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おもちゃのしるし
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黒のシーツは月明かりに照らされ艶を帯びていた。圭司は真緒の手をそっと握りベッドの縁に座らせた。隣合い、寄り添う。圭司の唇が優しいタッチで真緒の唇をくすぐった。
「もうお前を離さない」
「すき」という意味の言葉がこれほどあるのかと感心してしまうほど、圭司は饒舌だった。
「真緒は俺の一番のおもちゃ」
言葉で、声で、眼差しで、仕種で、彼は語る。「ホント、待ちくたびれた」「真緒、もっと近くに来て」「あれだけ気を引いてもそっぽ向いてたくせに、ちょっと優しくしただけで手の中に落ちて来て……、バカな真緒」「真緒、真緒。もう誰かに目移りしないで。俺だけを見て」優しく温かなトーンの声は少し掠れて、眼差しは射抜くように、触れる手は硝子細工にするように注意深い。真緒の身体は圭司の愛のシャワーをしとどに浴びて見る間に熱くなった。
「目移りって……俺がいつ……」
「けい君けい君って俺に着いて回ってたくせに、京一が引っ越して来た途端にそっちに尻尾振って。お前みたいなヤツは尻軽って言うんだよ。……お前に尻尾があったらとっくにハサミでちょん切ってた」
次の瞬間、下唇をぎちりと噛まれる。思わず顔を顰めると圭司は唇を噛んだまま喉で笑った。噛まれた部分から血が滲んで、二人の間に溶けていく。傷から滴った血を吸われながらシーツの上に転がされ、真緒は圭司を見上げた。覆い被さって来た圭司の瞳はぬらりと光っていた。
「俺が最初に真緒を見つけたんだ」
ファスナーを閉めたままのダウン、その下のセーターの奥へ潜る圭司の手のひら。下腹に五つの指先がまばらに触れ、臍の傍まで上がっていく。鼻先にかかる圭司の熱い吐息に、真緒の肌がますます汗ばんだ。
「脱いで、真緒。自分で脱いで、俺に全部見せて」
ファスナーを下ろす音がやけに大きく感じる。真緒は下ろした瞼を震わせながら一枚一枚服を脱いだ。圭司は真緒から身体を離してその全体を見つめている。汗ばんだ首筋の様子や濡れた唇、瞼の奥の瞳の揺らぎまで見透かされているようで、真緒は熱い吐息を滴らせた。
カーテンの隙間から漏れる月の光が白い肌に反射する。パンツ一枚になった真緒に、やっと圭司が近づいて来た。「パンツも脱いで」下着のゴムに触れながら言われると、もうそうするしか選択肢がないように思えた。
「服の下、こんなに白かったんだね」
シーツの上に仰向けになり圭司を見上げる。真緒の身体を覆い隠すように両手をついた彼は、息が肌にかかるほど近づいて裸体を観察した。呼吸の度に浮き出る肋骨を圭司の指が撫でていく。真緒の性感は全て圭司に絡めとられ、前はもうすでに膨れて涙をこぼしていた。
「けい君も脱いで。俺だけ裸なの、嫌」
口元を綻ばせ服を脱ぎ始める圭司。真緒は掛け布団を胸に引き寄せて露になっていく圭司の肌を見つめた。月影を受けた圭司の肌もまた真っ白だった。肌に走る影がその奥の筋肉を思わせ、真緒の咥内を湿らせた。
「けいくん……」
圭司が全て脱ぎ終わったところで堪えきれなくなり、真緒は裸の彼ににじり寄った。「こら。勝手にサカんな」「あっ」いたずらに胸の突起を弾かれ、普段より高めの声が真緒の喉を震わせた。真緒は圭司の首に腕を回し、彼の唇に自身の唇を押しつけた。
いつか京一と出来たらと思っていたドラマや映画のキスとは違う。ただ、求めたくて繋がりたくて、そうする。そういう場所はこの身体の中で限られている。真緒は大きく口を開いて圭司の唇に齧り付いた。
