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恋はいつもジェットコースター
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「一人暮らし?」
新に手を引かれ辿り着いたマンションの一室。明かりの灯っていないリビングで、茜は新に尋ねた。
「いいや、大学生の姉と二人暮らしだ。うちは父子家庭なんだが、父は出張の多い業種で。おれは姉の見張り役というわけだ」
「へえ。妹は?」
「妹と言っても双子の妹だ。彼女はスポーツ推薦で他県の高校に進学していて、今は寮に入ってる」
「知らなかった……」
毎日同じ教室に通っているのに、初めて知ることばかり。繋いだこの手の温もりさえ、最近まで知らなかった。「もしかしておれ、小林のことなんにも知らないのかな……」その呟きに、新はくすりと微笑んだ。
「よく知らない男を恋人にしてしまった、という心境か?」
「いや……。おれ、こんなに小林のこと知らなかったんだって……」
茜はそわそわしている心を落ちつけたくて、新の肩にこめかみを擦り付けた。この匂いと背丈は知ってる。
「……おれが怖いか?」
「ううん。知らないことも多いけど、知ってることもあるなって。小林のことをもっと知りたいし、おれのことももっと知って欲しい。怖いけど、楽しみ。ジェットコースターが出発する直前みたいに」
「確かに。おまえといると、ジェットコースターに乗ってるみたいに感情が忙しい」
二人で笑うと、暗闇がふっと温かくなった。新の腕を胸に抱くと、毛布に包まれているような気分になって、そのまま二人で夜景を見ていると、今度は夜空に浮かんだような気分になった。「おれ、小林といると、いろんな気分になる」「おれもだよ」二人はどちらともなく唇を重ねた。
「小林の姉ちゃんは、今日は帰って来ない?」
「彼女には年上の恋人がいるから。今ではほとんどそっちにいるよ。おれも、弟と暮らすよりその方が健全だと思う。だから、ここには来ない、誰も」
「そっか」
「広尾は? 家族が心配するんじゃないのか?」
「おれは、ふらっと紫苑のうちに泊まることがあるから。兄貴が優等生だったおかげか、父さんも母さんもおれの交友関係にあんまり口を出さないんだ。兄貴からは鬼電が来るかもだけど、大丈夫」
「兄貴って、あの兄貴か」新が神妙な顔をするものだから、茜は笑ってしまった。新は茜の兄のブラコン度合いを嗅ぎ取っていたらしい。
「兄貴の話はいーよ。小林の部屋、連れてって」
三枚戸を開けると、六畳半の部屋があった。ベッド、デスク、本棚だけの、ラグも敷いていないシンプルな部屋。茜は頬を緩めた。ここが小林の部屋なんだ。
「ほんとうに、いいのか」
「うん」
「おれはこれでも、先走ってる自覚はあるんだ。舞い上がってあんなことを言ったが、その、あれは確かに本心だが、でも、おれは、おまえの心の準備が整うのを待つつもりで、」
んぐっ。おしゃべりな唇を唇で塞ぐと、新は妙な声で呻いた。新の気が緩んだところを狙って、茜は新をベッドまで追い詰めた。
「乗ったジェットコースターが動きません、なんてことあるか? 今からチケット払い戻す?」
「だめだ、絶対に払い戻さない。こら、広尾、……おい、」
茜はこちらに触れようとする新の手を避け、くるくると部屋を逃げ回った。
「広尾、待て、おいって、」
「やだっ。そーカンタンに捕まってたまるかよっ」
カーテンの裏に隠れ、ベッドの上を走り、部屋を跳ね回って、そうすると次第に新の表情が和らいでいった。
ベッドの隅に逃げた茜を新がそっと捕まえる。「捕まえた」耳元に囁かれ、茜は嬉しさの滲んだ声で「あーあ」と言いながら、新の首に腕を回した。
「嫌だったら、すぐに言って」
「うん」
後頭部に手を添えられ、シーツの上に寝かされる。新は茜にゆっくりと覆い被さり、優しいキスをした。思いやりに満ちた仕種に心がほどける。茜は新のネクタイに手を伸ばし、ほどいた。
