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1章

4話

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 母は私が怯える様子に困惑していた。
 その原因が私の視線の先にある事に気が付くと、母はすぐに自分の後ろを振り返った。
 自分の背後に見知らぬ男が立っている事に酷く驚いていたが、すぐに男から距離を取ると自分の背中に私を隠した。

「あなたは誰!?」

 母は警戒した様子で男にそう尋ねた。
 男は不気味な笑顔を浮かべたまま、無言でポケットから腕章を取り出して私達に見せた。

「これが何か分かりますか?」

 男が手にしているその腕章は見た事があった。

 この街の警備隊が腕に付けているものだった。しかし男が持っている腕章はこの辺りで見かける警備隊の腕章と少し色が違うのだ。そのうえ、目の前にいるこの男は警備隊の制服も着ていない。

 母も私と同じ事に気が付いた様子で男の問に答える。

「その腕章はこの街の警備隊のものでしょう?でもあなたのそれは色が少し違うわね…」

「そうです。これは警備隊の腕章です。他の隊員のものと少し色が違うのは、これが警備隊長のものだからです」

「警備隊の制服も着ていないあなたが何故それをもっているのかしら?」

 母は至極真っ当な質問をする。

「それはね…。私が警備隊長だからですよ。制服を着ていない理由は追っているターゲットに怪しまれない為です」

「まぁ!警備隊長さんに出会えたのは幸運です。実は先ほど娘が二人組の男に連れ去られて襲われそうになりました。あの男達を探して、しかるべき対処をお願い致します」

「それはそれは…。お嬢ちゃん、怖い思いをしたね。ケガはなかったかい?」

 母の後ろにいる私に男は言葉をかけてきた。

 男は相変わらず何とも言えないじっとりとした目をこちらに向けている。不気味な笑顔も変わらないままだ。
 私はその男に心底気味の悪さを感じていた。そうして男は次の瞬間、信じられない内容の話を始めた。

「でも…。襲われた証拠はあるんですか?それに、先ほどから私は、あなた達の事をずっと見ていました。あなたの持っている武器で男性の頭を背後から思い切り叩きつけたでしょう?そうして、あの男達から金品を奪った。自分の娘を囮にしてはダメですよ。なんて酷い母親なんだ。これは窃盗事件になるんですよ?」

「なんですって!? 娘が攫われて必死に探しあてた時、男達に襲われそうになっていたんですよ!?娘はとても危険で怖い目にあったんです。れっきとした正当防衛です!」

「いや、違う。あなたは自分の娘を囮に使って男達を油断させ金品を盗んだんだ」

「どうしてそうなるのよ!?おかしいでしょう!?娘は怖い思いをしたのよ!子供を守ってなにがいけないのよ!」

「では…。先ほどの男達を連れてきて話を聞きましょうか?正しい証言をしてくれるはすだ」

「なんですって!?」

「それとも罪を認めますか? 認めるなら条件しだいでは見逃してやってもいい」

「条件…!?」

「…今すぐお前の体を俺に差し出せ」


「…!!」

「俺はこの街の警備隊長なんだよ。俺の証言とお前の証言ではどちらをみな信じるだろうか?お前達に勝ち目はないんだ。だから黙って俺に従え。しかし、噂通りの美貌だな…。ガキはあの男どもにくれてやるつもりだったが仕方ない。他の奴に好きにさせる」

 男の提案に寒気がした。私は再びパニックになりかけて母を見る。
 母は一瞬何かを思いついたような顔をして男に話し出した。

「…でも…。私、疑問に思うの。その腕章は本物なのかしら…。本当にあなたはこの街の警備隊長なの?」

「そんな事を言っていいのか?後で後悔する事になるぞ。でも…。まぁいい。証明してやるよ」

 そう言って男は腕章をしまうと、丁度近くにいた警備隊員に話しかける。
 話をかけられた警備隊員はすぐに背筋をピンと伸ばすと男に敬礼をしたのだ。
 さらに他の警備隊も同様の仕草をした。
 男は本当にこの街の整備隊長のようだ。絶望した瞬間だった。母は私の腕を思いきり引っ張る。

「今のうちに逃げるのよ。早く!!」

 そういうと全速力でかけだす。旅で鍛えた私達の足は丈夫で素早くなっていた。
 逃げ出した私達の背後であの男が叫んでいた。

「くそぉぉっ!!何処に行く!!このまま逃げきれると思うなよ!!」

 私達はそのまま全速力で街を駆け抜けるとあっという間に街を出た。そのまま休むことなく森に入って夢中になって走り続けた。
 夜通し歩き続け丸一日かかって森を抜けると私達の体力は限界に近かった。

「まずい奴に目をつけられたわ…。私達は目立つのね…。それにしてもあんなに巨大な街の警備隊長があんなことをするなんて…。隣国の村や町にまで私達が犯罪者だという情報が流れていたら、これから先は相当危険な旅になるわね…」

 母は酷く憔悴した顔をした。

「母さん…。ごめんない。こんな状況になったのは私のせいだ…」

「どうして?そんな事ないわ」

「私、あの街に着いてすぐ、街の案内所であの男を見ていたの。こちらをじっと見ていた。あの時もっと危機感をもっていれば、母さんにその事を伝えていればもっと違ったかもしれない」

「そう…。あの案内所に…。そんな危険な男がいた事に気が付かなかった母さんも悪いのよ。それにあなたが無事でいてくれたことがなにより救いだったわ。それだけでもとても幸運よ。だからね、この状況を二人で乗り越えていきましょう。どうにかなるわよ!きっと大丈夫。乗り越えられるわ」

 母は私に笑いかけた。

「とりあえず、このあたり一帯の隣村は一気に抜けましょう。しばらくは野宿よ。覚悟しなさいよ」

 何でもない事のように明るい声でそう言った母の言葉に、私は再び前向きになれた。

「うん!」

 私は気合を入れて返事をした。

 それから私達は、持っていた保存食で簡単な食事を取り、少しだけ休むと再び歩き始めた。

 それからそんな生活が4日続いた。保存食の節約の為、途中の山林で食べられそうな物を探した。以外な事に母の知識は豊富で食べ物がありそうな場所や木などを探す事に苦労はしなかった。的確にある場所を探すのだ。

 昔読んだ本での知識や旅仲間から教えて貰った情報が役に立っているようだ。

 明るい間はずっと、休みなく歩いた甲斐もあって、このあたり一帯の隣村は抜けだした。しかし、6日目、ついに保存食が底を尽いた。

 次の町に到着したらその先は暫くの間、町や村はない。食べものがある山林などもなく、草と大地の平原が広がっている場所だ。そのため、必然的に次の町で必要な物の調達は必須だった。しかし、どうやって町に入って食料などを調達するかが課題だった。

 どこまで私達の情報が伝わっているのか分からない。迂闊に町に入れないのだ。
 私達は町の入り口が見える道端でどうするかを真剣に考えていた。

 一か八か、背に腹は代えられない。意を決っして村に向けて歩き出した時だった。

 一人の女性が声をかけてきた。

「何かお困りですか?」

 優しそうな年配の女性だった。
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