ラブストーリーの片隅に切り捨てられた私達

麦 若葉

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3章

41話

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 暖かな日差しが心地良い。見上げれば真っ青な空が広がっている。大きな通りに出ると休日ということもあって、沢山の人で賑わっている。

 そのまま大通りを抜けて、綺麗に整備された石畳の上を歩いていく。コツコツと一定のリズムを奏でながら靴音を鳴らすと、やがて派手な色の大きな看板が見えてくる。

 確かあの看板の下で見つけたんだっけ。あの時の出来事を思い出していた。

 探していたピンク色のボタンを差し出した瞬間、それまで不安そうだったアルマの顔は瞬く間に笑顔になった。



 このまま真っすぐこの通りを歩けば、やがて彼女の家が見えて来るはずだ。

 右手側に細い横道が現れると、その先には真っ白な壁の家が見える。

 家の周りは沢山の植物と花が植えられていて、白い壁は緑の蔦で半分覆われている。玄関ドアにはサークル状に編まれた植物の弦とドライフラワーで作られた大振りのリースが飾られていて、真っ白なドアに良くなじんでいた。

 まるで絵本の中からそのまま現れたような、何だか不思議な雰囲気のする家だ。

 ドアのチャイムを鳴らすと勢いよく扉が開いて、その中から笑顔のアルマが飛び出して来た。



「レイ!待ってたよ!久しぶり!」



 そう言いながら私に抱き着いてくる彼女は無邪気な笑顔で私を見上げる。お人形のように整った顔のアルマは本当に可愛らしい。



「レイ。よく来てくれたね。妹の為にありがとう」



 声がする方に視線を向けるとアルマの後ろにはエルドが立っていた。



「さぁ、中にはいっ…」



 エルドとの会話が終わらないうちにアルマが私の腕を取ると、家の中に引っ張っていく。



「…アルマ!」



 勢いよく引っ張られて、ふらつきながら室内に入る。

 賑やかな声が聞こえて、アルマに手を引かれながらリビングに入ると彼女と同じくらいの年の女の子が3人いて、カードゲームで楽しそうに遊んでいた。

 白を基調としたインテリアと日当たりが良いリビングは明るい。室内には趣味のよいインテリアと手入れが行き届いた観葉植物の鉢が大きなものから小さなものまでいくつもあって、どれもセンス良く並べられてる。



 招き入れられてその輪に入ると、私に興味津々な彼女達は次々に話しかけてくる。名前は、何歳なのか、どこに住んでいるのか。

 途切れる事なく質問攻めにされていると、リビングの向こうから声が聞こえた。

 リビングの先にはダイニングがあって、その横のキッチンからエルドとアルマの母親が出てきた。相変わらす綺麗な人だった。物腰の柔らかな口調で、にこやかにほほ笑みかけている。



「娘の為によく来てくださいました。ありがとうございます」



「こちらこそ、お誘いありがとうございました」



「さぁ。用意が整ったので席に座ってください」



 彼女達と共に席に着くとその瞬間、皆同時に声を上げる。



「わぁ、すごい!。美味しそう!」



 ダイニングテーブルの上には暖かそうな料理がいくつも並んでいて、どれも美味しそうだ。



 エルドはキッチンとダイニングを行き来しながらテキパキと動いている。

 母親の手伝いには慣れているのだろう。流れるような動作に迷いはない。



「さて、はじめましょうか」



 母親が席に着くと、エルドも同じく席に着いた。



 それから賑やかな誕生日パーティーが始まった。

 美青年のエルドはアルマの友達に常にキラキラとした視線が注がれている。

 物腰が柔らかで優しい口調の彼は彼女達にとってまさに理想のお兄さんなのだろう。



「さて、みんなお楽しみのケーキだよ」



 エルドは大きなお皿に豪勢なケーキがのった皿を持っている。

 みんなそのケーキに釘付けだ。

 手際よくエルドがケーキにナイフを入れていく。見事に人数分に均等に切り分けをすると、形を崩す事なく、完璧な状態で切り分けたケーキを皿に置いて配っていく。私よりも各段に上手い。

 きっとこの超絶イケメンには欠点などないんじゃないかと崇拝しかけたときだった。



「お兄ちゃん、恰好つけてるのバレてるよ」



「なっ…。アルマ!」



 エルドは持っていた皿を落としかけている。

 どうやら妹には非常に弱いようだ。



 ケーキが食べ終わった頃、皆一斉にプレゼントを渡す。その一つ一つを嬉しそうに受け取るとみんなに見守られながら丁寧に包みを開いていく。一体何が入っているのだろうと、ワクワクしている彼女の心情がよく伝わってくる。



「わぁ素敵!かわいい!」



 どれも可愛らしいものばかりでアルマはとても嬉しそうだ。

 最後に私の包みが開けられる。



「レイのプレゼンは何んだろう!」



 キラキラした瞳を包みに向けながらピンク色のリボンをゆっくりとほどいていく。

 中身が見えた瞬間、彼女の表情がほころんでいく。



「わぁ!すごい!かわいい!」



 彼女が包みから出したものは真っ白な猫のぬいぐるみだ。徹夜して作った私の力作だった。



「瞳がとても綺麗ね。私の大好きなブルー!レイ、ありがとう。私、この子ずっとずーっと大事にするね」



 そう言って、嬉しそうにぬいぐるみを抱き上げた。



 私が雑貨屋で真っ先に見つけたのは瞳に使った真っ青な飾りだった。

 2個一対で売っていて、深い海のような美しいブルーに瞬時に惹かれたのだ。私はすぐにそれを人形の瞳に使おうと思いついた。

 迷う事なく購入して、それから手芸店に向かって、ぬいぐるみの生地を買ってきたのだ。



『へぇー!よく出来てる。途中で寝ちゃったから何を作っていたのか分からなくてさ。あれ、僕がモデル?でも目の色が違うよ?やだなぁ。間違わないでよ』



「!?」



幻聴だろうか。奴の声が聞こえる。はっとしながら辺りをキョロキョロと見回していると再び声が聞こえた。



『こっちだって』



 私のジャケットのポケットから何喰わない顔で、ひょっこり顔を出しているミゲラがいる。

 皆、私が作ったぬいぐるみに注目していて子猫の存在には気が付いていないようだ。



 こいつは…!またか!!



 混乱しながらも私は包みを入れていた紙袋を掴んでその中に子猫を放り込んだ。

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