新のシャツのボタンを外し、垣間見えた鎖骨に触れる。指先を滑らせて咽喉仏に触れると、そこがコックンと上下した。ふう、ふう、と、新の上がった息が、茜の肌を擽った。
「脱がせて、いいか」
目を見て頷くと、新は一度深呼吸して、それから茜のネクタイをほどいた。二本のネクタイがメレンゲのひだのように重なって、茜の心音を逸らせた。
「あ、小林も、脱いで……」
「うん。おれから脱ぐよ」
新が服を脱ぐ所作は、てきぱきとして美しかった。整然とした彼の、裸の胸が大きく上下している様は、あまりに悩ましい。茜は新の素肌に触れ、ほうとため息をこぼした。
ショーツ一枚になった新が茜のシャツに手を掛ける。あの美しい所作で、茜はあっという間に裸になった。新の視線に肌が焼けるよう。茜は両腕で胸を隠し、「すけべ」と新を詰った。
「おれはすけべだよ。知ってるだろ?」
「おれのそばかす、知ってたくらいだもんな」
「そう。おまえのそばかすは、なんていうかすごく、よかった」
「その言い方。なんかエロオヤジみたい」
言いながらも、肌と肌が密着する感触に声が蕩けた。何をしているわけでもないのに、熱く湿った息が止まらない。大きな手に肩や脇腹を撫でられ、茜は鼻に掛かった声を漏らした。ずくんずくん、と、身体の先端が疼いて仕方ない。
「あ、だめ、小林、あっ……、」
「声、可愛い。おれ、広尾の声が好きなんだ。ざらざらしてて、耳障りがいい」
「ばか、おまえ、ん、やめろ、そういうのっ……、」
探るように首筋を啄まれ、「んあっ、」と声が上ずる。両手で胸を揉まれ、茜は頭を振り立てた。胸の突起がツンと上向いて刺激を求め始める。そこに、熱い吐息が吹きかかった。
「ここ、さくらんぼみたいだ」
突起を舌先でつつかれ、茜は息を飲んだ。「ひゃっ、」柔い舌で突起を擦り上げられると、性感が高い声になって弾けた。
「あ……、う、こばやし、そこ、そんな、」
後頭部に伸ばした手で短髪を掻き混ぜるようにすると、新は繰り返し突起を舐め上げた。
「ン……、あ、はぁ、あう、ゔ~っ……、」
強請るように深く見つめると、もう片方の突起にも指が伸びてきて、先端を避けて乳輪をなぞられた。焦れて胸を反らすと乳輪を指先で摘ままれ、甘い刺激が触れていないはずの前をひりつかせた。
「は……、広尾、ずるい……」
茜の胸に顔を埋めながら、新は眉根を寄せて呟いた。「ずるいって、何が……」「なにもかもずるい」いきなりじゅっと胸元を吸われ、茜は驚いて腰を反らした。その瞬間、新はシーツと腰の間に腕を滑り込ませ、茜を膝の上へ抱き上げた。
「広尾の声ってハスキーだから、ちょっと高い声になるだけで色っぽくて、ずるい。身体も、触れた場所から桜色になってって、痕もこんなに残りやすくて、腰もこんな細くて……、」
胸元に視線を下ろすと、先ほど新たに吸われた場所が赤くなっていた。むくれたような新を抱き寄せ、茜は「もっと」と新の耳元へ囁いた。
「もっと触って。おまえの手、大きくて、温かくて、気持ちいい……」
新は茜の胸にぐっと鼻先を押し付け、それから、息を吐くと同時に両手で茜の素肌をまさぐり始めた。
「は、はぁ、あっ、あぁっ、」
「広尾……、はぁ、」
互いの心に火がつく。本やペンばかりに触れているあの手が、情欲にまみれた手でこの肌を貪っている。いつも愛しむようにこちらを見ていた瞳が、濡れてぎらぎらと輝いている。
小林、ほんとうにおれが欲しいんだ。そう感じると、熱の先から雫が滴った。
「広尾、眼鏡……、外していいか」
「だめ。外さないで」
「眼鏡姿のおまえも好きだけど、キスするのに邪魔だよ。もっと近づきたい」
新の焦れた声に胸が疼く。新は自身の欲望を押さえつけるかのように両手を固く握りしめ、茜から視線を逸らした。その仕種に、ときめきが雫を散らして爆ぜた。
俯いて眼鏡のツルを摘まむと、新の眼差しがサッと上がった。……すけべ。茜は眉を顰め、けれど眼鏡を脱いだ。ぼやけた視界に新が浮かび上がる。真剣な瞳に射抜かれ、茜は咄嗟に顔を覆った。
「やだっ、そんな見んなっ」
「なんで。可愛いよ。隠さないで、見せて」
「可愛いとかうざい!」
「だって、可愛いとしか、きれいだとしか、思えない。……見せて」