「ふ、ン、けい、けいくん、ん~っ……」
必死に伸ばした舌を咥内で遊ばれる。触れたかと思えば逃げられて、戸惑っていると根元から絡められて。真緒は胸で息をしながら圭司を求めた。その内に圭司の舌が真緒の舌を受け止め、抱き締める。真緒の胸がときめきに満ち満ちた。
抱き合ったまま二人でシーツの上に転がり裸で求め合う。互いの性器に手を伸ばし形を確かめるように指先を滑らせて、瞳と瞳で語る。口づけながら性器を扱かれると、狂おしい性感に身悶えることしか出来なくなってしまった。
「真緒、俺、ずっとお前とこうしたかった」
「は、んあ、あっ、あぁ、けいくんっ」
「俺はずっと、お前にこうやって触りたかったんだよ。お前にこうやってキスしたかった。ここも、ずっと触りたかった。誰に触れてもお前の肌を想うことは止められなかった。俺がどれだけこの日を夢見たか、お前には分からないだろうね」
絡めた足の隙間を縫って圭司の手が太ももの間に滑り込んでくる。睾丸の奥、すぼまった蕾の縁を押され、真緒はきゅっと腰を反らした。
「入れるよ」
ほんの少しの潤いを纏った指が縁を崩し内へと潜っていく。生理的な悪寒が走り、真緒は背を丸め身を捩った。「けい君っ」突然のことに心も身体も追いつかない。
「や、やだ、なんで、そんなところっ」
「ここにもずっと触りたかった。どんなに柔らかいんだろう、どんなに温かいんだろうって、頭の中のお前に何度も触れて、何度も挿れた」
いつの間にか真緒の股座まで下がり、指を食んだ場所を熱心に見つめている圭司。ついさっきまで咥内で絡め合っていた舌が、指と縁とのつなぎめを舐め上げる。真緒の頭がかっと熱くなった。
「うう、う~っ……、うぅ、は、ん」
圭司の髪がさらさらと揺れて真緒の太ももをくすぐる。その奥では潤いを注ぎ足された指が縁を行き来していた。混乱状態の真緒をよそに、圭司はもう片方の手を伸ばして真緒の勃ち上がった熱に触れた。
「んあっ、や、やだ、ほんとに、やめっ」
前を扱かれ、後ろを弄られ、真緒の全身は桃色になった。何度も閉じようとした太ももはうち震えて言うことを聞かず開かれたままになっている。圭司の微笑んだような吐息が脚の付け根に触れ、真緒は目を見開いた。
「しるし、つけてあげる」
じゅう、と音がして、かすかな痛みが内腿に残る。「もっとつけてあげる」後ろをほぐす指は一定の速度で動かしたまま、下腹や胸、太ももにキスマークをつけていく圭司。見る間に花びらが散ったようになった自身の肌を見つめ、真緒は前から先走りを伝わせた。
もっと。もっと、圭司のものになりたい。
そう思うと足が勝手に開いて、圭司の指を奥へ奥へと迎え入れてしまう。彼の指は中で時折しこりのようなものを擦り上げ、その度に真緒の前が切なくなった。
「あ、あ、あっ、けいくん、だめ、もうだめ」
「ん?出そう?」
「出そう、じゃない、けど、出したいっ」
強請ったのが合図になって指が引き抜かれる。根元まで濡れた圭司の中指と人差し指を見つめ真緒は涙を浮かべた。圭司は真緒の中に触れていた手で自身の前を握る。そこは真緒のもの以上に膨れ、反り返っていた。
「俺も真緒と気持ちよくなりたい。なあ、ここに俺の、入れたい。……いい?」
低く掠れた声で問われ真緒は喉を鳴らした。こんなに大きいの、入らない。そう思って縋るように圭司を見つめると、彼は無言のまま濡れた瞳を向けてきた。
けい君、本当に俺の中に入れたいんだ。
求められる愉悦が真緒の理性を蕩けさせる。圭司の前から先走りの雫が伝っていくのを見てすぐに、真緒はこくんと頷いた。
「ん、じゃあ、入れるね」
