ってます。特に一件目に関しては早めにご連絡くださいね!」
賃貸会社の車で最寄り駅まで送ってもらった俺たちは、しばらく無言だった。
(俺からなんか言ったほうがいいのか? でもここはコイツが弁明するターンだろ)
押し黙っていると、高城秀一は明大前までの道を指差した。
「これ以上遅くなるとお父さんにも母にも心配かけますから、とりあえず帰りながら話しましょう」
「……おう」
雨上がりの道を二人、並んで歩く。ほどほどに暗くなった街路では、高城秀一が女性に囲まれることも無かった。
「で、どういうことだよ。返答次第ではこの傘へし折るぞ」
「ちょっ……それはやめて下さい。母からのプレゼントなんです」
道理で高校生のものにしては立派な傘だ、と思いながら、無造作にそれを高城に返した。
「ありがとうございます」
「いいから答えろよ。わざわざ船越さんに頼んでまで、遠巻きに俺に接触したのはなんでなんだよ」
「…………」
しばらくの沈黙のあと、ぽつりと高城秀一はある提案をした。
「じゃあ、僕からも質問してもいいですか」
「あ?」
「それに答えてくれたら、全部、正直に話しますから」
「……別に、いいけど」
逆に質問されるとは思っていなかったので不思議に思いながら、何を聞かれるのかと身構えていると、高城秀一は触れられたくないことをずばり訊いた。
「お兄さん、ゲイ……ですよね」
「……っ!」
あまりに驚いたものだから、思わず俺はつまずいていた。
「危な……っ!」
とっさに高城秀一に支えられて、二人の身体が一気に近づく。
(なんでなんでなんでなんで。今まで誰にもバレなかったのに)
ぐるぐると考え込む俺に、高城秀一は顔を近付けて追い討ちをかける。
「答えてください、お兄さん。……お兄さん、ゲイでしょう? 俺そういうの、わかるんですよね」
「……!」
この間見た夢と全く同じ言葉に、俺は驚いて後ずさった。
「おっと。濡れますよ」
しかし抱きかかえられた身体はいっそう距離が近づいただけだった。
(うわ、やば……。クソイケメンがこんな近くに……)
今の状況も忘れて、つい高城秀一をまじまじと観察してしまう。高い身長に鍛えられた身体は、俺一人支えてもびくともしない。しかも甘い顔立ちが間近にある。
(さっきゲイだろって追求した男に、ここまで近づいてコイツは何がしたんだよ)
あれこれと考えて何もできないでいると、不意に高城は瞼を閉じた。
(あ、これは)
――そして、俺たちの距離は徐々に近づき……。
「……っ!」
「あ、お兄さん。……っ!」
こちらに駆け寄ってきた高城秀一は、俺が手にしている傘を見るなり、ギクリと表情を変えた。
「……おまたせ」
「……いえ……」
「この傘について話すのは後にしておく。まずは内見に行こうぜ」
「はい……」
すっかり消沈した面持ちの高城を連れて、俺たちは賃貸会社の用意した車に乗って二件の物件を見に行った。
一件目は別の人が内見を希望しているというほうだ。
「3DKで収納もバッチリですし、コンロはIHなんですよ」
「あー、それじゃ人気あるはずですね」
物件会社の人が勧める言葉を連ねる中、高城秀一は昨日と同じように室内の写真をスマホに収めていた。気まずいことがあってもやるべきことはやるのだから、全くソツのない奴だ。
二件目は一件目に比べて難があった。2LDKということで、夫婦の部屋と兄弟の部屋しか取れないのだ。
(それ以外の設備は理想的なんだけど、こいつと同室っていうのはな……)
昨日までの俺ならそれくらい気にしないと言えただろうが、今は疑心のほうが強い。
「それじゃあ、いいお返事を待ってます。特に一件目に関しては早めにご連絡くださいね!」
賃貸会社の車で最寄り駅まで送ってもらった俺たちは、しばらく無言だった。
(俺からなんか言ったほうがいいのか? でもここはコイツが弁明するターンだろ)
押し黙っていると、高城秀一は明大前までの道を指差した。
「これ以上遅くなるとお父さんにも母にも心配かけますから、とりあえず帰りながら話しましょう」
「……おう」
雨上がりの道を二人、並んで歩く。ほどほどに暗くなった街路では、高城秀一が女性に囲まれることも無かった。
「で、どういうことだよ。返答次第ではこの傘へし折るぞ」
「ちょっ……それはやめて下さい。母からのプレゼントなんです」
道理で高校生のものにしては立派な傘だ、と思いながら、無造作にそれを高城に返した。
「ありがとうございます」
「いいから答えろよ。わざわざ船越さんに頼んでまで、遠巻きに俺に接触したのはなんでなんだよ」
「…………」
しばらくの沈黙のあと、ぽつりと高城秀一はある提案をした。
「じゃあ、僕からも質問してもいいですか」
「あ?」
「それに答えてくれたら、全部、正直に話しますから」
「……別に、いいけど」
逆に質問されるとは思っていなかったので不思議に思いながら、何を聞かれるのかと身構えていると、高城秀一は触れられたくないことをずばり訊いた。
「お兄さん、ゲイ……ですよね」
「……っ!」
あまりに驚いたものだから、思わず俺はつまずいていた。
「危な……っ!」
とっさに高城秀一に支えられて、二人の身体が一気に近づく。
(なんでなんでなんでなんで。今まで誰にもバレなかったのに)
ぐるぐると考え込む俺に、高城秀一は顔を近付けて追い討ちをかける。
「答えてください、お兄さん。……お兄さん、ゲイでしょう? 俺そういうの、わかるんですよね」
「……!」
この間見た夢と全く同じ言葉に、俺は驚いて後ずさった。
「おっと。濡れますよ」
しかし抱きかかえられた身体はいっそう距離が近づいただけだった。
(うわ、やば……。クソイケメンがこんな近くに……)
今の状況も忘れて、つい高城秀一をまじまじと観察してしまう。高い身長に鍛えられた身体は、俺一人支えてもびくともしない。しかも甘い顔立ちが間近にある。
(さっきゲイだろって追求した男に、ここまで近づいてコイツは何がしたんだよ)
あれこれと考えて何もできないでいると、不意に高城は瞼を閉じた。
(あ、これは)
――そして、俺たちの距離は徐々に近づき……。
「……っ!」
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