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2章
閑話3
しおりを挟む二人がここを出て行って2ヶ月が経った。レイラはローラに追いつく事ができたのだろうか。
レイラが出て行ってすぐ、心配になって後を追ったのが、彼女を見つける事が出来なかった。
あれから二人は何処でどう過ごしているのだろう。彼女達の事を考えない日はない。
近隣の住民にも二人の姿を見ていないか聞き込みをしたが、めぼしい情報を得る事が出来なかった。
一方で二人がここを去ってから嫌がらせはピタリと止まった。悪役令嬢に制裁を。床に散らばったガラス片の上にそう書きなぐられたあのメモが置かれていた。やはり一連の出来事はあの小説が元凶なのだろう。
嫌がられをした人間はもちろん許せない。それよりも妻と子を平然と捨て、その後も彼女達の生活を脅かしたあの本の作者に怒りを抑える事が出来なかった。あの小説に出て来る性悪令嬢のモデルはローラではない。彼女を近くで見てきた自分はそれをきっぱりと断言できる。むしろローラとは真逆の性格だ。
あの事件の時に出来た食器棚の傷をぼんやりと見ていた。
「ねぇ、エスタ?大丈夫?何か考え事?」
いつの間にかノラが近くにいて、心配そうに私を見ている。
「えぇ…。あの二人の事を考えていたの。二人は今何処でなにをしているのかしら…。平穏に過ごしているかしら…」
「そうね…。でも…きっとどこかで二人で頑張っているわよ」
「そうだと良いのだけど…」
そんな話をした数日後の事だった。
私はいつものように昼食の用意をするためキッチンに立っていた。
「エスタ!聞いて!ちょっと!」
どんな時も冷静な態度を崩さないノラが、珍しく取り乱しながら私の元にやって来た。
「そんなに慌てて一体どうしたの?」
「気になる事を聞いたのよ…。あのね、あの日、二人がここを去って行った日の事よ。あの日の早朝、この家から通りに出るあの一本道から男が一人歩いてきたらしいのよ」
「えっ…!?あの道はこの家にだけ続いているのよ?…だとしたら、あの日その時間帯にその道を歩いていたその男がガラスを割った犯人かしら…」
「きっとそうよ、ほら、向こうの家のご主人、仕事の関係で定期的に街に行ったり来たりしているじゃない。さっき帰って来たそうなのよ。そこで偶然会って聞いたのよ。あの日も早朝、街に向かうために荷馬車でこのあたりを通っていて、その時に見たんですって」
「それで!?どんな奴だったの!?」
「とりあえず落ち着いて。全身黒い服でガッシリした体格の男。まだ若かったそうよ。それで不信に思ったご主人がその男の様子を見ていたら道の先でもう一人の男と合流したそうなの。そうして二人で向こうの森に入っていったって」
「レイが家を出て行ったのはまだ夜が明ける前だったわね…。じゃあ、その時はまだこの家の敷地に見知らぬ男が潜んでいたって事?そしておそらく、その男が我が家のガラスを割った犯人…。でも、どうして森になんて入っていったのかしら?人目をさけるため?」
「ご主人が気になって荷馬車を止めて遠くから様子を窺っていたらしいのよ…。そうしたら誰かをさがしているようだったといっていたわ」
「その誰かって?……。他の人間と合流するために?それとも…まさかレイラとローラ!?」
「待って。そんな事…。でも、もしそうだとして、二人があの後、その男達に捕まって酷い事をされていたら?」
「そんな事…!」
「その男についてもっと聞き込みをしてみましょうよ!」
「ええっ。そうね…。二人が心配だわ。もう少し範囲を広げて聞き込みをして見ましょう」
その時だった。背後から突然声が聞こえた。
「俺達も手伝うよ」
声がした方に振り返ると12歳になったばかりのラスがいた。その後ろには他の子供達の姿もある。
「ごめん…。二人の会話をこっそり聞いてたんだ。俺達も二人が心配なんだ。それに俺、こう見えても結構体力はあるんだ。絶対力になれるから。お願い。僕達にも何か手づだわせて」
「私は家の事を手伝うわ。掃除や料理はまかせて!」
そう言ったのは11歳になったばかりのマーシャだ。
他の子供達もみな、一様にうなずいている。
「…分かったわ。でも約束して。危ない事はしないって」
「うん、心配をかける事は絶対にしないよ」
ラスが真剣な表情でそういうと他の子供達も皆、一様に頷く。
「約束よ?みんなで力を合わせて二人を見つけましょう。それに、その男達に大切な私達の家を壊した事、散々嫌がらせをしてくれた罪は償わせないと気が済まないわ」
「そうよ!。絶対に許さないんだから!必ずそいつらをとっつかまえよう。レイやローラさんも探し出して、またみんなで一緒に暮らそうね!」
マーシャがひと際大きな声でそう言うと子供達は真剣な表情で頷いた。
私達はその日から、二人組の男達の素性とレイラとローラを探し出す事に尽力を注いだ。
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