淡泊な返事とは相反して、スキンを装着する圭司の手はまごついていた。焦れている圭司が珍しく、真緒の頬が綻ぶ。むき出しの心で求められていることを実感し、真緒は纏っていた緊張をほどいた。
「なあ、けい君」
入口にものをあてがっているところに声を掛けると、圭司は前を押し当てながら「なに」と掠れた声で尋ねた。指で崩したそこは、柔らかく開いて、けれど中はそれほどほどけていない。圭司は十分過ぎるほど慎重に中を進んでいく。
「すきだよ、けい君」
彼が安っぽくて陳腐だと切り捨てた言葉で愛を囁く。瞳を見開いた圭司は口元をむずむずさせて、それから悔しげに眉根を寄せた。
「すき。だいすきだよ。これからは、ずっとけい君だけを見つめるよ」
こんなにも激しい愛を抱えて自分を待っていてくれた圭司に応えたい。だから、自分の中にある言葉で、仕種で、彼に「すきだ」と伝える。この愛は、一途な圭司からしてみれば確かに安っぽくて陳腐なのかもしれない。けれど、それも悪くない。安っぽくて陳腐だからこそ、きっとこの愛は不変だ。
「お前はいつも、バカで、それから、ずるい」
圭司は微笑み、奥まで行きついたことを確かめるように真緒の腹に触れた。
「……ずっとずっと、すきだった。お前のことが、すきだった」
吐き捨てられた愛の言葉は、きっと圭司の精一杯だった。言い切った後に「こんなこと、死んでも言いたくなかった」と圭司は恨めしそうに真緒を詰った。
「俺のおもちゃのくせに」
「うん」
「真緒なんか、俺の、おもちゃのくせに……」
呻くように紡がれる恨み言。なのに、律動は緩やかで、肌に触れる手指はその律動以上に優しい。真緒はそんな熱のこもった愛撫に抱かれ吐息を漏らす。少しでも眉根を寄せようものなら、圭司は「どうした?」と不安そうに真緒の顔を覗き込む。真緒は微笑んで「ううん、大丈夫」と圭司の肩口に顔を埋めた。
「ん、けいくんっ、おれ、出そうなのに、出したいのに」
「……ちょっとキツくするよ。あんま揺すられると後がきついと思うから、ちゃんとしがみついてて」
「顔見えなくなるの怖いよ、けいくん、キス、キスして」
「ん、してあげるから。そんなに焦んないで。……怖くないよ。俺が居るでしょ」
唇を触れ合わせて目の前の身体に縋りつく。圭司の手が真緒の前を包み込み、律動に合わせて熱を扱き始めた。「んっ、あっ、ああっ」真緒は声を上ずらせて身体を震わせた。
「や、いく、けいくんっ、いっちゃう」
「うん、いいよ、いって」
耳元に唇を擦りつけて囁かれ、真緒の脚が緊張した。どくんと全身が脈打って、前から熱が滴り落ちた。
圭司の唇を追うようにして口づける。深く激しく咥内を貪り尽くされ彼のピークが近いことを感じ、真緒は圭司の腰に足を絡めた。「バカ真緒、おい、やめろっ」鋭く睨まれても真緒は足をほどかない。自分からも腰を揺すって圭司を求める。
「けいくん、すきっ、すきだっ」
心からそう叫んだ次の瞬間、圭司の身体がぐっと強張り真緒の身体に圧し掛かった。最奥で繋がり、彼の熱が弾ける。すでに達していた真緒も圭司を震わせる快感に酔いしれて瞼を下ろした。
二人で一つの熱の塊になってふうふうと息を弾ませる。互いの汗で湿った身体が愛しくて、真緒は汗ばんだ額を何度も圭司の鎖骨に擦りつけた。
「お前、勝手なことばっかして、俺のおもちゃの自覚あんの?」
「あるよ。俺は、けい君のおもちゃだよ」
即答したにも関わらず圭司は呆れたように溜息を吐いた。裸の胸に抱かれ、心も身体も限りなく圭司の傍にある。こうしてもらえるのなら、おもちゃも悪くないように思えた。
「なあ、けい君。ほっぺつねって」
圭司は眉を顰めた後に真緒の頬を指先で摘まんだ。「はい、つねった」摘まんだかと思うとすぐに離れていく指先。真緒は「けい君!」と眉を吊り上げた。
