ラブストーリーの片隅に切り捨てられた私達

麦 若葉

文字の大きさ
42 / 48
3章

39話

しおりを挟む
 
 
 結局、朝まで眠る事が出来なかった。

 あれから完全に眠気が吹っ飛んでしまった私は、気持ちよさそうに眠るミゲラに、ベッドを明け渡して、部屋の隅で突っ伏しながら三角座りをして夜を明かした。朝になってベッドの上で目を覚ました子猫はそんな私を見て小さく悲鳴を上げた。



『…!!レイ?どうしてそんな所にいるの?…何かあった…!?』



「いや…。何かあったじゃないよ。どの口がそんな事言うの?」



 寝不足でじっとりしている視線を子猫に向ける。

 そんな私の様子を見てミゲラは慌てている。



『ひょっとして見てしまったのか…』



「はい、見ましたよ」



「たまに夜のほんの少しの間だけ元の姿に戻るんだよ。服がないからいつもとても困ってた」



「えっ!?じゃぁ学校の敷地にいた時もそんな事があったの?」



『そう。まぁ、いつも夜中に戻るんだけどね』



「それって…もし誰かに見られてたら完全に変質しゃ…」



『レイ…?それ以上は言わないで。こう見えても僕はガラスの心の持ち主なんだよ?』



「あぁごめん。まぁ…色々大変だったわけだね。好きでそうなっているわけでもないし…。ミゲラが要らない苦労をしているのは私の責任でもあるしね」



『まあまあ。そんなに自分を責めないでよ。僕が自分の意志であの時ああしてこうなっているから、君は悪くない。でも…また元の姿に戻ったら…。また君を驚かせるよね。でも…君の服だとサイズが合わなかったし。あっ!君には何もしてないからね!?こう見えても僕は清らかな存在なんだよ』



「それはそうと…。…ん?ちょっと待って。私の服、着ようとしたんだ?」



『うん。きつくて着れなかった』



「さらっと言うんだね…。じゃぁ…。ルークかマシューに着なくなった服があったら譲ってもらえるようにお願いしてみようかな」



『レイ!ありがとう!恩に着るよ!』





「レイ!起きてる?ご飯よ!」



 そんな会話をしていたら、下の階からモリスが呼んでいる声が聞こえた。



「はーい!今行くよ」



 ドアを開けて彼女に返事を返した。



『ご飯だ!僕は先に下に降りるから君は早く着替えを済ませなよ。モリスさん、ご飯ですね!?今行きます!』



 子猫は素早く部屋を出て行くと、一階まで駆け下りて行った。





 朝食を終えると、呑気な口調のミゲラに見送られながら家を出る。いつもよりかなり早い時間に出てしまった。教室に着くとルークだけが既にいて、一人、席に座っていた。相変わらず朝は早い。浮かない顔でぼんやりとしている。明らかにいつもと様子が違う。



「おはよう!ルーク。分かりやすく元気がないように見えるけど、何かあったの?」



「レイか…。おはよう…。昨日から子猫の姿が見えないんだ…。何かあったんだろうか…」



 よほど子猫の事を心配しているのだろう。いつもの彼らしくない。



「あぁ…なるほど…」



「どこに行ったんだろう…。元気にしているんだろうか…」



 ぼんやりと窓の外を見ながら、またもやルークらしくない口調でそんな事を言い出した。



「ルーク。実は…。あの子猫。昨日から僕のうちで世話をしているんだよ」



「えっ!?」



 咄嗟に自身の席から身を乗り出して私の次の言葉を待っている。



「実は昨日、気が付かないうちに私のカバンに潜り込んでいたみたいで…。それを見つけた叔母さんが是非うちで世話をしましょうって」



「なるほど…。無事だったなら安心だ。そうか…。あの子はお前を選んだんだな。幸せにしてあげてくれ。あの子の事をよろしく頼むよ…」



 ひどく寂しそうな表情でそんな事を言い出したルークはどこか儚げで、遠い目をしている。まるで私が彼の大切な恋人を奪ってしまったような言い方だなと思わず苦笑いをしてしまう。

 あの可愛らしい子猫の正体は男だよ?と内心突っ込みを入れながらも、同時に彼にそんな表情をさせている子猫のミゲラに妙な苛立ちを覚える。そんな感情に気が付いて戸惑っている自分がいた。

 しっかりしようと気を取り直して、落ち込んでいるルークに声をかけた。



「ルーク。今生の別れじゃないんだから。うちに来たらいつでも会えるよ」



 私がそういうと、さっきまでの儚げで物悲しい表情から、うってかわって、ぱっと明るい表情へと変化する。



「それは本当か!?会いにいってもいいのか!?本当だな!?」



 そう言いながら、突然、席から立ち上がったルークに驚く。私も思わずイスから腰を上げてしまった。



「う…うん。良いよ。今度会ってあげて」



「レイ。ありがとう!!」



 そういってルークは、咄嗟に正面から私に抱き着いてきた。当然、男性にまったく免疫のない私はこの状況をどうしたらいいのか分からずパニックになってしまった。抱き着かれるなんて前代未聞の出来事なのだ。心臓が一気にバクバクと音を立てる。

 私は顔を真っ赤にしながら彼を引き剥がそうとしているところに、タイミングが良いのか悪いのかマシューが教室に入って来た。



「二人とも朝っぱらから何してんの?男同士で…まさか、実はそういう関係!?」



 そんな私達を見て、すぐに揶揄い出したマシューは何事もなく私の目の前に席に着いた。



「ルーク。分かったからもう離して。マシュー!呑気に座ってないで早く助けてよ!!」







 朝からそんな事があったせいでどっと疲れてしまった。学校と仕事を終えて、何とかその日一日をやり過ごし、クタクタになって家に帰ると、呑気な声のミゲラがそんな私を出迎えてくれた。

 お風呂と夕食を終えて後は寝るだけという時にミゲラが唐突に口を開いた。



「ねぇ、そういえばさ、もうすぐほら…あの男の妹の…ほら、えーと!あの子、アルマの誕生日パーティーに招待されているでしょう?プレゼント、買ってないんじゃない?」



「あぁ!そうだ。もう明後日じゃないか!!色々あってすっかり忘れていた!でも、なんでそんな事を知っているの?」



「一応僕は君の監視役だからね…。少し前までは特殊能力はあったわけで、でも、重要な事以外は知らないよ」



「重要な事?」



「あぁ…えーと…。そう!交流関係は大事だからね!」



 彼の反応に少し違和感を覚えたが、すぐにそんな事は頭の片隅に消えてしまった。



「確かにそうだね、教えてくれてありがとう。とりあえず明日仕事の帰り、雑貨屋によってプレゼントを買ってくるよ。良いものが見つかればいいのだけど。そうだ。明日、ルークが服、持ってきてくれるって。ミゲラと背丈も同じだから合いそうだよ。丁度破いてしまって着なくなったものがあるらしいから、貰ったらすぐ手直してておくよ」



『本当!?すごく助かるよ』





 そうな会話を代わしながら、私はベッドに入って、ミゲラはクッションの上で丸くなった。昨日寝不足だったせいもあって、すぐに眠りに落ちて行った。









しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

処理中です...