14 / 14
銀色の指輪の石座には、君の愛が乗っている。
しおりを挟む
二人は一つのベッドに横たわり、天井を仰いだ。腕枕は無理と言っていたのに、睦月の頭は彼の胸と腕の付け根の間に納まっている。睦月は満ち満ちた心地で、まだ熱と汗の残っている昴の身体に自身の肌を密着させた。
「五年も一緒にいるのに、なんだか、初めて出会った日みたい」
昴は睦月の髪を撫でながら言葉の続きを促した。
「昴君に初めて髪を綺麗にしてもらった日、僕、生まれ変わったような気分になったの。落ち込んでた心が、優しい手に触れてもらって、元気を分けてもらって、ふわーって浮いてきた。僕、すぐに昴君が大すきになっちゃったんだ」
「……うん」
「僕、変わってないけど、今日また、生まれ変わったような気分だよ。……ねえ、僕たち、すごくすれ違っちゃったけど、前よりももっと、心は近い場所にあるよね?」
起き上がって尋ねれば、昴は仕方なさそうに溜息を吐いて「お前が勝手にすれ違ってるって思ってただけだろ」とぼやいた。
「えっ、だって、友達と飲みに行くって言ってたのに、女の子の香水くっつけて帰って来たじゃない」
「最後に行った立ち飲みバーのカウンターで隣になったOLがすごい香水臭かっただけ。しゃべってもないし目も合わせてない」
昴の手が睦月の腰に伸びて来る。睦月は慌てて身を捩った。
「じゃ、じゃあ、合コンは?」
「……誘われてたのは本当だけど、行ってない」
「え?……じゃあ、さざんくろすに連れて来てた綺麗な女の子は……」
「店のヘアモ。撮影スタジオが空くまで休憩させといてって言われて。恋人が喫茶店やってるって話になって、行きたいって言われたから連れてっただけ。ちなみに一回り年上の彼氏がいるらしいよ」
「……か、かれし……」
「まあ、俺のこと放置気味になってたお前への当てつけの意味も少しはあったかもね」
しばしの沈黙。睦月は頬を真っ赤にして「わ、別れるって、言ったのは?」と恨めしそうな声で尋ねた。
「源城さんのとこでも言ったけど、指名が増えるにつれてトラブルも増えて。仕事でバタついてて手いっぱいで、なのにお前は何度でもぐずり始めて、俺もお前を上手く宥められなくて、自分にイライラして、それを……お前にぶつけた。ごめん」
眉間に皺を寄せて眼差しを伏せる昴。睦月は胸できゅっと拳を握った。
「俺も、自分が愛情表現が下手だって分かってる。こういう俺がお前を不安にするんだって分かってる。もっと上手く出来たらいいのにって、俺だって思ってる。……生まれ変わんなきゃいけないのは、俺の方かも」
「そんな!」
睦月は昴の両頬を手のひらで包み、「昴君は昴君のままでいい」とはっきりした声で伝えた。
「変わらないでいい。そのままの昴君がいい。僕、何度でも不安になるけど、昴君が昴君でいてくれるから、何度だって元気になれるの」
ひたむきに見つめ嘘偽りがないことを瞳に訴える。昴はふっと微笑み、「その言葉、そっくりそのまま返す」と言って睦月の額に自身の額を重ねた。
「僕たち、言葉が足りなかったんだね。僕はコミュニケーションしてるつもりだったけど、自分の気持ちばっかり優先して、一方的に愛情を押し付けてるだけだった。昴君の気持ちとか言葉をもっと大切にするね。僕こそごめんね」
自分さえしっかりと昴を愛していれば二人は大丈夫なのだと、奢りに近い祈りを抱いていた。昴に愛情を押し付けていたのは、本当はいつまで昴の隣に居られるのだろうかと不安だったから。
でもちゃんと、昴は自分に向き合ってくれている。愛しい人の声に、ちゃんと耳を澄ませていよう。表情や仕種を瞳で見つめていよう。もう二度と、互いの心が離れないように。
「俺、来年には独立して自分の店を持とうと思ってる」
固い意志の感じられる声音。昴はオリーブ色の髪を撫でていた手を背に滑らせ、額を離して睦月を深く見つめた。
「急に思いついたことじゃない。ずっと考えてて……、けど最近、新店舗の店長してみないかって誘いがあって。まだ上の人には話してないけど、俺、その話を断って自分の店を持とうと思う」
昴は不器用だけれど、その分、鋭いくらいに真っ直ぐだ。睦月は彼が眩しくて目を細めた。
