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2章

31話

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 あっという間に猫はいなくなってしまった。



「あらら…。いっちゃったわね…。ちょうど雨も止んで良かったわ」



 リサは少し寂しそうにしながらも、いつも通りの様子に戻った。



「それにしてもあの猫、一体どうやってこの中に入ったのかしら…」



「確かに…。不思議だね」



 二人で首をかしげる。館内に入るには、受付カウンターがある、この場所からしか行けない。



 それから何事もなく閉館の時間になり、私達はもう一度二人で館内の確認をして、図書館を後にした。





 翌朝教室に入ると、予想通りというかなんというか、教室に入った瞬間マシューが私に詰め寄ってきた。



「レイ…。どうして昨日は先に行ってしまったんだ!期待してたのに…!」



「いや…。だから、放課後はダメだって言ったでしょう」



「じゃあ、今日の昼だ!絶対に逃がさないからな」



「はい、わかりました…」



 私は深いため息をついて返事をした。

 マシューが暴走すると困るので、ストッパー役にルークも連れて行こう。そう思って彼に声をかけようとした。



「断る」



 瞬時に一言で一刀両断されてしまう。まだ何も言っていないのに!心の中で叫んだ。

 ルークは頬杖を突きながらウトウトしている。やはり朝は眠いらしい。彼をなんとか一緒に連れて行く良い方法はないものかと、しばらく考えてみるが良い名案は浮かばなかった。



 私の席の前にいるマシューは、何処かずっと浮かれているように見える。

 マシューにリサを紹介するとはいったものの、少し心配だった。一方で、さっぱりしている性格のリサが、お調子者で騒がしいマシューをどう扱うのか少し興味が沸いていた。逆にそんなリサにマシューがどう反応するのかも見て見たくなった。



 あっという間に午前の授業が終わると、ここからマシューは慌しくなる。私達を食堂に引っ張っていくと、急いで昼食を食べるよう、私達をせっつかせる。



「よし!早く行こう。リサちゃんが待っている」



「もう!さっきから慌しいったらないよ!」



 マシューのうっとおしさに思わず叫んでしまった。

 ふと、隣に座っている女子生徒の髪飾りが目に入った。猫のモチーフの可愛らしいものだった。

 それを見て昨日の子猫の事を思い出すと何気なくその話をした。



「そういえば、昨日の放課後、図書館に子猫が迷い込んでいたんだ」



 「フーン、猫ねぇ」



 マシューにはさほど興味がない話題だったらしい。ルークもそうだろうと思って彼を見ると私の予想を遥かに超えた反応を示した。



「子猫だって!?まだその場所にいるのか!?俺も一緒に行く…!」



 意外な事にルークが猫に反応した。



「猫、好きなの?」



「あれほどかわいいものは、この世に存在しないんだぞ!」



「そっそうだよね…」



 相変わらず無表情ではあるが、ものすごい饒舌に猫の可愛さについて話を始める。

 確かに猫はかわいい。それは分かる。でも…。何てことだろう…いつも無口で無愛想なくせに、猫の話題でそこまで人は変わるものなのかと驚く。



「レイ…。すごいドン引きしてるね…。ルークは意外とああなんだよ。あの見かけのわりに、かわいいものが好きなんだ」



「そうなんだ…」



「それよりも、早く図書館に行こうよ」



 そういってマシューは私の腕を引っ張って歩き出した。



「俺も行く!」



 ルークも後ろからついてくる。

 図書館につくと、扉を開けて中に入る。



「レイ、いらっしゃい」



 扉を開けるとリサはいつものように私を笑顔で出迎えてくれた。

 マシューは扉の後ろに隠れていて、中々姿を現さない。さっきまでの虚勢は一体どうしたのだろう。



「レイ?扉の後ろにだれかいるの?」



「うん、今日は僕の友達を連れてきたんだ。突然でごめんよ!どうしてもここにきたいってきかないものだから。ほら!マシュー出てこい!かっこ悪いよ」



 扉の外側に隠れているマシューを私はあきれ顔で見ると、彼の真後ろに立っているルークが有無も言わさずマシューの背中を強引に押し出した。



「リサ、こっちはマシューで、こっちの大きい方がルーク。二人共僕の友達なんだ」



 リサはマシューの前に立つとニコニコとした笑顔で彼を見ている。



「私はリサよ。よろしく」



 マシューはあたふたしていて、伏せた顔を真っ赤にしている。



「あっあの…はっ…はじめまして。僕は…」



 絞り出した声でマシューがリサに答えようとした時だった



「そうだ!昨日の猫、ここに戻ってきたのよ。ほら見て!」



 突然私の方を向き、リサが話を始める。カウンターの隅から鳴き声が聞こえて、子猫が姿を現した。

 それを見た瞬間、ルークが満面の笑顔で嬉しそうに子猫を呼ぶ。すると子猫は彼の足元までやってきた。彼は嬉しそうに子猫の頭を撫でていると、今まで見たことがないくらいに優しい笑顔をした。

 こんな表情もするんだなと驚く。そんな彼に思わず見とれてしまった。

 私の様子に気が付いたマシューは口を開いた。



 「僕は思うんだよ。あの現象は対象が女性でも同じなのではないかって。奴はまだ、運命の女性に出会っていないから、そんな場面をまだ見た事がないけど、そんな女性が現れたらきっと溺愛するんだろうな…。その人の前ではきっといつも笑っているんだよ」



「えぇっ!?まさか!!大胆な予想だね。そんなルークをまったく想像できないよ…」



 マシューと顔を見合わせてそんな話をしているとリサがルークに話しかけている。



「あなた猫好きなの?」



 子猫に夢中のルークにリサが声をかけると、いつもの無表情に戻ってしまった。ルークは子猫を抱き上げて撫でる。そこから二人は子猫の話で盛り上がってしまった。

 そんな二人の姿を横目で見ながらマシューが涙目で私に縋りついてくる



「なんであんなに二人で楽しそうに話してるんだ!あんな愛想の欠片もない男に負けてるなんて…。レイ、何とかしてよ。頼むって…!」



 私は苦笑いをしながら彼に答える



「分かった。分かったよ。いい?これは貸しだよ?ルークからリサを引きはなしたらいいんだろう?」



「レイ~!恩に着る!」



「ねぇリサ、昨日のあの例の箇所、明るいうちにしらべてみるんでだろう?」



「そうだった。早速調べてみましょう」



 私がそういうと、リサはすぐに館内に入って行ってしまった



「まって僕達も行くよ」



 私達3人も館内に入っていった。
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