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2章
29話
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「さて、教室でゆっくり話を聞こうか」
マシューはニコニコとした笑顔を向けると私の肩に腕を回す。
あぁ最悪だ…。心の中で呟く。
教室に入ると私は、黙って自分の席に座った。
マシューは私と向かい合わせになるように私の机のすぐ前にある椅子にまたがって座る。それからイスの背もたれの上に組んだ腕を置いて、私の目を真剣な表情で見つめながら口を開いた。
「ではまず。さっき一緒にいた、あのかわいい女の子は誰なんだ?正直に白状しろ」
悪い事をして尋問を受けているような気分だ。
苦笑いを浮かべながらマシューの質問に素直に答えた。
「はい。白状します。あの子は図書係の子です。毎日図書館に通っていて顔見知りになったんです」
深いため息を付きながらマシューにそう答えた。
「そういえば前から疑問だったんだけど、どうして毎日図書館に通ってるんだ?そんなに本が好きなのか?」
「いや…。その逆。本を読む事が出来ないんだ。昔、酷い内容の小説を読んだせいでね。そのトラウマをなんとか克服する為に通っていたんだ。あの子にもそれを手伝ってもらっているんだよ」
「そっか。そんな理由があったんだな…。…でも…だ!誰も行かないあの図書館で女の子と二人っきりなんて…。レイ、君はなんて事をしているんだ…。それはずるいよ?…。僕も行きたい。さっきの話では今日も放課後行くんだろう?」
マシューは私の机に両手をつきながら身を乗り出してそう言った。
「うん…。行くけど…。どれだけ女子に飢えてるんだよ…」
「あぁ、何とでも言え。僕はただ純粋に女子と仲良くなりたいんだ。実はこう見えてかなり奥手なんだよ…」
開き直ったようにそう言い返して来た彼だが少し恥ずかしそうにしている。
社交的で明るい性格の彼はいつもクラスメイトに囲まれているが、確かに女の子と二人だけで話をしている姿は見た事がない。
「奥手ね…。分かった。分かったよ。今度ちゃんとリサを紹介するから。でも、放課後はダメだよ」
「あの子、リサっていう名前なのか!そうか。そうか。で、どうして放課後はだめなんだよ」
この世界にいる母さんに、やっと会えるかもしれないというのに。こんなにうるさい奴が一緒にいたらそのチャンスを逃しかねない。ここは何とか誤魔化さなければ。
「そっ…そうだ!そういえばマシュー、次の授業で課題の発表やるんだろう?準備しなくて大丈夫?」
咄嗟にその事を思い出した。
「…そうだ!すっかり忘れてた…。レイ、教えてくれてありがとう!あっ、さっきの紹介の話、絶対に忘れないよう」
そういうとマシューは慌てて自分の席に向き直すとバタバタとその用意をしだした。
話を終わらせる為の良い材料があった事に安堵しながら、大きなため息をつく。隣であきれた顔で一部始終を見ていたルークが言葉を発した。
「…お疲れ」
「ありがとう…」
短い言葉をかけあった。
午後の授業が終わるとすぐに教室を出た。すでに廊下は下校する生徒でごった返している。大勢の生徒達に紛れながら廊下を歩く。これでマシューに捕まる心配はなさそうだが安心はできない。校舎を出るとすぐに図書館まで全速力で走った。
肩で息をしながら建物の扉を開けると既にリサが来ていた。
「あら、早いわね。私も今来たところよ。ん?どうしたの?息が荒いわよ?」
「う…うん、ちょっと色々あってね。気にしないで」
「ふーんそう。よく分からないけどお疲れ様。さて、ローラさん、来るといいわね。そのまま待ってるのも暇でしょ?はい、特訓の続き」