「もしかしたら今よりも生活が不安定になるかもしれない。お前をほったらかしにすることも増えると思う。今回みたいなすれ違いもきっと増える。……睦月。それでもお前、俺がいいの?」
「いい。僕、昴君がいい」
一瞬だって迷わずに、睦月は答えた。真剣な眼差しをした彼の唇に自分の唇を押し付ける。
「一生、一緒にいる。一生、あいしてる」
一文字一文字想いを込めて伝えれば、昴は目を細めて笑った。
「なに?プロポーズにしか聞こえないんだけど。さっきのは、誓いのキスってこと?」
両手を握って問われ、睦月はしどろもどろになった。ちょっと、いや、だいぶ段階をすっとばしてしまった。欲張りすぎてしまった……。
「え、えと。そのくらい強い気持ちってこと。そういうのがなくても、僕はずっと昴君の傍にいる!だって愛してるんだもん!心の中がずーっと昴君でいっぱいなんだもん!」
昴は立てた膝に肘を置き頬杖を突いた。睦月はおずおずと姿勢を正して改まる。
「なら、もう、しとくか」
昴が不意に呟く。ごく軽く、ついでにやっとくか、くらいの調子で。
睦月は揺れる瞳で愛しい人を見つめた。ほどいた唇は、震えていた。
「昴君、あの」
「これあげる」
唇から無粋な問いが出る前にと、昴はヘッドボードの引き出しから瑠璃色のベルベッドに包まれた小さな箱を取り出し、睦月の膝の上に置いた。
「えっ、なにこれっ!昴君っ!」
「うるさっ。夜だから。近所迷惑だから」
震える手で箱を包んだ白いリボンをほどき、封を開ける。瑠璃色の帳が上がると、白のサテンに銀色の輪が埋まっていた。
「指輪……」
睦月は呟きと同時に涙をにじませた。
「サイズ、合うか分かんないけど。まあ、金がある内にってことで」
こんな時まで素っ気ない昴。けれどそんな彼に、睦月は心からときめいてしまう。
「えっ、えっ、それって……!昴君っ!」
勢いのまま昴の身体に抱きついて回した腕にぎゅーっと力を込める。「重い、苦しい」ぶつくさぼやく昴に満面の笑みを向け、睦月は「ねえ、昴君がつけて」と左手を差し出した。
「めんど。自分でつけろよ」
「やだやだやだ!一生の思い出にするんだもん!昴君につけてもらったな~って、おじいちゃんになっても思い出すんだもん!つけてつけてつけてっ!」
「だからうるさいっつの。ぎゃあぎゃあ騒がないでよ、こんくらいで」
「こんくらいじゃないっ!……もお~っ。……もおいいよっ。自分でつけるっ。昴君のけちんぼっ」
睦月は昴に背を向けてくしゅんとしおれた。自分でつけると言ったものの、瑠璃色の箱を両手でしきりに揉んで、なんとか昴に指輪をはめてもらえないだろうかと考えを巡らせる。……こうなったら、昴君が眠っているところにそーっと近寄って、どうにかして“昴君に指輪をつけてもらった”風にする!睦月は俯いていた顔を上げて瞳を輝かせた。そんな睦月の肩に昴の顎がちょんと乗る。
「こんだけ金使わせといて、ケチはないでしょ」
背中越しに恋人を詰った彼は、睦月の手の内から箱を奪って中身を取り出した。「あ、やだ、謝るから取らないでっ」慌てて振り返ろうとした睦月の左手を昴がぱっと捕らえる。
「あ、ぴったりじゃん」
瞬く間に左手の薬指に納まってしまった銀色の指輪。「えっ、ええっ、動画……、写真とかあ!」睦月は悲鳴を上げつつ、左手の薬指と背中を包む温みに頬を緩ませた。
「あのっ、ぼっ、僕たち、結婚するってこと!?昴君と一生一緒にいられるってこと!?」
「まあ、籍入れたらそうなるね」
「昴君、ありがとう、昴君も指輪も一生大切にする!僕が死んだら棺桶に入れてもらって一緒に焼いてもらう!」
「重っ……」
思い切り顔を顰めた昴の膝の上に乗り上げ向かい合う。睦月は昴の鼻先に啄むようなキスをして「ありがとう。本当に嬉しい。僕、いい旦那さんになれるように頑張るね」と囁いた。
「昴君、あいしてる、大すきだよ」
「……お前、そういうの何回言えば気が済むの?」
「何回言っても気が済まないよっ。これからも毎日たくさん言う!」
「お前はもうちょっと言葉の重みってもんを知った方がいい」
「何回言っても重みは変わんないもん!ぜーんぶ同じ重さだからっ!」
昴の腰に脚を回し、首には腕を回す。全身で愛しい昴に縋りついて、頬を擦り寄せる。昴はいつものように溜息を吐いた後、睦月の耳元に唇を寄せた。
「すきだよ、睦月。一生一緒にいて」