「あのなあ。俺は別に、お前を傷めつけたくてつねってたわけじゃない。どうして分かんないかな」
「ええ?あれ、けい君の愛情表現だろ?俺に痛いことしたいんじゃなかったの?」
「はあ?んなわけ……。あれは……」
言い淀み、圭司は真緒の中に挿し入れていた熱をゆっくりと引き抜く。これで終わりかと脚の緊張をといた瞬間、中のものが再び奥へと進み始めた。「んっ」真緒は肩を震わせて濡れた太ももを開く。開いた分だけ、近くなる。この行為は心の動きに似ている。
「あれは、俺のものだって、しるしをつけてただけ。誰がどこから見ても分かるようにしてただけ。意地悪したいって気持ちはあるよ。でも、痛くしたいとか、そういうのは……」
「嘘吐くなっ。俺のピアスの穴を開ける時、喜んでただろ」
真緒の両胸の突起を指先で転がし、言及から逃れようとする圭司。熱く湿った後ろでは彼のものが努めてゆっくりと抜き挿しされている。真緒は胸を反らして性感に震えながら圭司を睨み続けた。
「あの時、俺が喜んでたのは、お前に一生消えないしるしをつけられたんだって思ったから」
圭司は吊り上がった真緒の瞳を見つめ独り言のように呟く。
「痛くすると、お前が俺を見るんだよ。お前の目に映るものがやっと俺だけになるんだ。それが見たくて、嫌われても止められなくて、歳を重ねると別の方法も覚えたけど、どれもいつか癒えてお前の身体と心から消える。……でもこれは、消えないから。ピアスの穴って閉じてもしこりが残るんだよね。だから……」
圭司は小さく息を吐き、「痛くするのが目的ってわけじゃない」と視線を彷徨わせた。
「じゃあ、中学の時、俺のこと無視してたのは?俺のこと、嫌いだったんじゃないの?」
「嫌いとか一言も言ってないだろ。……あれは、なんていうか、キャンプ場でお前が迷子になった時、俺はお前を見つけられなくて」
逸らされたままの視線がもどかしくて、真緒は両手で圭司の頬を包んでこちらを向かせた。しきりに寄ったり離れたりしている眉に、ばつ悪そうに歪んでいる瞳……。
「俺のおもちゃなのに、俺はお前を助けられなかったから」
「……え?」
「だから!俺がお前を見つけられないはずないのに、見つけらんなかったから!京一がお前を先に見つけて、俺はお前を助けられなかったから!……俺のおもちゃだって、あんだけしるしつけといて、そりゃないでしょって。そう思ったら、顔も合わせらんなくなった。それだけ!」
真緒の心を、圭司の愛が貫く。
心も身体も熱くなって、圭司の愛を確かめるようにその眼差しを覗き込む。「けい君、可愛いね」思わず口を突いて出た言葉に、圭司は目をすがめた。
鎖骨を唇で吸われ、圭司の愛が自分の肌の上に花開く。真緒はそれを見つめ目を細めた。圭司が愛しい。圭司の棘で刺し抜かれた心臓が、とくんとくんと温かく脈を打つ。
「愛って、痛いんだね」
水の中で揺れているような柔らかな律動の中、真緒は圭司の背を引き寄せた。柔らかく爪を立て、愛しい彼の背をきゅうっと引っ掻く。彼の心と身体にも自分のしるしが残るといい。真緒は生まれて初めてそんなことを思った。
「もうお前を離さない」
「すき」という意味の言葉がこれほどあるのかと感心してしまうほど、圭司は饒舌だった。
「真緒は俺の一番のおもちゃ」
言葉で、声で、眼差しで、仕種で、彼は語る。「ホント、待ちくたびれた」「真緒、もっと近くに来て」「あれだけ気を引いてもそっぽ向いてたくせに、ちょっと優しくしただけで手の中に落ちて来て……、バカな真緒」「真緒、真緒。もう誰かに目移りしないで。俺だけを見て」優しく温かなトーンの声は少し掠れて、眼差しは射抜くように、触れる手は硝子細工にするように注意深い。真緒の身体は圭司の愛のシャワーをしとどに浴びて見る間に熱くなった。