リサはそういうと再びあの紙の束を差し出してきた。ずっしりと重さのあるそれを両手で受け取ると昼に座っていたイスに座る。リサもすぐに隣に座ると持っていた本を読みはじめた。そのとたん辺りには静寂が訪れた。時折、リサが本のページをめくる音だけが聞こえている。私も渡された紙の束を続きから読み始めた。
ふと、ポツリポツリと雨が窓に打ち付けられる音が聞こえた。
顔を上げて窓の外を見ると曇り空が広がっていた。天窓からの陽が陰った館内は薄暗くなっている。
「急に雨が降って来たわね…今日はきっともう、誰も来ないわ」
リサも雨音に気が付いて顔を上げると天窓を見ながらそう言った。
「雨の日はこんなに薄暗いんだね、ここ。いつも一人で怖くないの?そもそも他に図書係の人はいないの?」
「いないわ。私一人よ。いつもいる場所だし、怖いだなんて特にそんな事を考えた事はないわよ」
「リサは強いんだね」
「そう?普通よ。それに、いつも本に囲まれていられるから、ここは私が一番好きな場所なの」
「そっか。好きな場所か…」
好きな場所…。私のその場所はあの男によってことごとく奪われた。あの男に…。
「ねぇ、ひとつ聞きたい事があったんだ」
「なに?」
「僕と同じ瞳の色をした男、ここによく来る?」
「えっ?あなたの瞳と同じ色の人?そういえば、変わった色をしているわね…。見ないわね…。他に特徴は?」
「薄茶色の髪を真ん中で分けている。左目尻にほくろがあって痩せていて背が高いんだ」
「うーん、記憶にないわね。そもそもあまり人がこないから誰か来たら記憶に残るわよ」
「おかしいな…確かにあの時見たのに…」
「その人がどうかした?」
「いや、なんでもないんだ。忘れて」
「なによ、気になるじゃない」
そんな会話をしている時だった。
ドサッ!
館内で大きな物音が聞こえる。
「え…。何?…今の音。今日はまだ誰も来ていないから中には誰もいないはずだけど…。私、ちょっと見て来るわ」
「僕もいくよ」
そういうと二人で恐る恐る館内へと続く扉を開けた。館内はさらに薄暗い。窓に打ち付ける雨の音がさっきよりもさらに強くなっている。静まり返ったこの場所に雨の音だけが響いている。
マシューはニコニコとした笑顔を向けると私の肩に腕を回す。
あぁ最悪だ…。心の中で呟く。
教室に入ると私は、黙って自分の席に座った。
マシューは私と向かい合わせになるように私の机のすぐ前にある椅子にまたがって座る。それからイスの背もたれの上に組んだ腕を置いて、私の目を真剣な表情で見つめながら口を開いた。
「ではまず。さっき一緒にいた、あのかわいい女の子は誰なんだ?正直に白状しろ」
悪い事をして尋問を受けているような気分だ。
苦笑いを浮かべながらマシューの質問に素直に答えた。
「はい。白状します。あの子は図書係の子です。毎日図書館に通っていて顔見知りになったんです」
深いため息を付きながらマシューにそう答えた。
「そういえば前から疑問だったんだけど、どうして毎日図書館に通ってるんだ?そんなに本が好きなのか?」
「いや…。その逆。本を読む事が出来ないんだ。昔、酷い内容の小説を読んだせいでね。そのトラウマをなんとか克服する為に通っていたんだ。あの子にもそれを手伝ってもらっているんだよ」
「そっか。そんな理由があったんだな…。…でも…だ!誰も行かないあの図書館で女の子と二人っきりなんて…。レイ、君はなんて事をしているんだ…。それはずるいよ?…。僕も行きたい。さっきの話では今日も放課後行くんだろう?」
マシューは私の机に両手をつきながら身を乗り出してそう言った。
「うん…。行くけど…。どれだけ女子に飢えてるんだよ…」
「あぁ、何とでも言え。僕はただ純粋に女子と仲良くなりたいんだ。実はこう見えてかなり奥手なんだよ…」
開き直ったようにそう言い返して来た彼だが少し恥ずかしそうにしている。
社交的で明るい性格の彼はいつもクラスメイトに囲まれているが、確かに女の子と二人だけで話をしている姿は見た事がない。
