ラブストーリーの片隅に切り捨てられた私達

麦 若葉

文字の大きさ
31 / 48
2章

29話

しおりを挟む
「さて、教室でゆっくり話を聞こうか」



 マシューはニコニコとした笑顔を向けると私の肩に腕を回す。



 あぁ最悪だ…。心の中で呟く。



 教室に入ると私は、黙って自分の席に座った。

 マシューは私と向かい合わせになるように私の机のすぐ前にある椅子にまたがって座る。それからイスの背もたれの上に組んだ腕を置いて、私の目を真剣な表情で見つめながら口を開いた。



「ではまず。さっき一緒にいた、あのかわいい女の子は誰なんだ?正直に白状しろ」



 悪い事をして尋問を受けているような気分だ。

 苦笑いを浮かべながらマシューの質問に素直に答えた。



「はい。白状します。あの子は図書係の子です。毎日図書館に通っていて顔見知りになったんです」



 深いため息を付きながらマシューにそう答えた。



「そういえば前から疑問だったんだけど、どうして毎日図書館に通ってるんだ?そんなに本が好きなのか?」



「いや…。その逆。本を読む事が出来ないんだ。昔、酷い内容の小説を読んだせいでね。そのトラウマをなんとか克服する為に通っていたんだ。あの子にもそれを手伝ってもらっているんだよ」



「そっか。そんな理由があったんだな…。…でも…だ!誰も行かないあの図書館で女の子と二人っきりなんて…。レイ、君はなんて事をしているんだ…。それはずるいよ?…。僕も行きたい。さっきの話では今日も放課後行くんだろう?」



 マシューは私の机に両手をつきながら身を乗り出してそう言った。



「うん…。行くけど…。どれだけ女子に飢えてるんだよ…」



「あぁ、何とでも言え。僕はただ純粋に女子と仲良くなりたいんだ。実はこう見えてかなり奥手なんだよ…」



 開き直ったようにそう言い返して来た彼だが少し恥ずかしそうにしている。

 社交的で明るい性格の彼はいつもクラスメイトに囲まれているが、確かに女の子と二人だけで話をしている姿は見た事がない。



「奥手ね…。分かった。分かったよ。今度ちゃんとリサを紹介するから。でも、放課後はダメだよ」



「あの子、リサっていう名前なのか!そうか。そうか。で、どうして放課後はだめなんだよ」



 この世界にいる母さんに、やっと会えるかもしれないというのに。こんなにうるさい奴が一緒にいたらそのチャンスを逃しかねない。ここは何とか誤魔化さなければ。



「そっ…そうだ!そういえばマシュー、次の授業で課題の発表やるんだろう?準備しなくて大丈夫?」



 咄嗟にその事を思い出した。



「…そうだ!すっかり忘れてた…。レイ、教えてくれてありがとう!あっ、さっきの紹介の話、絶対に忘れないよう」



 そういうとマシューは慌てて自分の席に向き直すとバタバタとその用意をしだした。



 話を終わらせる為の良い材料があった事に安堵しながら、大きなため息をつく。隣であきれた顔で一部始終を見ていたルークが言葉を発した。



「…お疲れ」



「ありがとう…」



 短い言葉をかけあった。



 午後の授業が終わるとすぐに教室を出た。すでに廊下は下校する生徒でごった返している。大勢の生徒達に紛れながら廊下を歩く。これでマシューに捕まる心配はなさそうだが安心はできない。校舎を出るとすぐに図書館まで全速力で走った。



 肩で息をしながら建物の扉を開けると既にリサが来ていた。



「あら、早いわね。私も今来たところよ。ん?どうしたの?息が荒いわよ?」



「う…うん、ちょっと色々あってね。気にしないで」



「ふーんそう。よく分からないけどお疲れ様。さて、ローラさん、来るといいわね。そのまま待ってるのも暇でしょ?はい、特訓の続き」



 リサはそういうと再びあの紙の束を差し出してきた。ずっしりと重さのあるそれを両手で受け取ると昼に座っていたイスに座る。リサもすぐに隣に座ると持っていた本を読みはじめた。そのとたん辺りには静寂が訪れた。時折、リサが本のページをめくる音だけが聞こえている。私も渡された紙の束を続きから読み始めた。



 ふと、ポツリポツリと雨が窓に打ち付けられる音が聞こえた。

 顔を上げて窓の外を見ると曇り空が広がっていた。天窓からの陽が陰った館内は薄暗くなっている。



「急に雨が降って来たわね…今日はきっともう、誰も来ないわ」



 リサも雨音に気が付いて顔を上げると天窓を見ながらそう言った。



「雨の日はこんなに薄暗いんだね、ここ。いつも一人で怖くないの?そもそも他に図書係の人はいないの?」



「いないわ。私一人よ。いつもいる場所だし、怖いだなんて特にそんな事を考えた事はないわよ」



「リサは強いんだね」



「そう?普通よ。それに、いつも本に囲まれていられるから、ここは私が一番好きな場所なの」



「そっか。好きな場所か…」



 好きな場所…。私のその場所はあの男によってことごとく奪われた。あの男に…。



「ねぇ、ひとつ聞きたい事があったんだ」



「なに?」



「僕と同じ瞳の色をした男、ここによく来る?」



「えっ?あなたの瞳と同じ色の人?そういえば、変わった色をしているわね…。見ないわね…。他に特徴は?」



「薄茶色の髪を真ん中で分けている。左目尻にほくろがあって痩せていて背が高いんだ」



「うーん、記憶にないわね。そもそもあまり人がこないから誰か来たら記憶に残るわよ」



「おかしいな…確かにあの時見たのに…」



「その人がどうかした?」



「いや、なんでもないんだ。忘れて」



「なによ、気になるじゃない」



 そんな会話をしている時だった。



 ドサッ!



 館内で大きな物音が聞こえる。



「え…。何?…今の音。今日はまだ誰も来ていないから中には誰もいないはずだけど…。私、ちょっと見て来るわ」



「僕もいくよ」



 そういうと二人で恐る恐る館内へと続く扉を開けた。館内はさらに薄暗い。窓に打ち付ける雨の音がさっきよりもさらに強くなっている。静まり返ったこの場所に雨の音だけが響いている。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

処理中です...