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悪魔の選択
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しばらくナックやヨミナと何やら相談していたルイドートだったが、公爵軍の騎士団長に指示をした後、城壁の上に移動して周囲を睥睨した。
そして、両手を上げ、スキルを発動した。
「『広範囲支援ステータス全上昇』」
途端に、城門前に展開する公爵軍の兵士や冒険者らの体が輝く。
「うおお!力がみなぎる!」
「体が軽いぞお!」
「やってやるっ!魔物を殺しまくってやるぜえ!」
皆、能力が向上し、口々にやる気を見せている。
二柱を除いては。
「私達、何の変化もないね……」
「人ではないからかのう」
クリソックス達は残念そうだ。
彼らに魔法の支援が効かないのは、異世界神故である。
そもそも、魔法は魔素を利用して産み出される。
だから、魔法は魔素を含むこの世界のものにしか作用しない。
つまり、魔法で支援をかけようにも、魔素をかけらも含まない異世界人や異世界神には一切効かないのである。
だからこそ、本来は召喚時に女神アインクーガがそれを説明し、身体能力の向上と異世界人用の自己回復スキルを付与して地上に送るのだが……。
二柱には、そんなチュートリアルは無かったので、当然知らない。
だが、問題はない。
支援無しでも、自己回復スキル無しでも、死なないのだ。
「「まあ、いいか」」
二柱はてくてくと最前線に向かって歩き出した。
人間達の間を抜けて最前線に着くと、そこには冒険者の中でもB級以上の者達、騎士達とオーガニック、それにフッツメーンがいた。
公爵家の騎士団長タローウが声を張り上げている。
「魔物達をできるだけ引き付けてから、まずは後方の魔法部隊が魔法で遠隔攻撃を行う!我らはあぶれた魔物を討っていく。魔法部隊の魔法が尽きたら、後は、乱戦となる!できるだけ強い魔物を狙え!弱い魔物は、後ろに任せろ!ダンジョンコアが溜め込んだ魔素の分、魔物を吐ききるまで、なんとかして凌ぎきれ!そうすれば、コアを破壊に行くことができる!」
「「「「「応!!」」」」」
「なるほど、そういう作戦か。わしらも気張ろうぞ、クリソックスよ」
「あ、見て、ドロンズ!向こう、土煙が立ってる!」
騎士団長が叫んだ。
「来たぞおっ、スタンピードだあっ!!」
魔物の群れが何かに追いたてられるようにこちらに向かってくる。
いや、実際に追いたてられているのだ。
さらに後方には、大きくて強そうな魔物が前方の弱い魔物を追いかけ、逃げ遅れた弱魔物をムシャムシャしながら、別の獲物を求めて走っている。
だが、さらにその後ろにはもっと強い魔物がやって来ていて、ムシャムシャやっているのだ。
「弱肉強食ーー!!スタンピードって、こんな仕組みで起こってたんだねえ!」
クリソックスが感心したように声を上げた。
しばらく待つ。
どんどん魔物達が近づいてくる。
フッツメーンが「サンダーボルトッ」と雷魔法を放った。
フライング攻撃だ。
グレイウルフ一体に命中し、倒したようだ。
だが、焼け石に水である。
その死体はすぐに他の魔物達に呑み込まれた。
「どうだ!私達王族のスキルは、かつて勇者が使っていた魔法を使えるというものだ!王族は特別な存在なのだあっ」
フッツメーンはかつて勇者が使っていたらしい『光魔法』や『氷魔法』などを放ち、先端の魔物をどんどん殺していく。
「わっはっはっ!口ほどにもない!」
ご満悦である。
近くのA級冒険者が呟いた。
「口ほどにもないのは当たり前だ。先端の魔物は、ダンジョンでも最弱の部類だぞ」
別の騎士が呆れて言った。
「あんなものに魔力を無駄遣いして、何考えてんだ。アホか?」
性剣エクスカリバーというジョークグッズを生涯愛用したアホ勇者の血は、違う方面で子孫に受け継がれているようだ。
そうこうするうちに、魔物の先端がすぐそこまで迫っていた。
その瞬間、魔物達を様々な光が埋め尽くす。
魔法部隊の魔法攻撃だ。
ある魔物は『エクスプロージョン』で数十体まとめて吹き飛び、ある魔物達は氷漬けになり、別の魔物達は火だるまになってフッツメーンに突っ込んだ。
