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3章
閑話4
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長い間投稿が滞っていました。申し訳ありません。
ドアのノックが聞こえて、人が部屋に入って来る。
「失礼します。まだ支度をされていないんですか?まあ、良いです。時間がないのでそのまま聞いてください。今日の予定ですが…」
寝着のままの僕を無表情で一瞥しているこの男は僕の秘書だ。
この男を雇ったのはちょうど半年前。
本が売れて大金が入るようになった僕は、妻と共にこの屋敷に移り住んできた。移り住んで間もなく、屋敷には毎日のように様々な商人が訪れ、あらゆる物を売り込みに来るようになった。仕事に専念したい僕はその対応の全てを妻に任せていた。やがてそのうちの一部は頻繁に出入りするようになって、そんな商人の一人に紹介された人物がこの男だった。
僕の大ファンだと言って、出会って早々、秘書として雇ってほしいと懇願してきたのだ。ちょうどスケジュール管理も難しくなるほど仕事に忙殺されていた僕はそれを承諾したのだ。
この男は生真面目で几帳面な性格だ。その性格を反映するように、びっしりと文字が並んだ手帳を開く。それからその手帳を見ながら、長い呪文でも暗唱するかのように今日の僕のスケジュールを伝え始めた。
まだ目が覚め切っていない僕は適当に彼の言葉を聞き流しながら、ダラダラと身支度を始めた。
ジャケットの最後のボタンを閉め終わってもまだ、何やら話をしているので、そんな秘書にぶっきら棒に声をかける。
「もう話は終わった?さっさと行こう」
秘書は話を中断された事に怪訝な目を向けながらも僕の後ろを黙ってついてくる。
昼食の時間を大幅に過ぎても、その日のスケジュールの半分も終えていない事に嫌気がさしていた。
「次の約束まで少し時間があります。遅くなりましたが、どこかで昼食をとりましょう。店を探してきますので、申し訳ありませんが、少しここで待っていてください」
そういうと秘書は辺りをきょろきょろしながら足早にその場から去って行った。
一人残された僕は、ひどく疲れていたので素直に秘書の言葉に従うことにした。
昼下がりの街中の広場は珍しく人がまばらだった。その広場にある噴水の縁に腰を掛ける。
背後から、打ち上げられては水面に落ちる水飛沫の音が聞こえている。その音を聞きながらぼんやりとしていると、まばらではあるがさっきまで人がいたのに、辺りに誰もいない事に気がつく。
ただ背後で、水が落ちる音だけが聞こえている。
どれくらいそこでそうしていたのかよく分からない。秘書はまだ戻ってきていないようだ。ふと前方に視線を向けると、目の前には真っ白な猫がいて、こちらをじっと見て座っていた。
いつのまにそんなところに猫がいたのだろう。純白の美しい毛並みが目を引く。上等な宝石のような深い青色の瞳がじっと僕を見ている。
もっと近くでその瞳を見てみたい。不思議とそんな欲望に駆られていた。でも、ここから少しでも動いたらその猫は逃げてしまいそうだった。
何か食べ物で釣ろうか。警戒されないようにゆっくりとした動作でポケットの中に手を入れた。しかし、何も見つける事ができない。そうこうしていると猫は徐に歩き出し、その場から離れて行く。いけない。このままでは見失う。
咄嗟にそう思った僕は、気が付けば猫を霧中で追いかけていた。
ドアのノックが聞こえて、人が部屋に入って来る。
「失礼します。まだ支度をされていないんですか?まあ、良いです。時間がないのでそのまま聞いてください。今日の予定ですが…」
寝着のままの僕を無表情で一瞥しているこの男は僕の秘書だ。
この男を雇ったのはちょうど半年前。
本が売れて大金が入るようになった僕は、妻と共にこの屋敷に移り住んできた。移り住んで間もなく、屋敷には毎日のように様々な商人が訪れ、あらゆる物を売り込みに来るようになった。仕事に専念したい僕はその対応の全てを妻に任せていた。やがてそのうちの一部は頻繁に出入りするようになって、そんな商人の一人に紹介された人物がこの男だった。
僕の大ファンだと言って、出会って早々、秘書として雇ってほしいと懇願してきたのだ。ちょうどスケジュール管理も難しくなるほど仕事に忙殺されていた僕はそれを承諾したのだ。
この男は生真面目で几帳面な性格だ。その性格を反映するように、びっしりと文字が並んだ手帳を開く。それからその手帳を見ながら、長い呪文でも暗唱するかのように今日の僕のスケジュールを伝え始めた。
まだ目が覚め切っていない僕は適当に彼の言葉を聞き流しながら、ダラダラと身支度を始めた。
ジャケットの最後のボタンを閉め終わってもまだ、何やら話をしているので、そんな秘書にぶっきら棒に声をかける。
「もう話は終わった?さっさと行こう」
秘書は話を中断された事に怪訝な目を向けながらも僕の後ろを黙ってついてくる。
昼食の時間を大幅に過ぎても、その日のスケジュールの半分も終えていない事に嫌気がさしていた。
「次の約束まで少し時間があります。遅くなりましたが、どこかで昼食をとりましょう。店を探してきますので、申し訳ありませんが、少しここで待っていてください」
そういうと秘書は辺りをきょろきょろしながら足早にその場から去って行った。
一人残された僕は、ひどく疲れていたので素直に秘書の言葉に従うことにした。
昼下がりの街中の広場は珍しく人がまばらだった。その広場にある噴水の縁に腰を掛ける。
背後から、打ち上げられては水面に落ちる水飛沫の音が聞こえている。その音を聞きながらぼんやりとしていると、まばらではあるがさっきまで人がいたのに、辺りに誰もいない事に気がつく。
ただ背後で、水が落ちる音だけが聞こえている。
どれくらいそこでそうしていたのかよく分からない。秘書はまだ戻ってきていないようだ。ふと前方に視線を向けると、目の前には真っ白な猫がいて、こちらをじっと見て座っていた。
いつのまにそんなところに猫がいたのだろう。純白の美しい毛並みが目を引く。上等な宝石のような深い青色の瞳がじっと僕を見ている。
もっと近くでその瞳を見てみたい。不思議とそんな欲望に駆られていた。でも、ここから少しでも動いたらその猫は逃げてしまいそうだった。
何か食べ物で釣ろうか。警戒されないようにゆっくりとした動作でポケットの中に手を入れた。しかし、何も見つける事ができない。そうこうしていると猫は徐に歩き出し、その場から離れて行く。いけない。このままでは見失う。
咄嗟にそう思った僕は、気が付けば猫を霧中で追いかけていた。
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