その一言に、耳元で幾千の星が弾けたようになる。
睦月は耳を抑え、昴をつくづくと見つめた。得意気に口端を上げている彼。全身がみるみる熱くなり、額に汗が浮いてくる。
「これでちょっとは分かった?普段そういうこと言わない俺が言うと胸にズシッと来るでしょ?」
「……」
「でも、言葉が足んなくてすれ違うくらいなら、たまには言おうかな」
唇を愛しい温みで啄まれ、睦月は曖昧に頷いた。後頭部を片手で支えられもう一度ベッドに組み敷かれる。睦月は「ふはあ」とうっとりした溜息を吐いて昴を見上げた。
「ホントに、たまにで、いいです。心臓、何個あっても足りなくなっちゃうから……」
昴は顔を背けて噴き出した。睦月もそれにつられて笑う。
拙い二つの愛を重ねて、僕たちの今を紡ぐ。愛に背中を押されて、愛に躓いて、愛にときめいて、愛に傷ついて。愛が膨らめば相手が見えなくなって、しぼめば今度は自分が見えなくなって。愛は不思議。生まれた瞬間に一人歩きを始めてしまう。
共に積み重ねた日々と愛は、二人の他には誰も知る由もない物語。けれど、彼と自分が関わって生まれる愛の、一つ一つの温度と重みをこの心身で確かめられる喜びは無上だ。
「すばるくん、あいしてる」
言葉の重みとやらを知ったばかりだというのに、この唇は愛を紡ぐ喜びを知っているから、何度だって彼に愛を吹きかけてしまう。
昴は困ったように笑い、愛ばかりを紡ぐ唇を優しくふさいだ。
【終】
「五年も一緒にいるのに、なんだか、初めて出会った日みたい」
昴は睦月の髪を撫でながら言葉の続きを促した。
「昴君に初めて髪を綺麗にしてもらった日、僕、生まれ変わったような気分になったの。落ち込んでた心が、優しい手に触れてもらって、元気を分けてもらって、ふわーって浮いてきた。僕、すぐに昴君が大すきになっちゃったんだ」
「……うん」
「僕、変わってないけど、今日また、生まれ変わったような気分だよ。……ねえ、僕たち、すごくすれ違っちゃったけど、前よりももっと、心は近い場所にあるよね?」
起き上がって尋ねれば、昴は仕方なさそうに溜息を吐いて「お前が勝手にすれ違ってるって思ってただけだろ」とぼやいた。
「えっ、だって、友達と飲みに行くって言ってたのに、女の子の香水くっつけて帰って来たじゃない」
「最後に行った立ち飲みバーのカウンターで隣になったOLがすごい香水臭かっただけ。しゃべってもないし目も合わせてない」
昴の手が睦月の腰に伸びて来る。睦月は慌てて身を捩った。
「じゃ、じゃあ、合コンは?」
「……誘われてたのは本当だけど、行ってない」
「え?……じゃあ、さざんくろすに連れて来てた綺麗な女の子は……」
「店のヘアモ。撮影スタジオが空くまで休憩させといてって言われて。恋人が喫茶店やってるって話になって、行きたいって言われたから連れてっただけ。ちなみに一回り年上の彼氏がいるらしいよ」
「……か、かれし……」
「まあ、俺のこと放置気味になってたお前への当てつけの意味も少しはあったかもね」
しばしの沈黙。睦月は頬を真っ赤にして「わ、別れるって、言ったのは?」と恨めしそうな声で尋ねた。
「源城さんのとこでも言ったけど、指名が増えるにつれてトラブルも増えて。仕事でバタついてて手いっぱいで、なのにお前は何度でもぐずり始めて、俺もお前を上手く宥められなくて、自分にイライラして、それを……お前にぶつけた。ごめん」
眉間に皺を寄せて眼差しを伏せる昴。睦月は胸できゅっと拳を握った。
「俺も、自分が愛情表現が下手だって分かってる。こういう俺がお前を不安にするんだって分かってる。もっと上手く出来たらいいのにって、俺だって思ってる。……生まれ変わんなきゃいけないのは、俺の方かも」
「そんな!」
睦月は昴の両頬を手のひらで包み、「昴君は昴君のままでいい」とはっきりした声で伝えた。
「変わらないでいい。そのままの昴君がいい。僕、何度でも不安になるけど、昴君が昴君でいてくれるから、何度だって元気になれるの」
ひたむきに見つめ嘘偽りがないことを瞳に訴える。昴はふっと微笑み、「その言葉、そっくりそのまま返す」と言って睦月の額に自身の額を重ねた。
「僕たち、言葉が足りなかったんだね。僕はコミュニケーションしてるつもりだったけど、自分の気持ちばっかり優先して、一方的に愛情を押し付けてるだけだった。昴君の気持ちとか言葉をもっと大切にするね。僕こそごめんね」