「うあっちいっ!なんで私に!?」
因果応報は異世界でもあるらしい。
弱い魔物達はあらかた魔法でやられ、その後ろから来た強い魔物も魔法攻撃で三、四割が戦闘不能になっている。
そのあたりで魔法部隊の魔力が尽きたようだ。
彼らは、後はマジックポーションを飲みながら、個々で近接戦闘の者達の支援を行う。
最前線では、弱い魔物は適当に受け流され、後方の強い魔物へ攻撃がしかけられている。
ドロンズは、泥カッターでスパスパ魔物を両断していき、クリソックスは魔物を靴下でどんどんラッピングして、騎士達にプレゼントしている。
ふとオーガニックの様子が気になり見てみると……、
「オーガめ!……ってニックか!ごめんごめん、間違えて斬る所だったわー」
「今度はオーガかっ……って、そのファンシーな格好はニックか。そいやお前、オーガだったな……」
「おおーい、みんなあ!ニックを間違えて攻撃すんなよおー!可愛い赤と緑の靴下を着てるオーガが、ニックだぞお!」
かなり紛らわしかった。
スタンピードの魔物達の中には理性なき底辺オーガも混じっている。
ドロンズなんかさっき、「お、ニックではないか!クリソックスのやった服はどうした?」と底辺オーガに話しかけて、棍棒で潰されていた。
本当に紛らわしい。
JAROに通報レベルだ。
その頃、フッツメーンはというと、勢い余って突出し過ぎていた。
護衛騎士達とルイドートの指示でつけられた公爵家の騎士達は、職務上、フッツメーンを守りながら着いてきたものの、あまりの魔物の強さに、かなり分散させられていた。
このままでは、アホが、フッツメーンが危ない。
護衛騎士につけられた王宮騎士団副団長ラングレイは、レッドグリズリーの対処でフッツメーンとはぐれてしまい、慌てていた。
そこへ、ドロンズとクリソックスが通りかかったのである。
「あれ?王宮の護衛騎士の人がいるのに、あの王太子がいないね。はぐれたのかい?」
クリソックスに声をかけられ、ラングレイは藁にもすがる気持ちで事情を話した。
「フッツメーン様がどこまで行ってしまったのかもわからず途方に暮れているのだ。お前達も、探してもらえないだろうか?もし先に見つけたら、後方に戻るよう説得してほしい」
「ふむ。お主は信者ではないが、聞かぬ理由もない。慈悲じゃ。願いを聞いてやろう」
「かたじけない!」
「その代わり、後でお主の泥団子を一つ、わしに捧げよ」
「あ、私も願いを聞くから、クリスマスの日に、靴下にプレゼントを入れて、誰かに贈ってね!」
「あ、ああ……」
こうしてクリソックスとドロンズは、フッツメーンを探すことになったのである。
その頃、フッツメーンは三十ほどに減った護衛騎士らと、すっかり魔物に囲まれてしまっていた。
しかも魔物は全てB級以上。
護衛騎士も、一人一人がB級冒険者程度の強さであるが、いかんせん魔物の数が多すぎる。
しかも、強い魔法を放てるフッツメーンの魔力は既に尽き、魔法頼みで剣の訓練をおろそかにしがちだったフッツメーンは、あきらかに戦力にならない。
護衛騎士達は、厳しい戦いを強いられていた。
そこへ通りかかったのは、例のクリソックスとドロンズである。
彼らは平然と魔物の発する魔法をものともせず、群れの中を歩き、襲い来る魔物を斬り飛ばし、靴下で包みながら、フッツメーン達のもとへやって来たのであった。
「おお、こんな所で遊んでおったのか。探したぞ」
「なんか、護衛騎士の人が心配してたよ。危ないから後退しろってー」
緊張感の無い二柱の言葉に、護衛騎士達は一瞬ポカンとなったが、徐々に安堵の気持ちに変わった。
先ほどの戦いを見ていると、クリソックスとドロンズの実力はA級冒険者以上。
邪神と疑われる者達だが、このスタンピードでは人と共に魔物を屠り、人を助けていた。
護衛騎士達は、薄々この二柱が『邪神ではない』と考え始めていたのである。
『これで生きて帰れる』。
そんな喜びムードになった護衛騎士達をよそに、フッツメーンは考えた。
(この状況で邪神どもが来た。恐らく、私達を皆殺しにし、魔物にやられたと見せかけるのだろう。そうはさせん!私には、この『悪魔のエンゲージリング』がある。……そうだ!)