「奥手ね…。分かった。分かったよ。今度ちゃんとリサを紹介するから。でも、放課後はダメだよ」
「あの子、リサっていう名前なのか!そうか。そうか。で、どうして放課後はだめなんだよ」
この世界にいる母さんに、やっと会えるかもしれないというのに。こんなにうるさい奴が一緒にいたらそのチャンスを逃しかねない。ここは何とか誤魔化さなければ。
「そっ…そうだ!そういえばマシュー、次の授業で課題の発表やるんだろう?準備しなくて大丈夫?」
咄嗟にその事を思い出した。
「…そうだ!すっかり忘れてた…。レイ、教えてくれてありがとう!あっ、さっきの紹介の話、絶対に忘れないよう」
そういうとマシューは慌てて自分の席に向き直すとバタバタとその用意をしだした。
話を終わらせる為の良い材料があった事に安堵しながら、大きなため息をつく。隣であきれた顔で一部始終を見ていたルークが言葉を発した。
「…お疲れ」
「ありがとう…」
短い言葉をかけあった。
午後の授業が終わるとすぐに教室を出た。すでに廊下は下校する生徒でごった返している。大勢の生徒達に紛れながら廊下を歩く。これでマシューに捕まる心配はなさそうだが安心はできない。校舎を出るとすぐに図書館まで全速力で走った。
肩で息をしながら建物の扉を開けると既にリサが来ていた。
「あら、早いわね。私も今来たところよ。ん?どうしたの?息が荒いわよ?」
「う…うん、ちょっと色々あってね。気にしないで」
「ふーんそう。よく分からないけどお疲れ様。さて、ローラさん、来るといいわね。そのまま待ってるのも暇でしょ?はい、特訓の続き」
リサはそういうと再びあの紙の束を差し出してきた。ずっしりと重さのあるそれを両手で受け取ると昼に座っていたイスに座る。リサもすぐに隣に座ると持っていた本を読みはじめた。そのとたん辺りには静寂が訪れた。時折、リサが本のページをめくる音だけが聞こえている。私も渡された紙の束を続きから読み始めた。
ふと、ポツリポツリと雨が窓に打ち付けられる音が聞こえた。
顔を上げて窓の外を見ると曇り空が広がっていた。天窓からの陽が陰った館内は薄暗くなっている。
「急に雨が降って来たわね…今日はきっともう、誰も来ないわ」
リサも雨音に気が付いて顔を上げると天窓を見ながらそう言った。
「雨の日はこんなに薄暗いんだね、ここ。いつも一人で怖くないの?そもそも他に図書係の人はいないの?」
「いないわ。私一人よ。いつもいる場所だし、怖いだなんて特にそんな事を考えた事はないわよ」
「リサは強いんだね」
「そう?普通よ。それに、いつも本に囲まれていられるから、ここは私が一番好きな場所なの」
「そっか。好きな場所か…」
好きな場所…。私のその場所はあの男によってことごとく奪われた。あの男に…。
「ねぇ、ひとつ聞きたい事があったんだ」
「なに?」
「僕と同じ瞳の色をした男、ここによく来る?」
「えっ?あなたの瞳と同じ色の人?そういえば、変わった色をしているわね…。見ないわね…。他に特徴は?」
「薄茶色の髪を真ん中で分けている。左目尻にほくろがあって痩せていて背が高いんだ」
「うーん、記憶にないわね。そもそもあまり人がこないから誰か来たら記憶に残るわよ」
「おかしいな…確かにあの時見たのに…」
「その人がどうかした?」
「いや、なんでもないんだ。忘れて」
「なによ、気になるじゃない」
そんな会話をしている時だった。
ドサッ!
館内で大きな物音が聞こえる。
「え…。何?…今の音。今日はまだ誰も来ていないから中には誰もいないはずだけど…。私、ちょっと見て来るわ」
「僕もいくよ」
そういうと二人で恐る恐る館内へと続く扉を開けた。館内はさらに薄暗い。窓に打ち付ける雨の音がさっきよりもさらに強くなっている。静まり返ったこの場所に雨の音だけが響いている。
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