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2章
25話
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「大丈夫ですか?」
膝を抱えて項垂れているわたしの頭上から突然声が聞こえた。
私は恐る恐る顔を上げると、視線の先には、同じ制服を着ているエルドがいた。彼とは数日前、庭師として出向いた仕事場が彼の家だった事で知り合った。
「エルドさん!?」
「えっ!?レイさん?こんな時間にこんな場所で、一体どうしたんですか?それに顔色がとても悪いよ。大丈夫?」
「はい…。さっき、女の子に告白をされて断ったんです。面識はなかった子ですが、昨日その子に手紙を渡されて、返事を聞かせてほしいからと、ここに来るように言われたんです。それで…。その…断ったら泣かれてしまって…。僕はまだ、誰かを好きになった事がないんです。だから、あの子の悲しみがどれほどのものか正直よくわかりません。でも、あんなに泣くほどあの子を傷つけてしまった…。罪悪感で死にそうです…」
「そんな事があったんですね…。ですが…。罪悪感に苛まれるほどあなたは悪くない。好きでもない相手と無理やり付き合った所でそれは相手に不誠実だよ。それに、こんなにたくさんの人間がいる場所で好意を寄せている相手も自分を好きでいてくれるなんて奇跡なんです。面識のない相手ならなおさらだ。奇跡なんてそうそう起きませんからね。だからあなたは悪くない。気に病む事はないんです」
穏やかな口調でそういうエルドの言葉に、さっきよりもずっと私の心は楽になっていった。
「ありがとうございます。あなたにそういってもらえて、なんだか少し気持ちが楽になりました。」
「あなたはとても優しい人なんですね。それと、これは僕の推測ですが…。昨日、相手から出紙を受け取ってそれを読んだあなたは、断りの文句を考えに考えて悩み続けた結果、結局朝まで寝る事が出来なかった。だから今、睡眠不足なのでは?」
「えっ!?どうしてそこまで分かるんですか!?」
「あなたのその性格を分析したら簡単に分かる事ですよ。まだベルが鳴るまで時間があります。時間になったら僕が起こしてあげるから、少しの間、寝てください」
「えっ…。でもエルドさんに迷惑がかかります。用事があって朝早くからここにいるんでしょう?」
「ええ、その用事はさっき、予定より早く終わりました。だから大丈夫です。僕は君が寝ている隣で本でも読んでいますから」
「え…と…」
穏やかな口調の彼との会話は無意識に気持ちが落ち着いていく。そうしているうちに、次第に瞼は重くなり、うとうとし始めてきた。以前の私の体は多少の睡眠不足でもまったく支障がなかったのに、この世界でこの体になってからは何だかとても疲れやすい。やっぱり少し寝よう。そう思いなおした。
「すいません、お言葉に甘えます」
芝生の上は柔らかいので、そのまま仰向けに寝転がると意識はすぐに遠のいていった。
「…レイさん!そろそろ起きますよ~!」
エルドの声が聞こえて意識がうっすらと戻っていく。
「あ…。はい…。ありがとうございます。とても助かりました。じゃあ、僕は行きます。今度、改めて今日のお礼をさせてください」
覚醒しない意識のまま体を起こすと、フラフラとした足取りのまま、校舎に向かって歩き出した。
しかし、歩き出してすぐ、足がもつれてバランスを崩した。
その瞬間、すぐに腕を掴まれた。エルドが私の腕を掴んで支えてくれていたのだ。彼のおかげで私は地面に転倒することはなかった。
「レイさん、危ないよ。僕が教室まで送っていくよ」
「色々すいません…。ありがとうございます。でも大丈夫ですから」
「危なっかしくて心配です。教室まで送ります」
「いや…大丈夫です。一人で歩けるので」
そういってエルドに腕を放してもらって、大丈夫だといわんばかりに一人で歩くと、とたんにふらつてしまった。エルドが苦笑いをしながら口を開いた。
「その状態のどこが大丈夫なんですか?いいから。送りますね」
「でも…。エルドさんの教室はどこですか?」
「別棟です」
「年長クラスなんですね。でも…それじゃあ、僕の教室から遠いですよ!」
「はい。でも大丈夫ですよ」
エルドはそう私に答えながら穏やかに笑っている。
私がフラフラ歩かないように、エルドにしっかりと腕を掴まれて歩いていると、割とすぐに意識は覚醒していった。真っすぐ歩く事はできたが、結局、エルドにしっかりと教室まで送り届けられてしまった。
「レイさん、席はどこ?」
エルドが私を引っ張って教室に入っていくと、みなエルドに注目している。
見知らぬ生徒が入ってきたら誰でも同然のように驚くのかもしれないが、皆違う意味で驚いているように感じる。特に女子の注目度は高い。その理由はおそらくエルドの容姿だ。彼はとても整った容姿をしている。
エルドによって自分の席に座わらされると、彼は颯爽と教室を去って行った。
「レイ!どうしたの?えっ!あの人だれ?」
「うん…。まあ色々あってね…。気にしないで」
「えー!なに、その気になる言い方。逆にすごい聞きたくなるし!」
マシューは相変わらず朝からテンションが高い。
適当にあしらっているとベルが鳴った。彼の質問攻めから解放されて一安心した。
ルークはそんな私の様子をじっと黙って見ている。
少し眠ったせいだろう、意識はかなりスッキリしていた。
その後、休み時間の度にマシューからの質問攻めの攻撃を受けるものの、どうにか避け続けて、無事に下校時間を迎える事が出来た。仕事も無事にこなして、何事もなく1日を終えてベッドに入ると、今日あった事をおもむろに振り返った。エルドに感謝しなくてはいけない。あの時、寝ておいて良かった。