フッツメーンはニヤリと笑った。
「これを使えば、私のまわりの五十の命が糧となり失われる。つまり、邪神の命も……」
「何をブツブツ言っておるんじゃ?早く戻るぞ。人は脆い。死んでしまうぞ」
ドロンズがフッツメーンに声をかける。
「フッツメーン様、早く戻りましょう!」
「さあ、お早く!」
護衛騎士達も、口々に促す。
だが、それを無視してフッツメーンは叫んだ。
「どうせ邪神に皆殺しに合うのなら、邪神を滅し、私を逃がす糧となれ、騎士達よ!『悪魔のエンゲージリング』よ、力を示せ!!」
フッツメーンは残りカスのような魔力を古代遺物の指輪に込めた。
指輪から黒き蔦が放たれ、周囲の命あるものを絡めとる。
護衛騎士達全て、そして魔物達も黒き蔦に捕まった。
黒き蔦は、クリソックス達にも迫ったが、素通りしていった。
命あるものではなかったからである。
そして、捕まえた者達の命を一瞬で吸収し、閃光を放つ。
光が収まった後に、立っているものはいな……いや、いた。
二柱だけ、立っていた。
しかし、魔物の群れの中、ポッカリと穴が開いたように、そこは人も魔物も押し並べて死体だらけである。
その向こうで、護衛騎士のラングレイは立ち尽くしていた。
フッツメーン達をみつけ、合流しようと近づいたものの多少の距離があったために、死を免れたのだ。
だが、目の前で戦っていた魔物は、五十の命の糧に組み込まれ、死体となった。
ラングレイは、全てを見ていた。
そして今も、信じられぬ思いで死体だらけの光景を見ていたのだった。
そして、両手を上げ、スキルを発動した。
「『広範囲支援ステータス全上昇』」
途端に、城門前に展開する公爵軍の兵士や冒険者らの体が輝く。
「うおお!力がみなぎる!」
「体が軽いぞお!」
「やってやるっ!魔物を殺しまくってやるぜえ!」
皆、能力が向上し、口々にやる気を見せている。
二柱を除いては。
「私達、何の変化もないね……」
「人ではないからかのう」
クリソックス達は残念そうだ。
彼らに魔法の支援が効かないのは、異世界神故である。
そもそも、魔法は魔素を利用して産み出される。
だから、魔法は魔素を含むこの世界のものにしか作用しない。
つまり、魔法で支援をかけようにも、魔素をかけらも含まない異世界人や異世界神には一切効かないのである。
だからこそ、本来は召喚時に女神アインクーガがそれを説明し、身体能力の向上と異世界人用の自己回復スキルを付与して地上に送るのだが……。
二柱には、そんなチュートリアルは無かったので、当然知らない。
だが、問題はない。
支援無しでも、自己回復スキル無しでも、死なないのだ。
「「まあ、いいか」」
二柱はてくてくと最前線に向かって歩き出した。
人間達の間を抜けて最前線に着くと、そこには冒険者の中でもB級以上の者達、騎士達とオーガニック、それにフッツメーンがいた。
公爵家の騎士団長タローウが声を張り上げている。
「魔物達をできるだけ引き付けてから、まずは後方の魔法部隊が魔法で遠隔攻撃を行う!我らはあぶれた魔物を討っていく。魔法部隊の魔法が尽きたら、後は、乱戦となる!できるだけ強い魔物を狙え!弱い魔物は、後ろに任せろ!ダンジョンコアが溜め込んだ魔素の分、魔物を吐ききるまで、なんとかして凌ぎきれ!そうすれば、コアを破壊に行くことができる!」
「「「「「応!!」」」」」
「なるほど、そういう作戦か。わしらも気張ろうぞ、クリソックスよ」
「あ、見て、ドロンズ!向こう、土煙が立ってる!」
騎士団長が叫んだ。
「来たぞおっ、スタンピードだあっ!!」
魔物の群れが何かに追いたてられるようにこちらに向かってくる。
いや、実際に追いたてられているのだ。