自分さえしっかりと昴を愛していれば二人は大丈夫なのだと、奢りに近い祈りを抱いていた。昴に愛情を押し付けていたのは、本当はいつまで昴の隣に居られるのだろうかと不安だったから。
でもちゃんと、昴は自分に向き合ってくれている。愛しい人の声に、ちゃんと耳を澄ませていよう。表情や仕種を瞳で見つめていよう。もう二度と、互いの心が離れないように。
「俺、来年には独立して自分の店を持とうと思ってる」
固い意志の感じられる声音。昴はオリーブ色の髪を撫でていた手を背に滑らせ、額を離して睦月を深く見つめた。
「急に思いついたことじゃない。ずっと考えてて……、けど最近、新店舗の店長してみないかって誘いがあって。まだ上の人には話してないけど、俺、その話を断って自分の店を持とうと思う」
昴は不器用だけれど、その分、鋭いくらいに真っ直ぐだ。睦月は彼が眩しくて目を細めた。
「もしかしたら今よりも生活が不安定になるかもしれない。お前をほったらかしにすることも増えると思う。今回みたいなすれ違いもきっと増える。……睦月。それでもお前、俺がいいの?」
「いい。僕、昴君がいい」
一瞬だって迷わずに、睦月は答えた。真剣な眼差しをした彼の唇に自分の唇を押し付ける。
「一生、一緒にいる。一生、あいしてる」
一文字一文字想いを込めて伝えれば、昴は目を細めて笑った。
「なに?プロポーズにしか聞こえないんだけど。さっきのは、誓いのキスってこと?」
両手を握って問われ、睦月はしどろもどろになった。ちょっと、いや、だいぶ段階をすっとばしてしまった。欲張りすぎてしまった……。
「え、えと。そのくらい強い気持ちってこと。そういうのがなくても、僕はずっと昴君の傍にいる!だって愛してるんだもん!心の中がずーっと昴君でいっぱいなんだもん!」
昴は立てた膝に肘を置き頬杖を突いた。睦月はおずおずと姿勢を正して改まる。
「なら、もう、しとくか」
昴が不意に呟く。ごく軽く、ついでにやっとくか、くらいの調子で。
睦月は揺れる瞳で愛しい人を見つめた。ほどいた唇は、震えていた。
「昴君、あの」
「これあげる」
唇から無粋な問いが出る前にと、昴はヘッドボードの引き出しから瑠璃色のベルベッドに包まれた小さな箱を取り出し、睦月の膝の上に置いた。
「えっ、なにこれっ!昴君っ!」
「うるさっ。夜だから。近所迷惑だから」
震える手で箱を包んだ白いリボンをほどき、封を開ける。瑠璃色の帳が上がると、白のサテンに銀色の輪が埋まっていた。
「指輪……」
睦月は呟きと同時に涙をにじませた。
「サイズ、合うか分かんないけど。まあ、金がある内にってことで」
こんな時まで素っ気ない昴。けれどそんな彼に、睦月は心からときめいてしまう。
「えっ、えっ、それって……!昴君っ!」
勢いのまま昴の身体に抱きついて回した腕にぎゅーっと力を込める。「重い、苦しい」ぶつくさぼやく昴に満面の笑みを向け、睦月は「ねえ、昴君がつけて」と左手を差し出した。
「めんど。自分でつけろよ」
「やだやだやだ!一生の思い出にするんだもん!昴君につけてもらったな~って、おじいちゃんになっても思い出すんだもん!つけてつけてつけてっ!」
「だからうるさいっつの。ぎゃあぎゃあ騒がないでよ、こんくらいで」
「こんくらいじゃないっ!……もお~っ。……もおいいよっ。自分でつけるっ。昴君のけちんぼっ」
睦月は昴に背を向けてくしゅんとしおれた。自分でつけると言ったものの、瑠璃色の箱を両手でしきりに揉んで、なんとか昴に指輪をはめてもらえないだろうかと考えを巡らせる。……こうなったら、昴君が眠っているところにそーっと近寄って、どうにかして“昴君に指輪をつけてもらった”風にする!睦月は俯いていた顔を上げて瞳を輝かせた。そんな睦月の肩に昴の顎がちょんと乗る。
「こんだけ金使わせといて、ケチはないでしょ」
背中越しに恋人を詰った彼は、睦月の手の内から箱を奪って中身を取り出した。「あ、やだ、謝るから取らないでっ」慌てて振り返ろうとした睦月の左手を昴がぱっと捕らえる。
「あ、ぴったりじゃん」
瞬く間に左手の薬指に納まってしまった銀色の指輪。「えっ、ええっ、動画……、写真とかあ!」睦月は悲鳴を上げつつ、左手の薬指と背中を包む温みに頬を緩ませた。