あのまま寝不足の状態で仕事をしていたら、ミスで怪我をしていたかもしれない。今度エルドには改めてお礼を言おう。つらつらとそんな事を考えていると、次第に瞼は重くなっていった。
膝を抱えて項垂れているわたしの頭上から突然声が聞こえた。
私は恐る恐る顔を上げると、視線の先には、同じ制服を着ているエルドがいた。彼とは数日前、庭師として出向いた仕事場が彼の家だった事で知り合った。
「エルドさん!?」
「えっ!?レイさん?こんな時間にこんな場所で、一体どうしたんですか?それに顔色がとても悪いよ。大丈夫?」
「はい…。さっき、女の子に告白をされて断ったんです。面識はなかった子ですが、昨日その子に手紙を渡されて、返事を聞かせてほしいからと、ここに来るように言われたんです。それで…。その…断ったら泣かれてしまって…。僕はまだ、誰かを好きになった事がないんです。だから、あの子の悲しみがどれほどのものか正直よくわかりません。でも、あんなに泣くほどあの子を傷つけてしまった…。罪悪感で死にそうです…」
「そんな事があったんですね…。ですが…。罪悪感に苛まれるほどあなたは悪くない。好きでもない相手と無理やり付き合った所でそれは相手に不誠実だよ。それに、こんなにたくさんの人間がいる場所で好意を寄せている相手も自分を好きでいてくれるなんて奇跡なんです。面識のない相手ならなおさらだ。奇跡なんてそうそう起きませんからね。だからあなたは悪くない。気に病む事はないんです」
穏やかな口調でそういうエルドの言葉に、さっきよりもずっと私の心は楽になっていった。
「ありがとうございます。あなたにそういってもらえて、なんだか少し気持ちが楽になりました。」
「あなたはとても優しい人なんですね。それと、これは僕の推測ですが…。昨日、相手から出紙を受け取ってそれを読んだあなたは、断りの文句を考えに考えて悩み続けた結果、結局朝まで寝る事が出来なかった。だから今、睡眠不足なのでは?」
「えっ!?どうしてそこまで分かるんですか!?」
「あなたのその性格を分析したら簡単に分かる事ですよ。まだベルが鳴るまで時間があります。時間になったら僕が起こしてあげるから、少しの間、寝てください」
「えっ…。でもエルドさんに迷惑がかかります。用事があって朝早くからここにいるんでしょう?」
「ええ、その用事はさっき、予定より早く終わりました。だから大丈夫です。僕は君が寝ている隣で本でも読んでいますから」
「え…と…」
穏やかな口調の彼との会話は無意識に気持ちが落ち着いていく。そうしているうちに、次第に瞼は重くなり、うとうとし始めてきた。以前の私の体は多少の睡眠不足でもまったく支障がなかったのに、この世界でこの体になってからは何だかとても疲れやすい。やっぱり少し寝よう。そう思いなおした。
「すいません、お言葉に甘えます」
芝生の上は柔らかいので、そのまま仰向けに寝転がると意識はすぐに遠のいていった。
「…レイさん!そろそろ起きますよ~!」
エルドの声が聞こえて意識がうっすらと戻っていく。
「あ…。はい…。ありがとうございます。とても助かりました。じゃあ、僕は行きます。今度、改めて今日のお礼をさせてください」
覚醒しない意識のまま体を起こすと、フラフラとした足取りのまま、校舎に向かって歩き出した。
しかし、歩き出してすぐ、足がもつれてバランスを崩した。
その瞬間、すぐに腕を掴まれた。エルドが私の腕を掴んで支えてくれていたのだ。彼のおかげで私は地面に転倒することはなかった。
「レイさん、危ないよ。僕が教室まで送っていくよ」
「色々すいません…。ありがとうございます。でも大丈夫ですから」
「危なっかしくて心配です。教室まで送ります」
「いや…大丈夫です。一人で歩けるので」
そういってエルドに腕を放してもらって、大丈夫だといわんばかりに一人で歩くと、とたんにふらつてしまった。エルドが苦笑いをしながら口を開いた。
「その状態のどこが大丈夫なんですか?いいから。送りますね」
「でも…。エルドさんの教室はどこですか?」
「別棟です」
「年長クラスなんですね。でも…それじゃあ、僕の教室から遠いですよ!」
「はい。でも大丈夫ですよ」
エルドはそう私に答えながら穏やかに笑っている。
私がフラフラ歩かないように、エルドにしっかりと腕を掴まれて歩いていると、割とすぐに意識は覚醒していった。真っすぐ歩く事はできたが、結局、エルドにしっかりと教室まで送り届けられてしまった。
「レイさん、席はどこ?」
エルドが私を引っ張って教室に入っていくと、みなエルドに注目している。
見知らぬ生徒が入ってきたら誰でも同然のように驚くのかもしれないが、皆違う意味で驚いているように感じる。特に女子の注目度は高い。その理由はおそらくエルドの容姿だ。彼はとても整った容姿をしている。
エルドによって自分の席に座わらされると、彼は颯爽と教室を去って行った。
「レイ!どうしたの?えっ!あの人だれ?」
「うん…。まあ色々あってね…。気にしないで」
「えー!なに、その気になる言い方。逆にすごい聞きたくなるし!」
マシューは相変わらず朝からテンションが高い。
適当にあしらっているとベルが鳴った。彼の質問攻めから解放されて一安心した。
ルークはそんな私の様子をじっと黙って見ている。
少し眠ったせいだろう、意識はかなりスッキリしていた。
その後、休み時間の度にマシューからの質問攻めの攻撃を受けるものの、どうにか避け続けて、無事に下校時間を迎える事が出来た。仕事も無事にこなして、何事もなく1日を終えてベッドに入ると、今日あった事をおもむろに振り返った。エルドに感謝しなくてはいけない。あの時、寝ておいて良かった。
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