さらに後方には、大きくて強そうな魔物が前方の弱い魔物を追いかけ、逃げ遅れた弱魔物をムシャムシャしながら、別の獲物を求めて走っている。
だが、さらにその後ろにはもっと強い魔物がやって来ていて、ムシャムシャやっているのだ。
「弱肉強食ーー!!スタンピードって、こんな仕組みで起こってたんだねえ!」
クリソックスが感心したように声を上げた。
しばらく待つ。
どんどん魔物達が近づいてくる。
フッツメーンが「サンダーボルトッ」と雷魔法を放った。
フライング攻撃だ。
グレイウルフ一体に命中し、倒したようだ。
だが、焼け石に水である。
その死体はすぐに他の魔物達に呑み込まれた。
「どうだ!私達王族のスキルは、かつて勇者が使っていた魔法を使えるというものだ!王族は特別な存在なのだあっ」
フッツメーンはかつて勇者が使っていたらしい『光魔法』や『氷魔法』などを放ち、先端の魔物をどんどん殺していく。
「わっはっはっ!口ほどにもない!」
ご満悦である。
近くのA級冒険者が呟いた。
「口ほどにもないのは当たり前だ。先端の魔物は、ダンジョンでも最弱の部類だぞ」
別の騎士が呆れて言った。
「あんなものに魔力を無駄遣いして、何考えてんだ。アホか?」
性剣エクスカリバーというジョークグッズを生涯愛用したアホ勇者の血は、違う方面で子孫に受け継がれているようだ。
そうこうするうちに、魔物の先端がすぐそこまで迫っていた。
その瞬間、魔物達を様々な光が埋め尽くす。
魔法部隊の魔法攻撃だ。
ある魔物は『エクスプロージョン』で数十体まとめて吹き飛び、ある魔物達は氷漬けになり、別の魔物達は火だるまになってフッツメーンに突っ込んだ。
「うあっちいっ!なんで私に!?」
因果応報は異世界でもあるらしい。
弱い魔物達はあらかた魔法でやられ、その後ろから来た強い魔物も魔法攻撃で三、四割が戦闘不能になっている。
そのあたりで魔法部隊の魔力が尽きたようだ。
彼らは、後はマジックポーションを飲みながら、個々で近接戦闘の者達の支援を行う。
最前線では、弱い魔物は適当に受け流され、後方の強い魔物へ攻撃がしかけられている。
ドロンズは、泥カッターでスパスパ魔物を両断していき、クリソックスは魔物を靴下でどんどんラッピングして、騎士達にプレゼントしている。
ふとオーガニックの様子が気になり見てみると……、
「オーガめ!……ってニックか!ごめんごめん、間違えて斬る所だったわー」
「今度はオーガかっ……って、そのファンシーな格好はニックか。そいやお前、オーガだったな……」
「おおーい、みんなあ!ニックを間違えて攻撃すんなよおー!可愛い赤と緑の靴下を着てるオーガが、ニックだぞお!」
かなり紛らわしかった。
スタンピードの魔物達の中には理性なき底辺オーガも混じっている。
ドロンズなんかさっき、「お、ニックではないか!クリソックスのやった服はどうした?」と底辺オーガに話しかけて、棍棒で潰されていた。
本当に紛らわしい。
JAROに通報レベルだ。
その頃、フッツメーンはというと、勢い余って突出し過ぎていた。
護衛騎士達とルイドートの指示でつけられた公爵家の騎士達は、職務上、フッツメーンを守りながら着いてきたものの、あまりの魔物の強さに、かなり分散させられていた。
このままでは、アホが、フッツメーンが危ない。
護衛騎士につけられた王宮騎士団副団長ラングレイは、レッドグリズリーの対処でフッツメーンとはぐれてしまい、慌てていた。
そこへ、ドロンズとクリソックスが通りかかったのである。
「あれ?王宮の護衛騎士の人がいるのに、あの王太子がいないね。はぐれたのかい?」
クリソックスに声をかけられ、ラングレイは藁にもすがる気持ちで事情を話した。