「目移りって……俺がいつ……」
「けい君けい君って俺に着いて回ってたくせに、京一が引っ越して来た途端にそっちに尻尾振って。お前みたいなヤツは尻軽って言うんだよ。……お前に尻尾があったらとっくにハサミでちょん切ってた」
次の瞬間、下唇をぎちりと噛まれる。思わず顔を顰めると圭司は唇を噛んだまま喉で笑った。噛まれた部分から血が滲んで、二人の間に溶けていく。傷から滴った血を吸われながらシーツの上に転がされ、真緒は圭司を見上げた。覆い被さって来た圭司の瞳はぬらりと光っていた。
「俺が最初に真緒を見つけたんだ」
ファスナーを閉めたままのダウン、その下のセーターの奥へ潜る圭司の手のひら。下腹に五つの指先がまばらに触れ、臍の傍まで上がっていく。鼻先にかかる圭司の熱い吐息に、真緒の肌がますます汗ばんだ。
「脱いで、真緒。自分で脱いで、俺に全部見せて」
ファスナーを下ろす音がやけに大きく感じる。真緒は下ろした瞼を震わせながら一枚一枚服を脱いだ。圭司は真緒から身体を離してその全体を見つめている。汗ばんだ首筋の様子や濡れた唇、瞼の奥の瞳の揺らぎまで見透かされているようで、真緒は熱い吐息を滴らせた。
カーテンの隙間から漏れる月の光が白い肌に反射する。パンツ一枚になった真緒に、やっと圭司が近づいて来た。「パンツも脱いで」下着のゴムに触れながら言われると、もうそうするしか選択肢がないように思えた。
「服の下、こんなに白かったんだね」
シーツの上に仰向けになり圭司を見上げる。真緒の身体を覆い隠すように両手をついた彼は、息が肌にかかるほど近づいて裸体を観察した。呼吸の度に浮き出る肋骨を圭司の指が撫でていく。真緒の性感は全て圭司に絡めとられ、前はもうすでに膨れて涙をこぼしていた。
「けい君も脱いで。俺だけ裸なの、嫌」
口元を綻ばせ服を脱ぎ始める圭司。真緒は掛け布団を胸に引き寄せて露になっていく圭司の肌を見つめた。月影を受けた圭司の肌もまた真っ白だった。肌に走る影がその奥の筋肉を思わせ、真緒の咥内を湿らせた。
「けいくん……」
圭司が全て脱ぎ終わったところで堪えきれなくなり、真緒は裸の彼ににじり寄った。「こら。勝手にサカんな」「あっ」いたずらに胸の突起を弾かれ、普段より高めの声が真緒の喉を震わせた。真緒は圭司の首に腕を回し、彼の唇に自身の唇を押しつけた。
いつか京一と出来たらと思っていたドラマや映画のキスとは違う。ただ、求めたくて繋がりたくて、そうする。そういう場所はこの身体の中で限られている。真緒は大きく口を開いて圭司の唇に齧り付いた。
「ふ、ン、けい、けいくん、ん~っ……」
必死に伸ばした舌を咥内で遊ばれる。触れたかと思えば逃げられて、戸惑っていると根元から絡められて。真緒は胸で息をしながら圭司を求めた。その内に圭司の舌が真緒の舌を受け止め、抱き締める。真緒の胸がときめきに満ち満ちた。
抱き合ったまま二人でシーツの上に転がり裸で求め合う。互いの性器に手を伸ばし形を確かめるように指先を滑らせて、瞳と瞳で語る。口づけながら性器を扱かれると、狂おしい性感に身悶えることしか出来なくなってしまった。
「真緒、俺、ずっとお前とこうしたかった」
「は、んあ、あっ、あぁ、けいくんっ」
「俺はずっと、お前にこうやって触りたかったんだよ。お前にこうやってキスしたかった。ここも、ずっと触りたかった。誰に触れてもお前の肌を想うことは止められなかった。俺がどれだけこの日を夢見たか、お前には分からないだろうね」
絡めた足の隙間を縫って圭司の手が太ももの間に滑り込んでくる。睾丸の奥、すぼまった蕾の縁を押され、真緒はきゅっと腰を反らした。
「入れるよ」
