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2章

20話

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「おい…お前誰だ?」

 背が高くて不機嫌そうな男がいた。顔はわりと整っている。黒髪で少し長めの前髪だ。そこから見える無感情な目は、こちらをじっと見下ろしていた。

 初対面なのに感じが悪い。こいつの第一印象はそんな感じだった。
 男の態度に少しムッとしながらも、これ以上絡まれるのは面倒なので、彼の質問に素直に答えてやることにした。
 一息つくと、にこやかな笑顔を作り、口を開いた。

「はじめまして。僕はレイ・パーカーだよ。今日からこのクラスに転入してきたんだ。これからよろしく」

 モリス夫妻のファミリーネームで必要手続きをしていたからそう名乗った。
 相変わらず立ったまま、無表情で私を見下ろしている。彼は返答もせず、無言のまま微動だにしない。
 なんだか不躾な奴だと腹を立てたものの、こいつはもう放っておこう。そう見切りをつけて再び読んでいた教科書に視線を戻した。

「俺はルーク・クレイブ。お前のすぐ横の席だ。何か分からない事があったら教えてやる」

 教科書に視線を移してから少し間があった後、突然聞こえた彼の声に驚いた私は再び顔を上げた。少し偉そうな物言いが気になったものの、以外にまともな返答が返ってきたことに拍子抜けしてしまった。
 そうして、それまで微動だにせず突っ立ていた彼は突然動き出した。
 私のすぐ横の席にドサリとカバンを置くと、何事もなかったかのようにそのまま黙って座っている。

 しんと静まり返った広い教室にこの男と二人きり。しかもすぐ横にいる。お互い無言のままなので、それがなんだかとても気まずい。そもそも、同年代の異性と接した事がなので、まったく免疫がない私はこの状況にとても戸惑っていた。
 あの時、ケイン先生についていけば良かった。なぜ教室に残ると言ってしまったのか。今更ながら自分の選択を激しく後悔していた。
 早く誰か来ないかな…。そんな事を考えていた時だった。
 男子生徒が一人、教室に入って来た。

「おはよう!おっ!、ルーク、相変わらず早いなぁ…。…!ちょっと聞いてくれよ。昨日さぁ…。…とっ!隣にいる奴は誰だ!見ない顔だな」

  教室に入って来るなり大きな声でそういう。彼のテンションはかなり高い。
 また面倒な奴が来た…!
 私は心の中でそう呟き、盛大にため息を付いた。

「朝からうるさい奴だな。転入生だよ」

 ルークは相変わらず無表情で彼にそう答える。

「転入生!?珍しいな。俺はマシュー。よろしくな!」

 私の目の前に立った彼は人懐っこい笑顔で握手を求めてくる。
 ルークと違ってテンションが高い。茶色の短髪でくっきりとした目が印象的だ。もし女装をさせたら、かなり可愛らしく仕上がりそうだ。

「僕はレイ。これからよろしく」

 にっこりと笑い、彼と握手を交わした。

「俺、君の前の席なんだ。ルークと違ってデカくないから前、見やすいだろう?」

 彼がニッと笑うと、隣の席のルークは無表情から一変してムッとした顔になった。
 つかみどころがない印象だったが案外分かりやすい性格なのかもしれない。

 マシューが来てから次々とクラスメイト達がやって来た。
 しだいに賑やかになっていく教室にベルの音が響く。
 それからほどなくしてケイン先生がやって来た。

「おはよう!早く席につけよ!さて、今日はまず紹介したい人物がいるんだ。レイ、前に出ておいで」

 ケイン先生に呼ばれて彼の横に並ぶと、クラスメイト全員が私に注目していた。

「彼は今日からこのクラスの一員になるんだ。さぁ、挨拶して」

「はい。今日からこの学校に転入してきました。レイ・パーカーと申します。これからよろしくお願いします」

 30人ほどの人間が一斉にこちらを見ている状況に少し戸惑ったものの、何食わぬ顔で無事に挨拶を終えた。

「みんな、よろしくたのむぞ。レイ、もう席についていい。さぁ、早速授業を始める」

 席に戻るまでずっと、大半のクラスメイトがこちら見ている。
 転入生がそんなに珍しいのだろうか。そんな事を考えながら席に着くと、前の席のマシューが振り返って話しかけてきた。

「お前、割と目立ってるな。女子の食いつきがすごいよ。綺麗な顔してるもんな。羨ましいよ」

「ちがうよ。転入生だから物珍しいだけだろう?」

「おい!マシュー、レイ。しっかり聞けよ。随分余裕なんだなあ。次の問題で指名するからな!」

「はい…!」

 速攻でケイン先生に見つかって注意を受けると、ふたりして一気にシュンとなってしまった。

 各授業の間には10分間の休憩があって、転入したての私は、次の休息時間からあっという間にクラスメイトに囲まれていた。
 どこからきたのか、今までどうしていたのか、とにかく質問攻めにあった。隣の席のルークは自分の近くにクラスメイトが集まってくるので、ひどく迷惑そうな顔をしている。、マシューは質問攻めにあっている私を面白がり、一緒に輪の中に入って、しきりに囃し立ててくる。

 それにしても、どうやって返答していいのか分からなくて本当に困った。
 自分自身に設定が必要だったと痛感していた。
 どの質問にも曖昧にしか返える事ができない。早く10分間が過ぎないかと心の中でひたすら祈っていた。
 そんな経緯から次の休み時間には、囲まれる前にすぐに廊下に逃げる事にした。
 そうしてあっという間に午前の授業が終わった。
 さて、昼食の時間だ。

「…食堂。一緒にいってやってもいいぞ」

 隣の席のルークが不意にそう話しかけてきた。相変わらず上からの物言いは変わらないが、もう腹は立たなかった。

「ありがとう。一緒に行ってくれるの?」

 下手にでるとこいつはどんな反応をするのかと興味が沸いて、わざとしおらしく言ってみせた。

「おっ…。おう。一緒に行ってやるよ」

 少し照れているようだ。以外な反応でなんだかとても面白い。

「ありがとう、じゃあ、行こうよ」

 私達が席から立ち上がると、

「俺も一緒に行こうかな」

 そう言って前の席のマシューも立ち上がると、私達は一緒に歩き出した。
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