指と指の隙間から新を見やると、新はいつもより怖い顔をしていた。
「顔、怖いっ」
「強面は生まれつきだ」
「目が怖いっ」
恥じ入っているのを誤魔化したくてぐずると、新は肩を落とした。
「一重だから笑ってないと余計むくれたように見える、そんなの分かってるけど……。今は無理だ、笑う余裕なんてないよ」
茜ははたとした。思えば、新は茜の前で、可能な限り微笑んでいた。それって、おれに怖がられたくなかったから? コンプレックスを抱える者の気持ちが、茜にはよく分かる。そして今、胸にポッと火が灯ったようになった。新がこのそばかすを愛する理由が、今なら分かる気がした。
「小林。顔、そのままでいいよ。よく見せて……」
茜は新の両頬を両手で包み、上から覗き込んだ。新の瞳がいま初めて泳ぐ。小林、恥ずかしいんだ。そう感じると、この切れ上がった目元が、胸が掻き毟られるほど愛しくなった。
「んっ……、む、ふ、はぁ、う……」
下から齧りつくように唇を奪われ、茜はシーツの波に沈んだ。両腕と両脚で互いを引き寄せて、欲望に濡れた芯を擦りつけ合う。新の動きに合わせて腰を揺すると、自然と瞼が下りて、その分、新の存在をはっきりと感じた。
「あ、はあっ、あっ、ああっ、う~っ……。待って、小林、まだだめ、」
「でも、はあ、広尾、もう、おれ、」
茜は新の下でもがくようにして両脚を開き、ショーツの下で張り詰めた熱にすぼまりを擦りつけた。「ここ、挿れて……」囁くと、新は茜を深く見つめた。
「おれは広尾が好きだ。だから裸で抱き合いたかった。でも無理はさせたくない」
「うん。分かってる。でも、もし、無理じゃないなら、してほしい。好きな人とは、一つになりたいよ」
言う間にも涙が滲んで、新はそれを唇で掬ってくれた。
次々と恋をして、次々と傷ついた。ずっと、この身体にも心にも、誰かに触れて欲しかった。でも今は、新でなければ意味がないとさえ思う。
小林に触れてほしい。小林と一つになりたい。おれは、ぜんぶ、小林とがいい。
「痛かったら、言ってくれ。絶対に無理はするな」
「うん」
自分でも驚くほど素直な声が出て、茜は微笑んだ。
新に手を引かれ辿り着いたマンションの一室。明かりの灯っていないリビングで、茜は新に尋ねた。
「いいや、大学生の姉と二人暮らしだ。うちは父子家庭なんだが、父は出張の多い業種で。おれは姉の見張り役というわけだ」
「へえ。妹は?」
「妹と言っても双子の妹だ。彼女はスポーツ推薦で他県の高校に進学していて、今は寮に入ってる」
「知らなかった……」
毎日同じ教室に通っているのに、初めて知ることばかり。繋いだこの手の温もりさえ、最近まで知らなかった。「もしかしておれ、小林のことなんにも知らないのかな……」その呟きに、新はくすりと微笑んだ。
「よく知らない男を恋人にしてしまった、という心境か?」
「いや……。おれ、こんなに小林のこと知らなかったんだって……」
茜はそわそわしている心を落ちつけたくて、新の肩にこめかみを擦り付けた。この匂いと背丈は知ってる。
「……おれが怖いか?」
「ううん。知らないことも多いけど、知ってることもあるなって。小林のことをもっと知りたいし、おれのことももっと知って欲しい。怖いけど、楽しみ。ジェットコースターが出発する直前みたいに」
「確かに。おまえといると、ジェットコースターに乗ってるみたいに感情が忙しい」
二人で笑うと、暗闇がふっと温かくなった。新の腕を胸に抱くと、毛布に包まれているような気分になって、そのまま二人で夜景を見ていると、今度は夜空に浮かんだような気分になった。「おれ、小林といると、いろんな気分になる」「おれもだよ」二人はどちらともなく唇を重ねた。
「小林の姉ちゃんは、今日は帰って来ない?」
「彼女には年上の恋人がいるから。今ではほとんどそっちにいるよ。おれも、弟と暮らすよりその方が健全だと思う。だから、ここには来ない、誰も」
「そっか」
「広尾は? 家族が心配するんじゃないのか?」