「あのっ、ぼっ、僕たち、結婚するってこと!?昴君と一生一緒にいられるってこと!?」
「まあ、籍入れたらそうなるね」
「昴君、ありがとう、昴君も指輪も一生大切にする!僕が死んだら棺桶に入れてもらって一緒に焼いてもらう!」
「重っ……」
思い切り顔を顰めた昴の膝の上に乗り上げ向かい合う。睦月は昴の鼻先に啄むようなキスをして「ありがとう。本当に嬉しい。僕、いい旦那さんになれるように頑張るね」と囁いた。
「昴君、あいしてる、大すきだよ」
「……お前、そういうの何回言えば気が済むの?」
「何回言っても気が済まないよっ。これからも毎日たくさん言う!」
「お前はもうちょっと言葉の重みってもんを知った方がいい」
「何回言っても重みは変わんないもん!ぜーんぶ同じ重さだからっ!」
昴の腰に脚を回し、首には腕を回す。全身で愛しい昴に縋りついて、頬を擦り寄せる。昴はいつものように溜息を吐いた後、睦月の耳元に唇を寄せた。
「すきだよ、睦月。一生一緒にいて」
その一言に、耳元で幾千の星が弾けたようになる。
睦月は耳を抑え、昴をつくづくと見つめた。得意気に口端を上げている彼。全身がみるみる熱くなり、額に汗が浮いてくる。
「これでちょっとは分かった?普段そういうこと言わない俺が言うと胸にズシッと来るでしょ?」
「……」
「でも、言葉が足んなくてすれ違うくらいなら、たまには言おうかな」
唇を愛しい温みで啄まれ、睦月は曖昧に頷いた。後頭部を片手で支えられもう一度ベッドに組み敷かれる。睦月は「ふはあ」とうっとりした溜息を吐いて昴を見上げた。
「ホントに、たまにで、いいです。心臓、何個あっても足りなくなっちゃうから……」
昴は顔を背けて噴き出した。睦月もそれにつられて笑う。
拙い二つの愛を重ねて、僕たちの今を紡ぐ。愛に背中を押されて、愛に躓いて、愛にときめいて、愛に傷ついて。愛が膨らめば相手が見えなくなって、しぼめば今度は自分が見えなくなって。愛は不思議。生まれた瞬間に一人歩きを始めてしまう。
共に積み重ねた日々と愛は、二人の他には誰も知る由もない物語。けれど、彼と自分が関わって生まれる愛の、一つ一つの温度と重みをこの心身で確かめられる喜びは無上だ。
「すばるくん、あいしてる」
言葉の重みとやらを知ったばかりだというのに、この唇は愛を紡ぐ喜びを知っているから、何度だって彼に愛を吹きかけてしまう。
昴は困ったように笑い、愛ばかりを紡ぐ唇を優しくふさいだ。
【終】
69
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。
ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。
高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。
そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。
文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は
綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。
ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。
成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。
不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。
【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
新作ですか!すでに作者様の作品のとりこなのでとても嬉しいです💖
健気な睦月がかわいくて、これからどうなるか楽しみです!
コメントありがとうございます!
睦月はわたしの好きな受け要素を詰め込んだ子なので、そう言っていただけて嬉しいです。
猪突猛進な睦月とツンツンツン(デレ)な昴のこれからを、よろしければ最後まで楽しんでください♡