ほんの少しの潤いを纏った指が縁を崩し内へと潜っていく。生理的な悪寒が走り、真緒は背を丸め身を捩った。「けい君っ」突然のことに心も身体も追いつかない。
「や、やだ、なんで、そんなところっ」
「ここにもずっと触りたかった。どんなに柔らかいんだろう、どんなに温かいんだろうって、頭の中のお前に何度も触れて、何度も挿れた」
いつの間にか真緒の股座まで下がり、指を食んだ場所を熱心に見つめている圭司。ついさっきまで咥内で絡め合っていた舌が、指と縁とのつなぎめを舐め上げる。真緒の頭がかっと熱くなった。
「うう、う~っ……、うぅ、は、ん」
圭司の髪がさらさらと揺れて真緒の太ももをくすぐる。その奥では潤いを注ぎ足された指が縁を行き来していた。混乱状態の真緒をよそに、圭司はもう片方の手を伸ばして真緒の勃ち上がった熱に触れた。
「んあっ、や、やだ、ほんとに、やめっ」
前を扱かれ、後ろを弄られ、真緒の全身は桃色になった。何度も閉じようとした太ももはうち震えて言うことを聞かず開かれたままになっている。圭司の微笑んだような吐息が脚の付け根に触れ、真緒は目を見開いた。
「しるし、つけてあげる」
じゅう、と音がして、かすかな痛みが内腿に残る。「もっとつけてあげる」後ろをほぐす指は一定の速度で動かしたまま、下腹や胸、太ももにキスマークをつけていく圭司。見る間に花びらが散ったようになった自身の肌を見つめ、真緒は前から先走りを伝わせた。
もっと。もっと、圭司のものになりたい。
そう思うと足が勝手に開いて、圭司の指を奥へ奥へと迎え入れてしまう。彼の指は中で時折しこりのようなものを擦り上げ、その度に真緒の前が切なくなった。
「あ、あ、あっ、けいくん、だめ、もうだめ」
「ん?出そう?」
「出そう、じゃない、けど、出したいっ」
強請ったのが合図になって指が引き抜かれる。根元まで濡れた圭司の中指と人差し指を見つめ真緒は涙を浮かべた。圭司は真緒の中に触れていた手で自身の前を握る。そこは真緒のもの以上に膨れ、反り返っていた。
「俺も真緒と気持ちよくなりたい。なあ、ここに俺の、入れたい。……いい?」
低く掠れた声で問われ真緒は喉を鳴らした。こんなに大きいの、入らない。そう思って縋るように圭司を見つめると、彼は無言のまま濡れた瞳を向けてきた。
けい君、本当に俺の中に入れたいんだ。
求められる愉悦が真緒の理性を蕩けさせる。圭司の前から先走りの雫が伝っていくのを見てすぐに、真緒はこくんと頷いた。
「ん、じゃあ、入れるね」
淡泊な返事とは相反して、スキンを装着する圭司の手はまごついていた。焦れている圭司が珍しく、真緒の頬が綻ぶ。むき出しの心で求められていることを実感し、真緒は纏っていた緊張をほどいた。
「なあ、けい君」
入口にものをあてがっているところに声を掛けると、圭司は前を押し当てながら「なに」と掠れた声で尋ねた。指で崩したそこは、柔らかく開いて、けれど中はそれほどほどけていない。圭司は十分過ぎるほど慎重に中を進んでいく。
「すきだよ、けい君」
彼が安っぽくて陳腐だと切り捨てた言葉で愛を囁く。瞳を見開いた圭司は口元をむずむずさせて、それから悔しげに眉根を寄せた。
「すき。だいすきだよ。これからは、ずっとけい君だけを見つめるよ」
こんなにも激しい愛を抱えて自分を待っていてくれた圭司に応えたい。だから、自分の中にある言葉で、仕種で、彼に「すきだ」と伝える。この愛は、一途な圭司からしてみれば確かに安っぽくて陳腐なのかもしれない。けれど、それも悪くない。安っぽくて陳腐だからこそ、きっとこの愛は不変だ。
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「……ずっとずっと、すきだった。お前のことが、すきだった」
