ラブストーリーの片隅に切り捨てられた私達

麦 若葉

文字の大きさ
35 / 48
2章

32話

しおりを挟む
 
 
 急いでリサの後に続いた。

 ルークは抱いていた子猫を名残惜しそうにカウンターの中に戻すと私の後ろをついてくる。



「ちょ…ちょっと待って!僕も行く!」



 一人その場に残されていたマシューは私達を追い越すと、慌ててリサを追いかけて行った。



 相変わらず騒がしい奴だなと思いながら、リサを追いかけて行く彼の背中を見送る。



 館内の長い通路を歩いていると、さり気なくルークが私の隣にやってきた。相変わらず無表情だ。 

 さっきまで子猫に向けていた彼の穏やかで優し気な笑顔を思い出す。もしも、そんな表情を彼から向けられたのなら、私はその時どんな反応をするのだろう。そんな事を考えながら隣を歩いているルークをぼんやりと見ていた。



「ん?何?」



 私の視線に気が付いたルークが怪訝そうにこちらを見ている。



「えぇっ!?あ…。いや、何でもない…」



 彼と視線が合った事に思わずはっとして、しどろもどろになる。



 さっきからどうも落ち着かない。いつもなら二人でいる時間はまったく気にならないのに、今のこの感覚がもどかしい。何か話をする?でも何を?どうも調子が狂う。なんと説明していいのか分からない不思議な気持ちが大きすぎて持て余してしまう。

 何故今、私はこんな気持ちになっているのか?自分の中で自問自答していると珍しくルークから話しかけてきた。



「ここ、初めて来た。中はこんなに広かったんだな。で、これから何を確認しに行くんだ?」



「そうだ、説明してなかった。実は昨日…」



 ルークにそう言われて昨日あった出来事を説明した。



 説明を終えた時、前方にリサとマシューの姿が見えた。



 彼らは壁面棚の一角に立って話をしている。



「でね、この角の一番下の棚の本がいつも適当に本が置かれているのよ。みつけたらすぐ綺麗に並べ直すんだけどね」



「なるほど」



 リサがマシューに昨日あった出来事と、この場所を調べたい経緯と理由を説明していた。



「じゃあそこ。そこの一角にある本を全部どかしてみましょう」



 リサがその場所を指さす。



「えぇっ!?そこにある本、全部だすの?結構量があるよ?」



「ええ、そうよ。念入りに調べたいのよ。私がそこから本を出していくから、あなたはそれを私から受け取って横に置いて行って。その方が流れ作業で早いでしょう?」



「あぁ、そうか。そういう事ね。分かったよ。でもそこから本を取って渡すには結構力がいるよ。分厚くて重そうな本ばかりだし。僕がそっちをやるよ」



「そう?ありがとう。じゃあ私が本を受け取るわね。早速始めましょう」



 マシューは床に膝をついて本を取り出していく。リサは彼の横に立ち膝をついて本を受け取る。

 テキパキと指示を出すリサにマシューは最初少したじろぎ気味だったが、いざ作業が始まると意外にも二人の息はぴったり合っていた。

 次々と二人で棚から本をどかしていくと、瞬く間に何も置かれていない空間が出来上った。



「さて、これくらいでいいかしら。この奥に何かあるのかしらねえ…。さっそく調べてみるわ」



 リサは本をどかして何もなくなった空間に四つん這いになり、そこに頭を入れて奥を確認している。



「え!?何?奥に空間があるわ!このまま先に行って見るわね!」



 空間の奥に頭を入れたままリサが少し興奮気味にそんな事を言い出した。



「えぇ!?危ないよ!僕がやるから!女の子にそんな事させられないよ!」



 マシューが慌ててリサを止めようとしたが、彼女には聞こえていないのか、奥から出て来る事はなかった。



 心配になった私達は慌ててリサの後を追って中に入った。



 驚く事に、先に進む事ができる空間があった。人、一人分くらいの大きさだ。

 中は真っ暗で狭い、四つん這いになりながら慎重に先を進んでいく。

 やがてうっすらと光が見えてきて、ついに空間の外に出る事ができた。

 先に到着していたリサは慎重に辺りを見回しながら立っている。



「リサ…、ここは?」



「さぁ、どこかしら」



 私達は鬱蒼とした森の中にいた。

 朽ちかけた大きな切り株が通路の入り口になっていて私達はそこから出てきた。その場所は草木で覆われていて遠目から見えない。

 そんな会話をしているとマシューとルークも出てきた



「大丈夫だった!?先にいっちゃうんだもん、心配したよ」



「で、ここ、どこ?」



 ルークが辺りを見回しながら口を開いた。



 辺りは木々に囲まれていて、私達が一体何処にいるのかよく分からない。

 少し歩くとすぐに図書館の建物が見えてきた。



「あそこから館内が繋がっていたみたいね。じゃぁあ、そこから誰か館内に忍び込んでいたのかしら…?昨日聞こえた大きな音もその侵入者の仕業?でもどうしてわざわざこんな道を通ってくるのかしら…。正面から堂々と入ってきたらいいじゃない」



「うーん…。そうだね。訳が分からないね…。とりあえず戻ろうか」



 私達は図書館に向かって歩き出した。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

処理中です...