「フッツメーン様がどこまで行ってしまったのかもわからず途方に暮れているのだ。お前達も、探してもらえないだろうか?もし先に見つけたら、後方に戻るよう説得してほしい」
「ふむ。お主は信者ではないが、聞かぬ理由もない。慈悲じゃ。願いを聞いてやろう」
「かたじけない!」
「その代わり、後でお主の泥団子を一つ、わしに捧げよ」
「あ、私も願いを聞くから、クリスマスの日に、靴下にプレゼントを入れて、誰かに贈ってね!」
「あ、ああ……」
こうしてクリソックスとドロンズは、フッツメーンを探すことになったのである。
その頃、フッツメーンは三十ほどに減った護衛騎士らと、すっかり魔物に囲まれてしまっていた。
しかも魔物は全てB級以上。
護衛騎士も、一人一人がB級冒険者程度の強さであるが、いかんせん魔物の数が多すぎる。
しかも、強い魔法を放てるフッツメーンの魔力は既に尽き、魔法頼みで剣の訓練をおろそかにしがちだったフッツメーンは、あきらかに戦力にならない。
護衛騎士達は、厳しい戦いを強いられていた。
そこへ通りかかったのは、例のクリソックスとドロンズである。
彼らは平然と魔物の発する魔法をものともせず、群れの中を歩き、襲い来る魔物を斬り飛ばし、靴下で包みながら、フッツメーン達のもとへやって来たのであった。
「おお、こんな所で遊んでおったのか。探したぞ」
「なんか、護衛騎士の人が心配してたよ。危ないから後退しろってー」
緊張感の無い二柱の言葉に、護衛騎士達は一瞬ポカンとなったが、徐々に安堵の気持ちに変わった。
先ほどの戦いを見ていると、クリソックスとドロンズの実力はA級冒険者以上。
邪神と疑われる者達だが、このスタンピードでは人と共に魔物を屠り、人を助けていた。
護衛騎士達は、薄々この二柱が『邪神ではない』と考え始めていたのである。
『これで生きて帰れる』。
そんな喜びムードになった護衛騎士達をよそに、フッツメーンは考えた。
(この状況で邪神どもが来た。恐らく、私達を皆殺しにし、魔物にやられたと見せかけるのだろう。そうはさせん!私には、この『悪魔のエンゲージリング』がある。……そうだ!)
フッツメーンはニヤリと笑った。
「これを使えば、私のまわりの五十の命が糧となり失われる。つまり、邪神の命も……」
「何をブツブツ言っておるんじゃ?早く戻るぞ。人は脆い。死んでしまうぞ」
ドロンズがフッツメーンに声をかける。
「フッツメーン様、早く戻りましょう!」
「さあ、お早く!」
護衛騎士達も、口々に促す。
だが、それを無視してフッツメーンは叫んだ。
「どうせ邪神に皆殺しに合うのなら、邪神を滅し、私を逃がす糧となれ、騎士達よ!『悪魔のエンゲージリング』よ、力を示せ!!」
フッツメーンは残りカスのような魔力を古代遺物の指輪に込めた。
指輪から黒き蔦が放たれ、周囲の命あるものを絡めとる。
護衛騎士達全て、そして魔物達も黒き蔦に捕まった。
黒き蔦は、クリソックス達にも迫ったが、素通りしていった。
命あるものではなかったからである。
そして、捕まえた者達の命を一瞬で吸収し、閃光を放つ。
光が収まった後に、立っているものはいな……いや、いた。
二柱だけ、立っていた。
しかし、魔物の群れの中、ポッカリと穴が開いたように、そこは人も魔物も押し並べて死体だらけである。
その向こうで、護衛騎士のラングレイは立ち尽くしていた。
フッツメーン達をみつけ、合流しようと近づいたものの多少の距離があったために、死を免れたのだ。
だが、目の前で戦っていた魔物は、五十の命の糧に組み込まれ、死体となった。
ラングレイは、全てを見ていた。
そして今も、信じられぬ思いで死体だらけの光景を見ていたのだった。
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