「おれは、ふらっと紫苑のうちに泊まることがあるから。兄貴が優等生だったおかげか、父さんも母さんもおれの交友関係にあんまり口を出さないんだ。兄貴からは鬼電が来るかもだけど、大丈夫」
「兄貴って、あの兄貴か」新が神妙な顔をするものだから、茜は笑ってしまった。新は茜の兄のブラコン度合いを嗅ぎ取っていたらしい。
「兄貴の話はいーよ。小林の部屋、連れてって」
三枚戸を開けると、六畳半の部屋があった。ベッド、デスク、本棚だけの、ラグも敷いていないシンプルな部屋。茜は頬を緩めた。ここが小林の部屋なんだ。
「ほんとうに、いいのか」
「うん」
「おれはこれでも、先走ってる自覚はあるんだ。舞い上がってあんなことを言ったが、その、あれは確かに本心だが、でも、おれは、おまえの心の準備が整うのを待つつもりで、」
んぐっ。おしゃべりな唇を唇で塞ぐと、新は妙な声で呻いた。新の気が緩んだところを狙って、茜は新をベッドまで追い詰めた。
「乗ったジェットコースターが動きません、なんてことあるか? 今からチケット払い戻す?」
「だめだ、絶対に払い戻さない。こら、広尾、……おい、」
茜はこちらに触れようとする新の手を避け、くるくると部屋を逃げ回った。
「広尾、待て、おいって、」
「やだっ。そーカンタンに捕まってたまるかよっ」
カーテンの裏に隠れ、ベッドの上を走り、部屋を跳ね回って、そうすると次第に新の表情が和らいでいった。
ベッドの隅に逃げた茜を新がそっと捕まえる。「捕まえた」耳元に囁かれ、茜は嬉しさの滲んだ声で「あーあ」と言いながら、新の首に腕を回した。
「嫌だったら、すぐに言って」
「うん」
後頭部に手を添えられ、シーツの上に寝かされる。新は茜にゆっくりと覆い被さり、優しいキスをした。思いやりに満ちた仕種に心がほどける。茜は新のネクタイに手を伸ばし、ほどいた。
新のシャツのボタンを外し、垣間見えた鎖骨に触れる。指先を滑らせて咽喉仏に触れると、そこがコックンと上下した。ふう、ふう、と、新の上がった息が、茜の肌を擽った。
「脱がせて、いいか」
目を見て頷くと、新は一度深呼吸して、それから茜のネクタイをほどいた。二本のネクタイがメレンゲのひだのように重なって、茜の心音を逸らせた。
「あ、小林も、脱いで……」
「うん。おれから脱ぐよ」
新が服を脱ぐ所作は、てきぱきとして美しかった。整然とした彼の、裸の胸が大きく上下している様は、あまりに悩ましい。茜は新の素肌に触れ、ほうとため息をこぼした。
ショーツ一枚になった新が茜のシャツに手を掛ける。あの美しい所作で、茜はあっという間に裸になった。新の視線に肌が焼けるよう。茜は両腕で胸を隠し、「すけべ」と新を詰った。
「おれはすけべだよ。知ってるだろ?」
「おれのそばかす、知ってたくらいだもんな」
「そう。おまえのそばかすは、なんていうかすごく、よかった」
「その言い方。なんかエロオヤジみたい」
言いながらも、肌と肌が密着する感触に声が蕩けた。何をしているわけでもないのに、熱く湿った息が止まらない。大きな手に肩や脇腹を撫でられ、茜は鼻に掛かった声を漏らした。ずくんずくん、と、身体の先端が疼いて仕方ない。
「あ、だめ、小林、あっ……、」
「声、可愛い。おれ、広尾の声が好きなんだ。ざらざらしてて、耳障りがいい」
「ばか、おまえ、ん、やめろ、そういうのっ……、」
探るように首筋を啄まれ、「んあっ、」と声が上ずる。両手で胸を揉まれ、茜は頭を振り立てた。胸の突起がツンと上向いて刺激を求め始める。そこに、熱い吐息が吹きかかった。
「ここ、さくらんぼみたいだ」
突起を舌先でつつかれ、茜は息を飲んだ。「ひゃっ、」柔い舌で突起を擦り上げられると、性感が高い声になって弾けた。
「あ……、う、こばやし、そこ、そんな、」
後頭部に伸ばした手で短髪を掻き混ぜるようにすると、新は繰り返し突起を舐め上げた。
「ン……、あ、はぁ、あう、ゔ~っ……、」
強請るように深く見つめると、もう片方の突起にも指が伸びてきて、先端を避けて乳輪をなぞられた。焦れて胸を反らすと乳輪を指先で摘ままれ、甘い刺激が触れていないはずの前をひりつかせた。
「は……、広尾、ずるい……」