吐き捨てられた愛の言葉は、きっと圭司の精一杯だった。言い切った後に「こんなこと、死んでも言いたくなかった」と圭司は恨めしそうに真緒を詰った。
「俺のおもちゃのくせに」
「うん」
「真緒なんか、俺の、おもちゃのくせに……」
呻くように紡がれる恨み言。なのに、律動は緩やかで、肌に触れる手指はその律動以上に優しい。真緒はそんな熱のこもった愛撫に抱かれ吐息を漏らす。少しでも眉根を寄せようものなら、圭司は「どうした?」と不安そうに真緒の顔を覗き込む。真緒は微笑んで「ううん、大丈夫」と圭司の肩口に顔を埋めた。
「ん、けいくんっ、おれ、出そうなのに、出したいのに」
「……ちょっとキツくするよ。あんま揺すられると後がきついと思うから、ちゃんとしがみついてて」
「顔見えなくなるの怖いよ、けいくん、キス、キスして」
「ん、してあげるから。そんなに焦んないで。……怖くないよ。俺が居るでしょ」
唇を触れ合わせて目の前の身体に縋りつく。圭司の手が真緒の前を包み込み、律動に合わせて熱を扱き始めた。「んっ、あっ、ああっ」真緒は声を上ずらせて身体を震わせた。
「や、いく、けいくんっ、いっちゃう」
「うん、いいよ、いって」
耳元に唇を擦りつけて囁かれ、真緒の脚が緊張した。どくんと全身が脈打って、前から熱が滴り落ちた。
圭司の唇を追うようにして口づける。深く激しく咥内を貪り尽くされ彼のピークが近いことを感じ、真緒は圭司の腰に足を絡めた。「バカ真緒、おい、やめろっ」鋭く睨まれても真緒は足をほどかない。自分からも腰を揺すって圭司を求める。
「けいくん、すきっ、すきだっ」
心からそう叫んだ次の瞬間、圭司の身体がぐっと強張り真緒の身体に圧し掛かった。最奥で繋がり、彼の熱が弾ける。すでに達していた真緒も圭司を震わせる快感に酔いしれて瞼を下ろした。
二人で一つの熱の塊になってふうふうと息を弾ませる。互いの汗で湿った身体が愛しくて、真緒は汗ばんだ額を何度も圭司の鎖骨に擦りつけた。
「お前、勝手なことばっかして、俺のおもちゃの自覚あんの?」
「あるよ。俺は、けい君のおもちゃだよ」
即答したにも関わらず圭司は呆れたように溜息を吐いた。裸の胸に抱かれ、心も身体も限りなく圭司の傍にある。こうしてもらえるのなら、おもちゃも悪くないように思えた。
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「あのなあ。俺は別に、お前を傷めつけたくてつねってたわけじゃない。どうして分かんないかな」
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「あの時、俺が喜んでたのは、お前に一生消えないしるしをつけられたんだって思ったから」
圭司は吊り上がった真緒の瞳を見つめ独り言のように呟く。
「痛くすると、お前が俺を見るんだよ。お前の目に映るものがやっと俺だけになるんだ。それが見たくて、嫌われても止められなくて、歳を重ねると別の方法も覚えたけど、どれもいつか癒えてお前の身体と心から消える。……でもこれは、消えないから。ピアスの穴って閉じてもしこりが残るんだよね。だから……」
圭司は小さく息を吐き、「痛くするのが目的ってわけじゃない」と視線を彷徨わせた。
「じゃあ、中学の時、俺のこと無視してたのは?俺のこと、嫌いだったんじゃないの?」
「嫌いとか一言も言ってないだろ。……あれは、なんていうか、キャンプ場でお前が迷子になった時、俺はお前を見つけられなくて」
逸らされたままの視線がもどかしくて、真緒は両手で圭司の頬を包んでこちらを向かせた。しきりに寄ったり離れたりしている眉に、ばつ悪そうに歪んでいる瞳……。