茜の胸に顔を埋めながら、新は眉根を寄せて呟いた。「ずるいって、何が……」「なにもかもずるい」いきなりじゅっと胸元を吸われ、茜は驚いて腰を反らした。その瞬間、新はシーツと腰の間に腕を滑り込ませ、茜を膝の上へ抱き上げた。
「広尾の声ってハスキーだから、ちょっと高い声になるだけで色っぽくて、ずるい。身体も、触れた場所から桜色になってって、痕もこんなに残りやすくて、腰もこんな細くて……、」
胸元に視線を下ろすと、先ほど新たに吸われた場所が赤くなっていた。むくれたような新を抱き寄せ、茜は「もっと」と新の耳元へ囁いた。
「もっと触って。おまえの手、大きくて、温かくて、気持ちいい……」
新は茜の胸にぐっと鼻先を押し付け、それから、息を吐くと同時に両手で茜の素肌をまさぐり始めた。
「は、はぁ、あっ、あぁっ、」
「広尾……、はぁ、」
互いの心に火がつく。本やペンばかりに触れているあの手が、情欲にまみれた手でこの肌を貪っている。いつも愛しむようにこちらを見ていた瞳が、濡れてぎらぎらと輝いている。
小林、ほんとうにおれが欲しいんだ。そう感じると、熱の先から雫が滴った。
「広尾、眼鏡……、外していいか」
「だめ。外さないで」
「眼鏡姿のおまえも好きだけど、キスするのに邪魔だよ。もっと近づきたい」
新の焦れた声に胸が疼く。新は自身の欲望を押さえつけるかのように両手を固く握りしめ、茜から視線を逸らした。その仕種に、ときめきが雫を散らして爆ぜた。
俯いて眼鏡のツルを摘まむと、新の眼差しがサッと上がった。……すけべ。茜は眉を顰め、けれど眼鏡を脱いだ。ぼやけた視界に新が浮かび上がる。真剣な瞳に射抜かれ、茜は咄嗟に顔を覆った。
「やだっ、そんな見んなっ」
「なんで。可愛いよ。隠さないで、見せて」
「可愛いとかうざい!」
「だって、可愛いとしか、きれいだとしか、思えない。……見せて」
指と指の隙間から新を見やると、新はいつもより怖い顔をしていた。
「顔、怖いっ」
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「目が怖いっ」
恥じ入っているのを誤魔化したくてぐずると、新は肩を落とした。
「一重だから笑ってないと余計むくれたように見える、そんなの分かってるけど……。今は無理だ、笑う余裕なんてないよ」
茜ははたとした。思えば、新は茜の前で、可能な限り微笑んでいた。それって、おれに怖がられたくなかったから? コンプレックスを抱える者の気持ちが、茜にはよく分かる。そして今、胸にポッと火が灯ったようになった。新がこのそばかすを愛する理由が、今なら分かる気がした。
「小林。顔、そのままでいいよ。よく見せて……」
茜は新の両頬を両手で包み、上から覗き込んだ。新の瞳がいま初めて泳ぐ。小林、恥ずかしいんだ。そう感じると、この切れ上がった目元が、胸が掻き毟られるほど愛しくなった。
「んっ……、む、ふ、はぁ、う……」
下から齧りつくように唇を奪われ、茜はシーツの波に沈んだ。両腕と両脚で互いを引き寄せて、欲望に濡れた芯を擦りつけ合う。新の動きに合わせて腰を揺すると、自然と瞼が下りて、その分、新の存在をはっきりと感じた。
「あ、はあっ、あっ、ああっ、う~っ……。待って、小林、まだだめ、」
「でも、はあ、広尾、もう、おれ、」
茜は新の下でもがくようにして両脚を開き、ショーツの下で張り詰めた熱にすぼまりを擦りつけた。「ここ、挿れて……」囁くと、新は茜を深く見つめた。
「おれは広尾が好きだ。だから裸で抱き合いたかった。でも無理はさせたくない」
「うん。分かってる。でも、もし、無理じゃないなら、してほしい。好きな人とは、一つになりたいよ」
言う間にも涙が滲んで、新はそれを唇で掬ってくれた。
次々と恋をして、次々と傷ついた。ずっと、この身体にも心にも、誰かに触れて欲しかった。でも今は、新でなければ意味がないとさえ思う。
小林に触れてほしい。小林と一つになりたい。おれは、ぜんぶ、小林とがいい。
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