「俺のおもちゃなのに、俺はお前を助けられなかったから」
「……え?」
「だから!俺がお前を見つけられないはずないのに、見つけらんなかったから!京一がお前を先に見つけて、俺はお前を助けられなかったから!……俺のおもちゃだって、あんだけしるしつけといて、そりゃないでしょって。そう思ったら、顔も合わせらんなくなった。それだけ!」
真緒の心を、圭司の愛が貫く。
心も身体も熱くなって、圭司の愛を確かめるようにその眼差しを覗き込む。「けい君、可愛いね」思わず口を突いて出た言葉に、圭司は目をすがめた。
鎖骨を唇で吸われ、圭司の愛が自分の肌の上に花開く。真緒はそれを見つめ目を細めた。圭司が愛しい。圭司の棘で刺し抜かれた心臓が、とくんとくんと温かく脈を打つ。
「愛って、痛いんだね」
水の中で揺れているような柔らかな律動の中、真緒は圭司の背を引き寄せた。柔らかく爪を立て、愛しい彼の背をきゅうっと引っ掻く。彼の心と身体にも自分のしるしが残るといい。真緒は生まれて初めてそんなことを思った。
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それは、平凡な俺に依存している事。
平凡な受けがスパダリ攻めに囲われて逃げられなくなっちゃうお話です。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
すみっこぼっちとお日さま後輩のベタ褒め愛
虎ノ威きよひ
BL
「満点とっても、どうせ誰も褒めてくれない」
高校2年生の杉菜幸哉《すぎなゆきや》は、いつも一人で黙々と勉強している。
友だちゼロのすみっこぼっちだ。
どうせ自分なんて、と諦めて、鬱々とした日々を送っていた。
そんなある日、イケメンの後輩・椿海斗《つばきかいと》がいきなり声をかけてくる。
「幸哉先輩、いつも満点ですごいです!」
「努力してる幸哉先輩、かっこいいです!」
「俺、頑張りました! 褒めてください!」
笑顔で名前を呼ばれ、思いっきり抱きつかれ、褒められ、褒めさせられ。
最初は「何だこいつ……」としか思ってなかった幸哉だったが。
「頑張ってるね」「えらいね」と真正面から言われるたびに、心の奥がじんわり熱くなっていく。
――椿は、太陽みたいなやつだ。
お日さま後輩×すみっこぼっち先輩
褒め合いながら、恋をしていくお話です。
【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。
髙槻 壬黎
BL
ヤンデレ執着攻め×鈍感強気受け
ユハン・イーグラントには、幼い頃から共に過ごしてきた幼馴染みがいる。それは、天使のような美貌を持つミカイル・アイフォスターという男。
彼は公爵家の嫡男として、いつも穏やかな微笑みを浮かべ、凛とした立ち振舞いをしているが、ユハンの前では違う。というのも、ミカイルは実のところ我が儘で、傲慢な一面を併せ持ち、さらには時々様子がおかしくなって頬を赤らめたり、ユハンの行動を制限してこようとするときがあるのだ。
けれども、ユハンにとってミカイルは大切な友達。
だから彼のことを憎らしく思うときがあっても、なんだかんだこれまで許してきた。
だというのに、どうやらミカイルの気持ちはユハンとは違うようで‥‥‥‥?
そんな中、偶然出会った第二王子や、学園の生徒達を巻き込んで、ミカイルの想いは暴走していく────
※旧題「執着系幼馴染みの、絶対に叶えたい6つの願い事。」
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